~武闘大会登録時のやり取り~
「チーム名、本当に『冥王スプラッシュガールズ』でいいの?いや、あたしは参加しないから別になんでもいいんだけどさ」
「はい?今何がガールだよ歳考えろとか言いました?」
「いや言ってないし!?」
「ラディスさんはファウスタにあるナジャさんの隠れ家調査でしたっけ?」
「悪いね。家具全部引っ繰り返すつもりであいつの手がかり探してくるから」
「構いません。クリスは救護要員として控えてもらいますが、フランチェスカも道案内代わりに付けます。別行動になりますが、出場者組(私たち)と大会スタッフ(つる植物と姫姉妹)と、役割分担で動きなさい」
「そゆこと。よろしくね?ラディス」
「あんたと二人組はそういや珍しいね。ま、よろしく」
「で、にーさん?話戻すけどさ、何がスプラッシュなの?」
さあ。なんとなく?
「それはもう、ご主人様を想うだけで私の下半身から透明な液体がスプラッシュ―――」
「下品ですよ、ベア先生」
「成程。つまりまだ幼女で下半身からスプラッシュしてないから我は一人ハブられたと」
「ジェニファーさん、後ろ後ろー」
「…こ・の・子・は~~ッ。女の子がはしたない言葉遣いしないって、何度言えばわかるのっ」
「いひゃいいひゃい、ほっへたひっはるなー」
「そうですよ、やめてあげてくださいっ。ジェニファー様がおねしょしなくなってるのなら、成長を喜ぶべきじゃないですか!」
「「「「………」」」」
以上。なおユーと姫姉妹は別行動中に付き不在。さてどれが誰のセリフでしょうか?(ぉぃ
ファウスタ武闘大会二日目。今日は出番のないアイリス達だったが、準決勝戦以降で当たる相手はこの日試合をしている中に居る。そう考えると、観客席から冥王と共に観戦している大会出場組の視線も自然と熱心なものになった。
「一日目の時も思ったんですけど、選手の皆様、目がぎらついてる方が多いです。少し怖い……」
「色々な国の有力者が集まりますし、この大会で活躍すればそういった方たちから声が掛かって、お抱え兵士になれる可能性もありますから。特にこの戦乱の時代では」
「駆り立てるのは野心と欲望、か。剣一本で成り上がりを夢見る者も、生活が懸かっている者も、その中で己こそが最強であると示したい者も……ここには掃いて捨てる程に居る。無論、そいつらの潰し合いを愉しむ大衆もな」
満員御礼の客席の中、人込みに酔ったというだけではないだろう。少し表情の青いセシルのつぶやきに、ソフィとジェニファーはこの大会に渦巻くそれぞれの欲望に想いを馳せる。
この武闘大会に出場者達が懸けているモノは千差万別。その熱量は会場の人いきれ以上に膨大かつ雑然としたものであった。
「正直を言えば、こういった雰囲気は好みません。誰もが日常の小さな幸せを噛みしめて、心穏やかに過ごすことが出来る方がずっと大事だと思います」
「とかなんとか、主上に一目惚れして上級神官という安泰の地位をぶん投げて冥界に来た邪念の塊が言っているが、その辺シスター的にはどうなんだ?」
「ジェニファーさんっ!!」
「あはは。私は腕試しがしたいクチですからなんとも。でも、やりたいことに全力で挑むのは、きっと人として正しい生き方だと思います!」
「パトリシア……」
「そうでございますね。パトリシア様は良い事をおっしゃいました」
こういった混然とした在り方そのものを厭うクリスだったが、眼帯幼女に水を向けられた後輩の意見はまた別のものだった。それに対しては、彼女自身が“やりたいことに全力”を実践していることでもあり、反駁の言葉は出てこない。
普段秩序を重視し欲望を抑えるよう努めているクリスと裏腹に、自由を愛するソフィは花が咲くような笑顔でパトリシアに同意していた。
「安心しなさい堕神官。どのみち私達アイリスが出場者全員をねじ伏せ、優勝して世界樹の種子という景品をいただかなくてはならない。踏み台になる有象無象の思惑など頓着する必要はありません」
「ベア先生、そんな身もふたもない……」
一部、極端な割り切りを見せる冥王絶対主義者も居たが。ある意味一面の真理であるというのはジェニファーも内心で同意するが、同時にそこまでの割り切り方が出来る者ばかりでもないのだろうな、となんとなく思った。
そんな会話を交わしながらも、眼下ではユー達三人の調子のいい実況をバックに選手達が入れ替わり立ち替わり激闘を繰り広げている。5対5のチーム戦であることもあり、各チームのメンバー構成や戦闘スタイルに戦術、そしてそれらがぶつかり合った結果の展開は一つとして同じものがない。こう言ってはなんだが、観客を飽きさせないという点では最高の娯楽だ。
「………」
コト、どうかした?
