あいりすペドフィリア   作:サッドライプ

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 ふと思いついた場合ですがうちの幼女と各アイリスとの学園イベントを前書きか後書きに突っ込もうと思います。


~学園イベント・アシュリー~

「そういえば、ジェニファーは“冥戒十三騎士”と言っていたな。
 ちょっとその頃の話を聞かせてもらえないか?他にどんな騎士がいたんだ?」
「………あー、それは」
「私も世界樹の種子が宿った廻り合わせで、エリーゼ様の騎士団で唯一生き残った身の上だ。
 だから思い出すのも辛いというなら無理に話さなくてもいい」
「いや、そういうことではないのだが………」
「なら良かった。逝ってしまった戦友達は今でも心の中で共に戦ってくれていると、私は信じている。
 そんな彼女達の遺したものを、たまには思い出話として誰かに語ることで、再確認できれば明日の戦いの力になると思うんだ」
「それはいいことだと思う……ん、だが」
「分かってくれるか。おっと、ならまず私の方から話そうか。
 そうだな。私が正騎士に叙任された後、見習い騎士が馬飼いの従者に付くことになったんだが―――」


「…………(かっこいいから勝手に名乗ってるだけとは、言いづらい……)」


 以上、こんな感じで。
 じゃあ以下メインストーリー一章入りまーす↓




地上に生きるもの

 

 

「それではアイリスの皆さん、魂に懸けて手ぶらで帰ってくることのないように」

 

 この日は学園が開校してから初の世界樹の種子探索の旅だった。

 

 面子は冥王とユーは当然として、ベアトリーチェ、クリス、パトリシア、ラウラ、そしてジェニファー。

 放浪の若き魔術師ラディス。

 孤高(決してぼっちと読んではいけない)の竜人シャロン。

 愛嬌を振舞ってもいまいちあざとくなれない自称系アイドルの兎亜人クルチャ。

 

 これまで触れなかった新顔の描写はおいおいとして、そんなアイリス達が冥界の扉を通って地上に出る時、決まってやることがある。

 

 打ち壊され、祈る者も絶えて寂れた冥王の祠を掃き清める。

 冥界に咲く花を一輪祭壇に供え、僅かな間黙祷(もくとう)を捧げる。

 

 この習慣を始めたのはジェニファーだ。

 外観は直してもまた壊されるから整えられるのはせいぜい内部だけだし、そもそも祈る対象である冥王は後ろに本人が居る。―――そんな無粋を言うアイリスは居なかった。

 

「…………待たせた。悪いな、いつも感傷に付き合わせて」

「いえいえ。それにジェニファーさんが不在の出撃の時は、他の人たちで同じことやってますし」

「ま、ある意味私らみんなめーおーを信仰してるからねえ。巫女なんでしょ?感傷なんて卑下しないで、神事だっつって堂々と仕切りなよ」

「……ありがとう」

 

 クリスが居る為に右眼に眼帯をしている黒衣の幼女の謝罪に、世界樹の精霊と魔術師が問題ない旨伝える。

 ユーとはアイリスの中でも最初期から居る者同士だし、魔術師のラディスとも関係はそれなりに良好だった。

 

 ラディスは子供が嫌いではない―――うるさくなければ、という前提が付くが。

 ドワリンド領魔術研究機関、通称『塔』の一門に弟子入りし、世界樹の種子を宿したことでその秘密を探る旅に出てアイリスと合流した経緯を持つアウトドア派な魔術師が彼女だ。

 マントにとんがり帽子と割とお約束な魔女衣装を着ているが、幼少期の環境のせいで発育が悪く、金髪のお人形のように形容される容姿のせいで子供扱いされることが多く、プライドの高いラディスは癇癪を起こすことになる。

 その点相手が子供なら舐めた口を聞かない限りは鷹揚に接することができるし、そもそも感覚と理論の両立が必要な魔術師という人種は基本ジェニファーと通じる気質を持っているものだ。―――オタク、または厨二の気質を。

 

 だから、それなりに息も合っていて。

 

「みんな大変!あっちで人が魔物に襲われてる!」

「ん、じゃあ皆を待たせてた分さっさと片付けて来てよ。ほれ、バチっと」

「心得た―――輝電装刃【エンチャント・サンダー】」

 

「“裂雷のエリュシオン”」

「スラ゛ーーーっ!!?」

 

「はやっ!!?」

「いつか研究してやりたいけどなアレ……」

 

