あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 注)夢オチです。

 サブタイをどっかに打ち込んで漢字変換するか投稿日時を確認の上「ああ、こいつまたバカやってんな」という認識でお読みいただけると。




わたぬきっ!

 

「馬鹿な―――!」

 

 神々しいまでの色香ただよう美丈夫、しかしながら人形めいた無表情が初めて崩れる。

 

 天上人ゼロノス。世界樹新生の折「ハデスに任せる」と言った筈の地上で、人間の考えた信義など無価値とばかりに突如己の前言を翻し、天使の軍勢と共に蹂躙の限りを尽くす上位者。

 曰く、「与えられた役割から外れる無秩序な存在は全て抹消されるべき」と。原初の神から地上の管理を任された天上人の筆頭として、《深淵》と冥王ハデスの介入で魂という穢れを持った地上の生命を全て滅ぼすと。

 

 そして彼は無慈悲であっても無思慮ではなかった。無節操であっても無鉄砲ではなかった。

 ひとつは空の上の《天庭》と違い天上人として真に全能を揮うには制約のある地上で、周辺の生命の思考能力を停止させる黒曜の柱と無尽蔵な数の下級天使による軍勢での進攻という手段を取ったこと。まさに神出鬼没といった体で世界各地に現れるソレらは、アイリス達が未回収の《世界樹の種子》を収奪しながらも各都市に暮らす民達へ熾烈な攻勢を仕掛け続けていた。

 聖樹教会の教典では崇められるべきとされる神聖な存在が無辜の民に牙を剥く。先の戦役の結果教会に対する信仰に民衆が失望していた結果、天使達が魔物と同じ―――否それ以下の『害獣』として襲い掛かってきてもなんとか冷静に組織的に対応できていたが、下手に教会を人々が信じたままでいたならパニックになり更に被害が拡大していたことだろう。

 

 そしてもうひとつ――――たった一人で天上人達に宣戦布告した闇の女王を、ゼロノスは軽視していなかった。創世のプロトタイプたる《深淵》、その無尽蔵な侵食の力を十全に揮うダークアイリスは己の目的の障害になり得ると認めていた。

 だから効率の為に罠にかけた。仲間であるアイリス達の肉体と精神を踏み躙り、かつて与えた古傷を再生させて冥王を散々に痛めつけ、誘き寄せる餌にし、抵抗を封じる人質とした。そしてゼロノス直々に、渾身の力を込めた雷霆の裁きで黒き童女は消し炭すら残さない程に焼き尽くされたのだ。

 

 最早邪魔なものは何もない。いずれ纏めて滅ぶからとその場は見逃した冥王の手駒達は怒りに燃えて再戦を挑んできたが―――よくもよくもと芸がない。敵わぬと分かっていながら不合理極まりない。やはりこんな種は滅ぼすべきだ―――煩わしいと思う程度でしかなかった。

 鎧袖一触に打ち払い、感慨もなく処理をしようとしていた間際に。

 

 

 

「【[―――赤光、叢雲を裂きて陰陽を分かつ。其は猛き覚醒を寿ぎ、安息の眠りを祝るモノ。

 我ら星の息吹に根差す葦、ここに創世を標めす篝となる]】」

 

 

 

 声が聞こえた。最早紡がれることのない筈の、生意気盛りの幼い女の声。

 確かに響いた。暗き澱みから漏れ出るような冷たい怨嗟と、どこか優しくも揺らぐことのない怒りを残響させた不揃いな三重奏が。

 

 

「【[吼え立てよ凱歌。重ねし相克、無窮の理。以て三千世界に最強を詠わん]】」

 

 

「貴様はこの手で滅ぼした筈だ……何故私の前に再びその姿を見せる!?」

 

「―――滑稽だな。自らの不滅は過信する癖に、人を幽霊でも見たかのように。たかが塵から再生する程度、そんなに物珍しいかよ」

 

 

 戦場と化したサン=ユーグバール……かつて天上人を人間にとって敬うべき神聖なものとして崇めていた道化達、その聖地であり総本山だった巡礼の大地から漏れ出たような碧光の中で、精霊は再誕する。

 黒衣を優しく包み隠すような純白の外套を纏った幼女に、仲間たちは歓喜の笑みを浮かべようとして……失敗した。

 

 復活幼女の髪が、今度は金色になっていたから。ラディスの鮮やかな白金ともティセの優しい飴色とも違う、リディアの煌く黄金とも似て非なるその金には見覚えがあったから。とても嫌な予感しかしなかったから。

 

 ユーが全員の思惑を代弁して曰く。

 

「ジェニファーさん、信じてましたけど……あれくらいで死ぬ筈ないってみんな言ってたし、実際無事な姿見れて嬉しいですけどっ!

