唐突なセシルママの新アイリス追加予告に草。
ご褒美シーンもあるんだろうなーと思うと娘のSAN値が心配なところ。
世界樹が炎上して転生が止まり~云々、冥王一行が種子探索の旅に~云々。
「なるほどねえ。確かにそれっぽいものはあたしの中にあるし、しばき倒した帝国のスパイとか傭兵の死体から出て来たやつもいくつか持ってるよ。
でも、ただでくれてやる訳にはいかないなあ?」
「「「知ってた」」」
「あははっ。なあに、このまま世界が荒れ続けるのはあたしも本意じゃないし、そう無理難題を吹っ掛けるつもりもないから安心しな!」
突っ掛かった詫びと称してファウスタの王城に招かれ、会食の席を設けられたアイリス達は、事前に予想していた通りの答えがギゼリックから返ってきたことにもはや落胆すらしなかった。
「ふわ~。ほっぺた落っこちそうですー」
「これは……はむ。パイ生地で包んで蒸し焼きにしているのでしょうか」
「ジェニファー。骨の付いたお肉をナイフとフォークで食べる時は、こうして―――」
「む……器用なものだな」
「やっぱなんだかんだ言っても育ちはいいのよねー。プリシラも、だけど」
「あはは。これくらいなら、流石にね」
「それで、私達に何をしろと?」
長い食卓の上に数々の豪勢な珍味が並び、目を輝かせて味を楽しむセシル、料理人の視点でどういった料理でどう作ればいいのか考えながら食べるソフィ。
更にジェニファーにテーブルマナー講座を始めるルージェニアや、それを隣で暖かく見守るフランチェスカ、プリシラなど各々マイペースに食事を進めている。
ベアトリーチェのように使命に忠実に、あくまで話を進めようとする者も居るが、そのいずれも楽しそうに観察しつつ、ホストである銀髪王女は片手で弄んでいたグラスワインを飲み干してにやりと笑った。
「ここファウスタでは、毎年武闘大会を開いていてね。世界中から猛者達が集まり、その実力を競うお祭りが丁度明日から始まるのさ」
「ああ、どうりで。如何にファウスタとはいえ、あまりにも人通りで賑わっていると思いました」
「そう、この機会に実力者と繋ぎを持ちたい商人や貴族。そいつら目当ての商売をしに出店してる奴らもいて、大盛り上がりって寸法さ―――が、今年は周辺国の情勢がちょっときな臭いのもあってか、どうも出場者の質が偏ってる。実力には不足はないんだけどね」
つまり、その大会に華を添えて盛り上げたいと?
「話が早いね。ジェニファー以外にも腕に覚えのありそうなのが揃ってるし、何より野郎共ばっかじゃ暑苦しいだけだろう?」
「あたし達にも出場しろ、ってことね。ルールは?」
「五人一組のトーナメント戦。優勝者には賞金と、あたしが叶えられる範囲で何でも望みを一つ言うことができる。そう、例えば」
「アイリスの皆さんが優勝したら、世界樹の種子を渡してもらえる……!冥王様!」
(武闘大会…トーナメント…学園…更新停止……、うっ頭が)
(大丈夫ですか、ジェニファーさん。食べ過ぎちゃいました?)
クリスやラディスも加わって話を受け、改めて冥王がアイリス達の面々を見回すが、不服がありそうな者は見当たらない。改めてギゼリックに出場する意思を伝えたところで、何故か額を押さえて俯いていたジェニファーが手を挙げた。
「今我等は二チーム分組める人数が揃っているが、それで出場しても構わないのか?」
「大いに結構―――と言いたいとこだけど、ちょっとそこのパルヴィンのお姫様二人と、あとユーだっけ?あんたらには別口で頼みたいことがあってね」
「ルージェニアさんとプリシラさんだけじゃなく、私も……ですか?」
「ああ。代わりに変則的にはなるが今から言う条件なら二チーム参戦も認めるし、予選も免除してやる」
「条件……?」
デザートのメロンを小さい口ではむはむ頬張りながら、首を傾げる眼帯幼女。
だがギゼリックの出した『条件』を聞くと、不敵な笑みを見せて頷いた。
「―――望むところ、と言わせてもらおう」
「ジェニファー、お口の周り果汁で汚れていてよ?」
そして、絶妙なタイミングでルージェニアにナプキンで口元を拭われる。
「ぷっ、くく……っ!じゃあ本番楽しみにさせてもらうよ、小さな英雄さん?」
「…………」
「お姉様…」
「あ、あれ?ジェニファーにプリシラも、なんでそんな目で私を見るのかしら?」
吹き出すギゼリックと憮然とするジェニファー。哀しそうに姉を見つめるプリシラ。
目をぱちぱちして困惑するルージェニアを他所に、ほどなく会食は終了するのだった。
…………。
大会当日。
