ジェーンという深淵使いの闇深な前例を知っているので、原作みたいにギゼリックの地雷に特攻しようとしないアイリス達。
ギゼリックの計らいでファウスタ王城に逗留させてもらっている冥王一行。
三食風呂付きの待遇であり、お抱えのシェフがこの国随一の美食を用意し、使用人が客室を整えた最高級のホテル以上の環境と考えれば至れり尽くせりと言ってもいい状態だった。
一応これでいいのか問うた冥王に、ギゼリック自身はからから笑いながら当然のことと頷いた。
人間界では聖樹教会を信仰している人間から極悪人扱いの冥王はともかく、一国の王女であるルージェニアとプリシラが居てしかも彼女達にイベントの来賓をやってくれるよう依頼した身である。これで宿は自分で取れとか言ったら王として器量が問われることだろう。
ファウスタ武闘大会二日目の夜、ナジャの隠れ家の捜索を終えたラディスとフランチェスカも合流し、この日の晩餐はまずはギゼリックの勝利を祝う言葉から始まった。
アイリス達から2チーム出場しておいて白々しいお世辞か皮肉と取られても致し方はないが、それでも客としては当然の儀礼。そのあたりは流石にパルヴィンの姫姉妹が完璧にこなす分野だった。
だが、その後アイリス達のぎこちなさが迷走し始める。
目的は単純だ。ギゼリックの《深淵》について、使えるようになったきっかけを探り、世界樹をあの暗黒に染めようと企むナジャの関わりがあるかどうかを聞き出したい。
だが―――既に身内に居る暗黒幼女が深淵に目覚めたきっかけを考えると、とてもではないが気軽に教えてと言える話題ではない。
地雷を踏まないように話題を振ろうとするとどうしても迂遠なものになるのだ。怪訝そうにするギゼリックだったが、一度切り替えて完全に話題を振るのを棚上げしたジェニファーが話し相手になる。
結局料理の皿も殆ど空になった頃、酒が回って彼女の彫りの深い顔が赤くなったところで冥王が単刀直入に尋ねる形となった。
「ん?ああ、あんたら何か今日は変な言い方ばっかしてると思ったら、あたしが《深淵》に目覚めたきっかけが知りたいって?」
言いたくないならそれで構わない。ナジャっていう魔術師がそのきっかけに関わってるかどうかだけでも教えて欲しい。
「それはノーだ。あいつはふらっと現れてこのチカラについて講釈垂れてまたふらっとどっか消えたくらいで、あたしがこの深淵とやらを使えるようになったのはそれ以前の話だし」
「っ―――ナジャと会ったの!!?」
「どうした、探し人かい?あいにく行先みたいなもんは聞いてないし、力になれそうにはないけど」
「いや、最近この国に来たってだけでも大きな情報になる。ありがと……ございます」
手がかりを見つけて興奮するラディスだが、ここが誰の国で誰の城なのかを思い出してとってつけたような敬語が後ろにくっついた。
それはともかく聞き方はなんとか悪手を免れたのか、概ね目的を達する回答は得られた。要はジェニファーと同じで深淵使いは珍しくはあるが居ないわけではない、くらいの頻度で自然発生するという感覚でいいのだろう。
各々考え込むアイリス達を見回し、酩酊の中でも理性的な光を目に宿したまま大本の問いにも答える。
「きっかけだって別に隠すようなことでもないさ。この国の政治に関わってる奴なら概要は知ってる話だしね。
要は政治屋共がそれぞれ自分達に都合のいい王族(神輿)を担いで一度国が割れかけたことがあった。で、身内同士で散々殺し合った挙句、一人生き残っちまった小娘がバカバカしくなって政治屋共も皆殺しにした。深淵は、その時小娘の身体の中から湧いて出た力だよ」
「「「………」」」
無力感。憎悪。絶望。本人はバカバカしさと言っているが、ジェニファーが提示した深淵が共鳴する感情に符合していると見て間違いないだろう。
案の定地雷だったギゼリックの過去を聞いて、クリスやセシルなど素直な子筆頭に沈鬱な表情をしている。
「あー官僚全滅でこの国も終わりかなー、なんて思いながらその小娘は無軌道執政やり始めたんだが……なんの冗談か今ではその小娘はあらゆる規制を破壊した『放埓の王』呼ばわり。規制を破壊も何も、運用してた人間が全員土の下ってだけだったんだがね。
ま、そんなお先真っ暗の国で頭として民を纏め上げるのには役に立ったよ、この見るからに不吉な力はさ」
「力は力。制御さえ出来ていれば、な」
よく考えずとも分裂しかけた国を立て直したという英傑の所業だが、本人には韜晦する程度の過去でしかないらしい。あるいは、国が勝手に立て直ったはただの結果論、というのが本人の認識なのかもしれないが。
内なる人格が暴走するのを封じる為右眼に眼帯を付けている――主にクリスをぶん殴らないように――厨二幼女が皮肉気に相槌を打つと、ギゼリックも同じように冷笑的な表情で返す。
「そういうジェニファーも、確か冥王のことを『主上』って呼んでたね?
