SR以上で4属性カバーしてる上にアイテム盗んで戦利品増やすのでパーティーには大抵入ってる子。
出撃回数で言えば多分過労死レベルで断トツ一位なんじゃなかろうか。
猫虐待は程々に。
「という訳で、今回はお留守番」
「いやどういう訳だ」
この日の冥界は、相も変わらず快適な気候だが、どこか寂し気な雰囲気が漂っていた。
主である冥王が地上に種子探しに向かっていて不在なのだ。
当然騒がしいアイリス達も一部は同行している。
一部は、と言ったのは、冥界に居残りとなるアイリスも居るため。
危険な種子探しの旅とはいえ頭数ばかり揃えていても却って動きにくい事情がある。
戦力という観点では数が多ければそれで有利かもしれないが、街中でも農村でも十人以上の美少女揃いの集団がうろついていれば変に目立って仕方ないし。人の手の入らぬ大自然を探索する時に、統制の利かない人数で行軍して、もし一人でもはぐれたら合流しないと冥界に帰還できなくなるというのも考え物だ。
だから、冥王とレーダー役のユーと実働として五人ほど、計七人程度のパーティーで出撃するということが多かった。
決して中の人(ギャラや収録の調整)とかライター(一つの場面に大人数が居ると捌くのがめんどくさい)とかゲームシステムとかの都合ではない。断じて。
あとは、聖樹教会の影響力の強い地域で活動する時は、邪教の巫女であるジェニファーや教会の教えに興味がない亜人達はあまり連れ歩かない方がいいといったこともある。
この日はそういう事情で出撃から外されていたジェニファーと猫亜人(ミューリナ)のラウラが、がらんとした食堂で出涸らしの茶をしばきながら駄弁っていた。
一応ベアトリーチェから自主鍛錬のメニューは申し付かっているが、それさえ熟せばあとは自由な休みを満喫できるのが待機組のアイリスである。
「ラウラは今日も商売か?」
「まあね。………って言いたいけど、ちょっと仕入れがいまいち」
ショートに切り揃えたブロンドの髪の間から生える猫耳を揺らしながら、くりくりした眼を気だるげに細めて頬杖を突く少女。
対面のオッドアイ幼女は、なんとはなしに視線を上に向けてその猫耳の動きを観察していた。
交易で栄える砂漠国家ハジャーズ出身のラウラは、隊商の一員としての経験もあり、個人商店の範疇で他のアイリスや冥界の住人と物の売買をよく行っている。
散逸した世界樹の種子をかき集めるべく世界中を巡るアイリスとして、珍しいものや手に入りにくい物をよくついでに集めては他で色をつけて売り捌いていた。
他のアイリスが要望する物を仕入れ提供する、ということもしばしば―――当然対価は要求するが。
冥王の方針が自由放任のため黙認されていても、仲間内で金銭のやり取りはトラブルの元………なのだが、塩梅は心得ているらしくこれまでそういった諍いを発生させたことはない。
「そういえば、今日は眼帯付けてないね」
「右眼が疼く相手(クリス)が地上に往き不在だからな。パトリシアは問題なくなったし」
「?……よく分かんないけど、代わりに包帯がぐるぐる巻き」
ラウラの指摘のとおり、いつもの黒衣の隙間から、幼女の柔肌の至る所に痛々しく包帯が巻かれているのが覗えた。
これで仏頂面でなく、震えながら涙目で「ひっ……!」とか怯えている演技でもすればいい感じに闇を纏った子供になるだろう、もちろん違う意味で。
勿論この厨二幼女は包帯を伊達や酔狂で巻いている―――という訳では、実はなかった。
「ジェーンがまた暴走してくれたからな。毎度のこととはいえ……」
鼻骨陥没。左鎖骨粉砕骨折。右腹側筋断裂。鼓膜破損。左脚脛骨亀裂骨折。肋骨及び内臓損傷。その他打撲多数。
如何に立会人のクリスが聖女の奇跡ですぐに処置したとはいえ、地球の医学では後遺症の嵐と地獄のリハビリを覚悟しなければならない怪我のオンパレード。パトリシアとの決闘で破壊された肉体は、向こう数日は日常生活を送るだけで激痛を訴えることだろう。
今のジェニファーの仏頂面は、実はやせ我慢の賜物でもあった。
「寝てなくていいの?パトリシアは部屋から出てこなくてファムがご飯届けに行ってたけど」
「慣れているからな。この程度なら、まだ」
「………反応に困るようなことさらっと言わないで欲しい」