 水晶の大刀が雷魔術を吸ってトパーズのように鮮やかに輝き、吹き飛ばされたような不自然な体勢で使い手ごと猛烈に加速。

 直後に魔物の断末魔らしい奇声が聞こえたあたり、あの速度と質量がそのまま斬撃に乗って敵に襲い掛かったのだろう。

 

 斥候に出ていて慌てて戻ってきたクルチャが愕然としているのを視界の隅に収めながら、便利は便利なのだがちょっと理不尽とも思う。

 

 撃たれた魔法を吸収し、超強化された状態で暴れ回る―――味方だからまだいいが、敵に回せばラディスのような攻撃手段をほぼ魔法に頼っている魔術師は何もできなくなる。

 敵への攻撃魔法のつもりが全て支援魔法に変わってしまうのだ。しかも制御はともかくスペックだけなら特上の素質を持つセシルの全力の炎魔法すら軽々と吸収してみせるため、キャパオーバーもあまり期待できない。

 

 何か対策を考えておかないと、学園ではアイリス同士の模擬戦もあるし、今後ジェニファーと同じ技能を持つ敵が現れないとも限らない。

 『塔』を抜け出しても、厄介な課題がラディスに降りかかっている。

 

「―――へへっ。今度ジェニファーを一日中実験に付き合わせてやろっと」

 

 困ったことに。そういう難題を解くのを、むしろ嬉々としてやりたがる性分なのだった。

 

 

 

…………。

 

 種子探しのいつものパターンとして、何故か人がモンスターに襲われているのを助ける機会が多い。

 まあ、恩を売れば情報収集にも協力してくれるし、種子持ち(シーダー)が引き起こした事件に繋がる場合も多いので都合がいいといえばいいのだが。

 

 今回もそういった流れで情報を仕入れようとしていたのだが―――従者の血が疼いたベアトリーチェが「頭が高い、控えおろぅ!」のノリでつい冥王一行であることをバラしてしまった。

 人々の信仰の象徴である世界樹を炎上させたと聖樹教会の教皇直々に声明が出されている冥王。その場で冤罪だと釈明しても聖樹教会の教徒からすれば信用度は天と地の差。

 見る間に態度が硬化し、逃げるように立ち去られてしまう。

 

「なんか助けたお礼にりんご貰ってたし、これが収穫……なんちて?あはは」

 

 引きつった笑顔で、なんとか落胆に包まれそうな空気を和らげようとするのはクルチャ。

 

 ベアトリーチェの言動は、全て冥王の忠実な従者としてのもので、あまり責めたものでもない。

 だが、信仰が激減したことで冥王の権能が地上で大幅に弱体化したことといい、聖樹教会は本当に余計なことをしてくれた―――ジェーンの一族の惨劇のことがなくても、特に教会の教えに価値を見出していない亜人組からすれば苛立ちを禁じ得ない。

 それ自体が動機の全てではなくても、アイリスは皆自分達が命の循環を取り戻し世界を救う旅をしていることに誇りを持っている。知らないとはいえその邪魔をするというのは、世界を滅ぼしたいのかお前らと思ってしまうのは避けられないだろう。その怒りは一方的な視点による増上慢と頭では分かっていても。

 

 あるいは単純な話をすれば、慕っている冥王が不名誉な中傷に曝されていて面白い筈もない。

 

―――どんまい。気を取り直していこうか。

 

 皆がその不満を口に出さないのは、他人の悪口を言って盛り上がるような感性の者が奇跡的に居ないため、口に出せば空気が悪くなるだけだからというのが一点。

 直接的に被害を受けている冥王がその器の大きさから飄々としているので、自分たちが口を出す筋合いではない、というのが一点。

 

 そして、敬虔な信徒であるクリスとパトリシアに配慮して、というのが一点。だが―――。

 

 

「当時聖樹教会があの声明を出したのは、誰かを犯人に祭り上げでもしなければ人々の不安と混乱が収まらなかったからです。

 それくらい、世界樹の炎上は誰にとってもショックだった」

「せ、せんぱい?」

 

 

「―――仕方なかったんです」

 

 

「………」

 

 クリスは動揺するパトリシアを無視して、何故か求められてもいない釈明を始める。

 瞬時に場の空気が冷え、緊張に包まれた―――その中心は、クリスとジェニファー。

 

「なあ上級神官様。ジェニファーの前でそのセリフを言うとかいい度胸してんじゃん」

「いい、ラディス。―――続けろクリス」

 

 事情を直接聞いた訳ではないが、ジェニファーの経歴におおよその察しを付けているラディスは青筋を立ててクリスに食ってかかろうとした。

 そのせいで家族を殺された人間に向かって“仕方なかった”なんて、間違っても言ってはいけないのに、そんなことも分からないのか、と。

 

