あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 サブタイはアレですが、エルミナ本格登場。この子はもう喋るだけでネタになるので逆になかなか出しづらかった。
 出オチは話引っ張るの大変なんだよ!




ルージェニア

 

 授業のない休日は、各自思い思いにアイリス達は過ごしている。

 ある者は魔術の研究に没頭し、ある者は冥界や地上の街に繰り出して買い物したり、ある者は休日でも変わらぬ鍛錬に励んでいたり、ある者はうまく冥王を捕まえて人気のない場所でいちゃいちゃしていたり。

 

 最後に関しては、どれだけ人目を忍んでも二十人以上も恋バナ大好きな少女――一部アレだが基本少女――が居れば、誰が皆に慕われている冥王といい雰囲気になれたのかは一発でバレるのだが、そこは深く触れないのが暗黙の了解だった。

 

 嫉妬や独占欲といった感情は当然無い訳はない。だが冥王が様子を見計らって上手くコントロールしているのもあるが、集団の和を乱す程度にそれを暴走させる子がほぼいないという奇跡のような生徒揃いなのである、この女子校。

 

―――教師?うん、まあ。それはそれとして。

 

 冥界、学生寮の談話室。

 この日の休日も特に事件らしい事件もなく、ふと時間を持て余したアイリス達が共有スペースのソファや椅子に座っておしゃべりに花を咲かせていた。

 話題は本人達がその場にいることもあり、最近冥界に来たお姫様姉妹が学園に馴染めたかとか、王宮でどんな暮らしをしていたかの身の上話などがメインになっている。

 

「ほぇー。やっぱりお姫様ってやっぱり違うねえ。メイドさんに身の回りのこと全部やってもらえるんでしょ?」

「そうでしょうか。ほら、冥王にもベア先生という優秀なメイドさんがいるじゃない」

「ベア先生はほら、ベア先生ですから……」

 

 離島出身の兎亜人(ラビリナ)であるクルチャにはやはり全く別世界の話なのだろう、白い兎耳をぴこぴこ動かしながらルージェニアの普段の生活の話を興味深そうに聞いていた。

 貴族のお嬢様という意味では錬金術師のポリンや傭兵のクレアも傅かれる生活に覚えはあるのだが、彼女達は家を出て一人で身を立てていた為蝶よ花よと育てられたお姫様のイメージとはちょっと違ってくる。

 

 一方で三桁年くらい流浪の旅をしていたダークエルフィンのソフィも、流石に一国のお姫様の暮らしとなると関わる機会もあまりなかったのか会話に積極的に参加していたが、話題が例のメイド教師のことになると普段のたおやかな笑みを苦笑に変えた。

 

 ベアトリーチェも料理を除く家事や秘書としてのメイドの能力は申し分はないのだ。冥王が任せられると判断してアイリス達の教師役をやっている以上、そちらの職務にも手を抜くことなく勤め上げてはいる。伊達に冥王の片腕を百年やっている訳ではなく、その能力も知識量も並大抵ではない。

 それはそれとしてメイドの身でありながら主人に働く逆セクハラと、その言葉遣いが幼女の教育に悪いのと、冥王以外には冗談でも言ってはならないレベルの毒舌を吐くことも多いのとで、素直に尊敬しづらいだけで。というか、有り余る優秀さを有り余る短所で相殺している感があるのは逆に凄いのかも知れない。

 

「しかしそうなると、いきなりの環境の変化で色々と不便を感じることもありませんか?」

「確かに寮生活というのは新鮮ですが、今のところ困ったことはありませんわ」

「一軍を率いておきながら前線で贅沢三昧って馬鹿やる訳にもいかないし、節制や集団行動の心構えは王国軍の指揮官と軍師やってる内に自然とできてるからね。

 それにお姉様は子供の頃もお転婆だったから、それに付き合わされてボクも何度ベッドを恋しがりながら草むらで野宿したことか……」

「楽しかったですわねえ。魔物が活発化した今では出来ないのが少し物悲しいですけど」

「あはは……はぁ」

 

