試練中止かー。
まあ周回してたらお金とプレイヤー経験値がちょっとおかしいくらいに稼げるんで、プレイ時間の差がもろに出るシステムになってたからなあ。
その辺の調整なんですかねえ。
「それでは、ホームルームを始めます。
議題は、ご主人様が最近部屋の屋根裏の隠し通路を塞いだ件について」
「ベア先生、違うと思います」
「もとい、帝国の拡張政策に忌々しい腐れ《自主規制》の《自主規制》天上人の手先である《自主規制》天使が絡んでいた件について」
「………?」
「あっぶな―――ベア先生!リリィの耳塞ぐの遅れたらどうする気だったんですか!?」
ユー、ナイスプレー。
「(うずうず)」
「セシル様?意味を訊きたいのでしょうが絶対に口に出さないでくださいね?」
「あらあら」
「あのー、今の、びちg………もごもご」
「いけませんファム!あなたの可愛らしいお口からそんな………可愛らしいお口……いま、私の掌に触れてて……うふふふふふふべっ!?」
「エルー、健全な青少年への有害具合はベア先生に負けてないから安心して教育的指導されようなー」
「あらあらはしたない。ジェニファー、貴女はあんな言葉遣ってはダメでしてよ?」
「………(目を逸らす)」
「色々手遅れだと思う」
「ぐー。―――はっ!?寝てない、寝てないよー?」
「誰に言ってるんだ……」
新入りお姫様二人と、以前冥界に着いて来た金髪幼女リリィを含めた、制服姿のアイリス+αが全員揃った学園の教室にて。
ベアトリーチェの怒りと私怨に塗れた修飾詞が大惨事を招きつつも、彼女らの今後を左右するミーティングがこの日開かれていた。
この世界の神話では、原初の神にこの世界の管理を任された天庭に住まう天上人のうち、怠惰が過ぎたハデスが冥界に墜とされ死と転生を司る冥王となった、ということになっている。
以前クリスがこの事について真否を訊ねた時は冥王は飄々として誤魔化していたが、長く連れ添ったベアトリーチェからすれば、その経緯は超マイルドに言って喧嘩別れであったことに察しが付いていた。
その実態は怠惰が過ぎて~、なんて平和なものではないだろう。敬愛する主人が追放刑に処された……ということならば、ベアトリーチェが天上人に好意的な筈もない。
その言動が教育者に相応しいか、というのはさておくとしても。
そしてまずは情報を整理する為に、と教壇に上がったのはジェニファー。
現状最も天使リディアと関わったアイリスであり、ある意味反則的な思考方法だがその企みを看破してみせたのも彼女。
そんな彼女が、最初に帝国内から子供達を連れ帰る途上で遭遇戦となった時の言動と、パルヴィン王国での会戦時に交わした会話をその場の全員に伝える。
「「「………」」」
皆事前にあらましは聞いていたが、予想を超える酷さに言葉も出ない。
地上の人々とて差別的言動や見下した相手に罵声を上げるような者も多いが、大抵は命に係わるようなことには本能的にブレーキが掛かる。
申し訳ありませんと死の間際に縋り付く部下を蹴飛ばしたり、異形化したジェニファー相手に使い捨てのように突撃を命じたり、そんなことができるのは余程命の重みを知らないか、宗教などで箍が外れているかのどちらかだ。
「―――まあ、こんなところか」
普段皮肉屋で冷笑的なことを言うことも多いジェニファーが、淡々とした語り口で話すだけに、逆に真実味を持って聞こえる。
しんと静まり返る教室に、やはりというべきか口火を切ったのは神官クリスだった。
「ジェニファーさんを疑うわけではないですが……それでも俄かには信じがたいというのが正直なところです」
「天使のふりをした別の何か、ってことはないんでしょうか……」
修道女パトリシアもそれに続くが、声音からしてジェニファーの言を嘘と思っている様子は見受けられない。
仲間のことは疑わないということもあるが、リディアの言動に接したアイリスは他にも居るし、何より帝国兵数千が数で劣る王国に投降したという時点で、それだけ彼らを無気力にさせるに足る何かがあったということは明白だった。一端はそこの暗黒幼女が握っているにしても。
「それはそれで考えたくもないっていうのが正直な話だよ。あの時のジェニファーとまともに張り合えるようなのを手駒にしてる、影も形もよく分からない勢力が居るってことになるんだから」
