あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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~聖装イベント・黒玄の私服~

 冥界市場、服飾店での一幕。

「ジェニファーにはこっちのワンピースが似合うって!」
「いやいや、こっちのブラウスにあのスカート合わせるのが―――」
「あ、この帽子可愛い」
「眼帯付けること考えると、頭の布地が大きいのはちょっと。こっちのリボンの方がいいって」
「眼帯ももうちょっと可愛いバリエーション増やしたらどうかな。今度あたしが縫ったげよっと」

「プリシラ、フランチェスカ。我は別に――」

「んー、ジェニファーはちょっと黙っててねー」
「放っといたらあなたモノトーン系の服しか着ないじゃない。折角可愛いんだからもっと色々お洒落しないと」

「気持ちだけありがたく―――ってもう聞いてない。これがいわゆる女の買い物は長いというやつか」

「あ、見つけましたわジェニファー」
「ルージェニア?」
「私はこういうの可愛いと思うの!」
「……緑の恐竜の着ぐるみ風パジャマ?」

「はいお姉様没収」
「ああっ!?」
「確かにジェニファーが着たら可愛いかもしれないけど、外でお洒落する服を選んでるんだからね、今は」
「………お外で着ちゃいけないかしら?」
「今ジェニファーがパジャマって言ったでしょうが!」
「あ、あはは……」



 以上。冥界にガチャ〇ンが居るのかは知らない。
 着ぐるみパジャマ着せたら可愛いとは思うけど、この厨二幼女、寝間着はタンクトップ一枚とかなんだろーなー……。

 んじゃ皆お待ちかねセシルのおかーさん登場の第五章入りまーす↓




緑の家族たち

 

 木漏れ日が程良く射し込む森林。優しく木の葉に和らげられた日差しが暖かく、ピクニックには絶好の日和であろう。

 澄んだ空気が肺に心地良い。黒衣の幼女ジェニファーは上機嫌にそれを深く吸い込み、

 

「捌きがいがあるなぁ、おい?」

「ゲロォォォーーー!!?」

 

 人間よりも巨大な両生類型のモンスターを二振りの大刀で斬り刻む。

 腕代わりのヒレを両側切り落とし、でっぷりした腹に十字の斬痕を刻むと、痛みにのたうつそれの顔面を跳び上がって蹴っ飛ばした。

 

「セシルっ!」

「はい!!」

 

 粘った体液を撒き散らしながら地面を転がっていくそれに照準を合わせ、深緑の髪を仄かに輝かせるハイエルフィンのセシルが杖を振って精霊魔術を起動。

 稲光が木陰を消し去る中、よく通電しそうな粘液まみれの巨大蛙は全身に高圧電流を浴び、ぷすぷすと焦げ臭い煙を上げながら動きを止める。

 

 僅かに痙攣していたのは単純に筋肉が電気で収縮をしていただけで、生命活動自体は既に止まっていただろうが、念のため完全に動かなくなるのを待ってからオッドアイ幼女は右手の“黒”を虚空に散らしてセシルに振り返った。

 

「ジェニファー様、うまく連携決まりましたね!」

「ああ、汝が後衛だと随分やりやすい」

「えへへ……やった、褒められましたっ」

 

 ぱん、とハイタッチを交わして互いの健闘を称える三番目と五番目の古参組アイリス。

 

 かつて冥王とユーがアイリスを集め始めた頃、セシルが参加するくらいまでは、種子探しの旅においてアイリス全員が常にフルメンバーとして戦闘に参戦していたため、彼女達の連携の練度はかなり鍛えられている。

 魔術を吸収して強力な斬撃を発動する魔剣『エンチャント』の専ら発動起点として、いっそジェニファーとセシルの合体技と言っていいほど協力し合っていた時期もあり、前衛後衛としてはかなり安定した二人組だった。――――最初に思いっきり誤射したのが嘘のよう、というのは言わぬが花か。

 

「他もそろそろ片付く頃合いか」

 

 一足先に得物を仕留めたジェニファー組は、他の戦況を確認すべく戦闘音の続く方向に視線を凝らす。

 

 森での戦闘において、あまり大人数で動くと木々が邪魔になるため現在二人一組(ツーマンセル)で行動しているアイリス達。

 

 教師役としてアイリス全員の癖をほぼ把握しており技量も高いベアトリーチェと、正統派の魔術師として砲台をこなすラディス組も前衛後衛としては非常に安定している。

 戦闘能力の無い冥王とユーは、用心棒経験があり咄嗟の反応と機転も期待できる女剣客コトが護衛中。

 

 そしてもう一組―――。

 

