あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 繚乱・力溜・連撃・防御無視で一ターンに六桁ダメージを叩き出す姫ゴリr―――けふんけふん、生身カチドキアームズの御姫様。
 妹姫が前に出ようとしないのも当然というか、間違ってもこの子の旗で殴られたくはないアイリス最強の一角の御登場です。




豊穣の大地2

 

 さて、今回のパルヴィン王国での種子探索においては、王族との接触という今までの冒険ではなかった予定が組み込まれている。

 故に連れて行くアイリスは、その辺りの事情を考慮した人選となっていた。

 

 居ないと探索そのものが成り立たない冥王とユーは必須。

 引率役のベアトリーチェや、アイリスに加入した経緯が「世界中を見て回りたい」だったのと魔術に精通しており様々な知識を持つラディス、出奔しているとはいえ一応聖樹教会の上級神官で信仰心のある人間相手には確実に信用を担保できるクリスはほぼ常連のメンバー。

 パルヴィン出身ということでファム。

 上流階級の作法に聡いということで元令嬢のクレアとポリン。

 アシュリーも騎士として一通りの礼儀は期待できるだろう。

 

「問題は……ジェニファーよねぇ」

「置いてく訳には行かなかったの?」

「ゼクト公に妙に気に入られた節がありましたから。もし書簡にジェニファーさんのことが書いてあったら、居ないと不自然に思われるかも」

「勝手に書簡を開封する訳にも行かないからね」

 

 

「貴様ら……喧嘩なら買うぞ…っ?」

「ど、どうどうジェニファーさん!」

 

 

 普段の言動を考えれば残念でもなく当然だが、お姫様相手に失礼をやらかさないか不安がるポリン・ラディス・クリス・クレアの会話に、肩と手首の関節を解しつつ威嚇する紅眼幼女。

 別に粗野ということは無いのだが、振舞っているキャラがとりあえず権威には反抗するかケチを付けたいお年頃の考えたものであるため、王政が敷かれている国では少々危ないセリフを平然と口走る危険があるのを何人かは察していた。帝国潜入の時もゼクト公相手にもかなりアレな言い方をしていたし。

 

 そういう意味ではベアトリーチェも危ないのだが、彼女には言うだけ無駄という意見で暗黙のうちに一致している。突き抜けた問題児には指導すらされないという学園の腐敗の縮図がここにあった。それが教師であるという点も含めて。

 

「あと、これはしゃーないんだけど、また『子供に剣を持たせるなんて…!』みたいな話になっても厄介じゃない?」

「それについては、もういっそ耳の形誤魔化して『ドワリンです☆』と言い張るのが一番な気もしてきたがな」

「あ、ジェニファーさん、ファムとおそろいですか?わくわく」

「残念ながら幻術はウィルの得意分野で、彼女はお留守番中よ」

「……ざんねんです」

 

 ラディスがもう一つの懸念を打ち出し、このままジェニファーを連れて行っていいものかあれこれ考えるアイリス達。

 誤用の意味で議論が煮詰まった辺りで、冥王が話に収集をつけるべく口を開いた。

 

 

――――それじゃあ、今回は本当に子供になってもらおうかな?

 

 

 

 そして、無事謁見が叶ったパルヴィン王国のお姫様姉妹に対面して。

 

 

「はじめましてですの、ルージェニアひめさま、プリシラひめさま。

 わたくし、ジェニファー=ドゥーエと申しますの」

 

 

「………あらあら。よろしくお願いしますわ、可愛らしいお嬢さん」

「銀色の髪、綺麗。あとでちょっといじらせてもらっていい?」

「存分にどうぞですのー」

 

(…~~っ、ご、ごめんクレア、ちょっと隠れさせてっ)

(ラディス!ひ、卑怯だよ……~~~!)