―――ごめんなさい、一つだけ聞かせてください。あなた本当にジェニファーさんですか?というかジェニファーさんとジェーンさん“だけ”ですか?」

 

 

「ふっ、その魂に刻め。敢えて名乗ろう。

―――今宵我等は《ダークアイリス・リリィ》であると!!」

 

[ジェニファーさんが言ってました。平和を作るためには条件がある、その一つは戦う意志を取り除くことです。

 つまり理解(わか)らせること!!殴れば前歯がへし折れるまで殴り返されるって当たり前のことを、自分が一方的に相手を殴れるなんて勘違いしたお馬鹿さんにはわからせなきゃいけないんですっ]

 

 

「この悪ガキ、リリィに何吹き込んでくれてやがるんですか~~~~っっっ!!!」

 

 

 ジェニファーの中からほわほわした声、しかし発言内容は物騒というか過激な論が聴こえてくる。それは紛れもなく冥界の可愛いマスコットである世界樹の精霊(光)のものだった。可愛いマスコットがお留守番していた冥界から引っ張り出されていたかと思うと、厨二の極論に汚染されていた。

 素直に仲間の生還を喜べない一行を差し置いて、場の空気をいっぺんに持って行ったジェニファーが仕切り始める。

 

「主上、命令(オーダー)を。報いという言葉の意味を、高みから見下ろす裁定者気取りに叩き込む」

 おーけー、やっちゃえジェニファー。奥歯まで全部折っちゃっていいから。

 

 

「【[“三位合神・承認(トリニティルーラー・アサインド)”―――――“冥王計画(プロジェクトハーデス)”ッッッ!!!!]】」

 

 

 さすがの冥王もゼロノスの所業に対して頭には来ていたのか、即決で巫女の暴走にゴーサインを出す。それを受けて幼女“達”は祈り―――世界の根源と外法の終焉へと接続した。

 金髪朱彩眼の幼女へ世界に満ちる魔力(エテルナ)が収束していく。連結した次元の彼方から無尽蔵の闇の力が流れ込んでくる。

 

 光と闇を備えた幼女。可視化された対極のエネルギーの奔流を二重に宿した姿は、『最強』以外の何物にも見えない。

 

「……っ、認めよう。貴様こそが我らが管理する世界に在ってはならぬ害悪であると。

 天上人が筆頭ゼロノスの名の下に、全霊を以て討ち滅ぼす―――」

 

 相対する上位者もまた警戒を露わに、神の奇蹟を体現する裁きの雷を掲げた掌に集め始める。先だってジェニファーに食らわせたものと比しても更に桁違いの熱量を持つそれは、周辺の土が気化しながら巻き上げられる程に凶悪なもの。

 全力ならば一瞬で巨大城壁を花弁へと散らし、一夜にして海を作り四季を変える冥王と同等以上の存在と考えれば、その全霊にどのような凄まじさが込められているかは論ずることすら困難だ。

 

 その“破滅”を、たった一人の幼女目掛けて撃つ。解き放たれた権能は最早閃光としか認識できず、固唾を以て見守っていたアイリス達は目を瞑りながら背けるしかない。

 物理的な破壊力もさることながら、咎人に概念的な消滅をも与える神秘の込められた一撃。これを耐えうる存在など、ゼロノスは己自身を含めて想像すらしていなかった。

 

 

「――――それが貴様の限界だ。人間は、人間が想像することは全て実現する未来なんだよゼロノス。是非も善悪も問うところではなく、な」

 

 

「ありえない―――ッ!!???」

 

 閃光、威圧感、焼き焦げた大気の匂い、それらが一瞬の内に幻のように消え去った。今度こそ戦慄に目を見開くゼロノスの視線の先に、白の外套に煤汚れすら付いていない金髪幼女が堂々対峙している。

 

「我は知っている。地上全てを幾十焼き払おうとも足りない力を持つことも、幾千里離れた名も知らぬ他人と会話する手段を得ることも、そして日輪の輝きすら星屑の儚さに変える天海に漕ぎ出す舟を作り出すことも。何もかも忘れようと、人間がそういう生き物であることを“知って”いる」

 

 それは信頼と呼ぶには乾いた信条。人間の無限の可能性というものを確信しつつ、その上で見切りをつけているかのような斜に構えた見方。

 そしてその価値観に従い―――彼女は冥王を除いた天上人を見下していた。

 

 

「それに引き替え貴様らはなんだ。人間の価値を好き勝手計って断じられる程高尚か?