 同じ昔の思い出でも、にこにこと邪気の無い笑顔で懐かしむ姉と視線を遠くして溜息を吐く妹の対比が印象的。

 だが、部屋着としてシンプルながらも高級そうな質感のワンピース姿のルージェニアだけを、不機嫌そうにじっと見つめるアイリスが一名。

 

「むぅ~~」

「エルミナ?難しい顔をして、何か気に障ることがあったかしら?」

「ずるいです」

「はい?」

「ずるいです、ルージェニア!そこ、代わってください!!」

「嫌です♪」

「うわ、即答だ……」

 

 背の低いテーブルを挟んで対面のソファから身を乗り出さんばかりの勢いでルージェニアに突っかかったのは、こちらは単純にシンプルなだけのシャツとミニのスカートを部屋着にした薄紫色のショートヘアの女性。

 怒っていてもあまり迫力の出ないぼんやりした顔つきだが、癒し系の美人ではある、外見だけは。ラディスの従姉でありながら、シャツを押し上げる胸の膨らみはソフィに匹敵するほど発育が良く、当たりの柔らかさと緩そうな雰囲気から、街を歩けばひっきりなしにナンパの標的になりそうな美女だ、外見だけは。

 

 

「ジェニファーをおひざに乗せて、リリィを傍に置くなんて、なんという贅沢な幼女空間!

 それを独り占めなんて、一体何様ですか!?」

「お姫様ですわ!!」

 

 

 だがロリコンだ。

 一応宮廷画家になるほどの絵描きの実力を持ち、描いたものが実体化する特殊で希少な魔術の使い手でもある。だがロリコンだ。

 宮廷画家をクビになり、ふらふらしていたところを冥王に拾われたロリコンだ。

 

 

「あの、なんかゴメン……」

「いや、こちらこそお姉様が」

 

 申し訳なさそうに頭を下げ合うクルチャとプリシラ。

 一方でエルミナのほぼ言いがかりを楽しそうに受け流すルージェニアの膝の上で、抱きかかえられたままの銀髪幼女が無心にじゃれついてくる金髪幼女の相手をしていた。

 

「ですの、ですの~」

「気に入ったのか、それ?やめておけ、キャラ付け以外の何物でもない上に、賞味期限も短いぞ」

「わかったですの!」

「分かってない―――」

 

「分かってないのはジェニファーの方です!聞きましたよ、クリスの夢の中や、パルヴィンでそれはもう愛らしい振る舞いをしていたって。

 それを!何故!私が居るところでしてくれなかったんですか!?」

「エルミナ様が居なかったからしたのではないかと……」

「ソフィ。代弁感謝する」

 

 ヒートアップするエルミナを胡乱な眼で観察しながらも、どこかやりにくそうなジェニファーは、すぱっと自分の言いたいことを言ってくれたソフィへの好感度を上げた。

 前世からの感覚ではこういう類の変態にはセメント対応あるのみと分かっているのだが、そしてあの文字通りの天使の美貌を持つリディアに対して頭ごと潰す勢いで踵落としを決める程度には男女差別をしないジェニファーだが、エルミナ相手に罵声を浴びせるのは躊躇われていた。

 

 ゆるふわ系の外見ということもあるが、それ以上に邪気を感じないせいだ。

 これが性欲を向けて変態行動を働くなら容赦なく蹴り飛ばせるのだが、そういった邪念は感じない。

 要は近所のおばちゃんが赤ん坊を見て無条件に可愛がるのと似たような方向性なのだろう。それに対して悪態を吐ける程捻くれた性根はしていないという、変なところで純朴な感性を残しているジェニファーだった。

 

 幸いというべきかそもそもの原因も彼女なのだが、ルージェニアはジェニファーの小さな体を更にぎゅっと抱き締めてエルミナに絶対に渡さない姿勢で相手を買って出てくれていた。

 

「ジェニファーは渡しませんわ!我がパルヴィン王国の恩人であるこの子は、王女ルージェニアの名の下に保護します!私の膝の上で!」

「ここは冥界です!冥界の全ての幼女は、わたしが保護するんです!」

 