ビジュアルからして激しい虐待を受け慣れた幼女の言葉に、げんなりした表情でラウラが呻く。
ジェニファーの中身が幼気な子供ではないことは“身をもって”実感済みだが、生まれの孤児院で弟妹達がいる彼女にとってどうにもやりにくい。
「なんだ、心配してくれているのか?我には含むものがあると思っていたが」
「なくはないけど……今の私なら、冥王様の財布をスるような奴がいたら同じことやるだろうし、そんなに引き摺ってない」
「はいはいごちそうさま」
実はラウラのアイリス加入時にちょっとばかり因縁があるジェニファー。
ラウラが地上の雑踏を歩いていた冥王――貴族風の身形のいい衣装を着ているので、手持ちが多いと踏んだ――の財布をすれ違いざまに盗み、そこを取り押さえられたのが出会いなのだ。
当時彼女は路銀が少し心許なくなっており、その時ちょうど財布を盗まれても路頭に迷うとは思わない相手がいて、しかもその連れが子供三人でカモに見えたものだから――――で、その子供三人とやらの内訳が世界樹の精霊と、銃を携行したドワリンの元義勇兵と、そして冥王崇拝の巫女だった。
まず威嚇とはいえ足元にめり込んだ銃弾に背筋が凍り、地面を踏み砕きながら迫る幼女に戦慄した。
慌てて逃げを打ち、猫亜人(ミューリナ)特有の俊敏さで街の路地や屋根を駆け抜けたが、背中を数瞬前にラウラも踏んでいた足場を全て破壊する音と共に幼女が猛追してくるのだ。
ラウラの疾走をパルクールと呼ぶとすれば、
決して突いてはいけない藪に手を出してしまったのだと。
「虹色の方の眼は禍々しくぎらついてたし、手ぶらの筈なのに地べたに取り押さえるなり頭の横に黒い剣ぶっ刺すし、あの時は本当死ぬかと思ったけどね」
「うむ、手綱を取る我が少しでも気を抜けばガチギレしたジェーンがついヤっちゃうところだった」
「「あははははは」」
「「………………」」
お互い普段絶対しないような白々しい笑い方で話を切る二人。
笑い話ということで流してしまおう、この話を引っ張ればお互い不毛なことにしかならないから。
意気投合では断じてないが、意思統一は図れたという意味で笑顔を交わしたのだった。
そんな空気を変える意味でも、ジェニファーがかなり巻き戻った話を切り出す。
「そういえば、仕入れがいまいちとか言っていたな」
「冥界の門のおかげで、世界中の色んなところに行ける。
各地の特産品やお宝を集めやすいのはいいんだけど、それが高く売れる場所に持っていくのに、えーっと……」
「流通コストの話か?」
「そう、それ。“りゅうつうこすと”も少ないから、安く卸せて在庫が
経済と金の話をする幼女と猫耳。
ならちょうどいいか、と呟いたオッドアイ幼女は、その小さな呟きも鋭く拾った猫耳に向かって指を立てながら提案を出した。
「ちょっと売り
「……?珍しい依頼」
いつも皆から頼まれるのは“買いたいものがある”という話なのに、と首を傾げるラウラを置いて。
反動をつけながらぴょん、と椅子から下り、テーブルの上のお茶セットを片付けながらジェニファーは虹の片目を瞑って皮肉気に嗤う。
「なに、宗教と金はとっても仲がいいオトモダチ、という話だ。ちょっと今から言う場所について来てくれ」
…………。
そうして二人は、不毛の荒野に通じる冥界の門をくぐり、地上においてかつてジェニファーが守っていた冥王を祀る祠の裏手に来ていた。
相も変わらず見渡す限りの殺風景。だが、かつてと違いその場を満たす厳かな空気がラウラを落ち着かなさげにさせている。
「ここ、なんか変……」
「主上が結界を張ってくださっているからな」
聖樹教会が世界樹炎上の犯人に仕立てあげたせいで、人間の信仰が薄れ、その結果地上では弱体化する冥王だが、ジェーンが信仰を絶やさなかったこの場所でだけは例外だった。
冥王やジェニファーに敵意を持つ人間は、この祠の存在を認識することすらできない―――堕ちたりとはいえ天上人の一角たる彼の張ったこの結界により、《黒の剣巫》は憂いなくアイリスとして冥界で暮らすことができている。
祈りを捧げると共に祠の手入れをする目的で、本来ベアトリーチェの許可が必要な冥界の門をフリーパスでジェニファーは利用し、しばしばこの場所に来ている。
