切りどころ見失ったー!
そしてこの章開始から今回の前半部分までで人の首がどーこーという話を色々品を変えながら描写し続けたのは我ながらサイコさんだなと思いました(R小学生並の感想)
公国軍とアイリスは無事教会騎士の追撃部隊を退けました、まる。
………流すようで申し訳ないが、残念でもなく当然という話でありちゃんと描写すると更に申し訳ない情景になってしまうので勘弁して欲しい。
絶対に(首)ポロリがあるよ!のトラウマで騎士達の士気が底を突いていたのもある――それでも作戦行動が取れるあたり流石とフォローは出来る――が、そもそも昨日から優秀で勇敢で人望の厚い人材から順番に指揮官という部隊の頭脳になったと思ったら物理的に頭脳だけになっている状態なのだ。
如何に練度が高い兵だろうと、特に即時の判断が機動力と命運を分ける騎馬部隊において的確な指示が出せる人間が居なければその実力は発揮し切れない。
まして今日の戦闘でも『首狩り童女(ヴォーパルアリス)』に指揮官が真っ先に首を落とされ、しかも今まで一撃離脱していた幼女が本格参戦して他の兵も斬殺し始めたのだからそれだけでもう大混乱だ。そしてそんな隙を見逃すプリシラではなく、戦況はどちらが撤退戦をやっているのか分からない有様にまでなっていた。
そして進退窮まった騎士団の部隊が追い立てられながら完全に散り散りになるのを見送り。
「…驚いた。まさかあの教会騎士どもを返り討ちにできるなんてね」
修羅場を潜り抜けた安堵と高揚の声が公国軍の至るところから上がる中、ギゼリックが誰にともなく呟く。
あくまで結果として、だが。公国軍は大陸最強の聖樹騎士団を相手に一当てして引き、功を焦って突出した部隊を叩いて漸減させたという戦術的勝利を得た形になる。
これは彼等の輝かしい戦歴にこれ以上ない泥を付けた形だ。
サッカーボールに転職する前の騎士団長が言っていたように、彼らは教皇の代理として剣を振るう存在とされており本来“負けは許されない”。
『銀髪鬼姫』の首に懸けられていた賞金も、教会の威信を貶められたからこそ。
それまで聖樹騎士団は常勝の存在として諸国に恐れられていたし、教会の威光も相まって畏怖の対象であった―――そしてそれを笠に着て、異端審問に名を借りて他国の領土で好き勝手する高圧的な振舞が有形無形の恨みをばら撒いているし、ジェーンの一族に襲い掛かった惨劇もその一つでしかない。
それでもそれが許された……否、不満を抑え込んでいたのは武力・信仰の両面で相手を威圧する事ができたからだ。
だが、今の公国軍兵士にとって教会騎士団は確かに強敵ではあるが、戦闘開始と同時に指揮官が幼女に斬首される出オチ集団である。
衝撃的なスプラッタシーンもこう何度も見せられれば最早様式というかシュールさが先に立つというか。
教皇の代理を名乗りながら無様を曝し、威信を保つのに完全に失敗した教会騎士団と、そんなものに名代をさせた聖樹教会に過度な畏れを抱く者はもう兵士達の中にはいない。
例え教皇直々に破門がどうだとか言い出したところで、大半の者の脳内では『……で?あの教皇の首はいつ飛ぶの?』という考えが多かれ少なかれ浮かぶことだろう。
………裏を返せばそんなことにならない為に、騎士団長の首を取られた聖樹騎士団は二次被害を覚悟で追撃を強行せざるを得なかったのだが、逆効果となるのが薄々事前に分かっていても突っ走るしかなかった組織の悲しさである。負けを取り戻すと息巻いて更に賭け金をぶち込む典型的ギャンブルをやってはいけない人達の思考とも呼べるが。
『―――貴様らの声が教皇の声なら、貴様らの首も教皇の首でいいんだよな?』
ジェニファーの言葉は、つまりこういうことだった。
この程度の嫌がらせ(注:人の首が物理的に飛んでます)では冷まし水にもならないが、聖樹教会を貶められるならとりあえずやってみようの精神である。
とはいえ、これを戦果とカウントできる程度にはジェニファーの齎した結果は大きい。
次に聖樹騎士団とぶつかることになっても、兵士達は臆せず戦えるだろうから。
「ジェニファー殿には、感謝しなければな」
一時とはいえ勝利に酔う部下達に好きに騒がせながらも、ゼクトは複雑な面持ちで目を伏せた。
年端も行かぬ幼女が残虐ファイトをすることに忸怩たる思いを抱く程度には良識的で、妻との間に子供に恵まれなかったこともあり一層その思いは強い。