「せえぇぇいっ!!」

「フィー、出過ぎ……ってああもう、やっぱり聞こえてない!!」

 

 超重量の斧をぶん回し、回避も防御もあまり考えずひたすら攻撃に特化した狂戦士スタイルのソフィ。

 斧という威力は高いが取り回しの悪い得物の性質、一人旅が長く対集団戦においてとにかく敵の頭数を減らさなければジリ貧になりやすいという経験、そして何より意識が戦闘用にスイッチが入ってしまうと暴走してしまうまさに狂戦士気質により、ハマれば強いがちょっとしたことで窮地に陥りやすい戦い方を彼女は身に付けている。

 

 そんな前衛のフォローとして適役なのは、ジェニファーやアシュリーのように突破力が高く、並び立って相乗効果を発揮し絡め手を行う余裕がないほどの爆発力で相手を攻める者か。

 あるいは、火力がなくとも広い視野で徹底的に彼女のサポートに回り、ソフィが思うまま暴れられるよう的確に相手の動きを牽制できる者。

 

 この時組んでいる金髪痩躯の弓使いは、後者だった。

 エルフィンの狩人ティセ。彼女が一息の間に片手のそれぞれの指に挟む四本の矢を打ち尽くすと、それら全てが飛行する蝙蝠型モンスターの両翼と猪型モンスターの両目に的確に突き刺さる。

 息の根を止めるに至らないが敵戦力は大幅に削がれ、そこをソフィの大振りの一撃が斬断していく。

 

「ふーっ、ふー……っ!」

「はいどーどー、戦闘終了ですよー」

 

 目につく範囲の魔物を掃討し終えても更なる獲物を求めて本能的に目や耳や鼻を小刻みに動かすソフィだが、本人や相棒も慣れたものですぐにクールダウンする。

 

「っ……、こほん。ティー、私はお馬さんではありませんよ?」

 

 互いに愛称で呼び合うエルフィンとダークエルフィンは、かつてこの森で共に暮らしていた昔馴染みでもあった。―――軽く百年は遡るくらいには昔の話だが。

 

 この森―――そう、エルフィンが住処とする大森林地帯。

 世界樹を囲む山脈を中心に広がるこの一帯は、地上に住まう全ての者にとっての聖域であり、長命種の彼女達が守る不可侵領域でもある。

 

「で、半日も経たずにこれで魔物との戦闘は五度目。

 エルフィンの国というのは、余程闘争に満ちた修羅の国なのか?」

「さあ?私はもうずっとここには立ち寄っていませんから。見ないうちに随分殺伐とした場所になったのですねえ」

 

「ジェニファー、フィー。………怒りますよ?」

 

 今回の種子探索は、アイリスの一人であるティセが地上に出た際、エルフィンの秘術によって届けられた便りによってこの国に呼び戻されたついでとしてこの森にある種子を回収することとなっている。

 だが、訪れた冥王一行を出迎えたのはエルフィンの使者達ではなく魔物の群れ。

 

 遭遇する頻度からするに、この森全体が魔物の巣窟と化しているようで、ティセが呼び戻された便りも少しでも戦力をかき集めようと送られたSOSだったのかもしれない。

 

「うえぇー、なんか面倒そうな予感ー」

「丁度いいではないですか。パルヴィンの時のように恩を売ってその対価として種子を供出させるのです。つる植物、種子の反応は複数が一点に集まっているのでしょう?」

「あ、はいですベア先生。きっとエルフィンの方々が森に散らばった種子を集めたんでしょうね。反応がビンビンです」

「地上で最も世界樹に近い国は、やっぱ伊達じゃないってことかー」

 

 二年前に世界樹が炎上した際、蓄えたエネルギーを世界中に種子の形で放出したが、距離的な理由でこの森に落ちたものも相当数あるらしい。

 当時住人であったセシルとティセが種子を宿すシーダーとなったのも、確率こそ低くとも起こるべくして起こった事象といえよう。

 

「そうなるとこの魔物の大発生も、世界樹炎上の影響をもろに受けたということなのでしょうか?」

「いえ、私がアイリスになる前、白鹿が殺められ仇討伐の為旅立った前夜はこのような兆候は全くありませんでした。他の要因があると考えるのが妥当かと」

 

 世界樹の炎上以来世界各地で起こっている魔物の凶暴化や異常気象も絡めてアイリス達が口々に浮かんだ考えを言っていくが、あまりしっくりした答えは出ない。

 雑談以上にはならないのを感じ取り、冥王はとりあえず種子の反応の元、エルフィンの集落の方へ向かうよう声を掛けたのだった。

 

 

 

