あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 更新遅れて申し訳ない。
 また活動報告で愚痴ってしまった……。




無垢の光翼9

 

 ジェニファー、帰らず―――。

 

 皇帝に成り代わるのみならず、皇都そのものを蝕んでいた証左として市民一人一人に洗脳を施していた大天使マリエラ。

 元は武器の心得もない一般人とはいえ老人から子供に至るまで全てが暴徒と化した地獄絵図は、雪崩れこむ連合軍の足を止めるには十分で、マリエラと対決したのが少数精鋭のアイリス達のみとなってしまったのは致し方ないことだっただろう。

 

 そのアイリスも、殺さずに相手を無力化するのに向いたメンバーが何人か最終決戦に参加できずに欠けている。

 数がやたらと多いだけに混乱の中ばらばらになってしまっていたが、マリエラを追いやり洗脳が解けるまでの時間彼等を食い止めることは、容易とは言えずとも命を落とすような窮地というほどでもなかった筈だ。

 トラップや地形を生かして足止めに集中したティセやプリシラなど、彼女達の活躍を腐す訳ではないが、正気を失った群集とはいえあの武神幼女が素人相手に撤退すらできないとも思えない。

 

 だが、現実に暴徒鎮圧組が一人また一人と無事陥落した皇城で休息を取る冥王一行に合流する中、ジェニファーだけが帰還の兆候も見せない。

 おかしいと面々が騒ぎ始め、ユーが彼女の種子の反応を探ろうとするが―――結果は、『種子は今ここに居るアイリス達のもの以外、皇都には存在しない』というものだった。

 

 死んで種子を抜き取られた―――とは、誰も思わない。否、可能性として存在するとしても信じたくはない。

 だが、冥王の巫女であり騎士であるジェニファーが、『主上』に対して断りもなく行方をくらますというのもそれはそれで考えにくい。

 

 困惑と心配に苛まれる一同だったが、結局は皇都陥落戦での犠牲者たちの死体の中に銀髪幼女のものが混じっていないかを念のために確認するだけの期間を置き、冥王一行は学園への帰路につくのだった。

 

 

 

 

 戦勝に湧く連合軍の連日の宴を背にしたアイリス達の表情は、とてもではないが晴れやかとは言い難かった。

 ジェニファーの安否もそうだが、今回マリエラを仕留め損ない、帝国がかき集めた種子も全て持ち逃げされ、暗躍していたであろうナジャの問題も残っている。

 

 激しい戦争を戦い抜き、大天使相手に死闘を繰り広げた彼女達に戦果と呼べるものはあまりにも少なく、そして冥界に辿り着いても今回の戦死者の魂が大量に溢れている光景が彼女達の表情をより憂鬱にさせる。

 せめてシラズの泉で黙祷をと、そんな時だった。

 

「あれ、こっちに近づいてくる魂がありますよ?」

『………♪』

「随分人懐っこいというか」

「他の魂とどうも毛色が違うといいますか」

「~~~♪♪」

 

 パトリシアの言ったとおり、仄かに白く輝く球体状の霊魂がふよふよとお出迎えするように近付いてきては冥王の周りをぐるぐる回る。主人が帰ってきて歓びはしゃぐ子犬の姿が何故か連想された。

 ウィルやソフィのコメントに何故か得意そうに揺れるその球体は。

 

 

「はっ。まさか、ジェニファーさんなんですか……!?」

「なんて変わり果てた姿に……!」

『~~~~(怒)』

「あうちっ。いた、……くはないけど、でもなんでクルちゃんだけ!?」

 

 

 最悪の想像をしていたファムがぽろっとこぼした推理がとても機嫌を損ねたのか、クルチャにてしてしとタックルを繰り返す。

 見かねてということなのか、そこに冥王が泉のほとりに咲く白い花を近づけると、その魂は肉体を―――“生前の姿”を取り戻した。生まれ直した、というのが正確かもしれないが。

 

 それは確かにアイリス達にとって見覚えのある人物で―――。

 

「あれ、ジェニファー今度は金髪?」

「目も青くなってます」

「………胸、大きくなってる」

 

「ちっがーーう!!いい加減にしなさいよあんた達!?」

 

「そんな……声まで変わって!?」

 

 

「~~~~っ、どこを!どう見たら!このリディア様があの銀髪チビに見えるのよ!!?」

 

 

「「「いや、ついノリで……」」」

「ああああもう、アイリスはこんなんばっかりか!?」

 

 最期のあのしんみりした感じは何だったのかと言わんばかりに天使――魂を持たず生まれ変わる筈のなかった彼女は金髪を掻き回して怒りを表現するが、妙に迫力がない。

 奇跡と引き換えに威厳を喪失したのか、或いはそんなもの初めから持っていなかったのか、どうにもきゃんきゃん鳴く子犬のオーラが彼女の後ろに生えている。

 

 そんなリディアだったが、彼女をいの一番にからかってくるだろう性悪幼女の不在に気づき問いかけた。

 

「てかあの銀髪チビはどうしたのよ」

「「………」」

「ジェニファーなら、迷子」

「まったく、どこふらふらしてるんだか…っ」

 

