今回いつも以上に原作で描かれた場面の描写を省いてます。
ギャグはそのままなぞるのがまじつらたん。
なのでもし原作未プレイの人がいたら現在絶賛復刻中のバレンタインイベをやってみよう!
「糖分装刃【エンチャント・シュガー】――――“酔逸のパラダイス”!」
「デコレーションは、お任せですっ!」
「きゃぅ~~~~っ」
ふざけた技名と共にジェミニン・ノワール…もといジェニファーがフォークで突くと、何故か上空から降ってきたスポンジケーキにラブリーショコラが圧し潰される。
それを塗り固めるように、スマイリーパトリシアの泡立て器から放たれた生クリームがぺたぺたと飾り付けされ、仕上げに抱きかかえられるほどの巨大イチゴが円周状に乗せられる。
【………っ!!】
トドメはケーキ入刀。
僅かな助走と踏み切りだけでムーンサルトジャンプを決めながら、ジェミニン・ブラック(ジェーン)が完成したケーキに縦一文字に包丁を入れた。
それによっていかなるエネルギー処理が為されたのか、虹色のリボンが派手に四散したかと思うと巨大ケーキは消え失せ、代わりに何か深刻なダメージを受けたっぽいラブリーショコラがその場でがくがくと膝を笑わせていた。
「ふふ、うふふ…流石ですスマイリーパトリシアにジェミニンズ。
わ、たくしの……甘いハートをぎゅっと閉じ込める最高にスウィートなコンビネーションでした……」
もう何言ってんのか書いてる作者にも分からない。
「冥王様冥王様、これ何のバトルでしたっけ?」
んー……夢の対決?
「お上手ですぱちぱち……ってなんでやねん!?」
「ふー、ふー…~~ッ」
「り、理不尽よ……」
その一方で、ラブリーショコラ以上に深刻なダメージを受けているっぽいウィルとポリン。
ふらふら目を回しながらもきゃぴきゃぴした衣服に乱れのない夢の主と違い、まるで失敗した焼き菓子のように二人のあちこちに焦げ目がついていた。
あのぐだぐだした空気から、無事(?)戦闘に突入したラブリーショコラとアイリス達。
だが伊達にこの世界の主ではないラブリーショコラは、理不尽に強かった。
ウィルの呪歌や氷魔術、ポリンの錬金術が炸裂してもピンク色のオーラに阻まれまるで通用しない。
そしてそのピンク色のオーラは、ラブリーショコラが冥王にウィンクする度、ミニスカートを翻してお尻をふりふりする度、そしてどっちの味方をしているんだか分からない冥王がその可愛い仕草に声援を送る度、派手にドピンクの爆発となってアイリス達に襲い掛かった。
身軽に爆発から逃れられるスマイリーパトリシアやジェミニンズと違い、通用しない魔術や錬金術で防御しようとするウィルとポリンは単なる的でしかなく。
コスプレ組が謎の連携技で早々にラブリーショコラを抑え込まなければ、あえなくこのチョコレート色の大地に倒れ伏していたことだろう。
………真面目な話、かは知らないけど。この世界のルールを決めてるのはラブリーショコラで、どんな攻撃が戦いに有効なのかを決めてたのも彼女なんだよなぁ。
「えっと、つまりどういうことです?」
似た系統のはっちゃけ方をしたパトリシアやジェニファー達が正解だったってこと。
「……あー、つまりノリの悪さがあのお二人の敗因だった、ってことですか?」
「ユー!!」
「だったらあなたが真っ先に恥を捨てなさいよ!」
「ひぃっ!?」
冥王の分析―――即ちこの世界では『ノリの良い方が勝つ』という法則―――に乗っかれなかった負け組アイリス二人がユーに八つ当たりしていた頃。
「さあ、観念してくださいクリス先輩!」
「ふっ、ふふふ……あーはっはっはっは!!まだ戦いは始まったばかりですよ、パトリシア?」
「我の笑い方がクリスに伝染った?」
【………(ぽんぽん)】
不敵に笑うラブリーショコラが天を指さすと、夢の世界に地響きが轟いた。
突然の揺れにパトリシア達が飛び退いたその場のチョコレートが割れ、ラブリーショコラを乗せて天までぐんぐんと伸びる構造物が下から現れる。
『さあアイリス達、私を止めたければこの塔の最上階までたどり着くのです!』
すぐに下から直角に見上げるような高さになった塔。
おそらくその頂から発せられたラブリーショコラの号令が、夢の世界に反響しながら鳴り渡った。
「……帰りたくなってきた」
