あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 仲間集め編ですが、流石にアイリス全員出すと回し切れる気がしないので好みと動かしやすさと早めにSSR着てくれた子を中心に。
 とりあえずあらすじ詐欺にならない為にイベント消化。




クリス

 

 聖地巡礼―――。

 

 己の信仰する宗教の総本山、聖人ゆかりの地、聖典に記された奇跡の舞台となった場所など。

 そうした聖地を訪れることは、信仰熱心な者にとっては時に至上命題にすらなりうる一大事だ。

 

 中東の方で飽きもせずにもう百年近くもドンパチやってるのを見ればよく分か――――げふんげふん、とにかく一大事なのだ。

 なおアキハバラとかオオアライとかそんなワードが浮かんだ者は邪念撲滅すること。

 

 そういう前提に立って、さて冥王ハデスを崇拝する巫女がまさにその彼に連れられて聖地と呼ぶに相応しい冥界に足を踏み入れた時、どういったリアクションを返すだろうか?

 正解は―――。

 

 

「くっ、右目が疼く………!鎮まれ我が半身よ!!」

 

 

 紫苑の魂の燐光と夕焼けのような茜空がグラデーションを為す冥界の幻想的な風景。それを目に焼き付けるなり、左手で右目を押さえながら苦しそうにする銀髪オッドアイ幼女である。

 なお、彼女の名誉のために述べておくと決して厨二病患者が痛々しい演技をしている訳ではない。

 いや、厨二病患者だし痛々しいのも確かだが、肉体の主(ジェーン)が感涙のあまり咽び泣いているというのが真実である。

 

「ちょ、ちょおっ、ジェニファーさん!?いきなりそういうことされても反応に困りますよ!?ノればいいんですか、ノればいいんですね!?」

 ユーのちょっといいとこ、見てみたい!

 

「主もユーも……ジェニファーは苦しんでいるようですから、あまり騒がしくしては」

「いえ、苦しむというか。そっとしておいてあげましょう?」

 

 ボケなのかツッコミなのか自分でも見失いかけている世界樹の精霊ユー、宴会の酔っぱらいみたいなテンションでふざける冥王ハデス。

 天然というかなんというか幼女の不調を心配する女騎士アシュリーに、過去の経験から聖地に足を踏み入れた信者の反応にはかなり覚えがある聖神官クリス。

 

 四人と新たに加わった一人(ふたり?)は外見中身ともにいずれも個性抜きん出た色々な意味で精鋭達である。

 世界を救う一行と考えればさもありなんというかむしろ方向性が迷走しているというか。

 

 そんなものだから、彼女らを黒髪ロングのエルフ耳巨乳メイドというまるで“どこかの誰かの欲望を詰め込んだような”ある意味狙いすぎの女性が出迎えても、まるで違和感のない光景だった。

 

「お帰りなさいませご主人様。本日の戦果は―――ふむ、なかなか趣味の良い服装の幼女ではないですか。どこから(かどわ)かしておいでで?」

「ベアさん人聞き悪い!?」

 むしゃむしゃしてやった。今は反芻している。

「否定しましょうよ冥王さま!?というか更に人聞き悪い!?」

 

 という冗談はさておき、と乗っかっておきながら軌道修正する邪神――世間的には――が一名、ただいまを告げながら己の創造物であるメイドの前に黒衣の幼女を立たせて話を進める。

 

 《アイリス》一名追加ね。ベア、部屋と歓迎会の手配よろしく。

「ジェニファー=ドゥーエ。崇め奉るは主上たる冥王陛下。取り立てて語るに及ばぬただの巫女だが、以後世話になる」

 

 ダウト、とツッコミが入りそうな自己紹介をするシルバーアクセ満載多重人格オッドアイ幼女。

 その身形と虹色の右目をじっと観察するように眺めたメイドは、不意に少しだけ口角を緩ませてスカートを持ち上げながら一礼する。

 

「―――エクセレント。

 冥王様のメイド、ベアトリーチェです。その信仰心と魂にかけてご主人様の御力になることを期待します」

 

「お、おお……?いつになくベアさんの当たりが柔らかいです。

 何か変なものでも食べた―――はっ、もしかして自分の作った料理で遂に!?」

「つる植物。後で天井から吊るします」

「“つる”だけに、ですねあはは………ごめんなさあぁいっっっ!!!」

 