 原初の神から地上の管理を任された………他人に貰った玩具で、重力の井戸の底で粋がるだけの分際で!」

「何を……っ」

 

 

「息すら許されぬ暗黒の大海、真なる天こそ闇と知れ。

 その増上慢、贖ってもらうぞ羽根付き蛙―――ッッ!!!!」

 

 

 かつてリディアに下した『鳥人間』、それより更に劣化した蔑称を貼り付けた相手。前兆もなくその眼前に空間転移した幼女の拳は、これまた既に振り被って叩きつけられる直前の状態になっていて。

 

「ふがべっ!!?」

 

 鼻と唇の間、人体であれば急所に奇麗に吸い込まれた殴打は、事前の宣言通り上の前歯の四本を半ばでへし折る。―――たったそれだけしか折らなかった。まだ下の前歯も奥歯も残っている。

 

 

「天上人のなら折れた歯でも聖遺物になるのかね。いい値段が付くと嬉しいが。

………あと二十四本。全部折れる頃には、その奇麗な面を素敵に整形してやるよ」

 

 

 先の破滅の雷に伍する放出系の異能力は振るうことなく、本領である剣すら握らず、場末のチンピラが如く血の付いた拳をワザとらしくスナップして挑発する。

 万を超える時間を経ながら他人と殴り合うことを、他人を殴って殴り返されることを考えたこともなかった『お馬鹿さん(ゼロノス)』相手にはそれですら充分で。

 

 既に天上の美貌は血にまみれて歪んだ上顎で台無しだが、この後もはや見るに堪えない醜男に変えられるのはどう見ても決定事項だった。

 

 

 

 

 

「……ぉ、ぃあ……っ?」

 

 顔に限定されず体中のあらゆる部位をノーモーション空間転移神拳で滅多打ちにされ。飛ばしていたゼロノスの意識が戻ってきた時、彼は何も分からなかった。

 視界は闇、聞こえるのは一切の無音。血の味と匂いしか分からず、しかし体中に異物が這い回る感覚だけは鮮明。

 

『全国一千万の愛好家が居る幼女の触手プレイだ。そら、歓喜にむせび泣けよ』

 

 入念に変形させられた顔面は勿論、どこの部位を取っても真っ黒な木の根が皮膚の表に裏に根付いているその様は、人によっては見るだけで吐き気を催すような有様だった。

 

『世界樹の精霊が貴様に新しい役割をくれてやる。世界樹の養分だ。

 与えられた役割に忠実に生きるんだぞ?散々お前が他人に強要してきたことだろう?』

 

「ぁー、ぅ~~~~~っ」

 

 全ての歯が砕けているが故に、脳裏に直接響いてきた幼女の嘲りにまともな言葉を返すこともできない。そしてその声もすぐに聞こえなくなる。

 

 ゼロノスが拘束されているのは地底の旧き生命の世界樹の根。《深淵》の貯蔵庫として使われているそれから彼が侵食を受け、感情と魂を獲得するのに大した時間は掛からない。

 そして何も感じられない時間は、芽生えた感情が狂気に染まるのに余りある悠久さを持つ。

 

 千の時を数え、彼が世界樹の根から脱出した時、既にその精神は地上も天庭も関係なくただ破壊する衝動に動かされるだけの残骸だった。その果てに人型植物の異形と化したゼロノスを討ったのは、皮肉にも銀髪の天上人。

 

―――ごめんね、ゼロノス。

 

 銀髪もその謝罪の言葉にも何かの引っ掛かりを覚えた気がしたが、それを掘り起こすには摩耗しきった魂は輪廻の環へと流されていく。

 

 そんな千年を。

 

 

 

「ジャスト一分だ。|悪夢『ユメ》は見れたかよ?」

 

 

 

 もう何回繰り返しただろう。

 あと何回繰り返すのだろう。

 

 あるいは。

 

 

 

…………また変な夢見たなあ。

 

 もしもの可能性、それを垣間見ただけの話ということもあるのかも知れない。

 

 

 

 とりあえず、平常運転な気もするが夢の中で暴走していたジェニファーに対して冥王は。

 

「みゅ。ひゅひょー?」

 

 翌朝学園の廊下で見掛けた幼女のほっぺたをなんとなく引っ張ってみる。

 子供のほっぺはすべすべもちもちで案外触っていて気持ちよくて、フランチェスカのいつもの躾もそういうことなのかと納得したのであった。

 

 





 繰り返しますが夢オチです。
 第二部連載するとしたらこんな感じに……多分ならない。原作もゼロノス叩きのめしてめでたしめでたし、って流れじゃなさそうですし。

 そして光と闇が備わり最強に見える(タグ回収)ダークアイリス・リリィ。サーヴァントなんだかゼクスなんだか碇シンジなんだかメスガキなんだかゼオライマーなんだかブロントさんなんだか天魔宿儺なんだかたっくんなんだか奪還屋なんだか、これもう本当にわかんねぇな。



 というわけでエイプリルフールでした。

………さて、今日からサッドライプはコロナ下の強制労働省出向とかいう罰ゲーム二年目開始(ガチ)。半年くらい執筆活動がなかったらお察しの上冥福を祈ってくださいな。


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