「冥界にそんなルールあったっけ?」

「さあ?」

 

 なんか聞いてるだけで頭が悪くなるやり取りだが、本人たちは真剣なのだろう。

 取り合いされている眼帯幼女はといえば、リリィに頬をぺたぺた弄ばれながらも左眼の紅眼を死んだような目つきにして流されるまま状態になっていたが。

 

 ふとクルチャはジェニファーの外見に似合わない身体能力に思い当たり、感じた疑問を口に出す。

 

「でもその気になればジェニファーならさっと逃げれるんじゃないの?実はまんざらでもなかったり?」

「不快感を感じないという意味では、まあ否定はしないが。

 それはそれとして、最初から見抜かれていたとはいえ嘘をついていたことに変わりはない。埋め合わせとして、飽きるまでは付き合おうと思ってはいたんだが」

「律儀ですねえ」

「とはいえ、流石に行き過ぎとは思うからな……プリシラ、汝から姉に少し言ってくれると助かる」

 

「あ、お姉様。たまにはボクにも抱っこさせてね」

 

「むー。プリシラなら、しょうがないですわね」

「なん…だと……!?」

 

 常識人寄りと思っていたプリシラのまさかの発言に愕然とするジェニファー、目を丸くするクルチャ、笑顔を保ちながらも額の汗がその困惑を物語るソフィ。

 当のプリシラはといえば、こちらは本格的に騙していたことになるためそのお願いをすげなくできない幼女を嬉しそうに見つめている。

 

「思い出すなあ、あのくまのぬいぐるみ。お姉様の九歳の誕生日にお父様からプレゼントされたんだけど、それ以来どこに行くにも抱きかかえていくようになって。

 それで野山を走り回ったりするから、侍従達が頑張って繕ったり洗ったりしても最終的に綿が飛び散って、黒ずみと縫い跡が筋者みたいになってたなぁ」

 

「……そんなほっこりする思い出みたいに語られても、我には末路を宣告されているようにしか聞こえないのだが。

―――ルージェニア?」

「………。うふふっ」

「否定しないの!?」

 

 見上げると至近距離に見える太陽のような笑顔に、不安しか感じなかった。

 流石にそろそろ見かねたのか、ふと立ち上がったかと思うとソフィが自然な所作であっさりとジェニファーをルージェニアの懐から抜き取って抱え上げる。

 

「はい、没収です。

……ふむふむ。確かに抱き心地はよろしゅうございますねえ」

「シルバーが当たって痛くないのか?」

「分かってないですわね。そのちくちくが痛気持ちいいのですわ」

「分かりたくもない……」

 

 ほつれたストールや裂け目の入ったジャケットなど、今は黒を基調としたゴシックパンク風の私服姿のジェニファーだが、相も変わらずちゃらちゃらというよりはじゃらじゃらという効果音が出る程度に銀装飾を身に着けている。

 本人的にはそれがカッコいいつもりで着用しているので、ツボ押しマッサージ機の突起扱いされるのは業腹である。

 

 というかそれを語るルージェニアの笑顔に変わった様子は見られない。

 あくまで冗談半分で抱きぐるみ扱いしていたのだろう。

 

 一方で、今までじゃれていた相手が遠ざけられ、泣きそうな顔でとてとて追いかけてくるもう一人の幼女。

 

「ぁぅ……ですの、ですの~」

「待てリリィ、その『ですの』はまさか我のあだ名なのか?」

「ですの!」

 

 それにジェニファーが構うとぺかっと笑顔になるあたり、同じ幼女としてなのか、初対面の刷り込みなのかは不明だがこちらは本格的に懐かれているらしい。

 

「ああ、尊い……」

「エルミナ、鼻血出てる」

 

 二人のやり取りに何を見出したのかは常人には分からないが、ご満悦に浸るエルミナをプリシラが介助していた。

 そして今度はクルチャが何やら難しい顔をし始める。

 

