~学園イベント・イリーナ~
「ジェニファー殿ジェニファー殿、銃と弓、戦場で脅威となるのはどちらだと思いますか?」
「……その出題者がどちらの答えを期待しているか丸分かりな問いは、心理テストでもしているのか?」
「あぅ。それがですね、ベア先生から受けた弁論術の補講(※『種子を追う者2』参照)の課題として、この質問に『銃』と答えるアイリスを12人以上確保しろ、と言われていまして……」
「プレゼン力を磨く課題、ということか。目標がアイリスの6割とはベア先生にしては優しい気もするが、これが課題だと相手に伝えるのは良いのか?」
「どうやらティセ殿にも同じ課題で『弓』と答えるアイリスを12人以上確保しろ、と指示が出ているらしく。つまりこれは票の争奪戦ということです!」
「成程、同情を引くのも利益をチラつかせるのも普段の付き合いを楯に迫るのも、全て含めた交渉能力を試されているのか」
「肯定であります」
「――――それはどうかな?」
「……えっ?」
「まあいいさ。ちなみに我としては、離れた場所の敵兵の頭を砕く程度なら、その辺に落ちている石でも投げれば事足りるが」
「それはジェニファー殿だけですよ……。とはいえ交渉での駆け引きはあまり好みではありませんし、それはティセ殿も同じ筈。なので正々堂々、銃の魅力をとくと語ることでジェニファー殿を同志に引き入れたいと思います!」
――――そうして銃の利点を次々と早口で語るイリーナに付き合いながら、ジェニファーは思う。
(一人一票と指定された訳でもあるまいし。イリーナが尋ねた場合は『銃』、ティセが尋ねた場合は『弓』と答えてくれるアイリスを12人確保すれば済む話だろう……)
「―――ということで、銃は弓と違い射手の体調が万全でなかったり怪我をしていたとしても、その威力は全く変わらないというのが最大の利点であり―――」
「イリーナ、とりあえずアドバイスだ。クリス、ラディス、エルミナあたりの頭が回りそうな面子は説得対象としては後回しにした方がいい。無駄に時間を喰う可能性があるからな」
「ふむ……確かにそうでありますね。ご指摘感謝です、びしっ!」
「くくく……気にするな、礼には及ばん。汝に問われれば、次は『銃』と答えることも約束しよう」
「本当ですか!?」
――――確かに礼には及ばないだろう。仕掛けに気づき、それをイリーナに教えてくれそうなメンバーを遠ざけているのだから。
後日、二人はそれぞれ仲良く9人ずつしか賛同者を確保できず、課題非達成で罰ゲームの滑る一発芸をやらされるイリーナとティセを、にやにやしながら眺める外道幼女の姿があったとか。
以上。じゃあメインストーリー第三章入りまーす↓
ゼクトの情報により、パルヴィン王国の姫が種子を持っている可能性がある、ということで次の旅の目的地を決めたアイリス達。
「いい情報があります。パルヴィン王国は“まだ”帝国に滅ぼされてはいません」
「わーいやったー」
早速最寄の冥王の祠からパルヴィンに入国し、一路王都を目指すアイリス達一行。
温暖な気候と広大な平原に恵まれたこの国では、収穫期を迎えた麦が一面に頭を垂れていた。
ベアトリーチェがドヤ顔で収集した情報を披露し、棒読みでラディスが受け流すところの会話によると。
帝国の拡張政策は着々と進んでおり、以前の旅から既に小国二つが地図から消えたらしい。順調に領土を肥大化させる帝国は、穀倉地帯を抱えるこのパルヴィンを次の獲物に定めるのも間近だろう。
先に帝国の部隊が世界樹の種子を集めているのが判明したこともあり、肥沃な土地の割に戦争に弱いというどこぞのフランスみたいなこの王国の滅亡時には種子は回収困難になると思われる―――というのは、タイムリミットがまだという意味ではある意味朗報と言えなくもなかった。
「帝国……」
「あの、冥王様。アシュリーさん相変わらずめっさぴりぴりしてるんですけど、連れてきて良かったんですか?」
置いてくるのもそれはそれで、ねえ。
前回の種子探索の旅で帝国の指揮官に敗北したアシュリーが、口数少なに、しかし激情を奥底に滾らせているのが丸わかりな様子で呟く。
ユーのちょっとびびり入った懸念に、冥王はただただ肩をすくめるだけだった。
そんな話をしているうちに、見えてきた農村で。
「しゅーかくまえの畑を荒らすモンスターは、ゆるせませんっ!!」
「スラッ!!?」
割とよくあるパターンとして、出くわした魔物を撃退していた。
藁や枯草の束を纏めるのに使う三叉の鋤を振り回して、大声でスライムを追い散らす金髪のドワリンの名はファム。