「さあお日様もてっぺんを上り熱気も最高潮なファウスタ武闘大会ギゼリック杯一回戦Aブロック!初戦から見応えのある試合の連続に実況のわたくしユーも興奮のあまり声を出し過ぎて……喉が痛いです。助けてください解説の『ルージェニア殿下』」
「大丈夫よ、いざという時の為に聖神官が回復魔法スタンバってるから。ずっとその調子でお願いね」
「~~っ、鬼ですか!?」
「………?姫ですわ!!」
「はいはい。ほら、次の選手の入場始まってるよ?」
ファウスタ王城の練兵場が解放され、アリーナと化した大会会場にユーとルージェニアの漫才が響く。
がやがやとざわつく観客席は満員御礼。飲食物を籠に引っ提げる売り子や喧嘩などのイベントが台無しになる騒ぎを抑えるための警備兵も数に入れれば相当な密度で、彼らの興奮で噎せそうな熱気が一帯を覆っていた。
魔道具により声は増幅され、その場の者どころか会場の外までも三人の少女の声は聞こえている。
ギゼリックの頼みというのはこれだった。ユーのおしゃべりとノリツッコミ気質は場を盛り上げる実況にはもってこいだったし、“パルヴィンの姫姉妹(他国の王族)”が観覧しているというネタは生かさない手はないだろう。出会ってたった一日で段取りまで組んだあたり、放埓の王はそれだけ果断で有能なのかこの大会に熱心なのか或いはその両方なのか。
そんな世界樹の精霊と王女二人という超豪華な実況チームが盛り上げる観客達は服装も人種も肌の色も多種多様。おそらくは出身も生業も様々だろう。
それは、出場する選手達も同様。剣に限らず見たことのない様な奇形の武器を使う者も居れば、魔法使いも居るし、魔物を使役する者まで現れた。スライム四匹を使役してそれで勝てると思っていたのかはちょっと疑問だったが。
そして、次の選手達もまた―――。
「東コーナー、遥々ドワリンドより全員ドワリンで構成されたチーム……『三銃士』?あの、五人居るんですけど」
「五人揃って三銃士、なんじゃないかしら?」
「三という数字にこだわりでもあったんでしょうか……?ドワリンだけあって体は小さいですが、全員銃を背負ってます。武闘大会なのにこれはアリなのかー?」
「ルール上は魔法もおっけーだし、問題ないみたいだね。ただどっちにしても、結界と防護柵があるとはいえ観客に一発でも流れ弾を当てると失格になるみたいだよ」
「観客命懸け!!?」
「最前列席はそれ込みでチケット売ってるみたいだし、出場者よりもある意味実力に自信があるんじゃない?」
「その勇気に、敬意を表しますわ!!」
うえーいっ、と選手入場よりもルージェニアのよいしょに盛り上がって前の方に居る観客達が立ち上がって次々叫び出す。他人を鼓舞する才能は相変わらずのようである。
だが、観客達が盛り上がるのは更にその後だった。
「続いて西コーナー……おおっとこれは今大会唯一!女性五人で構成されたチーム、それも美少女率100%!!『冥王スプラッシュガールズ』だーーー!!」
(白々しい……)
(言わないでくださいよっ!マイク入っちゃうじゃないですか!?)
(ちょっとぐらい入っても多分かき消されそうだけど。この分だとね)
アリーナ上空に魔法による映像が投影されており、舞台の拡大図のほか選手の登録画像などがでかでかと表示されているため、観客達は彼女達の美貌をアップで見ることができる。
東国の女剣客コトの白地に桜の着物姿。アサシンメイドのベアトリーチェの黒い忍装束姿。
無表情で戦いに備える二人はその怜悧な姿勢も相まって背筋が震えるような美しさを醸し出している。
一方それと対照的に、笑顔で観客達に手を振るソフィとパトリシアは、二人とも露出の高いセクシーな聖装なのもあって男達は湧きに湧いていた。
大観衆の前で緊張でガチガチになりながら右手右足を同時に出すような歩き方をするエルフィンの姫君セシルも、愛らしさで言えば他四人と系統が違うこともあり支持を集めている。
………全員美“少女”?うん、まあ。見た目は掛け値なしに。確定で3桁年齢が二人は交じっていようとも、全員美少女だ。スプラッシュなガールズなのだ。
「会場の皆さんも今までとは違う興奮に沸き立っております」
「分っかりやすいねえ」
「ですが気になる実力の方は如何でしょうか。両者舞台に立って、試合開始の鐘が―――今、鳴り響きました!!早速ドワリンさん達銃を構えて撃ちまくる……が、これはぁぁっ!!?」
こちらも会場中に響く試合開始の金声から一瞬の間を置いて、盛大に銃声の発砲音が絶えず鳴り続ける。それに対して前に出たのはコトとベアトリーチェ。
静かに、風を切る音すらも凪いで―――刀と小太刀が軌跡だけを宙に描いて閃く。ぽとりぽとりと、分かたれた銃弾がその足元に落ちていく。