そんな王に揶揄うような女性の声が掛かった。
「こらこら。王様が勝ったのにそんな白けた顔してちゃだめでしょー?」
「―――フランチェスカか」
「ほれほれー、勝利の舞ッ!なんちゃって」
おどけるように舞というより決めポーズみたいな見栄を切ってウインクするフランチェスカ。
戦場にあって華として振る舞う彼女も、殺し合いの最中で思うところが無い訳はないのだが、それを表に出さないところは素直に強いと感じる。
「これジェニファーと一緒に考えたの。小さい子供には受けがいいのよね」
「……君は、彼女のことをどう思ってる?」
「ジェニファーのこと?……んー、分かんない!」
「はぁっ!?」
「あの子、私と同じで『いけそう、やっちゃえ!』で動いちゃう子だから。
今回のこれも、どこまでちゃんと狙ってやってたかは本人にも分かってないんじゃない?」
手段も言動も過激だし、目的を実現させる道筋を考える能力は高いが、本質的に走り方がふわふわしてるのがジェニファー。
踊り子という明日の保証のない芸妓の世界に飛び込み、その道を突き進んだ結果冥界にまで行ってしまったフランチェスカにとって分からない思考ではないあたり、妙な親近感も湧くものだ。
………かつてシラズの泉で見た巫女舞の姿が未だに忘れられない、というのが一番大きくはあるけれども。
「そういうところ、放っとけないのよね。何度言ってもはしたない言葉遣いはやめないし、今回みたいにちょっと目を離せば変なところで好き勝手やってるし、滅茶苦茶手の掛かる子だけど……そういう子の方が可愛いっていうか構いがいがあるっていうか」
「そう、だな……」
「だから大丈夫よゼクト。貴方が心配しなくても、あの子には私達アイリスが居るから」
ジェニファーも、フランチェスカがお洒落させようと買い物に連れ回したり下ネタを言うなとほっぺたを引っ張ったりしても、抵抗は口だけで逃げる様子もなく甘んじて受け入れるあたり懐いてはくれているのが分かってつい構ってしまう。
他の仲間達もそれぞれの理由で厨二幼女のことを憎からず想っている。主である冥王も居る。もし道を間違えたり窮地に陥ることがあったら、皆で絶対に助けに行くことだろう。
だから大丈夫と、桃髪の踊り子は優しく微笑んだ。
それに目を細めて、ゼクトも納得したように相好を和らげる。
「フランチェスカ。君は、本当にいい女だな」
「あら、また口説く気?せめて冥王の三倍はいい男になって出直してきなさいな。その時は改めてフッてあげるから」
「それでもフラれんのかよ!?はいはい、ごちそうさま」
盛大な惚気に砂糖を吐き出したい気分になりながら肩をすくめ、公主ゼクトは気持ちを切り替える。
公国軍が帝国や教会の主力と戦っている間、反帝国同盟も着々と国境防衛線を突破して集結しつつある。発起人であり盟主でもある公国が後れを取る訳にもいかず、早めに軍を進める必要があった。
目指すは帝都―――そこに、諸悪の根源である皇帝(天使)が居る。
…………。
その頃、ジェニファーとは別口で冥王の許可を取り単独行動をしているアイリスが居た。
クリスティン=ケトラ。聖樹教会を出奔して冥王の下に侍った上級神官であるが、この時ばかりは一度神官としての己に立ち戻っていた。
帝国の裏に居る天使の思惑を考えれば、この戦争は人類の行く末を左右する戦いになる。そんな大舞台で、聖樹教会はよりによって帝国(人類を滅ぼす側)に加担するために騎士団を派遣してしまったのだ。
人々の生活と信仰に根付いた聖樹教会の教えではあるが、アイリスとして世界を巡ることでそれが人々に心の安寧と救いを齎すばかりではないとクリスは知ってしまった。それどころか権威のみならず権力を肥大化させた組織としての構造的欠陥と、暴走した武力はジェーンの一族のような惨劇を生み出し、挙句に世界に殺戮を振り撒く帝国の凶行にすら手を貸す有様になっている。
流石に最後の件は一線を越えてしまっている。知らなかった、で済まされる問題でもない。
その真意を探るため、そしてせめて教会の参戦を止めるためという名目で、彼女は教皇の座する聖都へと帰還したのである。
「帝国の背後には天使が居て、人類抹殺を企んでいると?しかしその証拠は?
貴女らしからぬ大した世迷言ですが、仮にそれが事実だったとしても、証拠もなしにそれを教会の指針に反映することなどどだい不可能」
(証拠、証拠と……ちょっと理屈を覚えた学生ですかッ!)