 揃って落ち込むアイリス達。返答したラウラやラディスの声にも張りがない。

 それに少し眉を下げた転生天使は、少し閊え気味に申し出る。

 

 

「……そ。ならこの私が、代わりにあんた達の戦力になったげる」

 

 

 言葉面こそ上から目線だが、裏腹に不安でおどおどしているのが滲み出る声音。後ろの子犬のオーラは、何故か『拾ってください』と書かれたみかん箱に入っていた。

 

 

「―――どの面下げて、と言いたい気持ちはある」

 

 

「アシュリー……」

「ぅ………」

 

 これまで敵同士だった、それもアシュリーにとっては旧主の仇。

 そんな自分が仲間にしてくださいと言ったところではいそうですかと受け入れられないだろうという考えはあったのだろう。

 紫髪の女騎士が険しい顔で前に出ると、リディアはその勝気な顔を歪め―――腰を曲げて、頭を下げた。

 

 そこに、傲岸な天上人の尖兵だった頃の面影はなく。

 

「わかってる!でも、冥王と約束したの。この約束が果たせないなら、生まれ変わった意味なんて、無いの……っ!」

 

 彼女と直接の面識のある何人かは、その変貌ぶりにたじろいですらいる。

 表情を動かさないのは、冥王とアシュリー。

 

 冥王はリディアを受け入れたいと考えているが、アシュリーの気持ちを無視する訳にもいかないから仲裁に入らない。

 そして、アシュリーは。

 

「………落ち着いたらでいい。この数か月、何を見て、何を思ったのか。

 マリエラに反逆してまで何を望んだのか、ゆっくり聞かせてくれ。それで判断する」

 

 怒りなら後輩が伝えてくれた。マリエラに勝利する突破口を拓いたのはリディアの命懸けの覚悟だった。彼女の言った『約束』が何かも主から聞いている。

 ねぎらいの言葉一つ受けた覚えのない上司の命令に忠実だっただけの下っ端天使、それをずっと恨んでいられるほど、アシュリーは甘さを捨てられない。

 

「………いいの?」

「よくはない。……なんて言ったら、叱ってくれる人達が居るからな、今の私には。

 エリーゼ様も、ジェニファーも、そして主も、きっと―――」

 

 そういってかつて主君を殺された騎士は、柔らかい笑顔でリディアに手を差し出した。

 その手を取り、か細い声で天使は言う。

 

「―――あり、がとう」

 

 これも彼女にとって一度も言ったことのない言葉。けれど、あの死の恐怖から逃げる旅の中で何度か聞いた気のする言葉。

 人と交わり、人の心を知った天使は、無垢でいることを辞めて人と共に歩み始める。

 

 アシュリーがいいと言うなら、言うべきことは何もない。

 彼女の存在はアイリスに受け入れられ、新たな戦力を加えまた活動を始めるのだった。

 

 

 いなくなった幼女の席が、空席のままで、今までとは違う学園生活が―――。

 

 

 

 

………。

 

「無い、……無いッ!!?」

 

 これまでの旅の思い出、増えた小物。

 それらを傷つけぬよう脇によけながらも、部屋の全てを引っ繰り返す勢いでユーは自室の“何か”を探している。

 

 何度も何度も同じ場所を漁り、家具の上や裏を確認し―――そもそもこの部屋にそれは存在しない、という自身の感覚を必死に否定して《世界樹の精霊》は焦燥に染まった表情で捜索を続けていた。

 この部屋にずっと隠していたモノ。自身の嘘を白日に曝す決定的な証明。

 

「―――なんで、無いの……!?」

 

 今回の旅に出かける時は確かにあった。ジェニファーがいなくなったと騒いでいた辺りでもまだここに残っていた筈だ。けれど今この部屋に、ユーの最大の隠し事は忽然と消失している。

 

 正直言って、みっともなく床に這って棚の下を確認しているのも殆ど現実逃避のようなものだった。

 だって、このまま自身の手を離れた“それ”が最悪の形で発見されるようなことがあれば、あれだけ待ち望んでいた幸福な現在(イマ)が全て瓦解することになる。

 

 非難されるのはいい。辛いだろうが、ウソつきには当然の罰だ。けれど、愛する人にまで冷たい目で見られるような日が来た時、ユーは自身の自我を保てる自信が無かった。

 

「どうしよう、どうしようどうしよう!なんで……っ!!?」

 

 顔面を蒼白にし、目を虚ろにしながらやがて身を小さくして蹲る。

 終わりの日が近いのだという恐怖から、ただただ目を背けながら。

 

 

 

 そしてこの数日後、ジェニファーの私室を掃除に入ったベアトリーチェが、持ち主の小さな背に合わせた勉強机の上に一枚の手紙が置かれているのを怒り心頭で騒ぎ立てることになる。

 

 

 そこには、幼女らしい下手な字で『退学届』と記されていた―――。

 

 

 





 第七章完。ユーの私室から持ち出されたモノとは?そして持ち出した犯人は果たして!?


 ちなみに、冥王の祠の清掃・管理のため、冥界の門をフリーパスで使える幼女が居る(ラウラコミュ参照)のは関係ないと思います、たぶん。

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