~学園イベント・クリス~
「………むにゃむにゃ」
「『今日も綺麗だよ、クリス』」
「……そんにゃ、めいおーさま~……むにゃ」
「『思わず抱きしめたくなるくらい愛らしいな』」
「………だめ…です。こんなところで……うふふふふふ」
「『ああ、つい衝動が抑えられなかった。なんて罪な女の子なんだ、クリス』」
「……きゃあ、だいたんです冥王様………もう、もうっ。じゃねんぼくめつですぅ~~…むにゃ」
「クリス先輩、ジェニファーさん。何やってるんですか?」
「しっ。珍しくクリスが居眠りしていたんでな。ちょっとイケメン台詞吹きこんで遊んでいた」
「もー。あんまり悪戯しちゃ、めっ、ですよ?」
「やってみると楽しいぞ?主にクリスのふやけ顔が」
「………じゃあちょっとだけ」
「何がちょっとだけなのですか、パトリシア?それにジェニファーさんも?」
「……寝起きは良いんだな、クリス」
「ええ、おかげさまで夢が中途半端に盛り上がって目が覚めましたから。
パトリシア、どうやら修道院時代の懲罰を思い出したいようですね?」
「わあああ、勘弁してくださいクリス先輩。私は未遂ですっ」
「未遂は正犯に準じるのが法です!この際です、ジェニファーさんも一緒に―――いないっ!?」
「ジェニファーさんならクリス先輩が目を離した途端にぴゅーって走ってっちゃいました」
「もうっ。悪ガキそのものじゃないですか!?」
「クリス先輩も、なんか修道院時代のマザーにどんどん似ていってるような……」
「誰のせいですかッ!?」
「私のせいですかっ!?」
以上。ジェニファーって割とクリスへの好感度高いよね。気抜いたら顔面にグーパン入れようとするけど。
じゃあ第六章入りまーす↓
「やって来ましたヴァンダルス同盟中心都市ファウスタ!」
「ここが、この世のあらゆる欲望が集まる街……」
「相変わらず賑やかですね~」
「海上交易の一大拠点でもあります。大抵の物であれば、有形無形問わずここで求めることができるでしょう。お金さえあれば、の話ですが」
「世界樹の種子もお金で買えるかねー?」
「お、おこづかいで足りるでしょうか……?」
「ラディスさーん、パトリシアさーん。世界樹の精霊である私の前でそういうやり取りはちょっとやめて欲しいかなーって」
「よし……呑むぞー」
「子供がお酒飲んじゃダメでしょ!?」
「打つぞー」
「幼女を入れてくれるような賭場ってあんの?」
「買うぞー」
「お買い物ですか?私もご一緒します!それで、何を買いに?」
「……いや、言ってみただけだ。だからセシル、そのきらきらした視線を向けないで」
雑多な露店が並ぶ雑然とした通りに、美少女達のはしゃぐ声が響く。
抜けるような青天の下、アイリス達はいつも通りに和気藹々とおしゃべりしているのだが、昼間の表通りとはいえ通りすがる住人達からは案の定奇異の視線を浴びていた。
今回の探索場所は以前の森林地帯とはうって変わって商業自治都市同盟の本拠地という人も物も集まる都会のど真ん中。
手分けして聞き込みを行う場面があるかも知れないし、美少女揃いのアイリス達はなるべく集団で居た方が絡まれるような面倒ごとも減るだろうということで、今回冥王は多めのメンバーを連れてきていた。
冥王、ユー、ベアトリーチェはいつものこととして、この街の滞在経験があるソフィ、フランチェスカ。この街にナジャの隠れ家もあるらしいということでラディス、ジェニファー。
母親にもっと色々なことを経験させてあげて欲しいと頼まれたこともあり、セシル。
人との折衝において相手によっては信用の保証がやり易いということで、他国とはいえ王族のルージェニア、プリシラ。聖樹教会の所属であるクリスとパトリシア。
さらに前衛のバランスを考えて、コトも着いてきている。総勢十三名、しかもうち十二名は女性となれば、姦しくなるのも当然の成り行きだった。
その中で、戯言とはいえプリシラ、コト、セシルに己の提案を悉く却下され、ちょっとしょぼんとする眼帯幼女ジェニファー。
それに後ろから抱き着いて、赤毛の姉姫ルージェニアがにこにこと提案する。
「どんまいですわ、ジェニファー。あとで私と一緒にこの街の隅から隅まで探検しましょ?」
種子が回収できたら、ちょっとくらいなら遊んできてもいいよ。
「感謝しますわ、冥王!以前パルヴィンの姫としてここに来た時は、護衛達が放してくれなくて。全然見て回れませんでしたの」
