アイリスのイロモノ枠がラブリーショコラだけなのは可哀相なので、もっと増やしてあげる厨二幼女の優しさ(クリスに追撃が無いとは言ってない)
深淵の園。一切の正気を呑み込む暗黒の空間の中で、冷たいシアンの光に浮かび上がる鉄柵と茨に閉ざされた広間にて。
「それでどうかなだーりん。アシュりん、『可愛い』ちゃんとできてる?」
すべすべそうな太ももが最高だと思います。
「やぁんだーりんのえっち!………もう、えへへ。ひらっ」
アシュリーっぽいナニカは片手を頬にあてていやんいやんと首を振りながらも、擬音をわざわざ口に出してミニスカートを軽くめくる動作をする。
見えそうで見えないが故に逆に煽情的なチラリズムに冥王の瞳はきらっと光る。
アイリス達はいらっとクる。
「それで、私達はあの脳みそドピンクの淫乱女騎士を細切れにすればいいのですかね?」
「はぅぁ!!?」
「あぁっ、アシュリーさん!?ベア先生、流れ弾が飛んでるのでちょっと毒舌抑えてください!」
ベアトリーチェが吐いた罵声は、自分と瓜二つなだけの偽物だと分かっていてもアシュリーに刺さってしまう。………冥王とお楽しみしたことが無いと言うと嘘になるし、堅物な彼女にすれば完全に受け流すのが難しかったのもあるが。
一方で直接罵倒されたアシュりんの方はと言えば、なぜかによによとしながら猫を思わせるいたずらげな笑みで黒髪メイドに意味深な流し目を送った。
「ベアちゃんひどいんだぁ。………うーん、まあ正解って言えば正解なんだけどー」
「その馴れ馴れしいあだ名をやめなさいパチモノナイト。それで、何が『けど』なのですか?」
言いながら冥王の侍従は小太刀二刀に手を掛ける。
家出幼女を連れ戻すのに、ここでぐだぐだよく分からないナマモノと問答している時間は惜しいからと、その為の臨戦態勢―――だけとは言いづらい。
背筋に氷柱をぶち込まれたような、圧倒的な悪寒が身体に反応を促した。
「自己紹介ちゃんと聞いてた?アシュりん、ジェニファーちゃんと同じ『冥戒十三騎士』なんだよ?」
「………ッ!!?」
「「「ベア先生!?」
超音速、とはいかないまでも。
達人の知覚でも体の反応が追い付かない一瞬の間にベアトリーチェの眼前に駆け寄った偽物アシュリーが、いつの間にか握っていた両手剣を一閃する。
真正面から来たことと、重力と電磁力によるインチキ加速ではなかったこともあり、どこぞの教会騎士のように何も出来ずに首を刈られるような醜態は曝さなかったベアトリーチェだが、咄嗟に二刀で受けるので精一杯だった。
だがそれでも当然のように噴き出す深淵の闇を纏った斬閃は、それを受けた相手を猛然と弾き飛ばして十間は離れた鉄柵に叩きつける。
「この……っ」
「ラウラちゃんどっち見てるのー?コトちゃんも、ば・れ・ば・れ・だぞっ☆」
「……ちッ。あんたが“ジェニファーが作った”偽物だってよく分かるわ。その人をおちょくることに全力懸けた言動は、さぁ!」
猫亜人のシーフが素早く反応して短剣片手に跳び掛かるが、獣の俊敏さを嘲笑うように跳躍した時点で対象はそこにいない。
瞬間移動じみた疾さで立ち位置を入れ替えた偽物アシュリーの背後に息を殺した剣客が刃を振りかざしていたが、振り向きもしないままにその太刀を受け止めて弾き返す。
黒地に『だーりんLOVE♡』とLED電飾で刀身がデコられた両手剣で。
「“アシュりん達みんな”、地上にいた時の黒髪ジェニファーちゃんと同じくらい強い深淵の騎士……突破できないと永劫この深淵を彷徨うことになるから気をつけてね!」
口調は軽く、頭も明らかに軽く、見た目は論ずるまでもなく軽く。
だがその武力は、ふざけているかと思う程に“本物”の気配を纏っていた。
「……待ってまって。でもそうなると、だーりんもずっとここに居てくれるってことで。
うふふ。えへへ。よしアシュりんはりきっちゃうぞー!!」
「させませんっ!!」
「妄想で暴走する子はもう間に合ってるのよ!」
「あのポリンさん、今誰のこと思い浮かべました!?」
武闘家修道女が懐に飛び込み、錬金術師と神官がそれをバックアップするのは合図すら必要なく互いの位置関係だけで繋いだ連携。
だがそれをただ剣を振るだけで、魔力を圧縮させた拳も、降り掛かる毒も酸も、前衛のパトリシアに向けられた神聖の加護ですら斬り飛ばされて闇の空間の塵と消える。
「あふんっ」
「ああ、申し訳ありませんクレア殿!?」
大盾ごと引っ掴まれてイリーナの援護はフレンドリーファイアとなり、そのまま使い捨てとばかりに放り投げられたクレアは興奮のあまり顔を真っ赤にする。
「ああもうプリシラがジェニファーみたいのがあと12人居るとか馬鹿なこと言うから、ほんとに生えてきたじゃんかー!!」
「ボクのせい!?」
「無駄口叩いてないで―――嘘っ!?」
エルフィンの狩人と軍師王女が組んだ即席の罠を常人外れた瞬発力と反応速度でぶっちぎり、魔法や弓で狙う隙さえ与えない。
