パトリシア新聖装超可愛い。
学園イベントも最高。
現実の雪まつりは、大分アレなことになっちゃってるけどね。
幼女が止まらない。
二振りの大刀が漆黒の軌跡を描く度、いとも容易く命が消えていく。
生活の為に兵士の道に進むしかなかった者もいただろう、帝国に国を滅ぼされ無理やり徴兵された者もいただろう。故郷に結婚の約束を交わした恋人がいたかもしれない。
帝国が悪を為したからと言って、その存在そのものを全否定することはできない。
―――だからどうした?
事情なんか誰にだってある。戦争に善悪の概念を持ち込むなどナンセンス極まりないが、命のやり取りともなれば一層純粋にただ殺すか殺されるかの世界だ。
そしてその世界を平和だったパルヴィンに持ち込んだのは帝国の側………ジェーンの一族を邪教と認定し殲滅した聖樹教会と同じように。
だから事情の有無は同情を掛けることに繋がらないし、返り血と断末魔を幾百と浴びながらも、その夥しい量の血肉は昨日背中に感じた王女の涙とどちらが重いか比較する気にもならない。
僅か数分で三桁を数える屍を量産したジェニファーがなおそのカウントを着々と増加させながらも、その数字に心が揺れることはなかった。
一人二人殺せば殺人鬼だが戦場で百人殺せば英雄になると言ったのは誰だったか。容易く条件を満たしたらしい当人に今更感慨は無いが、対照的にそんな最終兵器幼女をぶつけられた帝国兵達の心情は如何ばかりか。
「生きてる、俺……生きてる!」
「うで…腕が、うで、うで……」
「僕はあいつらとは違う……違う……」
目についた敵を全滅させるのではなく、不運にも丁度いい位置にいた兵士達を斬り飛ばしながら敵陣を崩して回る動きをしているため、取り溢しでその場は生き永らえた者も少なくない。
唖、という暇もなく、完全武装の味方達が一筋の道の上でまとめて死体になって折り重なる光景を見て、戦意を保てる者は皆無に等しかったが。
そして、ここは戦場。戦意なき者に未来などある筈もない。
「この機を逃すな、掛かれ、掛かれぇッ!!」
「ひっ!うわあああ~~~っ!?」
勢いづいた王国軍が凄まじい勢いで幼女一人にぐずぐずにされた敵先陣を呑み込んでいく。
結局は遅いか早いかの違いだけであり、無駄に恐怖が長引いた分ある意味こちらの方が不幸だったのかもしれない。
そんな風に進撃する最先鋒のジェニファーを止めるべく、立ちふさがった影があった。
「調子に乗ってるんじゃ、ない―――っ」
「はははははははッッ……やはり居たか木偶の坊!!」
血飛沫と共に戦場に舞う黒衣の幼女に、帝国の金髪の女指揮官が戦槌を以て殴り掛かってくる。
それをジェニファーは二刀を交差させて真っ向から迎え撃つ―――巨大武器同士の激突に轟音が響き、そして競り勝ったのは幼女の側。
「この私が、圧された……!?なんなのよあんたっ!!」
「名乗ってもいいが―――まず貴様から正体を明かしてみろ。
それともただの有象無象として散りたいか?」
「不愉快ね!それに気色悪い。人間(ゴミ)どもはどいつもこいつも見てて不快だけど、あんたは極め付きね」
「こんないたいけな幼女をつかまえてひどい言い草ですの……(ロリ声)」
「~~~っ!?いきなり変な声を出すな!」
「………いかんな、ここ数日ずっとアレだったせいか癖が抜け切らん」
微妙に緊張感が抜けるやり取りが挟まったが、女の指摘した通りジェニファーの右手から顔の右半分にかけては黒い脈線が走った異形状態だし、ここまでの返り血で銀髪や白い肌も悲惨なことになっているため、甘ったるいロリ声を出されてもホラーでしかないのはここに明言しておく。
「まあいいわ。せっかくだし私の真の姿を見て死になさい?
