鬼の出づる刻   作:九条なお

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本当に遅くて申し訳ありません


前日譚3話

講義が終わり書庫へと足を運ぶノエル。

教授の講義は週に数回、それも大陸の歴史についてはことさら少ないので知りたいと思ってもその機会が中々ないのだ。

そういった学生はそこそこ多く、そんな学生の為にあるのがレガリア修道学園の書庫である。

ここには聖道教に関する本から、大陸に存在する国の本、動植物の図鑑など。様々な物が存在する

その中でノエルは書庫の一番奥にある棚へと向う。

この棚にはレガリア大陸に関する本がずらりと並んでおり、その中でもレガリア大陸史は全20巻からなる分厚い本だ。

「確か……ここら辺だと思うんだけど…」

ノエルはレガリア大陸史の本を手に取ると机の上で広げた

「……。ここからかな?」

教授の講義の続きの歴史。ノエルはそこから先の歴史を読んでいった

 

レガリア連合軍による鬼の討伐計画は順調に進んでいった。

しかし、それは軍事の面でのみであり肝心の鬼の情報収集が難航していた。

人ならざる鬼に人の武器では歯が立たぬのではないか?

人の防具は鬼の攻撃に対して意味を為さないのでは?

各国の学者達はそう意見を唱える

学者達の意見を聞き、情報を集めるための部隊を作り死の大地へと送り込むも誰一人として帰ってくることはなかった。

ここで遂に連合軍の将軍は全隊による鬼の討伐作戦の嘆願を教皇へと送った。

教皇は暫くの間悩んだ後攻撃の許可を出した。

しかし、この攻撃はあくまでも偵察を兼ねたものであり後々へ繋げるものであるという念を押した。

こうして総勢50万超という大規模部隊による鬼の討伐作戦が始まったのである

 

連合軍は死の大地へと足を踏み入れた

全員が一斉に緊張に包まれ、慎重に歩を進める。

それから暫く後、部隊の遥か前方から怒号が響く

更に上空から何かが飛んできた

 

鬼である

 

禍々しい体躯の色に赤い目。鋭く尖った角がその生き物が異形であるということを象徴していた。

「鬼だ!鬼が出たぞ!」

誰かがそう叫んだ

鬼は大きく息を吐くと、周りをぐるりと見渡し四肢に力を込める

突如大きな体躯が跳ね部隊の一角に襲いかかった。

「怯むな!鬼は一匹だぞ!」

部隊は鬼を囲むようにぐるりと隊列を円にした。

盾を持った者が前に出て、槍兵と弓兵による波状攻撃を行う

しかし、鬼はそんな攻撃をまるで蚊に刺されたかのように振り払い槍兵の槍を掴み振り回す

「ま…まるで効いてないぞ!」

明らかに兵士達に動揺が走る

隊列が後ろへ下がる。

そこへ後方で待機していた大砲部隊が一斉に大砲を放つ。

鬼がいる場所へ砲弾が降り注ぐ

轟音と共に爆発が起き、煙が大きく舞い上がる

兵士達が固唾を飲んで見守る

「グォォォォォォォォォ!!!」

砲弾の着弾位置から耳を劈く程の声が響く

鬼の身体から煙が立ち込めており、明らかに怒りに満ちている事が分かる

「た……大砲でも駄目なのか」

そう言った兵士の上半身が吹き飛んだ

鬼は苛烈な攻撃を放つ

その攻撃は一人ではなく数十人という兵士を巻き込む。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

隊列が崩れる。ここからはもう地獄だった。

鬼の攻撃に成す術もなく倒れていく兵士達

更に兵士達に追い打ちをかける出来事が起こる

「お………鬼だぁ!後ろからも鬼が来るぞぉ!」

兵士達は後方を視認する。

凄まじい勢いで後方の兵士が飛び交い、噴煙を撒き散らしながらそれは迫ってきた

体躯は同じぐらいだがその身体の色と角の形状が違う

明らかに別個体の鬼であった。

「た……助けてくれぇ!」

悲痛な叫びだけが虚しく響く

「てっ…撤退!撤退しろー!」

将軍の撤退命令が下るが、余りにも遅すぎた。

現在部隊のいる位置より更に後方。そこには絶望の壁が建っていた。

「……………なんだあれは?」

将軍はその光景が現実のものと認識できなかった。あるいはしたくなかったのだろう。

そこには明らかに数十匹はいる鬼の大群が退路を塞ぐように横一列になっていた

「………」

この世の終わりの様な顔をする将軍。

そこからはもう一方的であった

逃げ惑い、悲鳴を上げながら絶命する兵士達

将軍も鬼の攻撃により命を落とす

ものの数十分もしないうちに連合軍は崩壊。そこにはおびただしい数の死体だけが残った。

「グォォォォォォォォォ!!!」

鬼たちが一斉に声を上げる

その響きは或いは勝鬨のようなものなのだろう

どこまでも聞こえるような声は暫く続いた

 