「どうかーん」
「いやいやいや。クリス先輩をなんとか正気に戻さないと、またモンスターが出て来て楽しいバレンタインが滅茶苦茶になっちゃいますよ!?」
「………色々インパクト強烈過ぎて頭から抜けそうでしたけど、そういえばそんな話でしたねえ」
昇ろうか、折角クリスが用意してくれたんだし。
やさぐれた目つきになった人魚と錬金術師が荒んだ声を出すが、パトリシアがなんとか宥めて目的を思い出させようとする。
ユーが遠い目で呟く中、冥王の仕切りでまだまだクリスのとんちきな夢に付き合うことになったアイリス達。
しぶしぶ歩き出す二人に、ジェニファーが半分にやけながら提案した。
「汝らもやらないのか?明るく楽しい魔法少女」
「こうなったら」
「意地でも絶対」
「「やらないわよッ!!」」
この後の展開である意味おいしい立ち位置になることが決定した瞬間だった。
~煩悩の塔108階は流石に長すぎるので、以下しばらくダイジェストでお楽しみください~
「お父様、クリスは悪い子です。
―――お父様と一緒のお布団でなければ、夜も眠れません。
―――お父様と一緒のお風呂でなければ、心が温まりません。
ハデスお父様、どうかこのわがままなクリスを叱ってください。…………ぱぱ?」
娘よ……!
「はい冥王様危ないから下がってくださいねー」
「ラブリーショコラ(娘)か……」
「ねえ、さっきの(妹)といいもしかして一階上がる度にこの茶番を見せられるの?」
~~~~
「主上よ。ふと思ったのだが、塔の最上階ではラブリーショコラに普段のクリスが捕まっていて、奴の言動にクリスが『貴女なんか私ではありません!』とか言った瞬間ラブリーショコラが巨大モンスター化して襲い掛かってくるとかそういう展開は―――、」
これそういう話じゃないから安心してね。
「そうか。………そうか」
【………(ふるふる)】
「あの、なんでジェニファーさんは残念そうなんですか?」
~~~~
「ダメですよハデスくん?えっちな視線で他の女の子を見ちゃいけません。
――――え、私だったらいいのか、ですか?
そうですねー、……もう。そんなに私のこと見て、何を期待してるんですか?
はあ。ちょっとだけなら……いい、ですよ?」
ありがとう……ありがとう……!!
「出た―!ラブリーショコラ(えっちな先生)だー!!解説のジェニファーさん、これは今までと傾向が違うようにお見受けしますがいかがでしょう?」
「一見逆転した攻めの態度に見えるが、根底は同じだろう。教師と生徒、禁じられた関係に興味津々という、な」
「成程ブレない!まあ間違っても実際のクリスさんが冥王様の前でこんな余裕綽々で居られるわけがないんですけどね」
「何なのあのユーのテンションは」
「無理やりにでも盛り上がってないとやってられない、だそうです」
「………ああ」
~~~~
「うぐぐぐぐ………ッ!」
「まだ、まだ負けてない……!!」
「こげパン状態だな二人とも」
「おふたりだけ色々なラブリーショコラとの戦いの度に爆発喰らってましたからねぇ」
【………?】
「世の中にはどうでもいい場面で素直に負けを認められない残念な大人がいる、ということだ」
「そこ、うるさいっ!」
~~~~
「もうずっと昇り続けましたけど、まだまだ続くんでしょうか、この塔は……」
「いや、そろそろ頂上が近い筈だ」
「どうして分かるんですか?」
「か、勘違いしないでください。冥王様のことなんか、冥王さまのことなんか………ずっとずっと大好きなんですからね!たくさんいちゃいちゃしないとだめなんですからね!?」
「ラブリーショコラ(ツンデレになれないデレデレ)?」
「ほら、シチュエーションが直接的かつ雑になってきた。そろそろネタ切れなのだろう」
「たまに思うんだけど、ジェニファーって頭は良いのにそれを全力で無駄遣いしてない?」
~~~~。
そして、辿り着いた屋上階。
満を持してというか、これまでの道中で分霊によって107通りのいちゃラブシチュエーションを冥王一行に見せてきたラブリーショコラ本体が選んだのは、結婚式のシチュエーションだった。
荘厳なステンドグラス越しの光が降り注ぐ中、新郎新婦神父役:ラブリーショコラの一人芝居、参列者:様々なポーズの冥王の艶姿が精巧にプリントされた抱き枕の数々、というもはや茶番を超えたナニカが展開される。
