今作では基本的に原作をなぞる方針ではありますが。
原作そのまんまじゃ書いててつまんないんだよなー……とかいう誘惑に勝てないのはもう諦めた。
二次創作作家やってもうかなり長いのに、まともに原作沿い再構成を書けたためしがない。
ヴァルムバッハ公国領ルクトラ。
閑静な農村そのものと言ったその村落に辿り着いた冥王一行を待ち受けていたのは―――網だった。
ネット、主に鳥害を避けたり小動物を捕獲する目的で使われるものだろうか。
それに引っ掛かったのはラビリナのクルチャ。
ソバージュにしたオレンジ色の赤毛から兎耳を生やした亜人である彼女は、アイドルを自称するだけあってスレンダーなボディラインをしているのだが、村人の眼にはおいしそうに映ったのだろう」
「ちょお、ジェニファーさんっ!?だめなモノローグが漏れてます!」
「クルちゃんはおいしくないですよぉ~っ!」
「これこれ。人間を喰らうのはドラゴンだけで十分じゃ。
ほれ、がおー」
殺気だつ村人たちに泣きを見ているクルチャを見かねて助けに入ったのは―――いや、他のアイリス達も実際にクルチャに危害が加わりそうになれば助けに入っただろうが―――シャロンだった。
鱗の生えた翼と尾を備え、炎の如き深紅の髪を舞わせながら飛行する竜人(ドラゴニア)である彼女は、その種族の恐ろしさを示す伝承がいくつも広く伝播していることもあり、適当極まりない威嚇でもただの農民らの腰を抜かすには十分。
そこに神官服を着たクリスが慈愛に満ちた笑顔で声を掛けてあげると、とりあえず鎮まった村人たちが事情を説明しだす。
優しい警官と怖い警官……な効果があったのかは定かではないが、時系列と証言を添えてまともに語ってくれた内容によると、どうも村の近くの森に集落を構えるラビリナが悪さをしているらしい。
農作物を荒らすだけならまだしも、教会の聖印を盗んでいったのだと。
「うっそだあ。ラビリナはそんなもの興味ないもん」
「わたしもそう思う。聖樹教会をありがたがるのは人間だけ」
「ありがたがらない人間も多いけどなー」
「呼んだか?」
クルチャとラウラの亜人組がそんなことをする動機がラビリナにはないと主張し、ラディスが教会にありがたみを欠片も感じてない筆頭の幼女を見ながら茶々を入れる。
だが、現れたばかりの余所者、それも隔意を抱いている亜人の言葉は当然ながら村人に響かない。
聖樹教会を信仰する彼らの気持ちを汲むのは、修道女であるパトリシア。
「聖印は信徒の祈りの拠り所ですし、一刻も早く取り戻すって村人さんたちも焦っちゃってるかもですけど。でも盗むところを見たっていう証言もありますし……」
「う゛………じゃ、じゃあちょうど頼まれたことだし、私たちで聖印を取り返しに行きましょうよ!そしたら犯人もはっきりするだろうし」
「感心しませんね。私達の使命は種子の探索。余計な寄り道をしている時間は無い」
クルチャは故郷を海賊に滅ぼされた過去があり、同族意識が人一倍強い。
顔も知らぬラビリナ達のために動こうと主張するも、それを切り捨てるのはベアトリーチェだった。
何もベアトリーチェとて意地悪で言っている訳ではないし、冷血な性格で事情を汲まないということでもない。
ただ実際出生率が限りなくゼロとなり、異常気象・モンスターの大量発生も見られるようになった、破滅の足音迫る地上……これを回復する手段が世界樹の種子を集めて世界樹に返還する道しか見えていない現状、のんびり寄り道ばかりでいつまで経っても終わらない旅をしていていい訳はない。