「……お姉様、その時お姉様の身に何かあったら大変なことになってたの、ちゃんと自覚してる?」
「当然。ですから今回だって、頼りになるお供と一緒でしょ?」
「……なんでだろう、ジェニファーの実力を疑ってる訳じゃないのに、素直に安心できないボクが居る」
「まあ、その場のノリで行動する人が二人に増えて、暴走する危険は倍以上ですからねえ」
「大丈夫です!私もジェニファー様とルージェニア様と一緒に、この街の探索に行きたいので!」
「更に天然を追加で放り込んだところで、火薬庫に火種ぶん投げるようなもんだと思うけど」
「ほえ?天然って、わたしのことですか?私天然じゃありません~~!」
「「「………」」」
「ごめんセシル……そのギャグ、面白くない……」
「がーん!!?」
素で言っているのは分かるのだが、それでも悪い意味でのあざとさに一瞬言葉を失ってしまうアイリスの面々。その総意を代表して、珍しくも沈鬱とした表情で真実を告げる女剣客コトに、今度はハイエルフィンの天然姫がショックを受けて硬直した。自分を天然じゃないと否定したことがギャグ扱いされたことと、この場の全員に天然と思われていることを自覚して。
「うえぇぇっ、旦那様ぁ~~っ」
よしよし。
「で、ユー。種子の反応はどっちだ?」
「おおう、セシルさんの号泣は全力でスルーですか。いやまあ話題変えるしかないのはそうなんですけど。―――ええと、あっちに天井だけ見えてるおっきな建物の中にいくつかありそうです」
「あの建物は、王宮?」
「またお偉いさんとご対面、って?」
「予想できていたことではありますが……」
パルヴィンの時もエルフィンの時もそうだったが、国に落ちた財宝はその国主のものということに一度なってしまえば、それをくれと言われたところで政治的な思惑も絡むため簡単には渡してくれないだろう。ねだられたものを言われるがままに差し出す王というイメージが付いてしまえば威厳が毀損される、という国を治めるには致命的な危険を孕む行為でもあるのだから。
だから前者の時は帝国の侵略を退け、後者の時は魔物の氾濫を解決するという功績を打ち立てる必要があった。
今回はさてどうなるのか、憂慮するクリス。
「この都市同盟の長は、放埓の王と呼ばれる女傑です。
帝国の侵略を独力で跳ね返し、聖樹教会の政治的な干渉も一切跳ねのけているほどの」
「すっごくいいひとそうだね!………冗談だ。まあ考えていても始まらん。まずは会って話をするところからじゃないのか」
聖樹教会の上級神官の後半の発言に黒い皮肉を混ぜつつの、黒衣の邪教巫女の発言に冥王もベアトリーチェも同意し、アイリス達は目的地を定め移動し始めるのだった。
…………。
ところで、戦争を想定した都市というのは入り組んでいるのが常だ。
防壁を突破すればあとは領主の元まで大通りを一直線―――なんて間抜けな造りは、海や砂漠などで阻まれ外敵を考える必要があまりないような場所でない限りはありえない。
その分敵に一度都市に入り込まれれば市民への略奪なども平然と横行するため、そこに住む者にとっては良し悪しでもあるが。
何が言いたいかというと、王宮までの道のりはそこそこ複雑であり、この街の住人ではない冥王一行は道すがら変な場所を通行してしまうこともあった。
変な場所―――というか、はっきり言ってしまうとマフィアくずれのごろつきが縄張りにしているような場所を。
こちらを殆ど女ばかりと嘗めて喧嘩を売ってきたチンピラ共を伸(の)すのに大した苦労は要らなかったが、問題はそこに更にやってきた筋骨隆々の巨漢三人組だった。
「おうおう、ギゼリック様のお膝元で余所者と乱闘騒ぎとはいい度胸してるじゃねーの」
「あ、あんた達は……違うんだ、あいつらから因縁つけて来てボコボコにされたんだっ!」
「ほう……?」
「なっ……冤罪です!ただでさえアレなのに、これ以上の冤罪には断固抗議します!!」
「つーか言ってて恥ずかしくないんか、あんたら」
「義是陸……いや、義競駆……?」
「ジェニファー、それ多分違う」
表情筋すら鍛え過ぎているのか、見分けが付かないほどそっくりの見上げる巨漢三人の顔はチンピラ達には覚えがあるらしく、恐怖に震えながらも地に伏せられた状態でアイリス達に発端をなすり付けてくる。
世界樹を燃やしたとかいう容疑を冥王に着せられているのを気にしているのもありユーが猛抗議するが、その全身の筋肉を誇示するかのように左胸と股間の防具以外を露出した筋肉男達は狂暴な笑顔で振り返ってくる。
