原作第八章はウィルがすっごくいいキャラしてて好き。
パンチの利いた個性は持ってないけど、それでもあのラディスとのやり取りだけでストーリー上絶対いないといけない子になってた感がいい。
………ちなみにこの作品ではいつも通り原作そのまんまでしか書けない箇所は端折る予定なので、原作未プレイの人は是非原作の方も。
「……パルヴィンの大聖堂、風穴空いてたよ」
「旧帝国のは木っ端微塵だったね」
冥界、エディア・ローファ樹理学園の教室にて。
祖国の伝手を生かして、各地の冥王の祠を通じて情報収集に跳んでいたパルヴィンの蒼髪姫プリシラと元帝国貴族令嬢クレアの報告に、揃っていたアイリス達は困ったような苛立ったような、微妙な反応を返した。
ハジャーズの大聖堂爆破から数日。大陸の中央と西部においても、聖樹教会の重要拠点が相次いで破壊されたことになる。
最大主教として人々の信仰を集めていた教会に対するテロの発生は、民衆に大きな不安の種を植え付ける―――ということもなく、街の人々は案外と落ち着いた様子だったという。
特にパルヴィンは直接帝国の侵略を受けあわや滅びの危機に瀕していた国であり、それを唆したのが聖樹教会という“真実”が知れ渡ってしまっているため、義憤や復讐の感情からむしろ正体不明の犯人に同調的なくらいであった。
そのことについては、プリシラが聖樹教会の信用を落とすべく前々から国内で情報工作を行っていたことも関係しているだろう。
………《世界樹の種子》の探索を使命とするアイリス達にとって、大聖堂爆破というのは確かに一大事件ではあるが、それだけならあまり重要視して対処するべきことでもない。精々クリスやパトリシアが教会の一員として助けになれればと言って数人グループで動く程度だっただろう。
けれど、そうもいかない事情がいくつかあった。
一つ、ユーの種子の探知能力が働かなくなっていること。
これまで世界の壁を超えてすら大雑把にでも種子の位置を追えていた彼女の感覚が、『何者かに妨害されている感じがする』らしく、元凶を排除しなければ使命に取り掛かることすら難しい状況であること。
一つ、行方不明のジェニファーの捜索。
大聖堂には当然そこらの兵卒とは比べ物にならない実力を持つ教会騎士が詰めていた訳で、そこを襲撃して結界の張ってある施設ごと破壊する、ということがやれる人間は限られてくる。
その点あの巫女幼女は該当するし、復讐という動機だって十二分に存在する。今更ジェニファーがアイリスを脱退してまで聖樹教会へのテロに邁進している、というのもそれはそれで違和感があるが、まるきり無関係とも考えにくい。
そして、最後の一つ。
「―――これではっきりした、のかな。ファウスタにあったナジャの隠れ家の地図、それに印が入ってた箇所と被害に遭ってる大聖堂の位置が三つとも重なってる」
魔術師ラディスの師匠であり、《深淵》という闇の力に心を同化・浸蝕されたナジャ。
かつてエルフィンの森で魔物を大発生させ、その原因である深淵を世界中に蔓延させようと語ったドワリンの大魔導士。彼女が残した手がかりと符合する状況は、否応にも彼女の暗躍を予感させた。
「世界樹の力……エテルナが特に多く噴出している場所、でしたか?」
「樹泉(じゅせん)って呼んでる。正直そこがなんで全部聖樹教会の大聖堂になってるのかはいまいち分かんないけど」
「………私も存じ上げません」
予想は付くけど、とラディスはクリスと深刻げな顔を突き合わせる。
教皇と同じ学び舎でエリート教育を受けた上級神官のクリスですら知らない聖樹教会の秘匿案件というだけで厄っぽい臭いがするが、蓋を開けない訳にもいかないだろう。
「地図に描いてある樹泉の位置は、あと三つ。その場所にある大聖堂も標的になるものとして考えれば、まな板に先回りできるかも知れない」
「となると、最も手こずると思われる大聖堂で網を張るのが確実でしょうか」
制服姿のアイリス達の中で、一人メイド服の教師ベアトリーチェが呟くと、全員の目が教室の中央に投影された地図の一点に集中した。