出奔していても、そして邪教の輩と行動を共にしている疑いが掛けられていても(事実ではあるが)、かつての学び舎を共にした仲である教皇との謁見は叶った。だが、その感触は芳しくない。
かつて先輩と慕った相手ではあるが、だからこそ弁舌を持って糾弾する。
「証拠ならば、冥王様が信頼するに値すると、天使の思惑を看破して見せたあの子の機知が信用に値すると、そう信じた私の心が証拠です。
………だいたいそうでなくとも、大義名分も民草への配慮も無い。非武装で和平交渉に赴いた国主を惨たらしく殺し、戦の作法すらも存在しない!
それが今の帝国の行いであることは知っているでしょう。そんな帝国に援軍を送って支援する?百歩譲って諸国の争いに介入しないというならまだしも、一体どういう了見ですか!?」
「帝国あってこその今日の聖樹教会の繁栄です。私達は代々の皇帝の支援によりこの地に領を賜り、この聖都を守護する使命を全うできている。
そう簡単に不義理を働いて、代々の深い友情を築きあげた歴代の教皇になんと申し開きができましょうか」
「隣人が過つなら此れを正すべしというのが教典の教えだと思っていましたが、どうやら解釈違いでしょうか。まさかお金をくれる相手に媚を売り、魂を売れというのが教皇様の解釈とは思いませんでしたが」
「教皇である私が、上級神官“風情”であるあなたと教典の解釈について論じるつもりはありませんよ。クリスティン=ケトラ」
熱くなるクリスに醒めた目を向ける教皇。
その眼光は鋭くも記憶にあった鮮やかさは失っており、褪せた色彩は立場が隔たれた年月に歩んだ道の違いを嫌でも思い起こさせた。
「その決定が戦禍を更に拡大させ、命を無為に散らせる幇助となるとしても、ですか」
「……背負う覚悟はできています」
「―――は?」
「く、クリス……?」
思わず教皇が学生時代の振舞に戻ってしまうほどに、温厚なクリスとは思えないドスの利いた「は?」が漏れた。
そして彼女の内面は、そんな一文字では到底表せない程に荒れ始める。
「背負う覚悟。そうですか、背負う覚悟ですか」
アシュリーは先に挙げたように帝国に無念の中で旧主を殺され、ずっと苦しんでいた。
ジェーンはそれこそ心が壊れる程に、聖樹教会が異端と認定したというそれだけの都合で己の全てを踏みにじられた。
どちらもアイリス結成最初期からの付き合いで、その上ジェーンの憎悪の程は直接向けられたクリスこそが強く実感している。ジェニファーは無意味な責任感と言ってクリスを寧ろ慰めようとしてくれたが、上級神官であることと己の信仰に対してあれ程葛藤した日々はない。
彼女達二人だけでない、帝国の侵略戦争と教会の歪みが世界中で生み出している悲劇を。
“覚悟”なんて軽い言葉で背負えるというのか。
ステンドグラスが煌びやかな大聖堂は、今は教皇とクリスの二人きりだが、結界により一年中過ごしやすい温度に保たれている。さぞぬくぬくと過ごすことが出来ているだろう。
建物の中で過ごす日々で日焼けと無縁の教皇の肌は白く、その手は武具や農具を振るった血豆も爪の間に土が入り込んだ痕跡もない“きれいな”手だ。教会の最高権力者であることを示す厳壮なる法衣は、人を襲う魔物や侵略者の返り血どころか泥に塗れたことすら一度もないだろう。
無論それが全てと言う気は更々ないが―――そんなお綺麗なお嬢様に何かが背負えるようには、クリスには到底思えない。
そもそも、誰かが誰かを殺すということ自体、その根幹を一個人が背負うにはあまりに重すぎる業だというのに。
「踏み散らした道端の花にも命があったのだと、そんなことも考えずに歩む道の先に光がある筈もないでしょう。
―――聖樹教会が帝国を支援したことは、帝国の外にいる全ての教会を信仰する民への裏切りだと、どうして考えられなかったのですか」
「だって枢機卿達が―――、こほん。いい加減その綺麗事を引っ込めなさい、クリス。
この聖樹教会という大きな組織を守る為に、必要な判断であることが分からない貴女ではないでしょう?」
「……そうやって、現実に屈したんですね、貴女は」
漏れてしまった教皇の本音。如何に優秀で恵まれた血筋であっても、年若い彼女が教皇というだけで聖樹教会の全てを掌握している訳ではないのだろう。
信仰という大義名分に酔って略奪を働く末端も居れば、己の利益の為に発言力を行使する政治屋も居る。人間に化けて破滅へ誘導しようと目論む天使すら紛れているかもしれない。