“これぐらいの寄り道なら構わない”―――それを許容すれば、あとはそのボーダーラインは際限なく下がっていく一方になるのが目に見えている。彼女は言うべきことを言っているだけなのだ。
もともと冥界の住人として地上の出来事には極力介入しない、という冥王の方針でもある。
「ぅ……」
「……はあ。ユー、種子の反応がどちらの方角か分かるか」
「え?あ、はい。そのラビリナの集落があるっていう森の…奥の方、ですかね」
「ならどのみち森の探索にラビリナの集落を拠点に出来ないか確認する必要があるだろう。その時に聖印のことも訊く。その内容次第で改めてこの話に介入するか判断、この方針ならどうだ」
答えに窮したクルチャに助け舟を出したのは、寄り道はしないし聖印のことを棚上げにもしないという折衷案を携えたジェニファーだった。
他のアイリスも賛同したことで、彼女の提案が採用となる。
ジェニファー、ありがと。
「……問題を先延ばしにしただけの話。主上に感謝をいただくことは何もなかろうよ」
それでもね……。
ベアトリーチェは冥王が白と言えば黒も白になる性格なので、一言クルチャに口添えすれば簡単に引き下がっただろう。
だが彼女の言い分にも理があるのに上から押さえつける形になるのは好ましくないので、ジェニファーの提案は渡りに船だった。
そういった意味の感謝を、冥王は己の巫女に贈るのであった。
…………。
問題の先送りでしかない、とジェニファーは危惧していたが、幸いというべきか問題が再燃することはなかった。
何故かさっきの村の長の娘とラビリナの青年――目撃証言は盗人を追いかけていた彼の後ろ姿だったとのこと――の種族を超えたラブロマンスを挟みながら、聖印を盗んだ魔物が種子も宿していて、その討伐により目的がぶれることなく両方達成されたからだ。
だが、新たな問題が一点――村の住人とラビリナ達の確執。
これまた魔物の仕業だった農作物荒らしの件も含め、無実の罪で批難されたラビリナ達も村人達にわだかまりを抱いている。
かと言って、娘を取られた村長の典型的なバカ親父的心情も併せ、素直に村人達が謝るとも思えない。
ここで、本来なら村人とラビリナが仲良くしないなら聖印持ち出して駆け落ちしてやるぞー的な村長娘の脅し作戦や、クルチャ渾身のマイクパf……もとい演説が村人達の心を打つ展開があったかもしれなかった。
だが、そういう案が出る前に、素早く我に任せろと言い出すバカがこの場には居た。居てしまった。
そして。
「ふん。聖印を盗んだのはラビリナじゃなく魔物?そんな見え透いた嘘誰が信じるか」
「庇い立てしやがって。どうせお前たちもラビリナの一味なんだろうが!」
「まー案の定こうなる気がしてたー」
「ご主人様。斬ってきます」
どうどう。斬るのはだめ。
「ではキルってきます」
「もっとダメですよベア先生!?」
「はい?もっとダメージを、ですか?なるほど一息には殺さないと」
「悪化したー!?」
「ジェニファー。なんかベア先生が色々限界そうだから、さっさとやっちゃって」
「任せろ」
「しかし、具体的にどうするつもりだ?」
引っ込みが付かないのもあるだろうが、事前の予想通りラビリナに謝罪することを拒んだ村人達。
冥王を愚弄したと認識したのだろう、戦装束からなんか痛そうな暗器の大針を抜き始めたベアトリーチェが暴走を始める前に、厨二幼女が立つ。
具体的にどうする?―――決まっている。
なんとなくかっこよさそうな言葉で分かった風な台詞をそれっぽく言うだけである。
「くくく。ふははははッ。あーーはっはっはっはっ!!!!