私はリディア。大天使マリエラ様の部下にして、水の天使」
「ふん、薄々そんな気がしていたがやはり人外か。
―――我は冥戒十三騎士が終の一騎、『黒の剣巫』ジェニファー=ドゥーエ」
律儀に名乗りを返すジェニファーが渇いた視線を向ける先、リディアと名乗った女が神々しく輝く白翼を背から広げ、聖典に描かれる天上人の使者であると明かす。
教会の教えに微塵も興味がない冥王の巫女はともかく、遠巻きに様子を窺っていた周囲の帝国兵にざわめきが走った。
彼らの目に、陶酔したような色が映るのを見て嫌な予感を覚えるジェニファーだが、それに構う道理はリディアにはない。
「《水の聖槌【ウシュク=ベーテ】》よ。その清浄なる力を以て、罪深き者に裁きを与えん!」
浮かび上がったリディアが槌をくるりと回すと、アシュリーとの戦いで見せた水鉄砲とは桁違いの量の水が周囲に踊る。
それらは一斉に、彼女の合図でジェニファー目掛けて殺到するのだった。
「………ちっ」
蛇のように分かれて曲線を描きながら向かってくる水。
捕まればジェニファーの小さな体など容易く流される太さのそれを、黒い靄を纏った幼女は肉食獣を思わせる俊敏さで小刻みに跳躍を重ねて躱す。
だが、躱した水流は空中で旋回し、分岐を繰り返して前後も上下左右も塞いで全周囲から迫る。
いくらかは蛇口の水程度の細さの水流も混ざっているが、わずかにでも怯めばそのまま他の水と合流してその質量で圧し潰してくるだろう。
突破口を拓くべく正面から迫る鉄砲水に、黒炎を纏った“水晶”を叩きつける。
膨大な熱量に堪え切れなかったのだろう、巨大な水風船が割れるように、形を保つことのできなくなった水流が弾けて直下の地面を水浸しにするのだった。
(……奴の能力かあのハンマーの力かは知らんが、この水はただの魔術じゃなくて実体としての水流でもある。エンチャントは使えるが――使ったところで完全に無効化はできそうにもない、か)
敵の能力の性質を見定めながらも、空に浮かぶ天使を叩き落とすべく跳躍しようとするジェニファーに、遥か天空から位置エネルギーを味方につけた水塊が覆いかぶさろうとしてくる。跳ねる方向を水平に切り替え落下点から退避するも、再度水流が襲い掛かる。
「そら、踊りなさい。あはははっ、あんたにはそれがお似合いよ!
―――あんた達も、なにぼやっとしてるのよ。天使の命令よ、あのチビを血祭りに上げなさい」
「おお、天使様が命令してくださった……」
「我らに、ご加護が……」
「―――ッ」
「死ね、悪魔めェーーー!!!」
ジェニファーが感じていた嫌な予感は当然のごとく的中する。
信仰心を擽る天使の降臨という奇跡に、崩れかけていた帝国兵達の士気が持ち直し、そして捨て身でリディアの水流に巻き込まれるのにも構わずに次々斬りかかってくるのだ。
一人一人の能力が上がっている訳ではないため、斬り捨てるのに大して手間ということもない。だが天使という油断の許されない相手と戦っている中で横槍が入るのは厄介だった。
「ええい……これだから宗教は……ッ!」
なんか巫女が言ってはいけないセリフを口にした瞬間、集中が乱れて躱し損ねた水流が左の額を掠める。
怪我としては大したことのないものだったが、切れた部分が出血して視界が妨げられたのが不味かった。仕切り直す為に位置取ったのは、丁度先ほど水浸しになった地面。
その足元の水がリディアの戦槌の振られるのに従い、巨大な水球の檻となってジェニファーを呑み込む。
「じゃあね。ゆっくり溺れながら、この私に楯突いたことを後悔して死んで行きなさい」
(嘗め、るな……ッ!)