冥界でも菜園を作り農業を営む彼女にすれば害獣に掛ける容赦などないのだろう。
ちなみにドワリンの例に漏れず彼女の外見は幼女だし、喋り方も舌足らずな感はあるが、あくまで年齢不詳である。
そのまま情報収集がてら村人に話を聞こうとしたのだが。
「あのモンスターは度々畑を荒らしにやってくるのです。このままでは今年の収穫は……ちらっ」
「………」
「ただでさえ世界樹炎上からの天候不順の折、今年の麦が獲れなければ儂らの生活が……ちらっ」
なんかウザかった。
それでも同じ農家の同胞意識か、パルヴィン出身という縁か、ファムは張り切って主張する。
「こまっている大地の同朋をみすてられません!悪いモンスターは、わたしたちで退治してあげます!」
「また寄り道ですか……」
「おお!本当で―――」
「――――勝手に話を進めるな、ファム。我は反対だ」
「あら珍しい。ついに反抗期ですか、ジェニファー?」
「そんな、どうしてですかっ!?」
旅の趣旨を外れる道程に半ば諦め気味にぼやいたベアトリーチェだが、待ったをかけたのはジェニファーだった。
過去の冒険では理屈を捻ってアイリス達のお人好しを擁護することもあっただけに、冥王の従者は目を丸くして驚いた。
それに対して眼帯幼女は不機嫌そうに背中の剣帯に吊るした“水晶”を揺らしながらその意思を告げる。
「“助けてください”―――そこの爺は一言でもそんな事を言ったか?」
「あきらかにこまってます!収穫ができなければこのひとたちは生活できないんですよ!?」
「それでも頭一つ下げたくない程度の危機なんだろう?凡(おおよ)そそのお人好しに着け込んで報酬を出し渋りたいんだろうがな。『こちらから頼んだ覚えはない』、と」
「………っ」
少々悪意的な見方をした戯言だったが、視線をさまよわせた農民の所作を見るに図星だったらしい。
やや露悪的に口元を歪めながら、銀髪幼女は続ける。
「モンスター退治の依頼……つまり他人に“命を懸けさせる”のにお願いしますの一言もないその嘗めた根性が気に入らない」
「っ……失礼いたしました冒険者様がた。ですがどうか――」
「最初にそうやって礼を尽くさなかった時点で、心証は悪いぞ。分かっているな?」
「う………」
「はい、そこまで」
「この方も反省したでしょうし、あまり苛めないであげましょう?」
「………ふん」
言い募るジェニファーにストップを掛けたのは、大盾を背負い眼鏡をかけた元傭兵のクレアと、神官のクリスだった。
正論を言えばそれでいいという訳ではないのは分かっているジェニファーは、ぷいと視線を背けて『勝手にしろ』と言外に示す。
結局寄り道をして村の畑を荒らすモンスターを退治してから王都に向かうことにしたアイリス一行。
その道中で、ファムがおずおずと冥王に話し掛ける。
「めーおーさま。ファム、ジェニファーさんを怒らせちゃったでしょうか」
大丈夫。ファムに怒ってるわけじゃない。
「でも、かってに話をすすめるな、って………。
あのおじいさんを助けてあげたいって思ったのはダメなことだったんですか?」
ちらちらと横目でジェニファーの様子を窺いながら、所在なさげに小声で話す。
冥王からすれば、アシュリーのぴりぴりが影響してジェニファーも不機嫌になっていたというのが分かっているため、ジェニファーとファムの仲がどうこうというのは全く心配していない。
だがそういった事情は伏せて、後半の問いにだけ答えを返すことにした。
誰かを助けたいと思うこと自体は何も悪いことはない。―――でも、そういうファムの想いを誠意もなくただ都合よく利用しようとするのは、果たして“同朋”のやることかな?
「それは……」
その辺りを履き違えて空回りした善意は、結局誰も救わない。
「むむむ…っ」
諭すように話す冥王の言葉をなんとか噛み砕いているのか、眉間に皴を寄せてファムが唸る。
やがて納得がいったのか、笑顔に戻ってドワーフ幼女は頷いてみせた。
「正直むずかしいです。でも、ちゃんと考えないといけないことだっていうのは、わかりました!」
とりあえずはそれでいい、と冥王はファムの頭をぽんぽんと撫でる。
くすぐったそうに笑う彼女は、この日また一つ何かを学び成長したのかもしれなかった。
ランキングが一瞬5位まで上がってて、他にランキングで見たことない原作名が気になってちょっとポチってみた。
――――原作名「あいりすミスティリア」検索結果:3件
な゛ん゛て゛増えてないんだよおおぉぉぉ~~~~っ!!!?
というのはさておき応援感謝です。