肉を裂く鉛の雨を細い刀で全て捌き、達人二人は後ろの面々も含めてかすり傷一つ追わない戦いをしていた。
「斬ってます。なんと斬っています!!銃弾の雨を斬って斬って斬りまくってます!!」
「それだけでも凄いのだけど、後ろに被害が行かないように斬った弾をその場に落としてるのよね。どうやってるのかしら?」
「あの、解説が実況に質問しないでください」
このまま弾切れまで銃弾を捌き続けるつもりか、と観客の誰もがその妙技に息を呑んで見守るが、アイリス達、もとい『冥王スプラッシュガールズ』はそんなぐだる試合運びをするつもりはない。エレガントに、というのが教師のモットーであるからして。
短い詠唱を終え、セシルが炎の上級精霊を召喚する。
「なんとデカーーいっ!!緑髪のエルフィンさんが巨人さんを隣に生み出しました。全身燃えて熱そうです。それを、突撃させる!ドワリンさん達も狙いを変えて撃ちまくりますが、止まらない……ああ、爆発したーー!?」
全身が炎で構成されているが故に銃弾など効くわけもない巨人が密集隊形を取ったドワリン達のチームに飛び込んでいき、そして爆炎と化して膨張する。
火達磨と化して舞台を転がるドワリンは三人。大火傷は免れないだろうが、これは試合中に降参を宣言していない相手なら殺害しても失格にならない過激な大会だ。観客達も寧ろ盛り上がって歓声を上げている。
「そして咄嗟に脱出できたドワリンさんチームの二人のお腹に、斧の石突と鉄拳が突き刺さるー!これは痛い、そして起き上がれないっ。ダウン入りました、けっちゃ~~く!!」
「あの二人は炎の巨人を目くらましに、追撃を掛けられる位置まで近づいてたんだね。
技量、連携、そして爆発力。これはいいチームだ、優勝も狙えそう」
(プリシラさんこそ、滅茶苦茶しれっと言ってるじゃないですかー)
(お仕事だからね)
可愛い上に強い。そんな女の子が支持を集めるのはどこでも同じなのか、あっさりと初戦を突破した『冥王スプラッシュガールズ』に声援が鳴りやまない。
このままでは次の試合が始まらない、とファウスタ兵からカンペを渡されたユーが、拡声されるのをいいことに無理やり進行の流れを作る。
「観客の皆さん、お静かにっ!反響がすごいので、特別に勝者のチームから一言いただきましょうか。それじゃあ……武闘家のシスターさんどうぞっ!」
「えっ、私ですか?それなら…うんっ。すぷらーーーーっっしゅ!!」
すぷらーーーーっっしゅ!!!
「えへへ、ありがとうございます。でも次は、もっとたくさんの人に応えて欲しいので、よろしくお願いします!!」
コト、そんなキャラじゃない。セシル、絶対噛む。ベアトリーチェ、論外。
ソフィとの二択でユーに指名されたパトリシアは、何故かチーム名に入ってる謎の言葉を叫び出す。それに応えて叫んだのは、観客席にいた冥王のみ。
常の朗らかな笑顔を上空の映像に大写しにされたパトリシアは、“次の機会”には多くの観客に同じように返して欲しい、と続けた。―――その意味するところは。
「このシスターさん、にこにこ笑顔でさらっと次も勝利する宣言です!自然というか堂々というか」
「気負いがないのはいいことですわ。私達も練習しておかないといけないわね。すぷらーーーっしゅ、って!」
「え、ボクもやるの……?」
「2回戦にも期待が高まりますね。それでは選手退場です、また明後日ー!」
A~Dの4グループのうち、初戦と2回戦は1日2グループペースで消化する日程のため、『冥王スプラッシュガールズ』の次の試合は2日後。それを楽しみにする観客達の熱い声援を受けながら、5人は舞台を後にするのだった。
そして、この日のハイライトは間違いなく彼女達だったが、『世界中から猛者達が集まる』というギゼリックの言葉に嘘はない。
参加者達の激闘に観客達は満足げに短くも熱い一日を過ごしていたが―――トリを務めるBブロック1回戦最終試合で、揃って困惑のざわめきがアリーナを包み込んだ。
対戦カードの内、片方の五人は冒険者界隈では名の知れた魔物討伐チーム。下馬評では優勝候補の一角に数えられ、優勝予想賭博の倍率でも10倍以下に抑えられている実力者達だ。そっちはいい。
それに対するは――――幼女。
場違いなほどに愛くるしい銀髪幼女が、闘技場の舞台に“一人で”上がっているのであった。
「まいごのまいごのこねこです。にゃー………なんてな」
実況付きバトルはそういえばやったことなかったなーとお試し挑戦。
それによりスポーツ漫画でよくある一秒あたり数十文字喋る超人アナウンサーとそれを聴き取れる超人観衆、みたいな現象が発生しますが、世界樹の精霊パねえということでここは一つ。