「ま、まあ冥王様命のベアさんですから、冥王様を信仰するジェニファーさんとは通じるものがあるのでしょうね」

「……。ちなみにその理屈で行くと、聖樹教会の神官であるクリスのことは?」

「………」

「あの、沈黙が怖いですベアトリーチェさん」

「………?」

「『わざわざ言う必要がありますか?』って感じで首傾げるのやめてください!?」

 

 息のあったやり取りと言えばそうなのだが。

 始源の刻より世界を見守ってきた冥王と百年を共にしたベアトリーチェと裏腹に、ユーが精霊の形を取ったのもアシュリーが臣下の礼を取ったのもクリスが身一つで冥界まで付いてきたのも、ひと月も経っていないここ最近の出来事だ。

 

 戦力となる《アイリス》はジェニファーを含めて未だ三人。

 互いに打ち解けようとしながらも互いの個性がところどころで摩擦と衝突を起こす―――この時は、そんなぎこちなさを残したパーティーでもあった。

 

 そんな中で冥王を信仰する少数宗派の巫女にして唯一の生き残りであるジェニファーと、彼女の一族を異端認定し信仰の名において略奪と殺戮の名分を与えた聖樹教会――そのエリート神官であるクリス。

 明白な不穏の種を宿していることに、この場の誰もが感づいていながらも。

 

 冥王の旗のもと世界を救う為に共に旅をする同士、どのような障害も乗り越えられると信じていた―――。

 

 

 

………。

 

 ジェニファーが冥界に招かれて数日が経った。

 

 元々幼女の身で荒野に一人生きていたため、生活環境が変わったからと言って別段ストレスを感じたり特殊な準備が必要だったりということはない。

 単純に《アイリス》のための寮――現状空き部屋が大量に存在する――の一室を用意され、集団生活のルールを申し渡されそれに大人しく従うだけだ。

 

 ルールと言っても炊事洗濯や消灯の時間など最低限度のものでしかなく、全てを一人でしなければならない辺境の墓守生活を考えればむしろ格段に楽になっている。

 何より守っていた冥王の祠を破壊しに来る狂信者への備えが必要だった頃に比べると、完全に休まる寝床というのは記憶のないジェニファーにとって初めての経験だった。

 

 故にぽっかりと空いた時間というか暇に、ある習慣が付け足される。

 

 

「風が、哭いている―――」

 

 

 冥王の屋敷に併設された時計塔。馬鹿なのか煙なのかは知らないが、そのてっぺんから好んで冥界の景色を見下ろす黒衣の銀髪幼女。外套を吹き抜ける風にはためかせ、紅と虹の両眼は茜と紫のグラデーションに染まる妖しい街の風景を満足げに眺めていた。

 怨霊(ゴースト)や骸骨兵士(スケルトン)が現実にモンスターとして存在する世界なので、死後魂が向かう冥界というとどうしてもおどろおどろしいイメージを持つ人間も多いものだが、なかなかどうして世界樹とそれを囲む霊峰の稜線を背景に川沿いに整えられた街の景色は、写実に切り取って鑑賞に堪えるほどには絶景である。

 

 これでその光景に対して肉体年齢相応にきらきらした笑顔ではしゃいでいれば可愛いのだが、あいにく不敵な表情もへりに足を引っ掛けて気取ったポーズをしているのも、厨二病患者が悦に浸っているそれである。

 あと風がどうこう言っているが、冥界に四季や悪天候は基本的に存在せず、常に快適な温度の風が緩やかに吹くだけだ。

 

 

「――――哭いているのは、あなたの心ではないですか?」

 

 

 そして、厨二病という概念を知らないものだから、大真面目にズレた言葉を投げかける真面目ちゃんが一名。

 

「……クリスティン=ケトラ。こんなところまで来て何用か?

 話なら寮でいくらでも出来るだろう?」

「そんなこと言って、あなたはなかなか捕まらないし。何より二人きりで一度しっかり話をしておかなければいけないと思うんです」

「…………」

 

 わざわざジェニファーの酔狂に付き合って決して低くはない時計塔の最上階にまで付いて、真摯に話す少女。

 全体的に柔らかめの童顔だが意志の籠った瞳で異端の巫女を見つめる神官の顔に向き合うこともなく、無視するように幼女は街並みを見下ろし続ける。

 

 これまでの数日間―――極力クリスと会話や接触を避けてきたのと変わらずに。

 そんなジェニファーに、むしろ己が懺悔を吐き出すかのような苦み混じりの真剣さで神官の少女は距離を詰めにかかった。

 

 

「単刀直入に訊きます。あなたは、やはり私が憎いのですか?」

「え、なんで?」

 

「………はい?」

 

 

 そしてすかされた。

 

「え、え?だって聖樹教会を憎んでいるんですよね?