「まあ、あの木偶の坊に自身の所属を誤魔化す知性があるようにも見えなかったが。
ああいや貶す意図は然程無い。単純に、“不自然なほど”立ち回りが拙いという違和感の話だ。どう見ても帝国の意思決定そのものを天使が左右しているのを鑑みるに、皇帝を操り人形にしているのか皇帝そのものに成り代わってるのかはどうでもいいが―――、」
「全然どうでもよくないと思うんだけど」
「――我にとってはどうでもいいが、どちらにせよそれが出来る程の権能を持つのであれば、正直人間を殺し合わせて全滅させるやりようなど他にいくらでもあるだろうに」
「恐ろしいことを平然と言うの……否定はせんが」
プリシラがジェニファーが大暴れした当時の衝撃を思い返し震えながら言うのを受けて、やはり淡々と考察を重ねる。
淡々とし過ぎている割にはとんでもないことを言う眼帯幼女に、フランチェスカやシャロンなどは冷や汗を掻きながらツッコミを入れていた。
一方でその考察が変な議論になる前に回答を与えたのは、天上人と天使についてよく知る冥王。
天使は言ってしまえば天上人の使い魔。知性自体は持ってるけど自意識―――魂を持たないゴーレムみたいなものだ、あれは。
「だから思考も自然と縛られたものにしかならない……か。なるほどね」
納得がいったとばかりに、クレアが眼鏡キャラらしく無意味にフレームをくいっと直してレンズに光を反射させる。
「聖樹教会の上級神官様、今のを聞いて感想をどうぞ!」
「頭がくらくらしてきました……。私の学び信じてきた教典は一体…」
そしてクルチャが和ませようとクリスにマイクを向ける仕草をするが、その努力も虚しく彼女の顔面は蒼白だった。
冥王の今の話は、聖地の宗教学の場で持ち出そうものなら一発で異端審問モノの発言だが………元天上人の冥王と聖樹教会、どちらが天上人関係について正しい知識を持っているかなど考えるまでもない。
諳んじられるほど慣れ親しんだ教典では、天上人も天使も暖かく優しく地上の人々を見守り時に手助けする善性の存在として描かれている訳だが、ここにきてイメージががらがらと崩れることにクリスは眩暈を覚えている。
そこに悪意なく追い討ちをかけるのはいつも通りジェニファー。
本当に悪意はないのかって?―――“悪意は”、ない。邪気はあるが。
「天使が人間に紛れ、権力を握れるとなると……その教典とやらが果たしてどの程度原典から改竄されているか分かったものではないがな」
「はぅぅ……っ!?」
「わあぁっ!?クリス先輩、しっかり!!」
「むしろパトリシアはなんで平気そうなん……?」
聖樹教会の教典に描かれる天上人や天使の善性そのものがソレらの何百年にも渡るプロパガンダの産物ではないのか、と示唆する幼女の戯言に、ついにクリスが胸を押さえながら轟沈する。
「とことんえぐい発想するよねあんた。
でも天使って変に思考が硬直してるって話だし、天上人も人間のことゴミって見下してるんでしょ?
その人間に自分達のこと崇拝させようとか回りくどいこと考えるかね?」
「不自然でもないだろう。天上人の性質を考えれば」
「天上人の性質?」
ラディスの問いに、何故か『冥王様』と書かれた三角プレートが置かれた教壇脇の机に座る冥王を一瞥して巫女幼女が答える。
「主上は現在人々の信仰を大きく失ったがために、地上で弱体化してしまうこととなっている。
裏を返せば、人々に信仰されるほど地上で大きな力を揮うことが能うわけだが、さて。
――――この性質は、天上人の中で主上だけに当てはまるものだろうか?」
「……うっわぁ。つまりあんたはこう言いたいの?天上人が地上でも好き勝手できるように天使達を使って工作した結果が“今の”聖樹教会の教えだと」
「さあどうだろうか。ただもしそうなら、天庭の天上人サマとやらも案外せこくて嗤えるな、とは思うが」
さりげなくまた誘導した結論を相手に言わせて、自分の理屈を補強するそれこそせこいテクニックを会話に仕込む転生幼女。
彼女自身意識せずに自然とそういう話術に持ち込んでいたあたり、ほんとコイツの前世詐欺師だったんじゃなかろうか。
そんなジェニファーのやり口を見透かしてか、あるいは単純にその戯言が的を射ているのか盛大に的外れなのかは不明だが、肯定も否定もせずに意味深に微笑む冥王もある意味性質が悪かったが。
「私の教わってきたこと…日夜勉学に励んでいたあの時間は一体……?
