あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 幕間とか言いつつ第二部連載するかはちょっと分かんないです。
 ただ今朝アップしたオリジナル短編と比べるとこっちのがすっごい書きやすかったあたり、サッドライプは二次小説書きなんだなーって。

 そして割烹で触れた原作ゲーム内で結成したギルド『冥戒十三騎士』のメンバーが二十人超えました。終の一騎もとい三十人目の人はそのうちTS幼女に転生すると思うので興味があれば狙ってみてください(ぇ



まくあいっ!

 

「精が出ますね、アシュリー」

「ベア先生」

 

 最近授業中から感じていることだが―――鬼教師とあだ名されることも少なくない毒舌無表情が、微妙に和らいでいるように見える。

 この日最後の授業を行っていた教室から玄関に続く廊下で、日課の鍛錬に行く前の少女騎士がメイド教師に呼び止められたのは、そんなある日のことだった。

 

 勿論ただ微妙に機嫌がいいと言っても、彼女はそれだけで世間話や雑談を振ってくるような人物ではない。軽く首を傾げながらアシュリーは話を促す。

 

「何か用事でしょうか?」

「用事ではないですが。ただ今日は貴女の舎妹を備品の片付けに行かせたついでに倉庫の整理をさせているので、鍛錬には遅れるかもというだけです」

「ジェニファーを、ですか。了解です、こき使ってやってください」

「冥界学園は女所帯ですし、貴重な力仕事要員としてあの幼女には馬車馬の如く働いてもらいましょう。ふふふ」

「絵面……」

 

 舎妹と言われて通じる程度には一緒に居る機会の多い銀髪幼女が、今日は来ないという話だった。

 本人が了承しているのならアシュリーとしては別に構わないのだが、無表情黒髪メイドの指揮の下幼女が重い物を持たされてちょこちょこ動き回っていると思うと大分アレな構図ではある。まあ使う側も使われる側も大して気にも留めない話だが。

 

 そうなると今日の鍛錬はアシュリー一人で行うことになるが、元々互いに自発的に学校の授業にプラスしてメニューを追加しているだけなので、どちらかに用事ができればこのようなことは珍しくない。用件としてはそれだけの話だったが、それではいさよならと会話を切り上げるいうのもなんだかということでアシュリーの方から話題を振ってみた。

 

「ベア先生、今日も夏服なんですね」

「御主人様が天候を操作しない限り冥界に夏も冬もないですが、動きやすいので。

 普段から《深淵》を扱う訓練にもなります」

 

 どことなく抑揚を抑えめにした早口で語るベアトリーチェが纏っているのは、薄手で紺の下地が二の腕の辺りで袖を切られている、スカート丈が少しだけ短いエプロンドレス。首元は涼しげに開いている中でフリルのチョーカーがアクセント。ほんのり素肌の色が透ける白レースの長手袋と腰の諸々を吊り下げたり収納するベルトポーチが特徴的なその聖装は、以前《深淵の園》で偽ベアトリーチェから受け継いだ夏服仕様。

 

「冥戒十三騎士、……うぇ」

 

 最近は見慣れて頻度を潜めていたが、自分で振った話題でというまるで自爆のトリガーで、厨二幼女の度を越した悪ノリが結晶化したような闇の試練の記憶が否応にも思い出される。自分そっくりの偽物から繰り出される、とても正視に堪えない頭綿菓子のような言動を記憶の底に沈めるべく首を振るアシュリー。

 

 それはある種条件反射のようになっていたが、教師メイドは諭すように言葉を投げかけた。

 

「子供のごっこ遊びに付き合う程暇ではなくとも、私は貰える物は容赦なく貰っていく主義です。深淵もリスクはありますが、有用な力には違いありません」

「それは――」

 

「封印したい気持ちも分からないではないですが、無力が罪であることは今更貴女に説くまでもないでしょう?」

 

 確かに恥ずかしいこと極まりない記憶を思い起こされる衣装ではあるが、アシュリーもベア同様に深淵の扱いを補助する聖装を貰ったことは確かだと。使える力があるのに、貴女はそれを封じるのか、と。

 

「……はい。ベア先生の言う通りです」

「よろしい。まったく、他のアイリス共もこれくらい聞き分けがいいなら楽なのですが……」

 

 先日の決闘で、セシルが自分の土俵でごり押ししたとはいえ千年女王アナスチガル相手に張り合えていたのは記憶に新しい。《天上人》勢力に対抗する為の力として渡された聖装は、経緯はどうあれそれだけの能力を秘めた代物であることに間違いはないのだ。

 同じく記憶から消去したがっているクリスなどに我慢して使えとは言わないが、戦士として仲間の命も懸かった戦いの最中に個人的な事情で全力を出さないのは少なくとも自分がやる分にはアウトというのがアシュリーの価値観だ。実力を隠しているが実はSランク?ちょっと意味が分からない。

