ある意味ですごくアンチ・ヘイト回ですが、サブタイで分かるとおりこの話には前話のようなシリアス要素は一切ございません。あとユニコーンは出てきません。
肩の力を抜いてゆるーくお楽しみください。
セシルは激怒した。必ず、かの破廉恥淫虐の女王を除かなければならぬと決意した。セシルには女の駆け引きがわからぬ。セシルは、エルフィンの姫君である。侍従に傅かれ、花よ蝶よと愛でられ育って来た。けれども邪悪に対して人一倍に敏感でなくとも、実母が自分の旦那様に向ける雌の顔からは腹綿の奥底が見え透いてならぬ。「呆れた女王だ。生かして置けぬ」とまでは行かずとも、「ちから一ぱいに頬を殴れ」と思ってしまうのも無理からぬ。
セシルには初めての友があった。ジェニファーである。今は此の冥界の学園で、世界樹の精霊をしている。セシルはかの幼女にひしと抱きつき、それからおいおい声を放って泣いて愚痴を矢継ぎ早に吐き出した。
と、どこかで見たような文面はさておくとしても。
鬱憤のはけ口にされた銀髪幼女は、流石に気の毒なのか嫌な顔一つせずセシルのまとまりのない愚痴に律儀に頷いて相槌を打っていた。
「それでお母様、私が予備の食器を取りにいってる間に私が居たところに座って、旦那様にあーんしてたんです!それもおっぱいが大きいのをアピールするみたいに腰をくねらせて!!あんな動作したの今まで見たこともなかったのに!!」
「ああ、きっついなソレは……」
経緯はまあさして本筋に関係ないので触りだけ述べるが、要はセシルの母親であるハイエルフィンの女王アナスチガルが現在冥界のスクールカウンセラーとしてこの学園に居を構えているという話。
以前ナジャに森の結界を破られ聖地を蹂躙されたが、それは即ちその程度の護りしかエルフィンの里は有していないということの証左な訳で、彼女は防犯対策のことは元空き巣に訊けとばかりにこの学園の非常勤講師をしているナジャに教えを乞いに来たのである。
女王自らがとかフットワーク軽いなとか色々とツッコミどころがあるのと、齢千を数えながらティセに「アナちゃん先生って呼んで☆」などとパワハラをかます困った部分はあるが、一応フィジカル・メンタル両面における癒しのエキスパートとしてアイリスのサポートに回ってくれる頼れる存在ではある。
実の娘の旦那様に、「バブみを感じてオギャらせたいです(はぁと」と言わんばかりにかぐや様の工房とか伊藤さんの人生的なサムシングで以てあまあまアピールするという、どこぞのアカギさんですら面白いと思わないだろう狂気の沙汰さえなければ。
セシルは押しかけ女房である。初対面でハイエルフィンにとっての婚約の証である真名を告げるという大ポカを冥王にかまし、以来彼のことを旦那様と呼んでいる。
しかし彼女は冥王のことを彼女なりに理解した上で将来を共に歩む伴侶と見定め、良き妻になろうと努力してきた。他のアイリス達とも盛大にイチャイチャしている冥王を見ても、夫となる相手の甲斐性だからと努めてにこにこしていた――初めての嫉妬という感情を覚えつつ、だが――し、その分二人きりの時は思いっきり甘えて尽くした。唇も貞操もとうに捧げたし、花嫁衣裳だって着た。それが一つの恋愛を描く物語であるとしてどこまで進んだかという話をするなら、ハーレムものとはいえスタッフロールが流れる直前くらいには行っているのだ。
そんな旦那様に、しなを作って媚を売っている。娘の彼氏を試すとか揶揄うとかそんな話ではなく、ガチの色目を使っている。他でもない実のオカンが。男性向けの艶本では稀に良くある光景だったりするが、そんなものに触れたことも無い実際の娘からしてみたら悪寒しか感じない。
確かに弟や妹に憧れみたいなものは持っていたが、それは母親に娘の婿の種で孕んでもらいたいなどというとち狂った性癖によるものでは断じてない。である以上、母の痴態でセシルが心にダメージを受け続けるのも当然であった。というか温厚でぽやぽやしている彼女でなければ、親子の絆に修復不可能な亀裂が入って今後アナスチガルには台所の隅の生ごみからカサカサ湧き出た黒い虫を見るような視線しか向けなくなっている頃だろう。
「ふええぇぇぇ……ぐすっ。ジェニファー様~~~!」
「ああほら、よしよし。まったく、我はこういうのガラではない筈なんだが……」
とはいえかつて母親が目の前で嬲り殺しにされた幼女に対して母子関係の相談をするという、実はちょっと残酷なことをしているセシルなのだがそれを気にする余裕が無いぐらいヒドい状態なのでそれは置いといて。
ぐずる緑髪姫の背中を摩ってあやしながらも、ジェニファーは思う。