…………。

 

 道中魔物に押されて窮地に陥っていたエルフィンの戦士を助けたのもあり、セシルやティセの存在もあって代表である女王との謁見が叶った冥王一行。

 だがパルヴィンの時のような明るく笑いに満ち(そうになるのを必死で我慢してい)た雰囲気とは異なり、コトやラディスなどは露骨に不機嫌そうに顔を歪めていた。

 

「………感じ悪ーい」

「仕方ありませんよ。エルフィンの中におけるダークエルフィンの扱いとはそういうものなのです」

「はん。忌子ってやつ?迷信の典型例じゃん、あたしそういう非合理的なの一番嫌い」

 

 集落の者達はおろか、命を助けられたエルフィンですら嫌悪の目でソフィをじろじろと見る。歓迎どころか即刻この場所から出て行って欲しいと言わんばかりに。

 仲間を軽んじられて不快になるのは勿論、その視線をエルフィン以外の人種全員に向ける者もちらほらいる為、差別されている当のソフィがなだめようと好意的になれる筈もなかった。

 

 エルフィンのティセは弁護しようにもフォロー出来る言葉が無いのと、謁見前で緊張しているのもあってただただ視線を伏せており。

 ハイエルフィンのセシルは、何故か周囲の空気や会話も意識に入らないほど焦燥に満ちた様子でぷるぷる震えている。

 

「どうしようどうしよう……このままだと」

「どうしたセシル。何か不都合でもあるのか?」

「いえいえ!焦ってなどいないジェニファー様が私は元気ですよ?」

「………??」

 

 何やら要領を得ない言葉が彼女の口から漏れるが、問いただすより先にハイエルフィンの女王が石段で僅かに高く築かれた祭壇の上に現れる。

 おっとりした顔立ちと雰囲気の中にも自然と周囲を従わせる威厳を秘め、まずは部下の命を救ったことに礼を述べる。

 アナスチガルと名乗ったハイエルフィンの淑やかな所作に、自然とアイリス達も神妙に姿勢を正した。女王の鮮やかな緑色の長髪を見て「ああ」と何やら納得した様子の幼女を除いて。

 

「お客人達は世界樹の恩恵を強くその身に宿しているご様子。となれば、ご用向きも自然と察せられます」

「話が早いですね」

 

 森の奥深く、澄んだ湖のほとりの祭壇にて、彼女は世界樹由来の力の存在を感知できることを明かす。冥王を見て意味深に微笑む辺り、その正体も一目で看破しているらしい。

 だがアナスチガルは話を進めようとするベアトリーチェを躱して話題を逸らした。

 エルフィンの集めた種子を渡すつもりはない、という言外の意思表示であると同時に―――、

 

「ですがその前に――――どこほっつき歩いてたのかしら、馬鹿娘?」

 

「な、ななな何のことでしょう、私は通りすがりのただのエルフィン、乙女の恋の執行者(エグゼクター)プリンセス・ヴァイスです。けっしてセシルなどという新妻ハイエルフィンでは……」

 

「うっわあ、雑な誤魔化し……」

「ツッコミどころ満載ですが、なんかジェニファーさんのアレな影響もろに受けてません?」

「そうでしょうか?えへへ」

「そこ嬉しそうに照れるところなの?」

 

「な、え……なぁっ!?」

「あらまあ」

 

 どこぞのジェミニン・ノワールからあやかったんだろうが、英語のプリンセスに倣うとヴァイスが割とひどい意味になるとか親の目の前で新妻言っちゃってるとかそもそも根本的にそれで誤魔化せるとでも思っているのかとか。

 色々とアレな爆弾発言だったが、とりあえずセシルがそれこそ自分達の種族の本物のお姫様と発覚して完全に硬直するティセが少し哀れだった。

 

 そして。

 

「どうやら じ っ く り と話を聞かせてもらう必要がありそうね?」

「あわわわ。だんn――これは言っちゃダメなんだった、なら……ジェニファー様!」

「………どうも、シールド一号です」

 

 旦那様と慕う冥王に縋ると話がややこしくなるというのは思い至ったのか、幼女の背中に隠れようとして当然隠れられないセシル。

 何で盾にされているんだろう、と場違い感ありありな幼女を挟んで、久方ぶりの親娘対面の時間と相成ったのであった。

 

 





 とりあえず第十章でユーに一番ひっどいイメージを持たれていることが発覚したセシルのおかーさん。
 友人の母親と自分の想い人が失楽園する妄想とかちょっと業が深すぎんぞ世界樹の精霊(笑)。………まあ、セシルの正気度を犠牲にした分可愛かったけどね。

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