あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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「楽しかったぜアイリスぅ~。お前達との友ぅ↑情ぉ↓ごっこォ~!!」

 とかって憎まれ口代わりに巨乳ロリに言わせてみようかと思ったけど案外シリアスになっちゃったんでやめました。




流星4

 

 

 ナジャの幼気な少し膨らんだ腹を裂くように、斜めに突き立てられた“水晶”。

 その傷口から流れ出すのは夥しい鮮血の飛沫―――ではなかった。

 

「痛みは一瞬……でもないが、これも因果だ。堪えてみせろ」

「うううぅぅ、あああああぁぁぁっっっ!!?」

 

 詰まったガスが逃げ出すように、黒い靄が血の代わりに噴出する。長く闇に身を浸した結果、もはや彼女は見かけ面以外はヒトの体を保っていなかったということか。

 だが、その《深淵》が今ダークアイリスの握る刃を通して抜き取られていく。当然肉体を構成しているモノが無理やり剥ぎ取られている訳だからナジャの顔がこれ以上ないほど苦悶に歪むが、その絶叫にも頓着せずより深く刃を突き刺し、より激しく深淵の噴出を加速させる。

 

「ぐ、ひ……~~~~~っっ!!」

「そろそろか。ほら」

 

「ナジャっ!!?」

 

『―――にゃっ!!』

 

 喉が嗄れ、見るからに危険な痙攣を引き起こし始めた頃にようやく闇堕巫女は刃を引き抜き、僅かに自分より背の低いナジャの体をラディスの居る方へ投げ飛ばす。

 魔力欠乏で脱力した肉体を押して弟子が師匠を受け止める直前、飛び出してきた黒猫がナジャの体にぶつかっては幻のように消えた―――ように見えた。

 

「ナジャ!ナジャ!!?」

「……ぁ、らでぃ、す……?―――ッ、わ、わたしは、なんてことを……!?」

「ナジャ、あんた正気に……!?」

 

 心の闇に完全に浸蝕される前に、使い魔の子猫に託していたナジャの『情動』。それがダークアイリスに大部分の深淵を引き剥がされた隙に、心身の制御を取り戻させる。

 

「七割程度の賭けと見ていたが―――ふん、事故らずに勝ったらしいな」

 

 感情の乗らない平淡な声で結果を見切り、そしてダークアイリスは無造作に歩き出す。

 ナジャが深淵を地下深くから湧き上がらせた結果、未だ禍々しく浸蝕され続ける黒き神樹に向かって。

 

 

「待て、ジェニファー……っ!!」

 

 

 その背中を呼び止める声があった。

 ナジャの魔術で滅多打ちにされ、聖装の鎧を半壊させた紫髪の女騎士が、悲鳴を上げる体に鞭打って立ち上がり剣を構える。

 

「無理をするな、死ぬぞ?アシュリー=アルヴァスティ」

「先輩を付けろ、先輩を……!」

 

 他の昏倒しているアイリスと彼女が負っているダメージに大差はない。

 皆冥王の加護が宿った聖装を身に付けていなければとうに死んでいるレベルの負傷であり、気合で限界を超えているというだけの話なのだ。

 

「今度こそ聞かせろ、ジェニファー。お前は、何がしたいんだ?」

「……汝らの悪いようにはしないさ」

 

 

「そんなことの心配はしちゃいない!どれだけお前の先輩やってきたと思ってる!!」

「………!?」

 

「それでも、何も言わずに飛び出したってことは……言えば心配されて止められるって分かってたからだろ?

 言え!今度はどんな馬鹿をやろうとしてる!?」

 

 

 ラディスは、師匠であるナジャを止めたい一心で限界を超えていた。

 ではアシュリーは?