(本来真っ先にセシルの気持ちを察して然るべき母親が娘に配慮する様子を欠片も見せない。それだけ老いらくの恋とやらで色ボケてる?それとも恋は戦争、娘と言えども容赦はしない的な?あるいは何かしら思惑がある―――いや、考えるだけ無駄か)
「なあ、セシル」
「えぐっ……?何ですか、ジェニファー様?」
「そういう時は、いっぺん 殴 れ ば 分 か る らしいぞ?」
「殴っ……ええぇ!?」
「先日も女王自ら示していたではないか。森を襲ったナジャと全力で殴り合うことで互いの確執を解消した姿を」
「―――!!」
そして煽ってみる。言うまでもなく心情的には百パーセントこちらの味方である善き友人を励まし元気付ける、というのが半分。
もう半分は…………言うまでもなく、話が愉快な方向に転がりそうな予感がしたから。
面白半分ともいう。
「エルフィンとは拳をぶつけ合うことでしか分かり合えない悲しい生き物なのかもしれないな……」
「言葉は武器でしかない……そういうことなんですね、ジェニファー様!ならば!!」
「ああ!!(適当)」
そして相も変わらず幼女のふわふわ発言に踊らされる天然お姫様。
「――――お母様に、決闘を申し入れます!!」
かくして運命に翻弄され絆を裂かれた悲しい親子の対決が始まるのだった。
ちなみにこの『運命』とは、「運命、感じちゃった♡きゅん♪(アナスチガルちゃんせんさい)」の略である。
キツい。
………。
とまあ、散々なことを書いてはみたが。
アナスチガルについて語るなら、決して化粧を落とすとほーれーせんが気になるとか最近お腹の柔肉が弛んでるとかそんなことはない麗しの女王様である。
セシルに似た―――この場合はセシルが彼女譲りと言うべきだが―――精緻な彫刻を思わせる整った美貌に、どこか触れがたくも男の獣欲をそそる妖艶な肢体。一人の女性としては周囲を委縮させることなくお茶目な側面もあるが、女王として長き時の中で同朋達を導いてきた思慮と決断の分、他者に対しては自然と深い包容力と知性を感じさせる振る舞いをしている。
欠点と言えば、娘の前でその婚約者に対して抱擁をねだり痴性も同時に振り撒いていることくらいなのだ。
それだけで致命的とも言うが。
「セシル。冥王様の下での貴女の成長ぶりには、確かに目を見張るものがあるのは認めましょう。ですが、それで私に挑むのはあまりに尚早というものでしょう」
一撃火力による殲滅力を売りにするアイリスとその母親の対決というだけあって鍛錬場が壊れかねないと判断して、屋外の冥王による特設会場で緑髪の母子は対峙する。
アナスチガルが無造作に杖を振るうだけで、色とりどりの淡く輝く光球がその周囲に顕現する。その一つ一つが力持つ古き精霊達。神秘的で惹きつけられるような光景と裏腹に、女王に仇名す存在は有形無形問わずそれらの前に散り果てるであろう強力な魔導の起点だ。
「やっぱり、こうして見ると凄い。この距離でもびりびりが伝わってくる」
「セシル、勝ち目あるの……?」
野次馬のアイリス達も息を呑む。深淵浸けが抜けて多少弱体化したとは言え、まだまだ冥界学園の教師を名乗るに恥じない実力を持つナジャ相手にアナスチガルが互角の攻防を繰り広げていたのは記憶に新しい。
それに対して魔術の素質はナジャからもお墨付きであるとはいえ、まだまだその制御は不安定で発展途上なセシルが挑むというのだ。
誰と知れず、唾を飲む音が大きく聴こえた。
そんな不安と心配を身に浴びるセシルは―――瞬時に装いを変えていた。
「確かに私ひとりの力ではお母様に立ち向かうには不足です。
でも今の私には、大切な友達からもらった力があります。この力なら―――」
「―――勝機があるとでも?それ自体が思い上がりという、も、の……!?」
金の線条がアクセントとなって彩る黒のケープとフレアスカート。ミニ丈から伸びる太腿には片方だけシュシュを巻き、スクールシューズとふわもこソックスまで健康的な白い脚線を顕示している。
胸元にはエメラルドの宝珠。髪はジェニファーとお揃いの黒いリボンでサイドポニーにまとめ、手にした杖は霊木ではなく金の装飾杖(ステッキ)。
そして女王の口上を途切れさせるに足る、煌々と存在感を放つ『火』の結晶体を従えていること。
「今は冥戒十三騎士が四の詠み人、『翠の霊嬢』セシル・DDB。
悪い子になった私が、全てを炎の中に滅却します!!」
かつて厨二幼女の悪ふざけで誕生したライバル魔法少女風聖装、その呪いが今解き放たれる。
ちなみにDDBは『だーかー・でびる・べるぐるんど』の略であって、決して『だれが・どう見ても・ぶっ壊れ』の略ではないので注意。