 

「今日の鍛錬は、あの力を使いこなせるようになるのに充てるか……」

 

 ぶつぶつ言いながら去っていったベアトリーチェの背中を見送りつつ、気の進まないながらもそう自分に呟く。口にして言葉に出せばそれを有耶無耶にできないのは自覚している性分であったから。―――他者から見れば、それを律儀という名の美徳と呼ぶのだろう。

 

 一方で冥戒十三騎士聖装に関するアシュリーの事情は先に述べたので全てだが、ベアトリーチェに関しては別の事情もあるのだろうと確信していた。

 

…………かつてジェニファーの“退学届”を最初に発見した時、手の付けられないほどキレ散らかしていた―――心配していた―――ような『アイリス達のせんせい』。そんな彼女が普段は殆ど自分が繕ったものしか着ていないところに新しい仕事衣装をプレゼントされた。そんな生徒からの贈り物にどんな気持ちを抱いて、どれだけ大事にしているか。

 

「指摘するだけ野暮だな、やはり」

 

 敢えて誰も何も言わないが、ベアトリーチェの最近の上機嫌とここ暫くずっと夏服な本当の理由は冥王やアイリスの間で公然の秘密なのであったという。

 

 

 

 で。

 

「くっ、集中できない……」

 

 鍛錬場にて、ゆるふわJK風衣装を身に纏って『だーりんLOVE♡』のLEDデコ剣を振る女騎士だが、その表情は苦渋に満ちていた。

 この聖装を着ている間中ずっと、腹に気合を入れる度に或いは剣を握る手に渾身の力を込める度に……心の中で囁く声が聞こえるのだ。

 

 

――――あっしゅりんりん☆

 

 

「うるさいっ」

―――あっしゅりん☆

「静かにしてくれ!」

―――あっしゅ、りーんっ☆

 

「ああ、もうっ!邪念撲滅!!」

――――あっしゅりんりん!!☆

 

 妙に韻を踏んで変化する小技が更に憎たらしい内なる声が、アシュリーの羞恥心ごと精神状態をぐちゃぐちゃに掻き回す。剣筋は乱れに乱れていて、こんな状態で戦いに赴こうものなら幾らスペックが高かろうがそこらの雑魚イノッシにすら遅れを取るかも知れない。

 

「ぜえ、ぜえ……くぅ、恨むぞジェニファー……、っ要らん機能を付けないでくれ……!」

―――あっしゅ……り…ん…☆

「喧しいわ……」

 

 どれだけやっても内なる声を振り払うことはできず、しかもアシュリーの疲労困憊に合わせてなんか疲れてる風に変化するのがほんと小賢しかった。

 気にしなければいいというのは分かっているのだが、自分と同じ声で耳に響くとどうしても反応してしまう。

 

 しばらくその場で息を整えていたアシュリーだが、ふと据わった目つきになると静かに重く響くような声を出した。

 

「すぅー………いっそ、開き直るか」

―――あっしゅりん?

「アシュリーだ」

 

 疲れて思考が混濁していたのか、或いは何某かの呪いじみた影響か、女騎士は何やら焦点を失った瞳で剣を構えなおす。そして―――。

 

 

 

「あっしゅりん☆」

 

 再び一人剣舞に戻ったアシュリーの動きは、先ほどの無様さから目に見えて一線を画している。

 疲労さえ嘘のように消えている。全身の挙動は嘗てないほどに滑らかだ。

 

「あっしゅ、りーんっ☆」

 

 かつて相対したアシュりん=アルヴァスっちを彷彿とさせる剣速と踏み込みの苛烈さ。

 馴染む。彼女から受け継いだ能力は今この瞬間に馴染んだのだ。最高にHIGHってやつだ。

 

「あっしゅりんりん☆」

 

 ああ、先ほどまでの自分はどうしてあそこまでこの掛け声を恥ずかしがっていたのだろう。可愛いし、元気が出る。意表を突かれた敵が集中を乱してくれるかも知れない。いいことずくめだ。

 体が軽い。もう何も怖くない――――、

 

 

「アシュ、リー……?ええっと、私は今、見てはまずいものを見ているのかしら……」

「もーいっかい!あっしゅり――――、……。アナちゃん、せんせい?」

 

 

 アシュリーはしょうきにもどった!!