教会騎士や神官をぶち殺しまくって賞金首…なんて経歴からして、異端狩りで身内を殺されたクチかい?」
「一族郎党集落ごと綺麗さっぱりな。いや、綺麗な死に顔で逝けた人間などあそこには一人も居なかったが。我が半身の復讐の刃に散った下手人共も含めて」
「「「――~~っ」」」
愛らしい幼女から出る言葉に沈鬱度二倍増し。淡々とジェニファーが語るものだから却ってエグい印象を受け、一部の面々の目には涙すら浮かんでいる。特にセシルや姫姉妹など厨二幼女と仲の良い面々はそれだけにもろに感情移入してしまっていた。
対照的にギゼリックは平静としたままだった。赤の他人のジェーンの悲運は自分には関係ない……ということではない。似たような不幸を経験した者同士のシンパシー、ということでもない。
「我が半身、ね。―――順当に行けばあたしとあんたがぶつかるのは準決勝だ。深淵使い同士の対決、その時を楽しみにしているよ、ジェニファー」
ジェニファーがギゼリックの視線から感じ取り、そして己も確かに抱いたのは―――敵愾心。理由はと問われればうまく言葉にできないが、その感情もまた準決勝でぶつけ合うことになるだろう。
「―――ああ。悪いが手加減はしない」
………。
武闘大会の日程は順当に消化されていき、『冥王スプラッシュガールズ』もジェニファーもギゼリックのチームも無事2回戦と3回戦を突破した。
優勝の願いとしてギゼリックに嫁になれと命じファウスタの王になろうと企んだ商人が集めたチームに勝利したアイリス達が筋肉三兄弟に猛烈に感謝されたり、試合後の『すぷらーーーっしゅ!!』のかけ声がアイドルよろしくお約束になったり、パルヴィン会戦の『殲獄』を覚えていた元帝国の傭兵チームが『黒の剣巫』と対戦するのは絶対に御免だと試合会場にすら現れなかったりと合間合間にイベントもあったが、何はともあれ四強が出揃った状態で最終日に突入した。
「さて数々の激闘を繰り広げてきたファウスタ武闘大会も今日で大詰め、準決勝と決勝が予定されているこの日、泣いても笑っても決着です!!」
「プリシラ、この準決勝と決勝には特殊ルールがあると聞いたのだけど」
「そうだよお姉様。準決勝と決勝を同じ日にやるとなったら疲労や負傷の回復の関係で、先に準決勝を戦ったチームの方がどうしても有利になる。かと言って十分な冷却時間を置こうとしても、観客の皆まで冷却されちゃったら悲しいなんてものじゃないしね?」
『『『そうだそうだーーー!!』』』
ユー、ルージェニア、プリシラも大過なく実況と解説役を務めあげ、一部の観客などはプリシラの軽口に合いの手を入れるほど馴染んでいた。
「この準決勝、ABブロックとCDブロックのチームで組み、最大10対10の合同戦になります!うん、何故か一人チームとか四人チームが居るので実際は6対9なんですけど」
(―――シックス、ナイン。ご主人様が相手であればこのベアトリーチェ、本懐であったのですが)
(……味方からはっ倒したくなる発言やめてくんない?)
「そして合同戦に決着がついた瞬間、その場に残っていたメンバーで決勝戦が開始されます」
「一層戦略性が求められるルールだね。
組む相手は次の決勝の対戦相手だから、いかにそちらに消耗を負わせつつこの準決勝をやり過ごせるかの駆け引きが重要になる。
かと言って、出し惜しんで合同戦にすら勝てないようなら本末転倒。優勝を狙うのはどのチームも同じだろうけど、もしトーナメント戦で準優勝者と準決敗退のどちらが評判がいいかと言えば、当然準優勝者に軍配が上がる」
「武名を上げたいならとにかく決勝に上がることを優先すべきともいえる……なかなか難しいですわね」
(むしろ私達にはうってつけのルールでございますね)
(そうなんですか?ソフィさん)
(決勝に進めたならその時点で、我が勝とうがそちらが勝とうが優勝の願いは変わらないからな。それに―――)
(この試合ではいつも通りジェニファー様と私達で連携ができる、ですね!ばっちりです、お任せください!)