だが、この日の目的は別にあった。
裏手の蔵、というよりは納屋―――というよりは箱。その土埃避けの被せた麻布を巫女が取り外すと、覗いた金属の山にラウラは目を見開いた。
「これ……!?」
「正直処分に困っていた。それなりに上等な代物なのだろうし、ただ朽ちるに任せるのも惜しくてな」
荒野の風が入り込んだのかやや色をくすませながらも、蒼や銀に輝く武具がそこには山と積まれていた。
剣、槌杖、槍、斧槍と言った武器から、盾、鎧兜に具足まで。
刃物や胴鎧に関しては“入手の経緯から”大きく破損しているものもあるが、籠手や足甲なら完全な品もあるし、傭兵の羽振りが良い街に持ち寄ればジェニファーの言うとおり一財産以上になるというのがラウラの見立てだ。
“元の持ち主”が持ち主だけに良い鋼を使っているし、鍛ち直し用の素材としてでも良い値段が付くことだろう。
「うん、ファウスタ辺りなら出どころも気にされないだろうし、なんなら余計にお金出してでも買ってくれる人もいると思う。
………でも、一つだけ訊いていい?こんなの、こんなに、どうやって集めたの?」
「――――聞く必要があるのか?」
「……。ない、ね。ごめん」
胸や腹にあたる部分が斬り裂かれているものが多い鎧。首の留め金が粉砕されている兜。関節部に残る、拭き去り切れなかったのだろう血痕。
歪んだ聖印は元の持ち主が聖樹教会の騎士であること、そしてその末路を雄弁に語っていた。
今の持ち主がこれらを“剥ぎ取った”経緯―――ジェニファーが正しく『邪教の巫女』であることも。
あらゆる意味で答えるまでもなかった問いを引っ込めると、ラウラは今自分が行動を共にしている幼女の認識を新たにする。
いわゆるストリートチルドレンの出であるラウラには、ジェニファーが行ったであろう所業自体に思うところはない。
奪わなければ奪われるだけ、という環境はどこにでも存在する。それが金か、食料か、尊厳か、命か、あるいはちっぽけな自尊心かという違いはあるけれども。
ラウラにとっての後ろ盾の無い子供を食い物にする腐った大人たちがそうだったように、ジェニファーにとっての決して相容れない対象が聖樹教会だったというだけの話。
そも元より猫亜人(ミューリナ)のラウラは教会の教えなぞどうでもいい。その教えをありがたがっているだけの赤の他人が、こんな世界の果てで幼女に襲い掛かり返り討ちに遭ったところで同情する気にもならないくらいには。
唯一確認すべきは、別のこと。
「
「
「………そう」
不機嫌にも見える仏頂面で返した銀髪幼女の答えが嘘か真かは、ラウラには判断が付かなかった。ましてパトリシアとの常軌を逸した殴り合いの痕跡が真新しくいくつも残っている。
だがそのパトリシアにしても満面の笑みで「もうジェニファーちゃんとはマブダチです!」と夕暮れの河原の殴り合い理論で友情を語っていたわけで。
仲間は裏切らない、見捨てない、護り抜く―――結局ラウラは、彼女自身の信条でもってジェニファーが発した“仲間”という言葉を信じることにするのだった。
「分け前は五・五で」
「構わない。ラウラ商店初利用の印にという程ではないが、少しくらいそちらの分け前が多くても何も言う気はないよ」
「……こっち三、そっちが七ね。じゃあとっとと運ぼう」
当然だが軽く十人分以上の金属武具なので運搬は馬鹿力のジェニファーが手伝っても相当な重労働になる。
だが、“仲間”の命懸けの戦果の上前を
その夜お疲れ様会と称して、ジェニファーの奢りでちょっと豪勢な夕食を料理店で一緒に食べることになり、苦笑しながらも交流を深めるミューリナの姿があったとか―――。
※幽霊船ストーリーにこの幼女を連れて行くとどうなってしまうか分かる一幕。
「そういえばぱっと見大丈夫そうだけど、前の持ち主に呪われたりはしてないよね?この剣とか」
「何を言っているか。我はこれでも巫女だぞ?」
「だよね。確認しただけ―――」
「いつまでも未練がましく武器にくっついてたので、ちゃんとひっぺがしておいた」
「え」
「無理にやったから来世では魂が傷ついていて脳味噌くるくるパーかも知れんが」
「…………にゃー」
正しくジェニファーが『邪教の巫女』であることを再認識したラウラなのであった。