(第十章をプレイして)ネタバレ防止の為に詳細は伏せるけど、ライターはラディスにぬか喜びさせて笑顔を曇らせる趣味でもあるんだろうか……。
それはさておき第三章―――に入ると長いんで、復刻も来たし。
さあ出ませい……クリスティン・ラブリーショコラ!!
夢……夢を見ていた。
【………】
敢えて語弊を恐れずに言えば、夢の中で覚醒したというべきか。
目を開いたジェニファーの視界に真っ先に映り込んだのは、胸焼けしそうな人工着色料っぽいピンク色の空。
そして、銀髪幼女。
冥界に来てから毎日のように鏡に見ている顔が、チョコレート色の地面に寝転んだジェニファーをじっと覗き込んでいた。
ところで、普段自分が鏡で見ている顔と他人に見せている顔では存外認識が異なるというのはご存じだろうか。
鏡の前では無意識に表情を作るし、何千何万と見た鏡の顔は勝手に脳が好意的な補正を掛けるという説もある。
だが幸いというべきか、ジェニファーを覗き込む彼女の顔は、あどけないながらもどこか色気を感じる美幼女のものに違いない。異なる点を探すとすれば、………両眼が虹色になっていることだろうか。
つまりは今、自分の両眼は紅色なのだろうとなんとなく認識する。
「お前はジェーン、だな?」
【………(こくこく)】
「ふっ。今更間違える訳もないが――しかし我も当然この姿になるわけか」
上体を起こし、靡く長い銀の髪や細い腕を確かめて苦笑するジェニファー。
期待した訳ではないのだが、夢の中でなら“前世”の姿に戻るということもないらしい。
そもそもどんな姿形をしていたかも覚えていないので、知りたいかと問われれば否定し得なかったのが正直なところだが。
すっとジェーンが顔を引いてくれるのに合わせて、黒の外套を払いながら立ち上がると即座に虹眼幼女がその裾をつまんでそのすぐ背後に付く。
普段一つの肉体で同居している分、互いの望むことを言わずとも知っている。
「わわっ!?ジェニファーさんが分裂してる!!?」
ちょうど近い場所で“目覚めた”のか、二人の幼女を見かけて驚愕の声を上げたユー。
長い銀の髪も、装飾過多の黒衣も、瞳の色以外全く同じ幼女が二人いれば驚くのも無理はないだろう。
「え、え?ジェニファーさんって、双子でしたっけ?」
「……。ゆうたいりだつー」
【………(ふわふわ)】
「ぎゃー!出たーーーっっ!!?」
「何バカやってるの」
目を白黒させて混乱するユーに何かが疼いたのか。
二人の幼女が一度立ち位置を前後に重ねた後に、ジェニファーが気絶したかのように前に倒れ込み、その場に立ったままのジェーンが無表情で手を前にぶらぶらさせるネタを披露する。
いいリアクションを返してくれた世界樹の精霊と裏腹に、普段使う氷魔法のように冷たい声を掛ける
ウィルヘルミーナ=シュヴィール―――通称ウィル。一部のアイリスは通称で呼ばれ過ぎてちょくちょく本名が分からなくなるが、例に漏れない子である。
鱗に覆われた下半身が特徴的な海に棲まう種族だが、陸上では魔法で人間と同じ足に変化させるため、普段の冥界では学生服なのもあってあまりその真の姿は見られない。
それでも聴く者を陶酔や眠りに誘う魔性の歌声は健在で、種族としての勝負服である淡い水色の羽衣や貝殻の髪飾りを身に着けた姿はまさに海辺の
そんな彼女はまじまじと二人の幼女を見下ろすと、虹眼の方の幼女に視線を合わせて言う。
「あなたがジェーン?初めまして、になるのかしら」
【………っ】
「あっ!そっか、ジェーンさん!」
ユーがポンと手を叩いて分裂幼女(?)の正体に思い当たるが、当のジェーンは視線から逃れるようにジェニファーの後ろで縮こまっていた。
「すまない。他人と会話できる状態じゃないんだ、我が半身は」
「………別に。気にしてない」
「ウィルさんウィルさん、すっごくぶすっとしながら言っても説得力ありません」
分かりやすく不機嫌になった人魚はさておき、そうこうしている内に冥王と他のアイリス二名もその場に集まってくる。
「あ、あなたがジェーンさんですね?早速ハグを――、」
【~~~~ッッッ(ふるふる)】
「がーん!?」
アイリスの二名のうち、一名は以前ジェーンと壮絶な殴り合いの決闘をした修道女パトリシア。
