高い連撃率と即死率で硬い敵をサクサク斬ってくれる首狩り侍。
ボスにすら即死が効くことがあるんで、ストーリーとおどろおどろしいBGMで盛り上げながら出て来た奴相手にやってくれるともう変な笑いしか出なくなる。
惜しむらくはお正月SSRが露骨にハンデ背負ってること。
萌技撃ったら寝て(アビリティで睡眠耐性上げても寝る時は寝るし、枠が埋まる分火力が落ちる)敵の攻撃が必中&必ずクリティカルで数ターンボコボコにされても起きないのはちょっと酷過ぎる。
萌技の付け替え実装されないかなぁ……。
夢……夢を見ていた。
コトが己が加入する前のアイリス達と初めて出会った時の夢。
巨大な斧を振りかぶったダークエルフィンが「クビ……オイテケ……!」とか言いながら迫ってくるのがまさに夢に出て来たわけだが、それを怖く思えるような感性をしていないのがちょっとだけ残念に思えた。
(いやまー、戦場で「死ね」とか「殺す」とか「御首級頂戴」とかは確かに常套句なんだけどね)
東の国から刀一本と着流しのみで流れ着き、用心棒稼業をしていたコト。
当時の雇い主が領民から重税を搾り取る圧制を強いており、その館にシーダーであるコトが逗留していたのを勘違いされた結果、種子のついでとばかりに反乱軍に便乗してそれを打ち倒そうとしていたのが当時のアイリス達――――つまり出会いは敵同士だった。
そんな訳で初対面のソフィの第一声が「その首いただきますよ?」だったのだが、特に気にすることもなく仲良くやっている。
そんなことをつらつら考えながらも、夢の中のコトは水路を利用した要害の街に続く唯一の橋を通せんぼして大立ち回りしていた。
最初に時間稼ぎのつもりで一騎打ちを申し出たのにアシュリーが応じたのは「しめた」と思ったのだが、冥王がアイリスに無慈悲な総員突撃を命じたのであのまま戦えば順当に磨り潰されていただろう。
コトも旗色が悪いのは分かっていた。
所詮あの時の雇い主は金銭だけの繋がりだったし、アイリスの前哨に反乱軍の先鋒は蹴散らしたので給料分くらいは働いたと判断し、戦いを切り上げバックれようとしたその矢先。
(もうちょっと早く行動するべきだったよ、ほんとね)
『凍汽装刃【エンチャント・フリズド】――――“睡氷のネバーランド”』
わざわざ宣言された技名に振り返ったコトの眼に映ったのは、その数秒前に躱したハイエルフィンの氷魔法を吸収し蒼く輝く刃で斬りかかってくるジェニファー。
空を飛んでいたなら後方からの弓矢の雨で撃ち落とされている筈で、あの幼女は他に侵入手段がなかった橋の反対側から挟み撃ちにしてきたのだ。………そう、“水の上を走り、数メートルの高さの堀を駆け上がる”なんて真似をしない限りたどり着けなかった筈の街の方向から。
ご親切に声を上げながらの背後からの奇襲だったため、反応が間に合って青の斬撃を刀でいなした―――のは、それですらも致命的だった。
(うえ………)
コトは何がなんでも、無様に転げ回っても、泳げない水中に落ちたとしても魔剣と刃を合わせること自体を避けるべきだったのだ。
わずかな武器同士の接触、それだけで極低温の魔力が伝導し、まずは刀を握っていた掌が“眠って”言うことを聞かなくなる。
それは例えるなら、細胞の一片一片に丹念に麻痺毒を塗りこまれたような猛烈な倦怠感と尋常ならざる悪寒。
次は腕、肘、肩……掌の時点で吐き気がするほどの気持ち悪さだったのに、内臓、脊髄、脳と総毛立つような冷気に犯され。下半身から足先までもあの絶望的な“睡魔”が染み渡り、コトの体を蹂躙した。
握っていられなくなった刀が地面に落ちる音を遠くに聞いて、その時間から逆算するに意識が落ちるまでわずか数秒。だがその数秒が何千倍にも感じられる程に『感覚が無いという苦痛』は引き延ばされていた。