「……うんにゃ、多分気のせい。なんでもないよ、にーさん」
ふと、コトの口数が少なくなっているのに気づいて冥王が声を掛ける。
気だるさの中に不自然な固さがあるその声は明らかに「なんでもない」ものではなかったが、それだけに簡単に話してくれそうにはない。
アリーナの舞台では、剣士五人のチームが圧倒的な実力で対戦相手を瞬殺し、当然とばかりに黙々と退場していくところであった。
………。
「ひゃいっ!?」
そしてその日のDブロック第3試合。一人少ない四人で参加したチームが舞台に上がった瞬間、観客が一斉に立ち上がって叫び出す。
歓声……が多いが、そればかりでもない。罵声が混じる。狂信者特有の言語にもならない奇声が混じる。それら一つ一つが、女王でありながらいち出場者として参戦しているギゼリックに集中している。
街ごとの思惑が複雑に絡み合う都市同盟にありながら、あらゆる規制を破壊し国に富と混沌をもたらした放埓の王。
決して住み好い国とは言えないながらも、どん底からでも這い上がれる夢を持てる国ファウスタ、その全ては彼女の肩の上に負われている。
そんなギゼリックの王としての評価は、毀誉褒貶の四字すら生ぬるい程に複雑怪奇なものだ。
俗人であれば、自分の生活の不満の原因を他人に―――権力を持つ者に全て押し付けたがる小者は決して少なくない。まして規制の緩い貿易都市という人種も文化も混淆した地においては、王に邪悪な感情を抱く不届き者も多いだろう。
だというのに、真剣を持ち出す武闘大会に自ら殴り込む女王とは一体どういう了見か。
命が奪われる寸前の緊迫感を愉しむスリルジャンキーなのか?
―――是。
試合形式とはいえ、斬るか斬られるかの物騒なやり取りの中の脳内麻薬による快楽に魅入られたバトルジャンキーなのか?
―――是。
障害があろうとも自力で突破する在り方を信念とし、己なら為せると自身の実力を確信した戦士なのか?
―――是。
『黒の剣巫』を名乗る同じ銀髪の記憶喪失者と同様、それでいずれ命尽きようとも、生それ自体には執着を持てない哀れな魂なのか?
―――……是。
物理的な圧すら感じるほどの注目の中、ギゼリックはどこぞの厨二幼女を彷彿とさせる凶悪な笑みを浮かべ、ゴングと同時に叫ぶ。
「さあ、派手に行くよッ―――!!」
電光石火の抜き撃ちは腰元のフリントロック銃。機構として明らかに単発式の凶器から吐き出された銃声は、都合五発。
それはギゼリックにしてみれば攻撃以前のいわば“観測射”だった。これで沈むようなら自分と戦う資格はないと。
果たして近接武器主体の傭兵で構成された相手チームは一人が太ももを撃ち抜かれ、戦力としては使い物にならなくなる。これで数の上では四対四の互角。
逆に言えば咄嗟の銃撃を見事に躱し、あるいは捌いた猛者が四人いるということだ。
ギゼリックは口元の笑みをより深めながら右手に蛮刀(カトラス)を握り、巨漢三兄弟を率いて斬りかかるべく距離を詰める―――。
「ギゼリック陛下、開幕の奇襲で早くも一人落としました!」
「……ジェニファー、ベア先生。今の見た?」
「ええ、しかと」
「我が見間違える筈もない」
ユーの実況と、それをかき消さんばかりの歓声と怒号が支配する中、真剣そのものの目をしたコトの問いを聞き分けてジェニファーとベアトリーチェが頷く。
「そっかー、私の見間違いじゃないかー……」
「どうかしたんですか、コトさん」
「いや。パトリシアも見てれば分かるよ」
客席から舞台まで数十メートルの距離で飛んでいた銃弾を見切る超人三人にしか分からないことではあったが、そんな彼女達を置いて試合は続いていく。
長い間を置くことなく、他のアイリス達もすぐに気づいた。表向き平静に実況を続けているが、ユー達も内心驚愕していることだろう。
ギゼリックがカトラスを振るう度、黒い靄が斬撃に乗って強烈な威力を相手選手に浴びせる。
