あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 原作ストーリーだとソフィとかヴァレリアがちょっと活躍するシーンなんだけど、本筋に影響無いし正直二章開始からここまででセリフの一つも無いのに急に出て来ても違和感しかないんでお留守番だったことにします(外道
………まあ、ぶっちゃけちょい役で申し訳程度に活躍させるくらいなら個別に尺裂いて集中してがっつり描写した方がいいと第一章のシャロンで学んだ。



種子を追う者3

 

 国境というものは国土が広くなればなるほど曖昧になっていくものだ。

 精確な測量技術があってさえ樹海や山、砂漠と言った大自然の障害はそのまま太すぎる線となる。

 分かりやすい河川で境界を引こうにも、流域全体に石の堤防を作るなどという狂気の沙汰を敷かない限りは、少し雨が長引くだけで容易く流れる場所を変えてしまう。

 

 まして人の行き来をモンスターが妨害するような世界だ。

 帝国に潜入、と言っても街道と関所を使わなければ出入りは簡単なのである。

 

 当然にモンスターと出くわすが、正直人間の活動圏内に現れる程度の魔物に後れを取るアイリスではなかった。

 

 とはいえ。

 冒険者なんて稼業が成り立つくらいだから、モンスターの脅威は一般市民はおろか国の兵士達でも十分被害を及ぼし得る。

 大陸中央部に巨大な版図を築いた帝国が諸国の統一を成し遂げられていなかったのには、必然の理由があるわけで。

 

「周辺諸国全てに向けて侵略戦争に踏み切った女皇帝。正直我は気違いの脳足りんの薬中かと思っている」

「ジェニファー、口が汚い。反省したんじゃなかったのか?

…………とはいえ、エリーゼ様のことを思うと、弁護する気にはなれないがな」

 

 子供達が売られた先と聞き到着した帝国領側の街。

 立ち並ぶ家々に人の気配がなければゴーストタウンかと思うような静かな様相を眺めながら、ジェニファーは呆れた様子で呟いた。

 それを窘めながらも、内容自体の否定はしないアシュリー。

 

 かつて彼女を騎士に任じ、仕えた最初の主であるエリーゼはかつて帝国に和平の使者として赴き、帰って来なかった。

 そして和平の意思表示への回答は、何ら止むことのない侵攻と蹂躙で示されたのである。

 

 そういった経緯からアイリスの中で最も帝国に怒りを燃やしているのは間違いなくアシュリーで、感情的になることこそないが帝国領に潜入してからの口数と笑顔の少なさで内心を察することができる。

 四六時中ぴりぴりとしていて、話しかけるには最低でもジェニファークラスの図太さを必要とする雰囲気だった。つまり、他にいるとすれば冥王くらい。

 

「“それ”だ。道義的な問題を置いてすら、正気の沙汰じゃない。

 非武装で交渉に来た相手国の領主を一方的に殺害する?つまり講和も調略も一切必要ないとは随分血と力に酔っているようだが、抵抗か死かの二択を突き付けられた形の周辺諸国の戦意は跳ね上がるだけ。

 そして帝国もまた、敗北すれば今度は自分達が投降も譲歩も許されない立場に立たされる。

 どちらかが滅ぶまで終わらない、史上類を見ないレベルの陰惨な殺し合いになるぞ、いずれは」

「そんな……なんとか止められないんでしょうか……」

 

 帝国の狂気を語るジェニファーの言葉は、始終ロジカルなだけに普段の戯言ですらない事実の指摘だ。

 顔色を悪くしたパトリシアが願望を口に出すが、それが儚いものであることは言った当人が一番自覚していたことだろう。

 

 そして、より狂気染みているのは―――仮にもその国の最高権力者を往来で罵倒しているにも関わらず、問題にはなりそうにもない出歩く人の少なさ。

 

 この街に着いてすぐ、無垢な幼女の素振りをしたジェニファーが一人で住人から話を聞こうとして―――いい感じに人さらいのチンピラが釣れたので骨の数本をへし折って存分に鳴いてもらったところによると。

 今この国には一切の娯楽を制限し、水や薪など生活の糧となる物資の使用量も上限を決められていることで節制の美徳を積むなどという法が敷かれているらしい。

………切り詰められて余ったそれらの物資がどこで使われているかは、現在帝国が何をしているのかを考えれば知れた話だろう。

 

「欲しがりません勝つまでは、か?」

「勝つ気ないだろこれ。フラストレーション溜まりまくってるだろうから、ちょっとつついたら暴動起こるんじゃないの?」

「ていうかお店に商品が何も無い………買い物できない………なんだか落ち着かない………」

「ラウラ、そんな能天気な話ではないですよ。

 こんな一次産業が何も無い街で消費を極端に制限すれば、すぐに流通が死んで余剰な労働者が露頭に迷います。

 ラディスの言う暴動が起こるのが先か、乞食が道端に溢れ返るようになるのが先か。

 ジェニファーの言う通りの短絡極まりない侵略方法といい、皇帝は統治のド素人なのでしょうか」

「ベア先生、学園じゃないのにエグい授業始めないでください……」

「丁度いい教材があったので。学びは実地で体験してこそ分かることも多い」

 

 以上がまあ話を聞いて街を見て回ったアイリス達やユーの会話で、あとはフランチェスカの「つまんなーい」とかラディスの「ばっかみたい」あたりが端的な彼女らのスタンスを示していた。

 

「ところでジェニファー殿。いい加減あの情報収集の仕方はやめませんか?」

「いや、手っ取り早いし。悪人が減って街の子供達も安心できるだろう?」

「だったらせめて、次は私がその役目を果たす番です!」

「え、イリーナおねーちゃん、ぶりっ子のふりできるのぉ?きゃははっ、見たい見たーい!ねえやってみて!ねーねー(ロリ魂)」

「くっ……!」

「いや、なんで悔しそうなのよ」

 