ここまで延々と付き合わされたアイリス達からすれば律儀に見届ける義理もなく、もはやツッコミすら放棄して全員で即座に花嫁をぶちのめしに掛かったわけだが。
何故か地上で戦った時ほどラブリーショコラが強くない―――かと思えば、急にシチュエーションが花嫁強奪に切り替わる。しかも崩壊していく塔からの脱出というおまけ付き。
命からがら脱出し、精根尽き果てた様子でへたり込むアイリス達の中、ラブリーショコラからクリスに戻った夢の主は、きらきらした笑顔で御満悦といった様相だった。
「うふふ……これもバレンタインの御加護でしょうか。今日の夢はやりたかったことぜーんぶ叶えられた楽しい夢でした」
「それ、は…何より、ねっ!」
通じないと分かっていながら恨みを込めた皮肉を吐き捨てるウィルだが、案の定色々な意味で頭ハッピーなクリスには届かない。
そんな中、ラブリーショコラをお姫様抱っこして、崩壊する塔の瓦礫を砕きながら進んでいたことで一番疲れた筈のパトリシアが立ち上がって言う。
「………私とジェニファーさん、ジェーンさんの攻撃だけラブリーショコラに通じた本当の理由、分かった気がします」
「本当の理由?」
「ラブリーショコラは普段抑えつけられていたクリス先輩の煩悩が暴走した姿です。じゃあなんで抑えつけられていたのかって言ったら―――」
「―――聖女として憧憬を向けて来る後輩への見栄と、教会の非道を思い知らされた我等が居る前で色恋に現を抜かすことへの気後れ、か。成程、天敵と言える相性だったわけだ」
【~~~ッ、~~~~ッッ!!】
話に参加するジェニファーは、何故かクリスに飛び掛かろうとするジェーンを後ろから羽交い絞めにしていた。
「あの、なんでジェーンさんはクリスさんに敵意丸出しなんですか?
さっきまではなんともなかったですよね?」
「ああ、それはな―――」
「―――ラブリーショコラとなら仲良くなれそうだったのに、クリスに戻っちゃったから、だそうだ」
【………(がるるるるっっ)】
「……結論。パトリシアとジェニファーは、普段からもうちょっとクリスがこまめに煩悩を発散できるよう心を配ること」
「異議なーし」
「そうですね。少し寂しいけど、いつまでも先輩先輩って後を着いて回るだけじゃダメですよね」
「我は具体的にどうすればいいかは分からんが、心には留めよう。―――っ、我が半身よ、そろそろ落ち着け」
【………(むぅーーっ)】
今回最も被害を受けたウィルとポリンの総括に、パトリシアとジェニファーも同意する。
そろそろ帰ろうか。
「はい。今日はどっと疲れました。早く帰って寝たいです」
ここ夢の中だけど?
「ごめんなさい冥王様。もうノる気力もツッコむ気力も無いんです……」
一方で冥王とユーのやり取りを受けて、術者二人が夢見の魔法を解く準備を始める。
別の話をしていたためにパトリシアが口を滑らせることもなく、自分達を夢の住人だと思ったままの上機嫌なクリスに見送られて無事このハッピーな夢から退出できたのは、果たして良かったのだろうか。
その答えは――――、
「おはようございます、ラブリーショコラ殿!びしっ!」
「……ぷっ。おはよーラブリー、ショこりゃけほっけほっけほ!?ごめん無理……ぷくくっ」
「やあ、良い朝だねラブリーショコラ?」
「遅いですよラブリーショコラ。遅刻とはらしくもない。普段の態度に免じて言い訳だけは聞いてあげますよ、ラブリーショコラ」
「お?どったのラブリーショコラ」
「あ、クリス先輩!皆さん気に入っていただけたみたいですよ、ラブリーショコラ!!」
「わ、私の夢が、これは一体……っ!?」
翌朝のバレンタイン当日、狭い学園内ネットワークでアイリス全員にしばらく弄られるネタを提供したことに気づいたクリスだけが知っている。
「うわ~~~~んっっ!!?邪念撲滅、邪念撲滅ぅ~~!!」
「ウィル、ポリン」
「?どうしたの、ジェニファー?」
「人の夢を覗き見る魔法があるなら、人の記憶を映像として映し出す魔法はあるか?」
「うーん……今回の応用で、やってやれなくはなさそうよね」
「でもそんな魔法作ってどうするのよ」
「いやなに――――ちょっとした悪戯を、な」