 

 その強い想いの対象であることを自覚している『ジェニファー』は足を止め、……しかし振り返ることなく一切の感傷をヴェールの下に隠して嘲った。

 

 

「手温いんだよ、ナジャのやろうとした事は」

「何……」

「地上に深淵を満ち渡らせる?そんなもの、時計の針を早めるだけの話に過ぎん。

 深淵の湧出は確定事項だった。その防波堤だった世界樹の炎上を皮切りに、奴が何もしなくともいずれ地上への浸蝕は起こっていた。

――――そうだろ、“世界樹の精霊”?」

「!!ジェニファーさん、まさか、あなたは……っ!?」

 

 当てつけるように強調したダークアイリスの問いかけに顔を蒼くして狼狽したユーを放置して、戯言は続く。

 

「だが気に食わないな。地上に深淵が満ちたとて―――それを雲の上からさも『自分達は綺麗です』なんて面で他人事ぶるいけ好かない奴らが居ることが」

「《天庭》……」

「大体分かった。天上人が今の世界を醜いと言うのは、深淵の存在故だというのは。

 なら、ゴミ掃除は自分の手でやれよ。全部焼き払うなんて雑な仕事せずに、その手を汚泥に塗れさせろ―――丁度よく、天まで届く世界樹(汲み上げポンプ)はある。

 届けてやるよ。貴様等の庭は、下水処理場だ」

 

「「「………っ!!」」」

 

 アイリスであった頃から、何も変わっていない戯言。

 世界は優しくないと規定しながら、それでも理不尽を嘲笑し糾弾する意思。

 

 アシュリーも、ラディスも、ユーも冥王も、この世界において最上位者である天上人にすらそれを向ける考えに言葉を失う。

 けれど“彼”にとってはある意味当たり前のことだ―――とりあえず権力にはケチを付けたいのが、厨二なのだから。

 

「無茶です……っ。世界中に行き渡るほどの量の《深淵》を制御し、弱り切ったとはいえ闇を払う神聖を保持する世界樹を伝って天庭まで、なんて……」

「貴様には不可能だ。だが、我には出来る」

「だとしても、何千年掛かると思って―――」

 

「――――地上に生きるものには好都合だろう?その何千年の間、深淵は世界樹の神性と拮抗し続ける。よしんばそれが終わって溢れ出したとて、その噴出先は地上の殲滅を目論む天上人の庭。何も心は痛まない」

 

「ダークアイリス…いえ、ジェニファー=ドゥーエ。まさか、まさか貴女―――」

 

 体内の深淵を一気に抜かれた上に正気に戻った反動で、アイリス達同様の重傷であるナジャがそれでも責任感から言い募り、そして整然と帰ってくる論法に戦慄く。

 そのただならぬ様子に、他の意識の有る面々も一拍遅れて感づいた。

 

 その“何千年もの間”、深淵を制御する彼女はどこで何をしていなければならないかを。

 

 それだけ語ればもう十分と、ダークアイリスは再び歩み始める。今度はもう止まらない。

 

「やめてくださいジェニファーさん!駄目です、私はそんなの!!そんな、つもりじゃ……」

「汝は女王の玉座を捨てたのだろうが。ならただの凡愚として、為すべきこともなく地上で日に焼かれ続けていろ」

 

 二人の間でしか通じないやり取りで、ユーの懇願を切り捨て。

 

「待ってよジェニファー!!なんか、なんか他の道はないの!?」

「他の道が確実なものだと何故言える。しかも一度失敗している存在が考えたものだ。

 ならば道を分かつしかない。我の方こそ失敗して間抜けを曝そうが、保険にはなるだろう」

 

 必死に違う道を模索しようとするラディスを諭すようにして。

 

「ジェニファー。お前は本当にそれでいいのか?」

「やれると思った。やるべきと思った。……やりたいと思った。それで十分だ」

 

 言葉が見つからなくて、結局決意を問うような回りくどいものしか出てこないアシュリーの不器用さに、不器用な言葉で返して。

 

 

――――ジェニファー行くな、戻って来い!!

 

「……主上。忘八の咎は、いずれ刻の果てにまた巡り合えたなら―――その時は、我のことを忘れていて欲しい。それが多分、何よりもの罰になるから」

 

 

 救われ、誓いを立て、慕った主君の命令に背き。

 記憶喪失の苦しみを背負った彼女にとって死よりも重い罰だけを願い。

 

 そして全てを振り切るように、彼女は宣言する。

 

 

「全ての人よ、大地よ、そして天よ聞け!!

