あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 セシルママ間もなくアイリス実装。
 今更どうこう言ってもあれだけど、どうしても疑問というか懸念が一つ。


 まさかとは思うけど、娘と同じ制服着ないよね……?




放埓の王3

 

 強豪犇めくファウスタ武闘大会、そのステージに立ったあどけない幼子。

 上空の拡大映像を確認したところで、腰上まで伸ばした銀髪を黒いリボンで一房だけまとめた紅眼虹眼の幼女が映っているだけだ。

 

 柔らかくもどこか儚げな繊細さを思わせる目鼻立ちは非常に可憐で、だからこそあまりに場にそぐわない。それこそ本人が言った迷い出てしまっただけの子猫のような存在に観客がざわめき立ち、それが具体的な形を持つ前に―――試合開始のゴングが鳴る。

 

「今試合開始のゴングが鳴りましたっ。しかしこれはどうしたことかーごにんさんかのこのたいかいでこどもひとりがぶたいにたっているぞー」

(ユー、棒読み棒読み)

「チームとしての登録名は、『冥戒十三騎士』となっていますわね」

「また数字ネタですね。それでたった一人しかいないのが更によく分からないことになってますが」

「そうだね。一人しかいないね。どこからどう見ても一人しかいないね!!」

(プリシラさん……)

 

 気の抜けた実況と解説の声は当然舞台上の戦士達にも聴こえているが―――幼女と相対する冒険者チーム『流星の魁』の面々は、緊張に満ちた面持ちで得物を構えていた。

 彼らは人同士の争いを生業とする傭兵ではなく、魔物退治を主とする冒険者だ。その経験、あるいは実戦で培ってきた感覚が告げる―――目の前のガキは、これまで自分達が討ち果たしてきた竜や魔獣よりヤバい、と。

 

 そんな彼らを見て、黒衣の幼女は満足げに微笑む。

 

「それでいい。相手が子供だったから油断しました、なんて……後から言われても興褪めだからなッ!!」

 

 背の剣帯に収めていた“水晶”を左手に構え、《深淵》を収束して右手に“黒”を顕現させる。

 そして一瞬の弛緩の後、踏み込み。

 

「『冥界十三騎士』さんが仕掛けるーー!速い、前衛の重盾騎士(タンク)が反応すらできていない!?」

 

―――クレアならこんな簡単には抜けない。

 

 魔獣の牙すら止めてみせる大盾持ちの男は、しかしその特性としてどうしても視界が狭くなっている。それをカバーするだけの先読みや感覚は備えているのだろうが、ジェニファーの疾走はその上を行った。

 流石にその様子を背後から見ていた他の仲間は瞬速の機動を目で追えている。迫る幼女を牽制するため、猫亜人(ミューリナ)の女が短弓に番えた矢を放つ。

 

―――ティセなら精確に重心を狙ってくる。イリーナなら前に出ることすら難しい。

 

 体勢を半身にするだけで速度を一切殺すことなく矢をやり過ごした幼女は、走り込んできた剣士の振り下ろしを払い、懐に潜り込んでは脇腹に大刀の峰をえぐり込む。苦悶と共に反射的に身体を折る長剣使いのこめかみを、“水晶”の柄が撃ち抜いた。

 

―――アシュリーなら隙を突くのに手間なんてものじゃない。

 

「この幼女、目にも止まらぬ早業でもう一人ダウンさせました!?そこに冒険者チーム負けじと襲い掛かる!」

 

 刃の広い斧槍が袈裟懸けに迫る。それを両の大刀で挟み受け、真っ向から弾き返した。体勢の泳いだ相手に一閃、またも峰で。それでも肋骨の何本かをへし折った感触が掌に返る。

 

―――ソフィなら、もう少し重い。いや、かなり重い。

 

 その瞬間選手控室で映像観戦していたとあるダークエルフィンのこめかみが引きつったが、この時の幼女にはそれを知る由もない。

 そんなことより、いとも容易く仲間を落とされる屈辱に震えた魔術師の女が、指揮棒のような杖を振って風魔法を撃ち出してくる。

 

「こ、のォ……っ」

「烈気装刃【エンチャント・ウィンド】」

 

―――ラディスなら、セシルなら、もっと短い詠唱で魔法を撃ってくる。容易に利用されないよう工夫を凝らした上で。

 

 うっすらと空気が歪んでいることしか見えない魔術攻撃。文字通り疾風の如き射出速度も相まってその視認の困難さは対人戦で使うには正解の選択肢だが、ことジェニファー相手にはそもそも普通に魔法を使うこと自体が不正解。

 

 

「“飛風のセブンスヘブン”……ッッ!!」

 

 

「これはどういうことだーー!?魔法を撃たれたはずの幼女が剣を振った瞬間、弓主と魔術師のおねーさん達が観客席の柵まで吹っ飛ばされた!!」

「リングアウト……場外で失格だね。白兵戦力二人は延びてるし、これで残りは盾役の人だけ」

 

 本来大気のトンネルを生み出して離れた敵手をこちらに引き寄せながら、鬱陶しい後衛を拘束する魔剣だが、舞台から落ちた者は失格というルールがある為単純に遠くに飛ばすに留める。

 

「………」

「ふっ。降参、俺たちの敗けだ」

 