 

 気まぐれに足が向いたのか用事があったのか分からないが―――いつの間にか鍛錬場の入り口では、加入時期の関係から冥界学園で唯一あの偽アシュリーを知らないでいてくれた筈のエルフィンの女王が所在なげに立っていた。だが流石というべきか、スクールカウンセラーはすぐに表情を困惑から受容の微笑みに変える。そして気のせいでなければ野生動物を刺激しないようにするかのような歩幅で少しずつ近づきながら言った。

 

「何か辛いことでもあったのですか?私に相談してください、きっと力になってみせますから」

「~~~~、違うんです、それは誤解です!」

「………。それはつまり、もともとそういう趣向である、と?大丈夫です、誰かに言い触らしたりもしません!」

「そういう意味でもないですッ!断じて!!」

 

 女王の懐の深さが逆に話をややこしくする。何せ今の掛け声の理由を説明しようと思ったら、幼女が仕掛けた試練という名の黒歴史な偽物の話までしないといけないのだから。

 そして経緯がややこしい上に、ちゃんと説明したってある意味馬鹿馬鹿しくて真剣に受け取ってもらえるような話とは思えない。

 

 結論として、アシュリーは詰んでいて―――。

 

「気にすることありません。可愛かったですよ♪」

「違うんです~~~~っっ!!」

 

 真っ赤な顔で全力否定する女騎士だったが、アナスチガルの微笑ましげな表情と誤解が解ける気配はまるでないのであった。

 

 





 アシュリー強化イベント。
 素晴らしい呪……祝福された聖装の力ですね。

 今回幼女の出番なし。これは深刻なタイトル詐欺なのでは……?





※以下、本編と特に関係ない原作への私見なので、適当に読み飛ばしてください。

 第二部三章までの教皇関連について。

 冥王に謝罪するくだりは……まあ。
 ギゼリックに対して「お前ほんと邪魔」みたいな態度隠してないあたり第一部でのやらかしに対する反省ゼロ。冥王様と話すときもそのことについては一切触れなかったのを見ると、悪いことをしたとすら思ってない疑惑が。ギゼリックと政治家として好敵手に対する認め合ってる感を出したかったんだろうけど、これまでの前提を踏まえてみるとすごく何こいつ感。
 で、冥王様に頭は下げるけど、自分のせいで相手が被った被害に対して「冥王様に冤罪を着せた声明の撤回」「公式に過ちを認め名誉回復の為に積極的な措置」などの自分に負担が掛かる“誠意”は約束どころか一切話にも出さない(世界樹放火犯という生贄がなければ民が恐慌を来すという言い訳も、炎上は世界樹新生の為だったんだとか言い繕えるので説得力が消滅している)のは、頭下げるだけならタダだよねを地で行く謝罪で逆に煽ってるよーにしか見えなかった。
 もはやはいはいいつもの味方面教皇……ではあるんだけど、正直ライターはプレイヤーにどういう印象持ってもらいたくてこのシーンっていうか教皇を書いてるんだろうってのはちょっと気になる。

 で、問題の第三章。
 教典に描かれる神聖な天上人が人類に害意を持って襲い掛かるという、宗教組織としてアイデンティティに罅入るレベルの惨事だし、その辺の混乱とか周囲からの不信とかが普通なら予想されて然るべきと思うのです。特にかつて帝国側で参戦しておきながら帝都決戦の最後の最後で寝返るという(しかも冥王が起こした奇蹟にビビッて)、戦国武将なら寝返り先で即刻首すっ飛ばされるレベルのアレな行いをしているわけですし。………辺りの前提は多分無視されるんだろうなーくらいは事前に覚悟はしてましたが。覚悟はしてたつもりでしたが。


『教皇様が中心になって各国首脳をまとめ上げ、教会の導きによって迅速に民衆を統制できたおかげで天使様(教典だと人々を優しく見守るらしい)の襲撃に対しても混乱は最小限で被害を抑えられました!流石です教皇様!!』
『亜人の国など聖樹教会を信奉してない国には統制が働かないから被害が拡大するかも知れないけど、仕方ないよね!教会を信仰してないんだもの!!』


………?……???

 頭おハーブでもキメていらっしゃる?


 正直教皇も天使が皮被ってますとか、「天上人様が滅べと言っているのです。私たちは粛々と滅ぶべきでしょう?」みたいな狂人キャラでしたとか、そんなアレだったら見事なヘイト管理だと感心するんですが、多分違うんだろうし……。
 贔屓のキャラをヨイショしたいのはいいけどせめて話の流れや登場人物の思考回路を四次元ワープさせるのはやめたげてというか……。
 コードギアスとテイルズオブジアビスのアンチ・ヘイト作品が昔凄い量あったのと、それらのアンチ・ヘイトは叩かれる頻度が少なかった理由が魂で理解できたというか(腐に人気な作品っていう層の違いもあったんでしょうけど)。

 遊戯王アークファイブとけものフレンズ2の惨劇をふと思い出してしまったというか。

 以上、教皇好きな方とか不快にさせたかもなのでそこはごめんなさいなのですがどーしても吐き出さずにいられなかった私見というか愚痴でした。


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