死が目前に迫った時や極限まで集中した時、加速した人の意識は思考や記憶を目まぐるしく回していくのは自分の経験からも知っていたが、その間中ずっと『寒い』という責め苦が精神を蝕むのである。残酷な夢の国が、魂の奥底にまで氷の爪痕を刻み込むかのように――――。
「…………悪夢だ」
夢の中での眠りが、現実の覚醒のトリガーになったのか。
シラズの泉のほとりで昼寝から目を覚ましたコトが、べたつく寝汗に張り付いた三つ編みを一度解いて上体を起こす。
寝るのは好きだが、あの冷凍睡眠だけは金輪際御免だ。
厨二幼女曰く非殺傷設定の“りりかる”な技で、手加減された敵は目を覚ますや否や感動に震えあがり、「もういっかいあれでおしおきするよ?」と言うだけでなんでも命令に従ってくれるようになる、とかほざいていた。………要するに“死んだ方がマシ”レベルの拷問技をかまされた、ということである。
とはいえ当然ながらあの時のジェニファーとコトは敵同士だった訳で。殺し合いの場に立っていた以上何をされたって文句は言えないし、こうして命があっただけ儲けものと割り切っている。
割り切っているが―――。
「にゃろぉ……」
戦いを生業とする身としてその怒りを表に出すのはみっともないとは思っているので、数秒の瞑想で無理やり落ち着かせていると、東方の女剣客が目覚めたことに気づいた諸悪の根源が舞を切り上げてこちらに向かってきていた。
泉の水面の上を、素足でぺたぺた歩いて。
「おはよう」
「はよ。……あのさジェニファー、その水の上歩くの、どうやってんの?」
「……?巫女ならばできて当然だろう?」
「どこの常識だそれ。仙女かなんかと勘違いしてない?」
「言われてみれば、うぅむ。だが、なんかこう神楽舞は水の上で踊っているイメージが」
「あれは舞台に薄く水張ってるだけ」
「なん…だと……!?」
巫女なら水の上に立てるというなら、生まれは神社の跡取り娘であったコトも水面の上に立てなくてはおかしいだろう。
もしそれができたら、カナヅチで苦労するような思い出は大分なくなっただろうに、つくづく悪意なく神経を逆なでする幼女だと思った。
性格的な相性はそこまで悪くないのだが、廻り合わせの悪さかあまり仲良くできないというパターンのコトとジェニファーの関係。
わだかまりという程でもないので、こうして共にいれば雑談を交わす程度だが。
「……よく見れば寝汗が酷いな。悪い夢でも見たか?」
「うん。あんたが出て来た」
「フッ、成程。それはとびきりの悪夢だろうさ―――はぁーっはははは!」
「いま上機嫌に笑うとこだったっけ?」
………これはこれである意味仲が良いのかもしれない。
手拭いを取り出して泉の水に浸し、軽く絞って顔に当てるとべたつく肌の気持ち悪さがなくなって幾らか気分が上向く。
泉のへりに脱ぎっぱなしにしていたブーツを履き直しているジェニファーに視線を向けて、コトはふと気になった話題を投げた。
「そういやジェニファーがこの時間にこんなとこ居るのは珍しいねぇ。いつもならアシュリーと一緒に―――あ、あー」
「……説明の手間が省けて何よりだ」
学園の授業が終わった後は、しばしばこの幻想的な泉のほとりで昼寝に耽っているコトだが、そのタイミングでジェニファーに出会ったことは今まで一度もなかった。
その理由を問う前に、自分が持っている情報で自己完結する。
「アシュリー、ほんと荒れてるねー」
「話したのか?」
「今日、ここに来る前にちょいと」
ヴァルムバッハ公国での種子探索から帰還して以来、アシュリーは仲間との交流も最低限にひたすら鍛錬に没頭している。
その生真面目さから学園の授業を疎かにすることこそ無いが、今の彼女はどこか人を寄せ付けない頑なさを纏っていた。
「気持ちは分かんなくもないけど……」
守れなかった主、その仇を見つけて戦いを挑んだ挙句に無様に敗北した―――人づてに聞いた事情だが、同じくかつて主を守れなかった過去を持つコトにとってはあまり他人事とは言いづらい。
「でも今のアシュリーに必要なのは、一旦冷静になることでしょ?