 

 ジェミニン・ノワールの衣装―――銀のベルトや巨大フォークは装備していないが―――に着替えたジェニファーが、にっこにこな笑顔と甘ったるいロリ声で、王城謁見の間にてカーテシーを決める。

 例のバレンタインの夢事件の後、冥王がクリスにラブリーショコラ衣装を渡すのと同時に彼女にプレゼントされた黒い聖装は、これでもかという程あざとい仕草によく似合っていた。

 

 暗黒幼女の本性を良く知っているラディスがクレアの長身に隠れて必死に笑いを噛み殺し、クレアはつられて吹き出しそうになるのを堪えてその端整な顔つきを変顔に歪ませていたが、お姫様姉妹や控えている王城の兵士達の関心は演技している分には非常に愛らしい幼女であるジェニファーに向かっていたため、幸いにも見咎められることはなかった。

 

(冥王様。ジェニファーさんのあの聖装を見ていると私、非常にいたたまれなくなるといいますか……)

(あなたも着替えればいいじゃない。ねえラブリーショコラ?)

(私の正装はこの神官服ですっ。……というかポリンさん、まだ根に持ってます?)

(…………………。いいえー、ぜんぜん?)

 

(沈黙が何よりも雄弁な答えですねえ。でも冥王様、いいんですか?ジェニファーさんにあんな演技させて、お姫様を騙すことになりません?)

 可愛いからいいんじゃない?あれで俺が頼んだことだから、余程のことがない限りきっちり演じ切ってくれるだろうし。

 

 ユーの疑問にそう答えた冥王は、幼女の微笑ましさ(偽)に和んだ場にお邪魔して、玉座に腰掛ける赤髪の少女にゼクトの書簡を恭しく手渡した。

 ルージェニア・ハディク・ド・パルヴィン。『パルヴィンの太陽姫』の愛称で国民に親しまれるこの国の第一王女は、その通り名の通りの快活な笑顔で冥王の手から書簡を受け取る。

 

 手慣れた様子で封を開き、中の便箋を検めると、一瞬だけ憂いを含んだ表情になったが、すぐに笑みの下に押し隠して冥王に礼を述べた。

 

「まずはゼクト公からの手紙をお届けいただいてありがとう―――と言うべきかしら。冥王ハデス?」

「お、お姉様?何言ってるの!?」

 

 小柄で華奢な第二王女プリシラがその鋭い目つきを丸くして混乱し、よく躾けられた筈の兵士達からもざわめきが生まれる。

 

 冥王ハデスこそ世界樹炎上の首謀者―――と、聖樹教会の教皇の声明では少なくともそういうことになっており、民衆の信仰対象であるが故に王族といえどもその言葉を蔑ろにはできないのが教会の影響力というものだ。

 神聖な世界樹を燃やした極悪人を名指ししてにこやかに微笑むお姫様、というのはこの世界の感覚では非常に理解しがたい光景に映っただろう。

 

 流石に大物というべきか、そんな周囲の空気を意にも介さず、ルージェニアは話を続ける。

 

「それで、冥界の王ともあろう方が、この国に何の御用?」

 その前にゼクトからの手紙の内容を教えてもらっていいかな。大丈夫?悪口とか書かれてない?

「いいえ。時候の挨拶と、あなた達について信用は保証する、とだけ」

 

 それだけ、ということもないだろうが、踏み込むことでもないので冥王は本題を告げる。

 

 世界樹再生のための種子回収―――ルージェニアが宿していると思しきそれを預かりたい、と。

 もちろん分かりましたどうぞとすんなり答えてくれるとは思っていなかったが、案の定パルヴィン側は渋い顔をしていた。

 

「確かに世界樹の炎上以来、お姉様のカリスマとか統率力とか、そういったものがちょっと常人では考えられないことになってる。それが世界樹の種子とやらのおかげだって言われても、特に疑う理由はない。でも―――」

「現在パルヴィンは帝国の侵略の危機に曝されていますわ。そんな時期にこの力を手放す訳には参りません」

 そこをなんとか。

 

 

「だめ……ですの?(うるうる)」

 

 

(((~~~~ッっ!!)))