水に呼吸を封じられ、息苦しさに喘ぎながらも、その異色双眸は憎たらしい笑みを浮かべながら見下してくる天使を強く睨み返す。
檻を形成しているのはただの水ではないのか、今のジェニファーですらまともに身体を動かせないほど粘性も水圧も桁違い。それでも、そんなことで“彼女達”の心は折れない。
――――だが。
「………え?」
その水の檻は、全く別の乱入者によって断ち切られる。
解放され、水を吐き出しつつ呼吸を取り戻す幼女は、それが誰かを視線を向ける必要すらなく理解していた。
「けぷ…けほっ、けほっ、………はあ。
――――ここは素直に礼を言おうか、アシュリー先輩?」
何せ共にアイリス初期メンバーの一角。
日々の鍛錬でも、重ねて来た戦闘でも、お互いの気配など十二分に知り尽くしている相手なのだから。
たとえそれが普段の凛とした空気に混ざるようにして、躊躇いと気後れがそこに現れていたとしても、だ。
「………ジェニファー、私は……」
だからこそ、戦場で多くを語る必要もない。
「―――――背中を預ける」
「っ……、ああ、任された!!」
たった一言。それだけで、あった筈のすれ違いも、言葉にできない葛藤も、幻のように消えていく。
「………ふん。誰かと思えば、この前の死にぞこないじゃない。
折角拾った命を無駄に捨てに来たのかしら?」
「囀るな。貴様の相手は、我だ」
不快そうにアシュリーを見遣るリディアが挑発するが、相手をするのはジェニファーだけ。仇の嘲りに目もくれず、女騎士は帝国兵達をその剣気でただ縫い留めている。
「ジェニファーの邪魔はさせない」
憎しみがなくなった訳ではない。旧主の仇だ、許せる筈もない。
それでもアシュリーは知っている。戦場で背中を預けるという絶対の信頼がなければできない言葉をくれたこの後輩が、自分の為に怒ってくれていることを。
―――恵まれている、と思うのだ。
何もかも王国軍不利のこの会戦において、一発逆転の僅かな望みにかけてアイリス一行は敵の本陣の壊滅を目指して斬り込んでいた。
だがその戦場に黒い暴風が吹いた時、全員一致で『ジェニファーを助けに行ってくれ』とアシュリーを送り出してくれた。
このところずっと冷たい態度ばかり取ったのに、仲間達は信じて託してくれた。
心の痛いところを抉って傷つけたのに、後輩は自分を心配し慕い続けてくれた。
忠誠も愛情も捧げる主は、いつか立ち直ると信じてそっと見守ってくれていた。
こんなにも自分を信じてくれる人々がいる。
守れなかったかつての主のことだって、彼女の笑顔も交わした誓いも思い出も、確かにこの胸に残っている。
「まだ私は何も失ってなんかいなかったんだ。
過去に足を取られてなんて居られないんだ。
なのに可愛い後輩に、これ以上カッコ悪い姿は見せたくないから―――」
自分の怒りは、ジェニファーがきっと届けてくれる。
今やるべきことは、彼女の戦いに水を差そうとしてくる雑兵達を一人たりとも近づけないこと。
帝国兵を一人で押し止める、冥王に出会うまでも自暴自棄で同じことをしていたけれど。
今は胸に宿る思いも、背負った重さも、何もかもが―――。
「そこを退け、亡霊の騎士ッ!」
「―――違うッ!!」
清冽な閃きを見せる俊速の剣で迫り来る敵兵全てを斬り伏せながら、アシュリーは全ての迷いを振り切って叫ぶ。
「私は『白銀の疾風』アシュリー=アルヴァスティ。亡霊でいるのは、もうやめたんだ!!」
ところでどーして原作のリディアはこの作品みたいに消火活動しなかったんですかね?
直後にあっさり正体バラしてるあたり周囲に能力を秘密にしたい訳でもないでしょうし。
………頭弱いから咄嗟に考え付かなかった説()