そんな中で己を貫き通すというのは難しいだろう――だが、それが出来なかった“先輩”に、クリスは失望の眼差ししか向けられなかった。
説得が困難であることは最初から分かっていた。それでも罪人扱いを承知でクリスが此処に出頭したのは、世界樹炎上で教会も大変だった時に職責を放棄した罪悪感と、“先輩”なら或いは応じてくれるのでは、という一縷の望みがあったからだ。
勝手な期待だったのは分かっている。それでも、クリスが彼女に抱いていた憧れと温かい想いが、擦れてしまった色彩同様に褪せていくのを感じる。
「………仕方ないじゃない!世界樹が燃えるなんて教会の存在意義すら問われかねないこの時に、適当な誰かに罪を被せるのも。守ってくれる相手が勝てるように強い相手に付くのも、聖樹教会(わたしたち)が生きる為には仕方なかったことじゃない。現実を見なさいよ、クリス!!」
―――仕方なかったと。組織の維持の為に、切り捨てられる民の犠牲など些細な問題だと。
―――そうやって自分を誤魔化せば(信じれば)、罪悪感も責任感も抱かなくて済む(救われる)、と。
―――それが許されるじゃないか、最大主教(わたしたち)は、と。
それはかつてジェニファーが皮肉気に口にした戯言そのものであり。
クリスはそんなもの許されなくていい、過ちは過ちなのだと拒絶した理屈だ。
なのによりによってその理屈を教皇が口にした瞬間、クリスは聖樹教会に未来を感じなくなってしまった。
だからここからは、説得ではなくただクリスが己の激情をぶつけるだけの時間。
「……現実?そんなものは誰にだって見えてます!!」
「―――ッ」
「皆自分に見えている現実があって、その現実の中で誰もが頑張って生きているんです。
だけどこの世界は優しくないから。現実だけじゃ辛すぎるから―――」
続ける言葉は、ジェーンの悲劇を知って以来、信仰に迷い悩み続けたクリスの答え。
それは、奇しくも異教の巫女が掲げた“綺麗事”だった。
奇しくもというより――あるいは祈りの本質というものが、元来そうであるということなのか。
「―――“それでも”、って!!
“しかし”でも“だって”でも、ましてや“仕方ない”なんかじゃなくて!!
“それでも”、明日は今日より良い日になりますように、って。もっと世界が優しくなりますように、って。
その為に人は祈るのでしょう?
それが無意味なんかじゃないって、希望を持っていいんだって、そう示す為に教えが在って、聖職者(わたくしたち)が居るのでしょう!?」
教義とか、祈る相手とか。そんな些細なことで人は争うけれど、本質的にはたったそれだけ。
人間という弱い存在が、それでも明日に進み続けるために信仰があるのだ。
「現実に屈して賢しい振りをするのなんか簡単です。
でも聖職者を名乗るなら、そんなこと許されていいわけがない―――!!」
「………言いたいことはそれだけですか?
教皇たるこの私に向かって聖女面で説教など烏滸がましい。
そうまで言うならば、お望み通り信仰に殉じさせてあげましょう。貴女の信じる邪神にね」
クリスの言葉に何も感じない、ということはなかったのかも知れないが、冷たい教皇の仮面を張り付けて“元”上級神官の訴えを切り捨てる。
分かっていた。もう目の前の相手は“先輩”ではなく、“教皇様”でしか居られない女なのだと。クリスに己の行動に対する後悔はない。
けれど。
(ごめんなさい、冥王様―――)
教皇の合図で聖堂に入ってきた騎士達に引っ立てられ、末路は目に見えている。
戻ってくると、無茶はしないと約束した愛しい人にもう会えないことは、少女の心に深く傷を刻み続けるのだった。
正直教皇とか騎士団長は原作8章以降
「冥王様に冤罪着せたのは本人が許してるからいいとして、人類滅亡の片棒担ぎかけたのと戦争の拡大に一役買ったのに何の報いも受けないのも百歩譲ってまだいいとしても、何でこいつら頼れる味方面してんの?
あと『ナジャの処分を教皇様が決めるなら納得できます』とか何の冗談?アナスチガルも含め自分の責任とかちゃんとしようと苦悩してる中、こいつらはぬくぬくとふんぞり返ってるようにしか見えないんですが」
みたいな感想(※あくまで私見です)があるんで扱いめっちゃ悪くなります。
騎士団長は一瞬で苦痛なく死ねて既に故人なのが有情説もありますが(パスみ