 

 冥王の腰辺りに斜め後ろから縋りながら、上目遣いであざとくおねだりポーズを決めるやりたい放題なジェニファー。もはやアイリス達全員、シリアス気取っていたアシュリーですら吹き出すのを全力で我慢していた。むしろポーカーフェイスを保つ冥王の方が流石である。

 とはいえ何度も言うが外見だけは可憐極まりない銀髪幼女。眼帯もエプロンドレス衣装に合わせて花をあしらったデザインにしており、痛々しさを極限まで削いでいる。

 

 そんなどこに出しても痛々しい幼女のおねだりが効いたのは、朗らかで人当り良さそうなルージェニアより、むしろクールぶった所作のプリシラの方だった。

 

「泣かないでよ…弱るなぁ、もう……。裏を返せば、帝国の脅威が退けられれば、その時の貴方達の立場次第で返せるかもね?」

 つまり、種子が欲しければ防衛戦に協力すればいい、と。

「なりふり構ってられないんだよ、正直ね。お姉様も、それでいい?」

「勿論。無事帝国の魔の手からこのパルヴィンを護り果せた暁には、私に差し出せるものであればなんでも差し出しましょう。

 世界樹を燃やしてみせた冥王ハデスの御力、期待してよろしいのでしょう?」

 

 主に世界樹炎上の犯人について誤解があるようだが、話は無事まとまり今回の冥王一行の方針も定まった。

 

「ほんとうですの!?わーい、わたくしもがんばりますのー!!」

「はいはい。ふふ、期待してるよ、小さなお姫様」

 

(………。ごめんクリス、なんか喋って)

(無理無理無理無理無理ですっ!今声を上げたら、絶対変な笑いが……!)

(~~~っ、~~~っ!!)

(ちょ、ベア先生が一番ヤバそうなんだけど!?)

(ツボに入っちゃったかー……)

 

 アイリス達の表情筋を犠牲にして。

 

 

 そして。

 

(――――――――主上の命令とあらば、是非もなし……ッ!!)

【………(ふぁいとっ)】

 ごめん。もうちょっと頑張って。

 

 全力で恥をぶん投げるスタイルを取ったジェニファーが、内側からジェーンの応援を受けつつなんとか天真爛漫の仮面を被るその内心を察する者は、演技を命じた当人である冥王だけなのであった。

 

 誰かをからかう為とか人をおちょくる為に一瞬だけロリ声を使うのはまだしも、仕事として恒常的に子供の振る舞いをするのはキツいらしい………まあ、それはそうか。

 

 

 

 

「さて、改めましてこの国の軍師を務めるプリシラ・マルツェル・ド・パルヴィンです。

 冥王さんたち一行にはボクの指揮下に入ってもらうことになるけど、まずはあなた達の戦力を見せて欲しい。うちの兵士相手の模擬戦でね」

「………(ぴくっ)」

「ジェニファー、貴女はこちらにいらっしゃい?」

「ぅ…、はいですの!」

 

 全員で王城の練兵場に移動し、“力を見せろ”“模擬戦”―――実に厨二が好きそうなワードが居住まいを正したプリシラから放たれる。

 とはいえ演じている幼女キャラ的に残念ながら参加することにはできそうもないのが、ジェニファーにとっては非常に惜しい話であった。

 観覧席で自分を膝の上に乗せたがるルージェニアに大人しく従うしかない彼女ができるのは、声援を送ることだけだった。

 

「みなさん、がんばれですのーーっっ!!」

 

(やめれ。力が抜ける……)

(~~~~~~―――――ッ!!?)

(まずい、ベア先生が本格的に喉を痙攣させてる!?クリスっ!)

(癒しにょ………あわわ、癒しの力よ……!)

(なんで戦う前からダメージ入ってるのよ、もう!)

 

 声援を送り、援護射撃をすることだけだった。

 

 どちらに対して?

………もちろん、アイリス達と戦うパルヴィンの兵士達に対して。

 

 





 ルージェニアメインで話を書くつもりだった筈が、プリシラも普通にセリフ多い件。
 やっぱ頭が良い子の方が喋らせやすいんだよなぁ。情報のインプットとアウトプットにラグが少ないから。


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