「ふふっ。でもああしてるジェニファー様も、可愛くていいと思います」

「そーだなー。可愛過ぎてどっかの変態画伯が鼻血出してぶっ倒れたからなー」

 

 などと脱線しながら一行が目指しているのは、この街の酒場や娼館が並ぶ歓楽街。

 娯楽も制限され寂れる店が多い一方で、賄賂なりでうまく官吏に取り入った店は逆にこっそり繁盛を極めていた。

 

 お金というものは仲間を求めて集まっていくエントロピーと真逆の概念だ。

 特に今のこの街のように循環が為されない状態だと、淀みの底でどんどん一か所に集まっていく習性を持っている。

 

 その手の需要は古来より絶えないというのもあり、とある羽振りのいい娼館兼“人材紹介所”が一層の繁栄を謳歌している。

 そして、そこに最近“商品”が大量入荷したらしい、というのがチンピラから聞き出した情報だった。

 

「………ま、労働力にもならない子供に値段が付く理由なんて、そうそうないっての」

「絶対、助け出さなくては……!」

 

 何かに重ねたのか不快そうに呟くフランチェスカに、クリスが決意を口に出す。

 そして、号令を出して場を締めるのはやはりリーダーである冥王。

 

―――それじゃあ、下見を済ませたら決行は計画通り日没後。『ハーメルンの笛吹き娘』作戦開始!

「「「「――――応っっっ!!」」」」

 

 

 

…………。

 

「それじゃあジェニファー、よろしく」

「いつでもいい。…………せぇ、のッ!!」

 

 月夜の空に猫耳が跳ぶ。

 “労働者”が逃げ出さないように高く建てられた塀の上まで悠々と到達したラウラは、自分の踏み出した足裏を両の掌で受け止め、踏み切りに合わせて打ち上げたジェニファーをロープを垂らして回収する。

 

 シャロンともう一人、空を飛べるアイリスはあいにく冥界に留守番中。だがラウラとジェニファーの軽業コンビに掛かれば大抵の障害物は障害たりえないため、この二人で先行して娼館の罠や警報装置を解除する任に就いていた。

 ジェニファーの得物である水晶の大刀は重しになるためアシュリーに預け、代わりにいつでも“黒”を顕現できるように眼帯を外している。

 

「たぶん、こっち」

「信じるぞ」

「……この手の施設は、どこも似たような造りになってる、筈」

 

 “娼館に売られた子供の救出作戦”は初めてではないのか、微妙な慣れを感じるラウラの先導で子供達の居場所とそこまでの経路の把握に努める。

 後から突入する本隊では、セシルとラディスが水魔法で用心棒達を昏睡させている頃合いで、あまりもたついてはいられなかった。

 

 幽かに漏れる宴会の笑い声、それが盛り始めて下卑た声と“商品”の喘ぎ声に変わる前にと、二人は薄闇の中を駆けた。

 

「…………へ?」

「悪く思うな」

 

 角を曲がりざまに出くわした従業員に、有無を言わせる前に跳躍したジェニファーが首筋に手刀を叩き込む。

 実際にそれで人間が気絶するか?―――首の骨から鈍い破壊音が鳴る程度に強く叩きこめばそれは気絶するだろう。再び目覚めるかどうかは知らないが。

 

 そうやって物音静かに疾走する二人だが、あまりに速すぎたのだろう。

 本隊の到着前に、子供達が捕まっていると思しき建物の特定と、周辺のクリアまで二人で完了させてしまった。

 

「どうする?このまま本隊を待たずに、私たち二人で子供達も助けちゃう?」

「それ絶対後でピンチに陥るパターンだという知識が……。が、敢えて言おうか。

―――別に我ら二人で片付けてしまって構わんだろう?」

 

 なんかこう、場所が場所だけに頭対魔忍(DMM繋がり)の犠牲になりそうなセリフと行動を繰り出す二人。

 案の定二人を待っていたのは、“商品”の逃亡の気力を折る意図もあってか同じ場所で飼われていた獰猛な魔物――――が、ラウラの短刀の一突きで急所を刺されて即死する。

 その傍らで、ジェニファーが“黒”を振るい子供達を閉じ込めていた檻を破壊した。

 

 中の子供達は時間帯もあって眠っている子も多かったが、異変を感じて皆起き出す。

 それはいいが、これまでの経験から武器を持つジェニファーとラウラに怯え、警戒して檻から出ようともしない。

 

 ただ一人の例外を除いて。

 

「―――、―――ん!」

「人懐っこい、のか?そんなんだから攫われたんじゃないのか」

 

 金髪のくりくりした瞳が愛らしい、肉体年齢はジェニファーとそう変わらないくらいの幼女が、邪剣を携えた巫女の虹の右眼を見つめながら迷いなく至近距離に近づき、黒衣の外套をきゅっと握る。

 

 この時は、二人はこの幼女を変な子と思うだけだった。

 苦笑しながら金髪幼女の頭を撫でる銀髪幼女の姿を見て、他の子ども達が警戒を解いてくれたのでそこは助かった、と僅かな感謝を覚えた程度。

 

 後にリリィと名付けられるこの幼女が冥王一行の旅の重要な鍵となる存在であることを、若きアイリス二人は未だ知る由もないのだった――――。

 

 




 むっちゃダークな舞台事情を説明しながら、変なネタとノリが混入中。
 原作の雰囲気を再現!って言い張れればいいんだけど、なんかこう………なんだろう?

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