「まず、ひとつっ!!」
「ッ、一撃で――!?」
『火』の結晶体―――不純物が全て除かれたが故巨人の姿を取ることもなくなった、火の上級精霊改め《イフリータ・ノヴァ》。
それが放つ一条の熱線は、アナスチガルの使役する古代精霊の一体を捉える。
その気になれば存在ごと灼き尽くすことも可能だったが、そこはセシルも精霊を友とするハイエルフィンのため、この戦闘で復帰できない程度のダメージに留めておいた。
「純粋元素の精霊……ですがそんな段階、私とて五百年前には通り過ぎてますっ」
※ただし実戦で使用可能とは言ってない。
深淵の園の決戦においてダークアイリスが九天の一つ、それも広域殲滅を前面に出した技である《崩灰炎幕(ムスペルヘイム)》相手に真っ向から押し切ってみせたのは伊達ではない。
大量の世界樹の種子での接続による同調があったあの時ほどの超火力を望むことはできないが、その一割でもあれば障壁込の上級天使(マリエラ)の十や二十は灰にできるのが今のセシルだ。
「水の精霊―――っ、やはり無意味ですか」
「属性の有利なんて関係ないです。今の私の炎は、水の中でだって燃え続けるんですから!」
《深淵》によるブースト分を全て文字通り火力に注ぎ込んだ結果ではあるが、戦闘という名の駆け引きにおいて一つでも突出した部分があるというのは非常に重要なことである。
現に防ぐ手段がまるでないのか、風精霊による移動支援を受けながら地面を素早く駆け回りつつも回避に徹するアナスチガルを追い立てるように熱線を乱射する。
火力こそパワー。火力こそデストロイ。火力こそヴィクトリー。
使っているのが魔術であるというだけの脳筋戦法だが、単純にして非常に効果的なのは今のこの戦況が物語っている。下手な技巧や小手先の策を凝らすよりも威力を突き詰めた方が余程強いという、いい証左だった。
光精霊による視覚的な幻惑―――関係ない。虚像も実像もまとめて焼き潰せばいい。
遠隔起動による死角からの反撃―――出力が違い過ぎる。自身の周囲に火の粉を撒いておくだけで簡単に散らせる。
接近戦で本体のセシルを狙う―――歓迎だ。的が大きくなって当てやすくなる。
だが。
あくまで“非常に効果的”どまり。千年を生きる女王としてその身に蓄えた技巧や策が、生半可なものである筈もない。
勿論セシルはアナスチガルを侮るつもりは欠片もないし、力に酔って調子に乗っているということもない。圧倒している彼女こそが、相手の反撃を最も警戒した上で冷静に対処できるよう意識を研ぎ澄ましていた。
その上で………森の女王は戦況を覆してのける。
「精霊魔術が、起動しない……どうしてっ!?」
「どれだけ強力なものでも、精霊魔術は精霊との交感が大前提です。
『愚者』の結界―――その交感を断ち切れば発動は封じられる。私も精霊魔術が使えなくなるのが難点ですが」
肉薄したアナスチガルが指で印を切ると同時に、《イフリータ・ノヴァ》が輝きをそのままにセシルの意思を受け付けなくなって沈黙する。
徒手空拳の間合いから見下ろしてくる母の言葉を信じるのであれば、セシルは最大の武器を無力化されたも同然ということ。
戦闘という名の駆け引きにおいて、相手より優位に立てる札は多いに越したことはないのだ。
威力というその一点において完全にアナスチガルのそれを凌駕していたセシルの火魔術を封じた手段も、そしてその状態で肉弾戦を挑めば一端の戦士でも沈められる程度には武の理を齧ったことがあることも。
ひたすら火力に特化したが故に、深淵による強化状態であるこの聖装着用時においても、セシルは全アイリスで最下位を争う腕力しか持っていない。
万事休す―――そう傍から見ているアイリス達は考えた。
「降参しなさい、セシル。
………丁度いい機会だから言っておきましょう。確かにあなたは未熟ですが、森を出て一人旅立った時点で貴女を子供扱いするつもりはありません。
母から手加減してもらえるという考えは捨ててください。それはこの闘いにおいても―――他のことにおいても、です」
セシルの成長を見定め、対等に扱う。甘えは許さない。女王として、次の女王に対して厳しくとも正しい姿勢と言えばその通り。
だが正しさが人を救うとは限らない―――先日聖域を襲撃したナジャの扱いに、女王として命懸けの決闘を挑むことでエルフィンの民もナジャも自身も納得させた裁定でもって娘に示したばかりのことではあるのだが。
彼女とて個人として、常にそれを実践できるとは限らないのだ。
「――ぅぃぅ、―――ゃない……」
「何を……?」
「そういうことじゃない、って言ってるんですよ?お耳が遠くなってしまわれたのですか?