「ジェニファーがいつの間にか愛されキャラに……!?これはアイドルとして強力なライバル出現の予感!」

「なら代わってもらえるか?」

「あ、遠慮しときます」

「――――失望しました。クルちゃんのファンやめます」

「なんでえぇぇぇっっ!!?」

「いや、なんかこうふと心に湧いたフレーズというか、言わないといけない気がして」

「というかジェニファー、クルチャのファンだったの?」

 

「…………。微妙?」

 

「追い討ち!?しかも溜めを付けた上でとか心折れるよ!?」

「分かった分かった。じゃあクルちゃんのファンになってクルチャのファンやめます」

「もー、ジェニファーったら照れ屋さん☆………あれ?うーん?」

 

 ネタをうまく咀嚼できないままキメ顔をする残念アイドルをスルーして。

 会話にオチが着いたところでその場は誰からともなく解散となる。

 

 各自部屋に戻っていく中で、なんとなく談話室に最後まで留まっていたのはジェニファーとリリィの幼女コンビ。

 

「全員に、記憶が飛んでるとはいえ精神は男のものだというのは伝えている筈なんだが」

 

 外見が愛らしいのは認めているが、中身が中身なだけにここまで女性から好意を向けられるのはよく分からない、と首を傾げる。

 どう見てもマスコット扱いなあたり、恋愛によるものというのはあり得ないだろうし。

 

「ですのおにーちゃん?……うーん、ですのおねーちゃんの方がいいですの!」

「呼び方はもういいが……子供に『ですの』とか付ける親が居たら顔が見てみたいな」

 

 まあいいか、と疑問を放り投げてそのままリリィの遊び相手を続ける後ろ姿を目に焼き付けた後、ルージェニアは上機嫌に腕に残る感触を反芻しながら自室に向かった。

 

「―――自分のやったことの自覚がないのでしょうね」

 

 ジェニファーのやったこと――愛する祖国を滅亡から救ってくれた。

 本人としては立ちふさがる全てを二刀で斬り捨てるのも、悪魔そのものの讒言でもって帝国兵の戦意を挫いたのも、いつもと同じように好き勝手しただけに過ぎない。

 それはそれで哀しい業だが、故にこそ自覚などない。

 

 ルージェニアとプリシラが、どれだけ彼女に感謝し親愛を向けているのか、分かるまい。

 

 勿論他のパルヴィン防衛戦に参加したアイリス達にも感謝しているし、広く冥王一行というくくりなのだから冥王のことも認めているが、やはり戦場にて一騎当千のあの戦舞踏が鮮烈に記憶に刻まれている。

 

 そしてルージェニアにとってそれだけでなく、ただの個人として唯一弱みを曝け出せた相手でもあった。

 王女でもなく、姉でもなく、厳しい現実に挫けそうになる少女の涙を背中で受け止めて、「頑張ってる、偉い」と言ってくれたこと。

 

 誰にも弱音を吐けずに笑顔で軍を鼓舞し続けて行く中ですり切れかけていた心に、その言葉がどれ程の救いになったのか、分かるまい。

 

 ずっと抱き締めて、どこに行くにも連れ回したい。

 冗談半分に匂わせてはいたけれど―――逆に言えば半分本気だった。

 それとなく注意喚起していたあたり、流石に妹にはこの想いはばれていただろう。年の功というべきか、此方からはうまく内心を読めないが間違いなくジェニファーのことを気に入っているあのダークエルフィンにも。

 

 

「このルージェニア、一度火が着いたら止まらない性質でしてよ?」

 

 

 それでも、譲る気はない。

 あの信頼し合っている女騎士にも、なんだかんだ気に入られている女神官にも、そして幼女が主上と仰ぐ冥王にも。

 

 太陽姫の寵愛は、あの小さな英雄に惜しむことなく注がれているのであった。

 

 

 





 パルヴィン編でもいつもどおりふわふわ暴走してただけの厨二幼女ですが、結果的にはルージェニアからすればそれは好感度無茶苦茶高くなるわな、という話。

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