 振り返ったジェニファーが、風魔法を吸って未だ緑色に仄かに輝く“水晶”の切っ先を向けながらタンクの男を見遣ると、彼はあっさりと降参を宣言する。

 まあこの局面で盾役だけ残っても仕方ないし、たかが試合なのにわざわざ装備を壊すリスクを冒してイチかバチか戦いを続行するというのも不経済―――というのは、冒険者らしい割り切りなのか。

 

「決着、決着です!?早い、そして圧倒的!!五対一をものともせずに、速攻で勝ってみせましたよあの子!?」

 

 時間にすれば数分と経っていないため、怒涛の展開について行けない観客達を差し置いてユーが盛り上がる。

 

 とはいえ対戦相手の弁護をするなら、試合時間が短いのは当たり前だ。少数で多数を相手取ろうとすればさっさと敵の頭数を減らさないとジリ貧になるだけ。

 相手の実力にしたって似たポジションのアイリス達の動きと比べられていたが、そもそも彼女達とでは世界樹の種子という恩恵を身に宿しているか否かの大きな違いがある。

 

 その上で。

 

「………強くなっている、か」

 

 こうして実力者を相手に手加減する余裕まであったことに、厨二幼女は手応えを感じていた。

 

 一対多数は墓守時代に散々やったことだが、当時のジェニファーの戦闘技法は完全に我流。熟練の聖騎士達に隙を突かれるのも一度や二度ではなかったし、そこをごり押しできたのが《種子》と《深淵》の二重のブーストと暴走ジェーンの狂戦士ぶりによるものだが……それでも相手を全滅させる頃には瀕死の重傷だった、ということもままあった。

 

 ましてあの頃のように“殲獄”を、たかだか試合で発動させられる訳もない。

 冥界でアイリス達と励んだ鍛錬の日々がなければ、こうも容易く勝てはしなかっただろう。

 

 感慨深く自分をどアップで映している上空を見上げていると、何故かルージェニアの含み笑いが聞こえてきた。

 

「ふふ、うふふふ!見まして?ねえ皆さん見まして?あれがジェニファーですわ」

「ええーあのこがなにものかしってるんですかるーじぇにあでんかー」

 

「もちろん!彼女こそが死と転生の番人たる無双の冥戒十三騎士、そこに最年少で名を連ねた終の一騎『黒の剣巫』。

 我がパルヴィンを帝国の魔の手から救い、世界を我が物にせんと企むかの国と聖樹教会に終焉を運ぶ至高の英雄ですわ!」

 

 何故かジェニファーが名乗る時よりも修飾が多い紹介と、如何にこのファウスタが聖樹教会と折り合いが悪い国とはいえかなりの爆弾発言をぶっ放すお姫様。

 だがこの武闘大会に集った観客、つまり武勇伝が大好きな者達はこぞって今見た試合内容を証拠としてルージェニアの言葉を受け入れていく。もちろんジェニファーが『黒の剣巫』であるということだけ―――のつもりが、無意識に後半の聖樹教会sageも心にインプットしつつ。

 

 そしてざわめく観衆は案の定『黒の剣巫』の噂話について多かれ少なかれ知っている者が多数だった。なんだか『10万人以上の帝国兵~』とか、『帝国軍が全軍で命乞いしながら投降した~』とか聞こえてくるけども。ギゼリックの認識はまだ王だからマイルドな情報に留まっていたのがここに発覚してしまった。

 

(………噂に羽が生えて、話が更に盛られてるんだが)

(ふふん。気に入ってくれた?)

 

 絶妙にすれ違うジェニファーとプリシラのアイコンタクト。

 

 いや、まあプリシラのやっていることも酔狂ではないことは分かるのだ。

 パルヴィン国内の士気昂揚の為にも、外交カードとしても、“パルヴィンを救った英雄”の武名を高く轟かせて損することは何もない。平たく言えばプロパガンダというやつで、ちゃんとパルヴィンの軍師としても考えてやっている………筈だ。そこはかとなく不安があるが。

 

 そうこうしている間にも、観衆のざわめきが熱を持ち始める。最新の英雄譚の主人公が戦う様をこの目で見ることが出来た興奮、この後の試合に関してもその強さを発揮してくれることを期待するワクワク感。

 ただでさえ武闘大会を好んで見に来るような者達など血の気が多いと相場が決まっており、こうなると言葉で注意したところで収まることはないだろう。

 

 幸い、最終試合が終わって一日目の日程はもう全て消化されている。

 司会役のユーも収拾を諦め、衆目の中とてとて歩いて退場していくジェニファーや、『冥王スプラッシュガールズ』の五人に観客席の冥王達と合流すべく姫姉妹と実況席撤収の準備を始めるのだった。

 

 

―――そして。

 

 誰もが事前告知なしで現れた幼女英雄に様々な想いを乗せて目を奪われる中、一人だけ実況席にいた世界樹の精霊に視線を固定する者が居た。

 その“女”は、場のお祭り雰囲気に全く迎合することなく、陰気な白いフード付きローブを纏って最上段の立見席から静かに実況席の方向だけを見つめている。

 

 ずっとそうしているのかと思うくらいに、一人で完結した雰囲気を出していたその女だが、一言だけ静かに己の心情を漏らした。そこに込めたのは、決意、覚悟、―――そして焦燥。

 

 

「絶対にやらなくちゃ。もう、二度と失敗は許されないんだから」

 

 

 どこか助けを求めている風にすら聞こえる切羽詰まった声音は、しかし群集のざわめきの中に虚しく消えるだけであった。

 

 





 一体何ディアなんだ……。

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