サン=ユーグバール。
聖樹教会の聖地にして、もはやなき教皇領の中心に位置する総本山。
ナジャの企みが具体的にどういうものかは分からないが、達成させたら世界が無茶苦茶になるものであるだろうことは想像できる。そうである以上、ラディスの因縁に関係なくアイリス全員の意思はそれを止めることで一致していた。
そして、その聖地では。
「枢機卿、またも新生帝国軍の兵が!」
「―――虚仮おどしだ!どうせ奴らに結界は破れん!!」
「しかしこのままでは糧食が足りません。援軍のあてもなく……」
「分かっておるわ。だが、この地だけは俗人共に明け渡す訳にはいかんのだ!!」
各国共同統治が決まっており、それに教皇も同意した聖都であるが、絢爛な白の法衣を纏った初老の男が残存する教会騎士団の戦力を糾合してこの地に立てこもっていた。
枢機卿―――皇帝の選出にすら関与できる職位は、極北の小島送りが決定している教皇を除けば聖樹教会において最上位のものである。それも現在の民衆の支持を失った教会では、どれほどの権威になるのかは果てしなく微妙であるが。
現に彼がやれているのは、聖都の強力な守護結界に閉じ籠り、明け渡しを求めて包囲しているゼクト旗下の新生帝国軍を精一杯城壁から威嚇するだけ。
「くそ、くそ、くそぉっ!!あの呪われた邪教の娘さえいなければっ、よしんば帝国が敗けようとも立ち回れたというのに。
教皇も教皇だ!聖樹教会の使命も忘れ、何故あんな連中に諾々と屈した!?」
包囲している敵軍を払いのける戦略的な見通しも立たず、他人に苦境の原因を求めて呪詛を吐きながら奇跡が起こるのでも待っているだけ。そんな聖人とは程遠い姿に、実際に奇跡が舞い降りてくれるとも考えがたかった。
寧ろ地上において奇跡を起こす者がいるとすれば冥王ハデスで、その姿を間近で見てしまった教皇の心が完全に折れてしまったことや、そもそも巫女幼女の憎悪を生み出したのは彼らが手駒としていた異端審問であることを考えると、彼の憤激は理不尽ないし的外れとしか言いようのないものであったがそれを指摘する者は当然居ない。
戦況を報告しにきた神官も下がらせ、祈祷で気持ちを落ち着ける―――というより現実逃避する為に祭礼の間へと向かう。
外界の苦境が嘘のような、神秘的な演出が凝らされた大聖堂。
先日教皇とクリスが対談した場所だが、地位の低い者が濫りに立ち入ることのできない領域であるため現在の聖都でここに来るものはいない。
その筈だった。
「貧するが故祈る、か。まあある意味これ以上ない敬虔な祈りではあるな」
「っ、何者だ!?」
「―――ダークアイリス。《天庭》に爪を裁て、その頸木を引き裂く叛逆者」
聖堂の中心、ステンドグラスが分光しつつも日差しを集める白い床に、その黒衣の女性は立っていた。
鉱石から掘り出したままのようなくすんだ銀の長髪。顔はヴェールに隠されて唯一覗くは嘲う艶やかな唇。喪服を思わせる漆黒のドレスは、しかし妖艶に開いた胸元と肩や腕、胴を飾る紅の装甲が頽廃と悪意を滲み出させている。
「っく、くせも――!?」
「おっと。そこで大人しく見ていてもらおうか?その首が繋がっていることに、意味を見出しているならの話だが」
咄嗟に叫ぼうとして枢機卿の皴首に突如虚空から紫紺の刃が突き付けられる。
首だけでなく、一瞬の内に腕や背、膝裏など七か所に“持ち手のいない”稲妻型の奇刃が当たり、彼は自分の命が目の前の闖入者の意思一つで簡単に消されるものになっているのだと戦慄の元に確信していた。
そんなつい先日まで最大主教の権力者の座を恣にしていた男を嗤いながら、女は笑み含んだ声で滔々と諭す。
「安心しろ、今日此処に来たのは我だ。あの魔女なら帝国の大聖堂のように凄惨に血を見るところだが、我ならもう少し綺麗に壊す。
貴様等が無様に足掻くほど民衆の信仰が離れるなら、殺すなんて勿体ないしな。
我はその姿を心より応援する者です……なんて」