ああ、上級神官になる為だったんですね―――所詮書物から得た知啓など俗に塗れたまやかし。唯一信じるべきはこの身を焦がす熱情、うふふ……」
「クリスっ!?その真理の扉は開いちゃダメなやつー!!」
「ふむ。これはもう少し誘導してやると、ついにラブリーショコラが現実に降臨―――、」
「しないわよ!させないわよ!?」
最大の被害者は、光を失った瞳で虚空を見つめながら、妙に色気を感じる笑顔で一人歪な笑いを浮かべ始めていた。
そんなクリスを正気に戻そうと必死に声を掛けるポリンとウィルはとても友情に篤いアイリスなのだ!―――たぶん。
そんな茶番を終えて、学生側の席に戻るジェニファー。
そして再度教壇に戻ったベアトリーチェが、いい感じに温まった教室に本題を投げかけるべく口を開く。
「ジェニファー、ご苦労でした。以上、邪教徒から見た楽しい宗教学のコーナーでしたが、物事を違う視点で見るというのはこのように新しい発見をもたらすとても重要な要素です」
「自分にはこれ以上ないほど悪い見本にしか思えないのですが……」
「シャラップです九歳児に口と頭の回転で負けるドワリン」
「はぅぁ!!?」
「いや、それ気にする必要欠片もないんじゃ……」
「それはともかく!
―――ジェニファーのおかげで、種子を狙ってかち合う天使の目的が明らかになったところで、ご主人様に今後の方針の確認をしたいと思います」
「「「――――っ」」」
ベアトリーチェの流石の貫禄と言うべきか、声音一つで混沌とした場を一気に真剣な話をしている空間へと切り替える。
世界樹の種子は高密度のエネルギー結晶体。それをいくつも集めてどう利用するかは不明だが、その行き着く果ては人類のいない世界だという事は、ジェニファーやアシュリー達の見聞きした天使の言動からして、結局その場の誰もが信じざるを得ない。
世界樹の再生を待たずしてやはり全ての人類が滅ぶという話ならば、世界を救う旅をする為に集ったアイリスにとって決して看過できるものではなかった。
そして、今まで地上の営みに介入しない意向を示していた冥王も、また裏方だけを気取る訳にもいかないのは当然認識している。
ほんの僅かな間だけ目を閉じて、そして教室内のアイリス全員と視線を交わした彼は、彼女達の主として号令を掛けた。
―――人々が地上からいなくなるのは、寂しいからね。
「では……!」
今まで通り種子の回収は続ける。それと一緒に、必ず天使達の企みは打ち破る!
「応ッ!!」「にゃっ!」「燃えてきたー!!」「ぞくぞくするね…っ!」「全力を尽くすであります!」
「アイリスの皆さん、これからはより一層過酷な旅になることが予想されます。
訓練もよりハードにして行きますが、必ず着いてきなさい。そして―――、」
各員思い思いに気合を入れる中、その熱を取りまとめるのはベアトリーチェ。
王として道を示すのが冥王ならば、将としてアイリス達を指揮するのは最も忠実な彼の腹心たるメイド教師。
「―――魂にかけて、命を落としてしまうことのないように」
「ベア先生……!?」
「返事はどうしたッ!!」
「「「―――っ、はいッ!!」」」
普段厳しいことと邪なことしか言わない彼女の、本心が不意に零れて言葉に出たのだろう。
そんな教師として最も大切なものを持っていることを明かされた教え子達は、胸を震わせながら声を揃える。
生まれも個性も生き方もばらばらのアイリス達。
そんな彼女達が、全員で初めて心を一つにした瞬間だった――。
頑張ってアイリス全員喋らせてみた!
読んでてどれが誰のセリフかちゃんと伝わってるかは自信がない!!(待て)
それはさておき考察回。色々考えてて楽しい作品ではあるよね。
とはいえもっともらしいことを言ってはいるが、この幼女いつも通りふわっと適当ぶっこいてる発言ばっかなんであんまり真に受けちゃダメなんだけど、という。
それっぽく繋がるというだけでちゃんとした根拠のある理屈は皆無に近いぞ!
そして原作でまさかのラブリーショコラ再登場という追い討ちも喰らったクリスに合掌。