無様!滑稽!!バカバカしいッ!!貴様ら揃って道化の真似事かよ!!!」
「な………っ!!?」
ロリ声なのに見事な悪役三段笑いで場の視線と流れといい空気をいっぺんに持っていくのが第一段階。
「いい大人が素直にごめんなさいも言えずに幼稚な拗ね方して言い逃れか。
あははーおじちゃんたちすっごくみっともなーい」
「このガキ……、ッ!?」
「ガキに馬鹿にされて手を上げようとするのが本当にみっともない」
「ぅ、ぁ……!?」
煽り倒して逆上させ、殴りかかろうとした村人の眼前数センチを超重量の水晶の大刀が薙ぐことで一転この幼女はヤバいと恐慌状態に陥らせる。つまり冷静な判断を出来なくするのが第二段階。
「一つ当ててやろうか。
――――最近の話だ。亜人に敵意を持つ外部の人間が、この村に来なかったか?」
「……??それは…いや2か月前………」
唐突な話題転換で冷静になる時間を与えないまま、よく考えれば実は解釈の幅がかなり広い当て推量をぶつけて「相手はこっちのことを知っている!?」と思わせ、さもこれから言う内容も自分に当てはまるかのように錯覚させる詐欺占い師の手法―――それを次に適当ほざくための足掛かりにする第三段階。
ちなみに心当たりがない場合も問題はない。「気づいていないか。ますます滑稽だな」とか煽りながら勢いで流せばいいので。
「ところで戦争では“噂をばらまいたりして”不和を植え付けて、敵国の足を敵国民自身に引っ張らせるのは割と常套手段なんだが。
――――ああ、“関係ないかもしれないが”武力侵攻で領土拡張を狙っている国がすぐ北の方にあるんだったか?」
「それは……!!?」
陰・謀・論。第四段階にして本題。
「そもそも何故気づかない?ラビリナに聖印を盗む動機がない。“魔物にも聖印を盗む動機はない”。
――――魔物が最終的に持っていたのは確かとしても、聖印が紛失した本当の理由はなんだ?」
「帝国の奴らがやったっていうのか?儂らを争わせるために!?」
「現に聖印(オモチャ)一つで面白いようにいがみ合っていただろうが貴様らは」
「ぐ…」
結論は相手に言わせる。ちゃんと考えればありもしない説得力を、場の空気で無理やり補強。第五段階。
「だが、こんな辺境の村でそんなこと……」
「辺境?―――つまり侵略してくる軍隊の通り道だろうが。
ちなみにお行儀の良くない軍が兵士の食欲と性欲をどうやって満たすか知っているか?」
「「「――――ッ!!?」」」
略奪されるよ、やったね村人☆―――危機感を煽る第六段階。
そして。
「ハッ。そうやって何も考えずに
――――己の意志の及ばぬ事象に祈り縋っていれば、それで安寧の明日が約束されるのか?此処がそんな優しい世界なものかよ」
それが忠告になるか甘言になるか、それすらもふわっと考えることを放棄しながら、ジェニファーは最終段階に移行した。
「まあ、逃げるか戦うか。決める覚悟も無いのなら、震えて祈っていればいいさ。
ただ一つ言えるのは――――家畜に神はいない」
ジェニファーが表情に浮かべているのは、どこまでも透き通るような微笑だった。
ある意味でそれは願いであり、祈りであり、過去のジェーンの一族への皮肉であり、またはどれでもないのか。
「老いた父を潰して肉を食われることに抗議できる牛が居るのか?必死に産んだ子を明日の朝食の目玉焼きにされるのを止められる鶏が居るのか?
柵の中で震えているだけなら、家畜のまま終わればいい」
…………。
結局ジェニファーが好き放題言ったせいで、聖印盗難の件はうやむやのまま村人とラビリナは手を取りあうことになった。
そもそもの諍いについても、帝国の侵略に対しラビリナが帝国側に付くという“噂が流れた”というせいもあった。だったら余計に村人側から喧嘩売ってどうすんだ、という話だがまあ群集心理なんてそんなものである。
実際、そのような噂が村人達の内輪から自然発生するとは考えにくいため、ジェニファーの吹かしもあながち的外れではないのかもしれない。
「共通の敵が団結を産む。誰かを傷つけた手で今日誰かの手を取り、そしてまた明日誰かを傷つけるかもしれない」
「クルちゃん、それはなんか嫌だな……」
「私も、人の本質はそうではないと信じています」
再度確認するが―――ジェニファーはなんとなくかっこよさそうな言葉で分かった風な台詞をそれっぽく言っているだけだ。
ジェーンの生い立ちが重過ぎて謎の説得力が発生しているだけで。
だから全ては厨二病の繰り言。
「クリス、他人事で済むと思っているのか?
拡張路線に舵を切った今の皇帝、確か信心深く聖樹教会の保護に熱心という話だったな?
今回の揉め事の原因は盗まれた“聖印”―――さて、これは偶然か」
「………帝国の侵略戦争に、聖樹教会が加担していると?」
「さあな」
全ては根拠のない陰謀論。その筈なのに。
ジェニファー自身が、大陸を包む戦乱の嵐の予兆を肌でひしひしと感じていたのだった。
はい、クルちゃんの見せ場をオリ主が奪って一章エピローグのベア先生お色気シーンもほっこりシーンもカットです。
ひっどい作者が居たもんだ……。
で、一応念のため重ね重ね確認しておくけど、状況が何故か符合してるだけで、うちの幼女がやってるのはキバヤシの「な、なんだってー!」と大差ないからね?
少なくとも原作でそうだと明言されていない以上は、ただの邪推。