(そういうことです、ふふ)
開催者、つまりギゼリックが狙ったことではないのだろうが、あつらえたようにアイリス達に有利なルールになっている。
だが彼女達の目に油断はなく、六人で円陣を組んでその中心で手を重ねる。
音頭を取るのは当然彼女達の主である冥王だ。
みんな。いつも通り、勝ってきて。
「「「承知!!」」」「「「はい!!」」」
そして控室からゲートを潜り、陽の射す舞台に上がるアイリス達を群集の喝采が出迎える。
「さあ選手入場だーっ!まずはAブロック、『冥王スプラッシュガールズ』!全員が戦う美少女、その姿に魅了されたお客さんが多いのは三日目以降売店に並んだ似顔絵が即時完売したことで証明済!!」
「パーティとしてもパワー型1枚スピード型2枚の前衛三人と、遊撃役と火力役がそれをフォローする非常にバランスのいいチームだね。個々の技量も連携の練度も目を見張るものがある」
「はい、どーもでーすっ!!」
「てか似顔絵って何?いつの間にそんなもん描いてたの?」
「まあまあ。商魂逞しい方なら一日で絵心のある人間を捕まえて突貫で何枚も描かせるくらいなさいますよ」
「そしてBブロックはなんと総勢1名。にもかかわらず1回戦・3回戦ではフルメンバーの強豪チームを一蹴し、2回戦では恐れをなして対戦相手が会場に現れないという大会史上初の珍事。『黒の剣巫』ジェニファー=ドゥーエだー!!」
「その実力はうわようじょつよい、の一言ですわね。優勝者予想賭博、でしたか―――実は生まれて初めてああいったものに挑戦したのだけど、私はあの子にベットしていますわ」
「それ良いのか解説者……」
修道女パトリシア、放浪者ソフィ、女剣客コト、森の妖精姫セシル、冥王の侍女ベアトリーチェ、そして邪教の巫女ジェニファー。
どちらを向いても満員の観客達の下で舞台に上がるアイリス達六人。それに遅れるように反対側のゲートから姿を現したのは、ギゼリックを含む準決勝の対戦相手達だ。
………声援が露骨に減ったのは、まあ美少女率の差故致し方ないか。
「Cブロックからは東方の武芸者集団『天下五剣』が登場!ここまでの対戦相手を全て1分以内に斬り伏せてきた、底知れないサムライ五人衆です」
「トミクニからの人かしら?あそこは近年内乱の絶えない紛争地帯と聞きます。見るからに幾つも戦場を渡り歩いてきましたって風格が出ていますわねえ」
「―――コト=アユカワ。貴様とこうして再び戦える日が来るとはな」
「~~ッ、その甲冑、やっぱりあんたらあの時の……っ」
「そしてDブロック、説明不要。この国の女王様が何やってるの!?ギゼリック陛下と御付きのスゴ肉三兄弟ッッッ!!!」
「これまでの試合を見るに、ギゼリック女王の単体戦力は今大会随一。三兄弟のパワーとタフネスに任せたガチンコ殺法も決して侮れないよ」
剣士集団のリーダーがコトの名前を呼んだことに、殺気を全開にして目が見開かれる。
だがその緊迫感に関心もなく、ギゼリックは空に向けて一発銃声を撃ち鳴らした
一瞬声を忘れる観客達一人一人に向け、女王は叫ぶ。
「さあここからはクライマックスまでノンストップだ。
――――野郎共、瞬きしないで目に焼き付けな。今年の最強チームが決まる瞬間を!!」
一瞬の間。そして、この大会最高潮の、観客一人一人が叫び出す熱狂が聴覚を破壊する。
女王のカリスマは、良くも悪くもその号令にて聞く者全てを狂奔の渦へ駆り立てるのだ。
そして―――開戦のゴングが、鳴り響いた。
サッドライプめ、姑息な巻き展開を……(サ灯墓送)
でもうん、トーナメントやり出したネット小説がエタる理由はなんとなく分かった。
1回戦、2回戦、とお行儀良く順序立ててバトルを勃発させる形式は、余程うまくやらないと展開がワンパターン化するだけなんだもん……それこそ全出場者の設定をちゃんと組み立ててそこからそれぞれのストーリーを群像劇的に展開するようなガチ構成しない限りは。
あるいはトーナメントの裏で陰謀が進行して……とかいうそもそもトーナメントが主題じゃないパターン。でもそれトーナメントである必要性ありませんよね?