 だから教会の神官である私と関わらないようにしてて―――」

「ああ、そういうことか」

 

 何か合点が行ったかのようにうなずくと、懐を漁って中のものを顔に取り付ける。

 そして振り向いた彼女の右目は―――交差した剣の刺繍された黒い布に覆われていた。

 

「眼、帯……?」

「フッ。我が内なる半身を封印するために、特別にベアトリーチェ女史に作成を依頼していた逸品である」

 

 ドヤ顔で語るオッドアイ幼女改め眼帯幼女。

 なお、お分かりのこととは思うがただの布製である。デザイン?当然この厨二の趣味だ。

 

 

「―――一応言っておくが、ジェーン“は”確かに聖樹教会を憎んでいるぞ。

 それに属するものを視界に入れれば怒りに我を忘れる程度にはな」

 

 

 今幼女の肉体はジェニファーと名乗る男性が支配しているが――語弊があるがそれはさておき――取り分け右目と右腕は本来のジェーンの意思にも敏感に反応するようになっている。

 辺境の田舎巫女だった彼女の小さな世界を蹂躙し尽くした聖樹教会は魂に刻まれた憎悪の対象で、その神官であるクリスをうっかり右目の視界に入れれば顔面に右ストレートをぶち込みかねない状態なのだ。

 

 これまでは「右腕が勝手に…奴がここに居る所為かッ!」とか言いながらジェニファーが頑張って肉体の主導権を使って強引に抑えていたのだが、それは割とものすごく疲れる。

 なのでクリスを視界に入れそうな時は、右目を通したジェーンの視界を塞いでしまうことにしたのだった。

 

「それは……配慮が至らず申し訳ありません。

 余計な苦労をおかけしてしまっていたのにも気づかず……」

「ふん。ジェーンの境遇を生み出したのは確かに聖樹教会とやらの罪だろうが、学舎で念仏を教わっていただけの学生上がりに『この世から消えて』とも言えまい。

 今まで通り、我が半身の手綱を取り続ければ良いだけの話だ、こうしてな」

 

 身の丈以上の大刀を片手でぶん回し、本業の騎士を鍔迫り合いで吹っ飛ばす馬鹿力で殴られれば、顔面の陥没と変形は免れまい。

 気づかぬうちに乙女の尊厳の危機だったことに戦慄しながらも、クリスは律儀に謝罪と感謝を伝えた。

 

 それと同時に、疑問と戸惑いを覚える。

 上級神官として博学な知識を修めているクリスにとって、ジェニファーは『解離性同一性障害』―――辛い現実に堪え切れなかったジェーンが生み出したもう一人の人格、という勘違いをしていた。

 異世界の男の魂が何故かたまたまこの幼女のナカに入って体を自由にして――語弊があるがそれはさておき――いるというよりも、そちらの方が知識がある分納得がいった話ではある。

 なによりジェニファーの言動があまりにジェーンに寄り添い過ぎという見方もあった。

 

「でも私は――クリスティン=ケトラは、聖樹教会の上級神官としてその責を逃れる立場にはありません。

 あの憎悪と悪意が教会に対してのものであるならば、私も…いいえ私が向き合わねばならないのです」

「………」

「その上で問います。ジェーンさんの憎しみとその理由を理解しているあなたが。ジェーンさんの祈りを護る為に戦い続け、その最期を共にすることすら受け容れていたあなたが、本当に聖樹教会(わたくしたち)を憎んでいないのですか?」

 

 ジェニファーが始終ジェーンの為に動いていたのは行動が物語っている。

 ならばその憎しみに共感していて当然なのではないか、とクリスは思っていた。

 

 

「ふん、答えは――――『え、なんで?』といったところか」

「な――!?」

 

 そして、やはりすかされた。

 

「寄り添うことで悲しいことや辛いことは半分に、嬉しいことや楽しいことは二倍になる。

 そんな綺麗事が正しいとして――だが憎しみは、共に抱けば二倍になる類の感情だろう?