「帝国……?っ、ハジャーズ、パルヴィン、ドワリンド、ヴァルムバッハ、そして此処………まさか、お前は――!」
何一つ安心できない不穏な発言に、何かを悟ったのか男は狼狽する。
そして突き付けられた刃にも拘らず神聖魔術を使おうとして―――“唇が重い”、まともに動かないという初めての感覚を経験する。
「装界・深淵征刃【ワールドエンチャント・アビスルーラー】」
女が紡ぐその言霊と共に、清らかなる大聖堂の空気を腐食させるは氾濫する黒き靄。
手に宿るは、観測世界を分割する事象の刃。
「―――九天ノ六(セット)、“圧潰巨獄(ヨツンヘイム)”」
ダークアイリスの未だ幼さを残す手に従えられ、九振りの紫紺の奇刃が円形に整列する。
枢機卿には見えなかったが、その刃一つ一つが黒に染まった《世界樹の種子》を宿し、そして円の中心に圧縮された歪みを生む。
時間が捩じれる。空間が意味を亡くす。光すらも囚われるが故に、認識にはただ黒―――そんな極小の一点が―――、
「目に焼き付けろ。教会の発足以来先達が外道を働いて護って来たモノが、貴様の代で傷を負う瞬間だ」
「やめ……ッ」
沈む。聖堂の床を難なく割り、地中を貫通し、その更に深く―――最下層に通っていた世界樹の根を、無残に斬り刻む。
「ああ、ぁぁぁぁぁ~~」
枢機卿は、その瞬間全てが壊れる音を聞いた気がした。
聖樹教会は、そも世界樹の根を悪意ある者が利用したり傷つけたりするのを防ぐ為に組織されたもので、彼とて援軍のない籠城を決行する程度にはその使命に殉じていたのだ。
組織が肥大化し、機能不全を起こしていても、忘れることなく。
けれど―――あまりに現世の利権に関わり過ぎた所為で現状の無様さを招いたのは自業自得、と評するのは酷だろうか。
絶望に目を覆い、反応を失くした枢機卿から興味を外したダークアイリスは、その場を立ち去ろうとする、その時だった。
「まさかナジャよりあんたに先に会えるとは思ってなかったよ――――ジェニファー!!!」
鋭く張りつめた甲高い声が天井の高い大聖堂によく響き、女は仲間の名を呼ぶ少女達の方を向いた。
「……ラディスか。それに、他の者達も」
そしてあっさりと認めた。自身がかつてアイリスとして共に戦っていた『ジェニファー=ドゥーエ』であることを。
顔をヴェールで覆っても、体が少しの年月分成長したものであっても、誤魔化せるほど薄い時間を共にした訳ではない人々だから。
一方で、聖地に到着するや途方もない力の発現を感知して、それにより綻びた結界を破って強行突入した冥王とアイリス達。
急に姿を消して、退学届なんてものを出して。戸惑って、嘆いて、心配して、呆れて、悲しんで、怒って―――でも、ここで突然出会えた。
誰もが一瞬、どういう反応をすればいいのか、どういう反応をしたいのか、それすら咄嗟に出てこなかった。
一人を除いて。
「ジェニファぁぁぁああ~~~~ッッッ!!!!」
恨み。紛れもない怨嗟をふんだんに混ぜた叫び。その主は、貧乳錬金術師ポリン。
彼女はきっとダークアイリスを睨み付け、叫んだ。
「裏切ったのね!裏切ったのよ!!貴女はアリンと同じで、私の気持ちを裏切ったのよ!!」
「アリンって誰……」
ダークアイリスの、小さな身長に見合わぬメロンサイズのおっぱいを、憎悪の目つきで睨み付けていた。
そしてその糾弾を浴びせられたダークアイリスは―――、
「………うっふん?」
たゆん♪
二の腕で両側からバストを挟み込み、右手をむにゅりと張り出た乳房の上に乗せる悩殺ポーズを取ってみる。
ドレスに胸元の生地が乏しい分、随分と生々しく変形するおっぱいの視覚的暴力は、男性から見たら垂涎ものなのだろう。
事実、冥王はすごくいい笑顔で彼女にサムズアップし。
「~~~~#$%&!!!」
ポリンは発狂して声にならない叫びを上げ始めるのだった。
三話しかもたなかった謎の新キャラダークアイリスの正体……。
ロリ巨乳にしたのはこれがやりたかっただけです。一部読者にはあっさり指摘されまくりましたが。