聞く限り、眼帯外したあんたとベア先生、それにラウラとセシルが四人同時に掛かってかすり傷一つで済ますとか、かなりヤバい相手みたいだし」
「小手先で遊んでいたような印象だったしな。全力はまだまだあんなものではないだろう」
「………種子を探してまたそいつとかち合うかも、か。うわあ面倒くさそう」
顔をしかめたコトは、一旦そのことを考えないようにして脱線しかけた話を元に戻す。
「最近あんたがアシュリーの鍛錬に付き合わないのも、そういうことだよね」
「今のアシュリー先輩は、いっそ体が限界になるまで暴走しきった方が発散にもなる。主上やベア先生もそういった理由であまり構わないようにしているのだろうさ」
「その暴走に他人を巻き込めば、後々気に病むだろうから………か」
紛れもなくそれは優しさなのだろうが、幼女にここまで行動原理を把握されているアイリス最古参というのもどうなのだろう、とは思う。
「にーさんはともかく、九歳児にそんな気遣われちゃおしまいだよね。
案外水でもぶっかければ頭に血が上ったのも収まるんじゃない?」
「それはそれでありかも知れないが。………うん?おい、まさか」
普段から一見のんびりした口調に毒を混ぜるコトだが、それにしてもちょっと乱暴過ぎる論に違和感を覚えたジェニファー。
乾いた笑い顔で詰め寄ると、琥珀の瞳を他所に彷徨わせながらその嫌な予感を肯定される。
「面と向かって言っちゃった。てへ」
「………とりあえず棒読みで『てへ』はやめろ」
「うん、まー悪いとは思ってる。次あいつに会ったら謝ろうと思ってるくらいには」
「一応、言い訳を聞こうか」
「それがさ、鍛錬の相手にジェニファーが捕まらないからって『コト、お前でいい』とか言ってくるからちょっとカチンときちゃって」
「……はぁ」
ジェニファーをして戯言を言う気にもならなかった。
飄々としているように見えて、己の強さに関してはかなりプライドが高く沸点が低いのだこのサムライ女は。
それにしても今のアシュリーに余裕がないのも、悪気があってそんな言い方をしたのでもないことも分かっているのだから、そこは受け流すのが度量というものではないのかと幼女に呆れられる話ではあるが。つまり他人をどうこう言えた義理ではない。
「………あ~、思い出したらなんかむずむずする」
「そういうのを黒歴史というらしいぞ?」
「今無性にあんたが言うなって気分になったんだけど」
反省はしているようなので、現在進行形で色々黒歴史な幼女は彼女を非難するようなことは差し控えた。
「――――わたしって、つくづくこうなんだよねえ」
「………?何か言ったか」
「ねえジェニファー。『死にぞこなっちゃったなー』、って思ったことってある?」
ふと、コトの口調に沈んだものが混ざる。
会話の流れにそぐわぬ問いかけもまた、不穏極まりないものだった。
「“記憶にある限りでは”、二回ほどな」
「………訊いといてなんだけど、あんたみたいな子供がなんで二回もそんな感想持つことがあんの?」
「それだけこの世界が優しくない、ということだろう」
「それは否定しない。私もあるし、多分アシュリーもそう」
かつて命を懸けてでも守りたいもの、叶えたい願いがあった。
それを失っているのに、まだ自分は生きている。
何故自分は生きる?この命は何の為にある?