もう、仕方のないおば……お母様ですね?」
セシルは笑っていた。
彼女らしからぬ皮肉と暴言はともかく、内心の荒れようが如実に伝わる程度には凄みのある笑顔だった。
普段の愛らしいぽやぽやした表情が親しまれる彼女の顔の造りをしてそう感じさせる程に――――堪忍袋の緒がぶち切られたのだと嫌でも理解させる笑顔だった。
………別にセシルだって、心の底から完全に母と冥王がいちゃいちゃすることを嫌がっている、という訳ではなかったのだ。
セシルの父――アナスチガルの夫が亡くなって直ぐという訳でもなし、母が新しい恋を見つけて新しい幸せを手に入れることは、複雑ではあるが娘として応援できないことではない。
その相手が自分の旦那様であることは、もう抑えようもないほど釈然としないが、友人に愚痴を受け止めてもらえば消化できなくはない程度。もともとアイリス全員が冥王の事を好いている訳だし、それが一人増えるだけと考えれば、なんとか。
それでも。
ちょっとくらい悪びれろよてめえ―――一言で言えばそういう話。
あの聡明な母が娘の内心を全く汲み取れない、ということはないだろう。
その上で一言詫び……いや、僅かでもすまなそうな顔をしていればセシルは己の癇癪を呑み込むつもりはあったのだ。そこが温厚な彼女が引いた最低限の譲歩のラインだった。
それを寛容と取るか母への甘えと取るか―――まあ大抵の人なら前者だと思うだろうが、たとえ後者だとしても。
正しければ問題ない。勝った者が正義。
そう言って最低限の仁義を通すのを疎かにする人間は、大抵見落としている―――『ルール無用』の同意書に、自分からサインを殴り書いたのだということを。
「イフリータを封じれば、私が無力になったと―――まさかそんなことを考えてますか?
今私にはまだ、最凶の精霊魔術が残っていますよ?」
「……っ?精霊魔術は封じたと今言ったばかり――」
((((ああ、あの子が観客席にいないのって、つまりそういうこと……))))
冥界に来て日が浅いアナスチガルは不審そうに戸惑うだけだったが、一方で散々アレがやらかして来たのを経験済の野次馬達はこの後の展開を正確に予測する。
セシルは腹の底から溜まった怒りをぶちまけるように合言葉を叫び、高らかに指を鳴らす。
「出ろォォーー!!!ダイっ、リぃぃぃッッス!!!!」
「―――ッ!!?」
「改めまして。シールド一号、参上」
背筋に走った凶悪な予感に、結界が効力を失くすのも構わず飛び退いたアナスチガルの立っていた地面。そこに小さなクレーターとひび割れを走らせて。
天から降り立った黒ドレスのロリ巨乳が、膝を直角に、左腕は水平に、そして右拳で地を突くアメコミヒーロー着地を決める。
「ジェニファー様……!?セシル、これは一体どういうことです!?」
「「精霊魔術です」」
「え?」
「「精霊魔術です、いいね?」」
「あ、はい」
既に九振りの浮遊剣は《深淵》を溢れさせて臨戦体勢。こんなんでも世界樹の“精霊”(闇)である為敬意を払っているハイエルフィンの女王相手に、その百分の一も生きていないダークアイリスは愉しそうに襲い掛かる体勢を取っている。
………面白半分でセシルを煽ったのは確かだが、まあ残り半分は友人として完全にセシルの肩を持つ身であるからして。
「あの、セシル。まさかとは思いますが―――」
「………うふ?」
にっこり笑って、親指で首を掻き切る仕草のセシル。
仕方ないなー、今の我は術者に忠実な精霊だからー、とか適当なこと言いながら《装界・深淵征刃》するジェニファー。
そして今更脂汗を流しながら引きつった笑顔で焦るアナスチガル。
彼女の身に降りかかった惨事は敢えて描写を省くが―――精霊魔術(物理)をぶつけられたアナちゃん先生は、その後一応セシルの前では自重するようになったとか。
これが、絆の力だ!!
…………はい、最後の精霊魔術(物理)がやりたかっただけです。いつもどおり色々ごめんなさい。
一応、《深淵の園》の外なので最終章時よりはスペックダウンしてるし結構な早さでガス欠しますよ?(アナちゃん先生に勝機があったとは言ってない)
そしてただ今原作のあいりすミスティリアではルージェニア様姫ゴリラ化聖装ピックアップが絶賛復刻中。聖錬レベル2~3とかでも敵前列全員に99999のカンストダメージ×2連撃なんてバ火力出せるのは姉姫様だけ!みんなガチャろう!!