止まらない。圧倒的多数のアイリス達が翻弄され、たった一人の偽アシュリーにまるで手も足も出ない、ように思えた次の瞬間に。
「一、二――――其処だッ!!」
「嘘……なんでアシュりんが、アシュリーちゃんに……?」
悪戯な疾風そのものと化して縦横に動き回る超速の騎士。
それが方向転換の為に軸足を移すたったコンマ数秒の瞬間に、狙いすました本物のアシュリーの一撃がその胴を切り裂いた。
以前のナジャと同様、傷口から噴き出る深淵―――それに全く構わずに驚愕に染まる偽アシュリーの表情。
それは彼女の動揺を雄弁に物語っていた。『自分はアシュリーにだけは負ける筈がなかったのに』、と。
「そう、お前は深淵によってあらゆる能力が増幅された状態の私(アシュリー)だった。
………まったく、本当にジェニファーに作られた存在なんだな、お前は。ずっと一緒に鍛錬してたあいつくらいしか考えられないくらい、私のを忠実に再現した動きだったよ。おかげでクセとタイミングを図るのにもこんなに楽なことはなかった」
「なにそれ。インチキだー」
深淵を纏ったアシュりんという、アシュリー=アルヴァスティの完全上位互換個体。
種明かし、という程でもないが、アシュリーがそんな彼女相手に勝利を掴み取った方法を語る。
もし次があるのなら二度と通じない手だろう。だが、百回戦って九十九回負ける相手でも、たった一勝を最初に持ってくれば問題ないのだ。彼女を生み出したあの幼女ならきっとそう言う。
「―――うん、合格!!」
だから偽アシュリーは口を尖らせながらも、すぐにそのアシュリーそっくりの顔を優しい笑顔に変えた。
「勝者のアシュリーちゃんには、なんとアシュりんとおそろいの聖装をプレゼントしちゃう!」
「……いらないんだが、ってああ、私の聖装が勝手に!?待って、やめて!?」
「あとジェニファーちゃんから伝言だよ!『真の闇への道を求めし者達よ、己自身との戦いに打ち克て』」
「己自身っていうには色々致命的なミスがあると思うんだが!じゃなくて、服!聖装を元に戻せ!!」
「『試練を突破した証として十二の呪』―――じゃなかった、『祝福された衣を纏いし者が揃った時、扉は開かれるだろう』」
「今呪われたって言いかけただろ!?」
アシュリーの必死のツッコミ虚しく、傷に加えて彼女に聖装(ゆるふわJK風)を託したアシュりんは、それで自分の役目はおしまいと言わんばかりにその輪郭を闇に融けさせ始める。
最期のその時まで、ずっと笑顔のまま、………たとえ偽物の存在でもそこにある確かな想いを叫んで。
「だぁーりぃぃーーーんっ、だいすきだよぉーーーっっっ!!!」
アシュりん、大好きだーーーっっ!!
「……!えへへ。ありがとね、だー、り――――」
乗っかった冥王に嬉しそうにしながら、アシュりんは完全に闇の中に消えた。
その瞳に涙が溜まっているのが見えたのは、間近にいたアシュリーだけだった。
「………」
アシュリーは、大丈夫?
「…平気ですっ。あの馬鹿の仕掛けはあと十一個あるみたいですし、まだまだ最初でへばってられません」
思う所はあったかもしれない。だが、冥王の心配に女騎士は精一杯強がってみせる。
そのまま元気にアイリスの先駆けとして、皆を引っ張るように声を上げた。
「さあ仕切り直しです。はりきって行きましょう、主(だーりん)。
――――あっしゅりんりん☆」
「「「「っ!!??」」」」
「……?」
何やらおぞましい呪文を吐いた気がして全員の視線が集中するが、当の本人は『どうしたんだろうみんな変だなー』みたいな顔して首を傾げている。
(ねえあれ本当に呪われてるんじゃないの!?)
(まあ……ジェニファーさんですし……)
(どうするのアシュリーに自覚ないっぽいわよ!)
そっとしておこう。あの子が飽きたら治るだろうし。
アイコンタクト成立。アイリス達は触れないことにした。
その報いというか。気づかないようにしていたというか。
残る犠牲はあと十一人。実にアイリスの半数近くはアシュリーと似たような目に遭う計算であることに、言及を避けつつも自分が当たりませんようにと祈る者が多かったが。
お約束的にというかこういうのも物欲センサーと言うのだろうかというか、その祈りが最も強い者に悲劇ないし喜劇が降り掛かる。
最初の広間に戻り、今度は光が『Ⅱ』を指し示した先に道が開いているのを進んだ先で。
そこに待ち構えていた短めのツインテールのシルエットを見て、クリスは百八十度体の向きをターンした。
「―――帰ります」
「わぁぁクリス先輩ストップ!ストップです!!」
「離してくださいパトリシア!!どうせこんなことだろうと思ってました!あの子がこんなイベント用意しておいて、私に被害が来ないわけないですよどうせー!?」
信頼感……圧倒的信頼……共に最古参組アイリスとして堕神官いじりの恒常化は最早パターンとなり、そこには絶対あの幼女はこういう時こうするという確信がある……!!