かつて『主を守るため』と定まっていた筈の心の柱がへし折れた虚無感、それがずっと胸の内に燻り続ける。
本当は、同じ痛みを抱える者同士アシュリーに励ましをしたかったのにうまくいかない。
縁もゆかりもないどころか種族すら異なるアイリスの一人に亡き主の面影を重ね、上手く接することができない自分が何か言おうとすること自体おこがましいのではないか。
器用でいられるのは武芸のことだけ。強くいられるのは斬り合いの最中だけ。
所詮自分はその程度の生き方しかできない。
どんどんネガティブに回り始めた思考の最中、コトの背後に背中合わせの形でジェニファーが座り直したのに気づいたのは子供の高い体温が伝わってからだった。
ジェニファーは子供だ。“前世”を合わせていようが、大した記憶もないのに落ち込む仲間を励ます実のある言葉なんて言えない。そもそもコトの悩みをきちんと把握している訳でもないから尚更。
だから言えるのは………なんとなくそれっぽいだけのただの戯言。
「真に“死にぞこない”なのは、きっと我一人だ」
「―――え?」
「欲望、信念、愛情、理想、信仰、正義、意地、希望、憎悪………人によって形はそれぞれにせよ、人は生きる理由を必要とする。理由とは意義、すなわち価値だ。誰だって自分の命が無価値だなんて思いたくはないだろう?」
「そう、だね」
ジェニファーが果たして何を言おうとしているのか、本人も多分分かってないことを分かるわけがないコトはただ相槌を打つ。
「だが、我は分からない。命とて極論すればただの現象だ。
如何に生きるかに価値が生まれることはあっても、生まれ生き続けることそれ自体の理由など主上ですら知り得まい。
したり顔で語る存在が居ればそれはただの詐欺師だ。理由を欲する者に餌をぶら下げるだけのな」
「強いね、ジェニファーは」
「弱いさ。だから他人の体で、他人の名前で生きるなんて恥知らずな真似ができる」
それでも宿主(ジェーン)のことがあったから、一度“死にぞこなった”命を彼女のために使うという決断をした。他にやることがなかったから、という理由がそもそも狂っているのを自覚した上で。
いつかジェーンの復讐に限界が訪れた日に今度こそ死ぬのだろうな、と思っていたところを―――冥王とアシュリーに救われたのが二度目に“死にぞこなった”経験。
「人として健全なのは、コトやアシュリーだ。
今は見失っているだけで、それでも懸命に探し続けている。本当はもう見つけているのかも知れない」
「………っ」
「――――貴様達が、“死にぞこない”などであるものか」
中身がない戯言。だが中身がないからこそ、“中身のある生き方”というのがどういうものなのかは分かるつもりだ。
怒りすら込めた唯一の断定がコトの心に届いたのか―――それだけが、戯言しか言えないジェニファーには分からない。
そして、コトの答えは。
「………そっか」
どうとも取れる声音で、どうとも取れる言葉だった。
表情も背中越しのため窺い知れない。
だが――。
「なら、あんたも“死にぞこない”なんかじゃない。
ジェニファーにはジェニファーの生きる理由が、きっとある」
「――っ、どいつもこいつも……!!」
コトが続けた言葉に、逆に励ましを受けてしまったような気がした。
同時に、初めてシラズの泉を訪れ、初めてここで巫女舞を踊った時のことを思い出す。
輪廻転生が滞り、ここに留まっている魂達の中に、聖樹教会に虐殺されたジェーンの一族のものも含まれていた。
ジェーンの記憶では一族の誰からも愛されていて、だからこそ彼女の体を使う不届き者であるジェニファーは彼らからのどんな恨み言も受け止めるつもりだった。それなのに。
―――あの子を守ってくれてありがとう。
―――私たちはもうあの子と一緒に居られないから、これからもどうか頼む。
―――あの子と一緒に生きてあげておくれ。
―――我らの分まで。いつかあの子がもう一度笑える日が来るように。
―――冥王様と共に歩む君たちに、どうか幸せが訪れんことを。
感謝され、信頼され、託された。
自分たちの理不尽な死に思うことがない訳もなく、その恨みの矛先がジェニファーに向かってもおかしくないにも拘らず。
その後ジェニファーは彼らの魂を鎮めるための心からの舞を捧げ、そして冥王があの日の約束を守り今の世界樹で行える分の細々とした転生を、全て彼らに優先的に割り当てて執り行ってくれた。
ジェーンの一族だけではない。
冥王が『俺の騎士だ』と言ってくれた。
アシュリーが後輩として可愛がってくれた。
クリスとパトリシアは、「自分は関係ない」と逃げることなく真正面から向き合ってくれた。
復讐の返り血に塗れた手を、ソフィが、セシルが、ラウラが、フランチェスカが、そしてラディス達が受け入れてくれた。
生きてやりたい事など何一つないのに、死ねない理由ばかりが増えていく。
中身が無い自分が、《アイリス》として再構成されていく。
ここは冥界。死者が新たな生へと踏み出す場所で、それはある意味必然なのかも知れない。
「「………」」
コトとジェニファー、二人が互いに互いの言葉に何を感じたかは知りようが無かったけれど。
しばらくの間、魂の燐光が舞う泉のほとりで、黙ってじっと背中合わせに座り込んでいた。
厨二幼女が普段ふわっとした戯言しか言わないのは、「悟った事言っている俺カッコいい」的な悦楽嗜好とか愉快犯的思考もあるけど、そもそも発言に籠める“中身”が記憶ごと吹っ飛んでるから、という話。
うん、これはこれで更に闇が深くなった気もする。