 だから我は断言する。我はジェーンの憎しみだけには寄り添わない。我個人としての感情で、聖樹教会も当然汝も、憎むことはしないと決めている」

 

 ジェーンの為だからこそ、彼女の憎悪を肯定はしても一緒になって暴走する気はないと。

 そう言ってのけた幼女は、悪戯気に紅の左眼を細めて嗤う。

 

「残念だったか、神官?ここで我が罵詈雑言を吐いていれば、そのお門違いな罪悪感も多少はましになったかもな?」

「、っ!?」

 

「………その反応、からかうだけのつもりが図星だったか」

 

 本人も気づいていない感情を見透かされた、そんな風に体を強張らせたクリスに逆に毒気を抜かれるジェニファー。

 

 聖樹教会の罪は自分の罪とでも思っているのだろうか、自滅の相が良く見える責任感の強さである。

 そんな彼女に対して、眼帯幼女は―――なんとなくかっこよさそうな言葉で分かった風な台詞をそれっぽく言った。

 それが忠告になるか甘言になるか、それすらもふわっと考えることを放棄しながら。

 

「信じる者は救われる、だったか?信じない者を救わない、どこまでも能天気で残酷な聖句だな」

「……?」

「信じないやつは救われなくていい。財貨を盗み尊厳を踏みにじり屍を弄び伴侶を強姦しても、信じてない異端者相手だ。正しい行いだ」

「そんな筈―――、そんなのが正しいなんてっ」

「何があろうとも信じているから救われるんだ。素敵な言葉じゃないか、それが許されるものにとっては、な」

 

 悪意的な前提を並べ、そしてそこからわざと舌ったらずに、見た目は年上の女を見上げながら。

 全てを奪われる前の純真な少女の笑みを顔に貼り付け、戯言という凶器を突き刺す。

 

 

「だから、それが許されるクリスおねえちゃんは、さいごまで教会を信じるといいよ!

 それだけで便利に手軽に簡単に、救いは得られるよ!

 

………『信じる者は救われる(わたしはわるくない)』、ってね!!」

 

 

 そうら、手っ取り早い逃げ道がそこにあるぞ、ちょっと腐臭がするけど。

 

 潔癖症のクリスにとって決して選べない道を示すのは、もう一度確認するが厨二病の繰り言である。

 話し手の境遇と受け手の真面目ちゃん度がアレ過ぎて、悪魔の讒言みたくなっているが、黒歴史妄想が暴走したキャラが適当ほざいているだけなのだ。

 

 ただ、己の信仰心ごと深く重機でほじくり返されている最中のクリスにとって、ジェニファーの真意がどうだろうとそれこそ何の救いにもならない。

 そんなクリスの脇を通り抜け、ニヒルな笑みを浮かべながら幼女は時計塔の階段を下りていく。

 その小さな背中に、クリスは何事か言おうとして。

 

「それでも、私は……ッ!?」

 

 続けられる言葉を持ち合わせていないことに愕然とし、視線を下げた。

 冥界の美しい景色が一望できる時計塔の頂上に居ながら、その石造りの無機質な床をただじっと眺めているだけだった―――。

 

 





 捏造アンチしてるのは否定しない。が―――。

〈原作の聖樹教会のムーブ〉
① 世界樹炎上の犯人を冥王様だと発表。おかげで、
・ワープゲートになる各地の冥王の祠が破壊される
・信仰が減って冥王様が地上では弱体化
・冥王一行だとばれると教会の影響が強い地域では人々の信用度、好感度にマイナス補正がかかる
 →世界樹再生の旅の大きな障害になる
 →人類滅亡の片棒を担ぐ

② 今世界に存在する生命はなんか汚らしいから除去してしまえ、という思想の天上人や天使達を(そうとは知らないが)崇拝し、さらにそれに乗っ取られた帝国の周辺諸国への侵略戦争に加担する
 →人類滅亡の片棒を担ぐ

③ テロリストに各地の大聖堂の爆破を許し、その地下にあった世界樹の根を汚染される。
 →人々の信仰の象徴の世界樹が真っ黒に染まり、凶暴化したモンスターが大発生。あわや人類滅亡の危機。


 冥王一行(プレイヤー)視点の見方なのと③は相手がヤバかったというのを差し引いても、引き起こしかねない結果が酷過ぎて擁護の余地が……。

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