夢の世界だからこそ出会うことができた、かつて拳を交わした
「パトリシア、落ち込むな。汝との抱擁を嫌がっている訳ではなく、主上の尊顔をなるべく視界に入れぬよう必死なのだ」
「え、でもジェーンさんは冥王様を信仰してるんじゃ……」
「“信仰しているから”だ。人間は太陽を直視などできないだろう?」
そこまで……いや、うん。何百年か前にも覚えがあるよこういうの。
当時のことを思い出しているのか、遠い目をしながら冥王が呟く。
一方で、そもそもジェニファーとジェーンが分裂しているようなトンデモ空間の正体を、紅眼幼女がもう一人のアイリスに問いかけた。
「それでポリン。ここは『クリスの夢の中』で間違いないんだな?」
「ええ。見れば分かるでしょうけど」
そう、夢は夢でもここは家出聖神官であるクリスティン=ケトラの夢の中。
アイリス達はウィルとこのポリンという少女の合作魔術により、寝ているクリスが見ている夢に潜り込んだ状態なのであった。
ポリン=フォン=ハイルブロン。
溌剌としながらもどこか気品ある顔つきで、白とオレンジを基調とした学士のローブという出で立ちをしているが、胸の部分の膨らみがスッカスカ。身長は頭二つ分ほど高いにも拘わらずガチ幼女のジェニファー達とためを張る胸囲の高低差で、隣のスケベ水着並みの露出度なウィルと比較すると悲しくなるようなスットン共和国が胸板の大平原に築かれているが、紛れもなく性別は女性である。
………いやまあ、錬金術師というなんだかオサレげな職業の割に、豊胸薬の作成を至上命題にしているレベルのコンプレックスをその薄い胸に抱えているという個性にはちゃんと触れてあげないとと思ってこういう紹介の仕方をしているが、一応作者に悪意はない。愉快ではあるが。
その辺をいじるのはまたの機会として、ポリンは周囲の風景を見渡しながら夢診断のようなものを始める。
「空のピンク色や匂ってくる甘い香りは言うまでもなく煩悩。地平線まで広がるチョコレートの地面は今回のバレンタインにキメるという情熱の及ぶ範囲を示していて、これも心が煩悩一色に支配されているということ。遠くにちょっとずつお菓子っぽいオブジェクトが配置されているのは、食べてもらう――つまり自分の溢れる煩悩を処理する望みが薄いというストレスの表れね」
どこぞのフロイト先生なら上の文章の“煩悩”というワードを“性欲”というワードに置換するだろうが、ある程度は当たっているのだろう。
わざわざ冥王やアイリス達がクリスの夢の中に侵入しているのも、女性が懸想する殿方にチョコを渡すというバレンタインの恋愛シチュにクリスが妄想力を爆発させた結果、誤作動を起こした世界樹がその煩悩をモンスターとして次々と実体化させてしまったという冗談のような且つはた迷惑な経緯なのだから。
暗黒幼女が闇を振り撒いているせいで真面目モードでいる時間が多いが、本来クリスは一目惚れで聖樹教会のエリートという立場をぶん投げた上で、教会が邪神としている冥王と旅路を共にするような恋愛脳の少女である。
そのレベルの恋情を真面目ちゃん故に無理に抑圧していて、バレンタインというイベントをきっかけとして爆発してしまったのだが。
その結果―――『これ』が生まれてしまったわけだが。
「ふふふ、とうとうここまでやって来ましたね?」
「っ、皆さん!あそこにクリス先輩が!」
「クリス?いいえ、違います」
「人呼んで愛の聖神官、クリスティン・ラブリーショコラ参上!
―――私と冥王様の間を邪魔しようとする心意気やよし。
―――障害が多ければ多いほど盛り上がるラブ。
さあ、私の心に燃え盛る恋の炎の薪になるのです!」
「………」
「「「………」」」
………えっと。その服可愛いと思うよ?
リボンとフリルたっぷりの、甘ロリ風ドレスはバレンタインらしくチョコレート色のワンピースと一体化したデザイン。波打つピンクの超ミニスカートの下からは、純白のドロワーズがほっそりした白い太ももを可愛く飾っている。
見るからに普段のクリスからかけ離れたきゃぴきゃぴした服装と、一瞬脳が理解を拒む頭の沸いた口上にアイリス達が絶句する中、すぐに褒め言葉で対応した冥王は流石というべきか。
「あぁん、冥王様うれしいです~っ!