襲い掛かってくる気満々の顔が三つ並ぶのは子供が見たらトラウマモノのレベルの迫力だった。この場に居る幼女は何故か珍走団的なイメージを連想して気にも留めなかったが。とはいえ―――。
「悪いがお嬢ちゃん方。この時期に観光気分で来るのはいいが、ちょーっとこの街の流儀ってやつを教えてやるよ」
「――――ほう、是非教えてもらいたいな?」
「速っ、がああぁぁぁっ!!?」
「兄弟!?」
指をぺきぺき鳴らしながら近づいてくる先頭の一人―――その指鳴らすの手伝ってやると言わんばかりに、一瞬で距離を詰めたジェニファーが中指を掴んで腕ごと捻る。
倍ほどにも背に差がある童女が巨漢を捩じる構図。剣帯で背負った“水晶”がウェイトとなっているため重量差は倍以下には収まるが、それでも異様な光景には違いない。
脂汗を流して苦悶を上げている様子からは男に手加減をしている様子は一切なく、不意をついて優位な体勢に持ち込んだとはいえ素の膂力が十分以上に張り合っているのが見て取れる。
そんな怪力幼女は酷薄な笑みを浮かべ、煽る余裕すら見せた。
「どうしたの?はやくおしえてよ、おじさん。はやくしないと――――――腕、逝くぞ?」
「兄弟!今助けるぞぉ!」
「来るな!これしき、この俺の筋肉でええぇぇぇっ!!」
「っと!くく。そういうの嫌いじゃないんだが―――、」
「そこまでッッ!!!」
意地を見せて押し返そうとしてくる男に楽しそうにして、だがそれはそれとして負けず嫌いなため容赦なく腕を折ろうとしたジェニファーを止めたのは、張りのある女性の大喝だった。
「「「ぎ、ギゼリック様………!」」」
見事にハモる巨漢三人組の様子に闘争の気配が霧散したのを感じたジェニファーは、指を解いて声のした方を見る。
飾緒付きの貴族服に海賊帽を被った銀髪の女性が、不敵な笑みを浮かべて同じ銀髪の幼女を観察していた。髪色としてはジェニファーの方が多少暗い銀で、張りのある胸や尻はすっとんぺたんな幼女と比べるまでもないという違いはあるが、その女の見ているのはそんな外形的な部分ではないのだろう。
「………っ?」
何か、ちりっと胸を焦がすような熱さを感じた。
(冥王様、あの女性から種子の気配を感じます)
ユーの囁く程度の声量でアイリス達に緊張が走り、そちらにも視線を遣ったが、すぐに女はジェニファーに視線を戻す。どうやら一番の注意は幼女に向けられているらしい。
そして、均衡のなか口火を切ったのも彼女だった。
「おっと、悪かったね。あんたが“本物”か確認したくて、こいつらにちょっかいを掛けさせたのはあたしさ。ただこの時期に腕折られるのは勘弁して欲しいかな?」
「……。汝は?」
「ギゼリック=ファウスタ。この街の頭張っててね、放埓の王とはあたしのことさ!!」
堂に入った名乗りには上に立つ者のカリスマを感じ、騙りということは無いのが見て取れる。
それでも動じないジェニファーは、平然と話を続けた。
そして女―――女王ギゼリックも、権威に頓着しない幼女に不快感を覚えた様子もなく応じる。
「で、その王様が何故こんな薄暗い路地にいる?」
「いやー、街の子分共から超大物が入国してくれたって話を聞いてね。居ても立っても居られなくなって直接見に来たのさ」
「何を?」
「たった一人幼子の身で聖樹教会を恐怖のどん底に陥れ、パルヴィン攻防戦において帝国兵七万を屈服させた『黒の剣巫』。
―――最新の英雄譚の主人公様のお姿をね」
「話盛られてるぞ、おい」
ついツッコミを入れてしまうジェニファー。その視界の隅に―――ドヤ顔で嬉しそうにしているプリシラの姿を認め、顔が引きつるのを抑えることができなかった。
ルージェニアの影に居るからアレなだけで、キミ実際はそんなに常識人じゃないよねプリシラぁ!!
各章の出撃メンバーが原作とちょいちょい変わってますが、ストーリー上の役割と重要性と作者的な会話の回しやすさと動かしやすさで配置決めてます。主に後者二つが基準のメインで。
ラディスは解説役としてもツッコミとしてもリアクション担当としても無茶苦茶使い勝手がいいからつい出しちゃうんだけど、それ以外毎回アシュリーとクリスも固定で居るのはちょっとやりづらいんだ…。特にクリスが居ると眼帯幼女が眼帯外せないし。
あと誰とは言わないけど一度も名前出てない子とか、ほんとゴメンとは思ってる。