まあ、それだけに逃げられないことも分かってるクリスティン=ケトラである。
パトリシアが宥めると意外にあっさりと落ち着き――既に諦めているともいう――意を決して近づくと、相手は騒いでいたアイリス達にもお構いなしに一人で何やら叫んでいた。
「ティセ、なんて言ってるか、聞こえる?」
「…………直接聞いた方が、多分いいと思います」
「ティセさん、その沈黙なんですか?なんでそんな優しい目を私に向けるんですか!?」
「あ、あらあら……」
聴覚に優れたティセから悲しそうに首を振られ、同じくのソフィは困ったように笑顔を苦しそうにさせている。
ますます嫌な予感に苛まれるクリスだが、さっさと地雷を踏んで楽になろうというある意味悟りの境地に入った状態で相手に近づき―――能面のような無表情になった。
「バレンタイン、中止!!クリスマス、終了!!デートスポット、崩壊!!リア充、爆殺!!」
クリスっぽいナニカは、聖印を逆方向に切りながら理解したくもないがとりあえず物騒っぽい聖句(?)をしきりに叫んでいる。
先ほどのアシュりんとは別ベクトルでお近づきになりたくない人物なのは分かったが、ある意味ではお人好しのアイリスにとって話しかけてしまう発言内容でもあったためパトリシアが注意を引く。
「あの、クリス先輩?でいいんでしょうか……?何か辛いことでも……?」
「あらパトリシア。それに他のアイリス達も。ごめんなさい、しっとの儀式の最中はそれに集中してしまうので、気づけませんでした」
意外と穏やかな様子で応えてくれた偽クリス。その恰好は青と黒で全体的に暗めな色に染められた―――リボンとフリルたっぷりの、甘ロリ風ドレス。
「改めまして、私は『冥界十三騎士』が二の祈り手、『金の杖僧』クリスティン=ビターショコラと申します」
「ビター……はい?」
(ねえ、あのクリスのカッコ見てると、何故か“低予算”って単語が……)
(あたしは“手抜き”だったけど)(私は“納期遅れ”)(“コンパチ”ってなんですか?)
「私はあなたの影……恋破れたクリスティン。こんなに悲しいのなら、苦しいのなら恋など要らないのです」
“何故か”クリスの黒歴史と色違いなだけの衣装を着た偽クリスは、先ほどまでの狂態と裏腹に憂鬱げな表情を崩すことなく立ち上がり言った。
「さあ戦いましょうアイリス。冥王様とのきゃっきゃうふふならぶらぶだいありーの日常に現を抜かすリア充根性許すまじ。恋愛弱者の怨念、今ここに晴らさせていただきます!!
…………とその前に」
「……何よ」
「いえ、一つ御忠告を。私達冥戒十三騎士団は一人一人、ジェニファーさん第三形態と同じくらいの実力を持っています。力づくで全員倒そうとするのは無謀というもの」
「アシュリーの時と同じように絡め手で倒せって訳ね。で、あんたにはどうすればいいかヒントとかくれたりするの?」
「まさか。自分の弱点を曝すことなどする筈もないでしょう?」
早速戦闘に入ろう、というムーブをやっておきながら自分で梯子を外す偽クリスだが、何故か有用な情報をくれた。
“何故か”。
「そもそも私は愛を捨てた戦士。敵に愛の為に戦う戦士が居ない限り、この力が弱まることはありません」
「「「……あー」」」
「みなさん、なぜそこでわたくしをみるのでしょう」
何故か見覚えのあるものと色違いの衣装を着た偽クリスの発言に、何故かアイリス達は本物のクリスを見て納得した声を上げ、何故か当人は棒読みですっとぼける。
………クリス、これ。
「あ、口上も必要なので忘れずにお願いしますね」
何故か冥王はバレンタインの時に見たようなピンクふりふりの聖装を取り出してクリスに渡す。
どことなく優しげな声で偽クリスは補足した。追撃したとも言う。
「………めたもるふぉーぜ☆」
聖装を受け取り何故かやけっぱちになったようにポーズを取って謎の単語を叫ぶクリスの目は死んでいた。
世界の悪意が見えるようだった。
深淵の園というこの世界の主は、今はどっかの幼女であることは関係ない。たぶん。
クリスいぢめるのたのしい(ド外道
ビターショコラは間違いなく理(黄色)属性。つまり……。
ちなみにアシュリーも服装はまだマシだけどしばらくは『だーりんLOVE♡』とでかでか書かれたデコトラならぬデコ剣で戦うことになります。