敵チームのリーダーも決して並みの力量ではないのだろう、必死に食い下がるが――両手持ちのバスタードソードで振り下ろす渾身の斬撃がギゼリックの片手持ちのカトラスに弾かれるというのは流石に何かの冗談のような光景だ。しかしアイリス達にとってはどこぞの幼女のせいで馴染んだワンシーンでもある。
間合いの利を生かそうとしても、少し距離が開けば容赦なく左手の銃が牙を剥く。どう見ても単発式の銃なのに、何度も何度も尽きることなく銃弾が連射される。
ただし空を切るのは鉛玉ではなく、闇を凝縮したような黒いナニカだ。
「そんな、まさか……これは偶然なのでしょうか?」
「どうかな。この街にあのナジャの隠れ家があるという話だし、繋がるかも知れん」
アイリス達はギゼリックの戦闘に目が行ってしまっているが、配下の三兄弟もまた一筋縄ではいかない漢たちだった。
鎖鉄球を、フレイルを、スパイクシールドを。それぞれ黒光りする鈍重な武器を只管叩きつける……鍛え抜かれた肉体から繰り出される圧倒的なパワーが、その単純な動きを最大の攻撃へと昇華させている。
「「「我等、スゴ肉三兄弟っ!!」」」
斬りつけられても、魔法に肌を焼かれても、飛び道具が降ってきても、鍛えた筋肉が鎧となれば浅手にしかならないという信念の下、彼らはタフさを押し出して決して止まらない。痛みを無視しているだけの狂戦士とはまた違う厄介さを相手チームは感じていることだろう。
肉を切らせて骨を砕け、と言わんばかりのストロングスタイル。前日ジェニファーがうち一人を捻っていたが、逆を言えば怪力のジェニファーですら関節の仕組みを利用して極めなければならなかった程の筋力であり、生半可な者が真似しようとしたところで容易く振り解かれて終わりだった。
戦況は当然ギゼリックチームの有利。王女の剣威と三兄弟の筋力に押し込まれた傭兵チームは、舞台のコーナーに纏めて追い込まれる。
「そこそこ楽しかったけどね………仕舞いだッ!」
闇色の靄―――それが一際ギゼリックの両手の武器に収束していき、まず発射される弾丸。威力を秘めた分、一般人にも視認できる程度の大きさと遅さで飛ぶ。
そしてその後ろで空に振り下ろした刃が黒い三日月の弧を描き、弾丸と合流して加速を付けて相手チームの四人目掛けて襲いかかった。
「ば、爆発っ!?傭兵さんチーム、ぼろぼろの状態で全員リングアウトっ!!
担架お願いしまーす!あ、あと『ギゼリック』チームの勝利です!!」
「「「ギゼリック様、万歳ーっ!!!」」」
喝采とブーイングが反響し合うアリーナで、勝利を祝ってかスゴ肉三兄弟が花吹雪をギゼリックの周囲に舞わせ始める。筋肉を誇示するような露出度の高いパンツスタイルであることを考えると、その花吹雪をしまっていた場所はすごく嫌な予感がするのだが彼女は果たしてそこに思い至っているのだろうか。なんてことを考えたのはジェニファーだけだろう。
他のアイリス達は、皆今の試合で見た者について緊張を新たにしている。
「ギゼリック=ファウスタ。我と同じ深淵使い、か」
最初に邂逅した時に感じた違和感を確信に変え、ジェニファーもギゼリックの姿を目で追い―――振り返った彼女と、目が合った気がした。
ギゼリック、原作で花吹雪が「口に入る」とか言ってたような気がするんですが……いやまあ、三兄弟もちゃんとギゼリック様万歳する時はそれ用の袋に花を入れて携帯してるはず。
――――してる、よね?
してるということにして、それはさておきギゼリックは原作の武器は刺突剣ですが、正直それで巨大武器相手のチャンバラシーンを描ける気がしないので、キャプテンマーベラスを参考に持ち替えてもらいました。ゴーカイレッドですよゴーカイレッド(ブラック?)。
どうでもいい話ですが、仮面ライダーファイズとかウルトラマンゼロとかのならず者スタイルで戦うヒーローめっちゃ好き。つまり作者の趣味。
それとなんかあいミスでけよりなコラボ予告のムービーが一瞬流れたんですが、あれって確か十数年前の18禁ゲームだったような……。ノベライズ版はどっかで読んだけど全然話覚えてねえ。