 だが、ラディスを制止したのは当のジェニファーであり、彼女は感情の読めない紅眼でクリスをじっと見つめるだけだった。

 場の空気を一片に塗り替えた聖職者は、一度唾を飲み下し、復讐鬼を宿す童女に真っ直ぐ向き直って言った。

 

「教会の上層部は、それが解決策だと。そうするしかないと“信じて”いました」

「だろうな」

「その結果が今の冥王様の旅の障害であり、そして貴女の身に降りかかった悲劇です」

 

―――信じる者は救われる(わたしはわるくない)。

 かつて教会が引き起こしたジェーンへの仕打ちに惑い悩むクリスに、ジェニファーは戯言としてその道を示した。

 

 仕方なかったと。組織の維持の為に、異教の民の犠牲など些細な問題だと。

 そうやって自分を誤魔化せば(信じれば)、罪悪感も責任感も抱かなくて済む(救われる)、と。

 それが許されるのだろう?最大主教(おまえたち)は、と。

 

「起きてしまった結果を見て見ぬ振りをすることが。言い訳をして己を正当化することが。

 それを“救い”と呼ぶのであれば、私は許されなくてかまいません。いえ、許されてはならない」

「………つまり、何が言いたい?」

 

 問いつつも、ジェニファーは理解していた。

 かつて己が投げた戯言への回答を、真面目にもクリスはここでしようとしているのだと。

 

 

「聖樹教会は過ちを犯しました。過ちは正さなければなりません」

「戯言だな。………まあ、当然か」

 

 

 戯言への回答は、当然戯言でしかない。

 “だって、口だけ。何を成し遂げた訳でもない”。

 

「期待はしない。汝が何をしたとて、何かが戻ることはない」

「それでも!このことを認めずに、貴女と向き合うことはできません」

 

 たとえ口だけだとしても、敬虔な彼女が教会のしたことを否定するのは並々ならぬ決意を必要とした筈だ。

 それでも、選ぶべきと思った道をクリスは選んだ。

 

 いつまでもジェニファーに対し、迷いを以て接し続けるわけにはいかないから。

 

「向き合う必然性もあるまいに」

「必然性ならあります」

「………何?」

 

「同じアイリスとして、仲間ですから。対等に向き合えない仲間などと、誰に胸を張れるでしょう?」

 

 そう言い切ったクリスが微笑む。これまであった後ろめたさや躊躇いの、その先の境地が見えたと言わんばかりに。

 

「―――ふん。クソ真面目め」

 

 ジェニファーもまた、笑みを返した。これまでにクリスに見せたことのない、対等の相手として敬意を払った視線で。

 

 

 

「―――のう。我ら、そろそろ喋ってもよいか……?」

「皆の前だってこと、忘れてないよね……?」

 

 で、勝手に盛り上がってなんか勝手にいい感じで締めようとしている二人に対し、衝突は免れたと胸を撫でおろした周囲が空気を入れ替えるべく割り込む。

 ジェニファーの為に突っかかったのに、と釈然としない―――口には出さないが憮然としている―――ラディスにはジェニファーが手を合わせながら謝意を示し。

 

 ジェニファー加入以来の葛藤にとりあえずひと段落つけてほっと胸を撫でおろしたクリスの背を、冥王がそっと優しく撫でた。

 

 お疲れ様。

「いえ、ここからです。過ちを正すと言っても、それがどういうことなのか、その為にどうするべきなのか、まだ見えた訳ではないのですから。

 やり遂げられないなら、それこそ戯言になってしまいます」

 真面目だね。でも、応援してる。

「………はいっ。冥王様が見守っていただけるのでしたら、私はどこまでも頑張れます」

 

 ほんの数瞬、背中を冥王の胸に預け。

 感じた温もりを胸にしまい込んで、歩き出した。

 

 

「さあ、往きましょう冥王様。今回の冒険はまだ、始まったばかりです」

 

 





 実際何が解決したって訳でもなく、眼帯外してクリスを見たら相変わらず右腕が疼く案件なのですが。
 ただクリスが今後過度にジェニファーに対し後ろめたさで遠慮したりおどおどするようなことはなくなります、という話。

 つまり、クリスティン・ラブリーショコラが解禁されたということ……!


 っていうか10人もいたら会話捌けないわ。普通に考えたら数人ずつに分かれて会話するような人数だし。
 何とか全員一回は喋らせたけど、ちょいきつい……。


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