勿論貴方の為にこの衣装を纏いました。お気に召したなら、さあ存分に!可愛がってくださいね?うふっ」
「………頭が痛くなってきたんだけど」
「とはいえあれがクリスの煩悩の象徴。あの色んな意味で全身ピンクをなんとかしないと、今回の事件は解決しないわ!」
「そう、ですね。ならその役目はせめて私が。
―――クリス先輩、今楽にしてあげますっ!」
「できますか、パトリシア?貴女に今の私を止めることが」
くねくねと身悶えた後、ウィンクを飛ばしてきたラブリーショコラにウィルが眩暈を覚えたような仕草をして、ポリンが変な汗を流しながらも皆を奮い立たせる。
そして一歩前に出て、決然とクリスのようなナニカと対峙したパトリシアの戦闘装束が―――煙と共にエプロンとコック帽姿に変貌した。
「煩悩を憎んで人を憎まず。チョコの湯煎は55℃。
食べた人みんなを笑顔にするショコラティエ、スマイリーパトリシア、見!参!」
「………」
「「「………」」」
「そういえばさっきパトリシア、ウィスキー入りのチョコ作って味見してたわね」
「いや酔っぱらいに酔っぱらいぶつけてどうするんですか。何も解決しませんよ!?」
右の手には泡立て器を、左の手には生クリーム入りのボウルを。
お前は何と戦うつもりなんだと問い詰めたくなる衣装に着替えたパトリシアに、ユーの哀に溢れたツッコミが夢の世界に響く。
ところで。
こういう時にノリで悪ふざけするバカが、この場に居る訳だが。
「ふむ。夢の世界だから服装も自由自在、という訳か」
「ジェニファーさん待って。これ以上場の空気をおかしくしないで」
「往くぞ我が半身ッ!」
【………(こくっ)】
「待ってって言ってるじゃないですかー!!」
「めたもるふぉーぜっ☆」
「恋の行方はビター?スウィート?愛情のゴールはオールオアナッシング!
一服盛るなら用法用量を守ってね。媚薬入りのお菓子はナイフで白黒切り分ける。
――――乙女の想いの裁断者(ジャッジメンター)、ジェミニン・ノワール推参!!」
「………」
「「「………」」」
「ちなみに相方のジェミニン・ブラックは中の人の都合で喋れないけど察してね☆」
【………(しゅばばっ)】
コンセプトはメイド喫茶の給仕だろうか。
色合いは黒なのだが、ラブリーショコラと負けず劣らずのちょうちょ結びのリボンが随所にあしらわれたエプロンドレスに衣装チェンジする幼女二人。
普段目に眩しいシルバーアクセサリーは太ももや二の腕、ケープとなった外套の下でベルトホルスターに代わっているが、そこに収められているのは蛍光色の怪し過ぎる“おくすり”だった。
そんなジェニファーが持っているのは巨大な透明プラスチックっぽいフォーク、ジェーンが持っているのはセラミック製と言い張れなくもない巨大な黒いケーキ包丁。
口上を終えた悪ノリ幼女は、やたら息の合った決めポーズを二人で取るのだった。
「とりあえず、ノワールとブラックは両方黒なんじゃないの?」
「我らに乙女の甘酸っぱい想いを“
【………(ぶんぶん)】
「……あっそ」
開き直る元男と幼女に、ふと気になった点をツッコんでしまったポリンは呆れたように首を振る。
だが、他人事でいられたのはそこまでだった。
「それで、次はポリンの番じゃないのか」
「―――え゛?」
「「じーっ」」
【………(じーっ)】
わくわく。
「あなたたち……冥王までっ!?」
パトリシアとジェニファー達に、敵である筈のラブリーショコラまで加わって「空気読むよね?」という視線を浴びせられるポリン。
それだけならまだしも、冥王に期待するように見られると流石に弱る。
憎からず想っている男性に、自分が可愛い衣装に着替えるのを楽しみにしてもらえている、というのは乙女的にとても嬉しいものなのだから。
あたふたしてなんとか拒否しようとする素振りを見せながらも、錬金術師の優秀な頭脳が頭の沸いた衣装と口上を考えるべくフル回転していたちょうどその矢先。
「も、もう。しょうがないわn―――、」
「―――ポリン? や ら な い わ よ ね ?」
「あ、はい」
彼女が陥落すればなし崩し的に自分までやらされる羽目になると察したウィルの、威圧感に満ち溢れた笑みに屈服したポリンなのだった。
ジェーンがラブリーショコラにグーパン入れに行かなかった理由は次回で。