 我が名はダークアイリス。天庭に爪を裁て、その頸木を引き裂く叛逆者。

 臓腑を穢し、創生を喰らい、流転輪廻を超越せし『冥き茨の簒奪者』!!

 

 心せよ神聖なる者共よ。今日この日より、黄昏よりも昏き底にて我が王国は君臨せり!!」

 

 

 闇に染まった世界樹を絶望と共に見上げる人々。

 既に漏れ出た深淵の影響により、大発生して狂暴化したモンスターに襲われそれどころではない人々。

 長き時に倦んだ竜種や吸血種などの強者。

 

 そして殺意を叩きつけられる先である天上人。

 

 その全てに世界樹を通して、たった一人の王国から宣戦布告は届く。

 

―――これでやる事は全て終わったとばかりに、世界樹の聖扉の向こうの闇へと、裏切り者のアイリスは堕ちていく。

 

 

 その小さな背中は、気付けば溶けるように見えなくなっていた。

 

 

「あ……ぁぁ…。うそ、だ。こんな結末の為に、私は―――」

 

 取り落された騎士剣が、聖域の地面に柔らかく受け止められる。

 それと同時に、潮を引くようにして地上に氾濫していた深淵が聖扉に全て吸い込まれ……独りでにその封印を閉じる。

 アイリス達と、ジェニファーの関係はもう終わったのだと暗示するかのように。

 

 その光景は、否が応にもあの生意気な幼女が二度と帰って来ないという喪失感に現実味を持たせる。

 こみ上げた涙で視界が滲む。

 

 

「ジェニファァァぁぁぁああーーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 痛みも何もかも忘れて発する慟哭の叫びが、森に響く。

 けれど、それが闇の底に届くことは、きっとないのだろう―――。

 

 

 

 

 

…………。

 

 ねじくれた曲線で構成された歪な町並み。

 暗闇の底で子供が手慰みに作ったような悪趣味な風景には、誰一人として生者はいない。

 

 ここは深淵の園。

 如何な英傑も思慮深き賢者も心を侵される同化の闇が支配する寂寥の檻。

 

 けれどその超越者は、闇をねじ伏せるなどこの世界に降り立った瞬間から一秒一瞬も絶えずやって来ていたことで、今更動じることは何もない。

 脆弱な人の身も、幾十も掠め取った世界樹の恩恵を繋ぎ合わせ最早生命ある者の限界を逸脱してしまっている。

 

 故に、本来の主を差し置いて、その中心部である茨の玉座は彼の者を歓迎した。

 長らく起こることのなかった空位という異常事態を解決するために。

 

 この冥界より深き底からか細い繋がりに恋い焦がれ、かつての女王はこの地を塞いでいた世界樹を焼き、深淵の園から逃げ出してしまった。慕い続けた男に『自分は世界樹の精霊だ』と嘘を吐いて、故郷に戻って来る意思はないのだろう。

 

「ならば精々お幸せに、な」

【……ジェニファーは、大丈夫?】

「覚悟ならとうにしている。

 だが時が流れ、いつかあの人たちの笑顔も思い出せなくなる日が“また”来ることだけは―――いや、泣き言を吐く資格はないか」

【大丈夫だよ。わたしはジェニファーとずっといっしょ。ふたりでなら、どこでだってさびしくない】

「……ありがとう」

【………♪】

 

 黒のヴェールを取り外した紅眼の女王。

 それと背格好まで瓜二つの虹眼の女と寄り添いながら、陽も星もない暗闇の天井を――その先に生き続けているだろう人々を想い、ただ見上げていた……。

 

 

 






 あいりすペドフィリア、完。


…………ってここでしちゃっても正直物語としては支障がないです。

 魂の転生システムも実は回復する見込みありますし、異常気象やモンスターの凶暴化の原因だった深淵は沈静化し、天上人関係はまあ地上の人々になんとか生き残ってもらうとしても、数千年後の未来には地上どころじゃねえ!ってなるっていう希望(?)は残ってますし。


 そもそもジェニファーなんて幼女、原作にいないですし(ぉぃ


 ただまあ、どうせならハッピーエンド、やりたいですよね?

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