それから後、鬼たちは先程まで生きていた者たちを一瞥すると興味を失ったのかその場から立ち去っていった。

「……………」

死体の山の中に動く者がいた

それは軍の中では新兵であり鬼の攻撃に巻き込まれ、吹き飛ばされた兵士の下敷きになった者であった。

顔は汚れ、恐怖で涙が止まらなかった

「ほ………報告しなくては」

陰からこっそり覗いていたその兵士は鬼達が居なくなったのを確認した後、ゆっくりと這いずり出る。

「こ、この犠牲を……無駄には……」

震える足を少しずつ前に動かしながら兵士は皇国へ帰還した

 

「………なんて恐ろしいの……」

ノエルはそう呟きながら本をめくる。

大陸史に書いてあるのは鬼の苛烈さと残忍さ、恐ろしさを報告を元に記したものである

事実かどうかは分からないが、それでも文字を通してその恐怖を伝えてきた

「ここから…どうなったのかな。」

ノエルが続きを見ようとしたその時だった

「こらっ!」

「ひゃっ!」

突然後ろから大声で怒鳴られる

「君、もう閉校の時間だよ。早く帰りなさい」

「えっ、えっ。もうそんな時間に……」

外を見ると既に夕日が窓から見える

「勉学に熱心なのは良い事だが、規律は守りなさい」

「は……はい。すみませんでした。すぐに帰ります」

ノエルは一礼して謝ると、本を元あった場所に返し荷物を纏めて学園を後にした

 

「夢中になり過ぎちゃったなぁ…」

好奇心というものは制御し難く、ノエルは自分の知的好奇心の貪欲さを少しだけ恨んだ。 

「続きはまた今度かな。明後日にはまたミサもあるし、気持ちを切り替えなきゃ」

自分に喝を入れ家路に着く、道中聖道教会の前を通ろうとした時だった

「ん……?あの人……」

ノエルの目に一人の人物が目に入る

それはボロボロになった外套を身に纏っており、男か女か判別できない。

その人物は何をするでもなくじっと教会の前に佇んでいた

「あのー……?」

何か困り事だろうか?

ノエルはそう思い、恐る恐る声を掛けた

「ん?」

その人物はノエルの方を向く

(あ…男の人なんだ)

声の感じからその人物が男性であるということがわかった

「あ…いえ、じっと立っていらっしゃったので何か困り事かと…」

ノエルはそう答える

「ああ、いや特別困り事はしていない。今度ここで行われるミサとやらに参加したくてね。」

夜にしか教会に来たことがないからもっとはっきりと見たくてねと、その男は答える

「ミサですか……。ミサは明後日の日曜日にありますよ。」

「どうやらそうらしいな。やれやれ明日までどこで暇を潰すか…」

聞く限り、皇国の外から来た人なのだろう。あまりミサの事に詳しくはなさそうだった

「あの…どうしてミサを?」

また悪い癖が出てしまった!と言葉にしてすぐに心の中で後悔してしまった

「……興味があってね。俺はミサとやらを見たことも無いし、何ならこの国に来て初めて知った。何事も体験できるものは体験するのが信条でね。」

男は外套の中で恐らく苦笑いしているのだろう。やれやれといった感じで体をすくめる

「ミサはいいですよ!神に祈りを捧げて、日々健やかに過ごせることを感謝するのです。」

ノエルは少し興奮気味に話す

「そ……そうか。まぁ明後日になれば分かるか」

男は少し驚いた様子でそう言った

「ふむ、じゃあ俺は宿に戻るかな。直に日没だ」

男は空を見上げる。

確かにもう橙色の空も暗くなってきた

「女の一人歩きをする時間でもないしな。お前さんももう帰りな」

「そうします。あ、それと明後日のミサの司会私が担当なんですよ、楽しみにしてて下さいね」

「ほー、そうなのか。それは楽しみだ。」

それだけ言葉を交わすとノエルは足早に宿舎へと帰っていった

「……。ミサは神に祈りを捧げるか……。」

「神なんて存在するのかね…。」

男はそう呟くと やることをやらんとね と言い夜道に消えていった

 

日曜日になりノエルはミサへの支度を終わらせ礼装に着替えた。

「ノエル…今日も頼むぞ」

「はい、司祭さま」

ノエルは司祭に一礼すると壇の前に立ち

「皆様、本日は聖道教会のミサへようこそお越し下さいました。この度のミサの進行を務めさせていただきます、ノエル・アトラスと申します」

ノエルは深々と頭を下げる

一礼を終えて頭を上げると席の後方で先日出会った外套の男を見付ける

(あ……あの人。)

男は腕を組み、静かにノエルの方を見ていた

(よーし、頑張ろう!)

ノエルはそう心の中で意気込みそしてミサが始まった

 

 

 

 

 




遅くなりました。誠に申し訳ありません。色々バタバタしてまして……。これにて前日譚は終了となります。次回からはいよいよ本編に入っていきます。今回はちょっと長くなってしまいましたが、基本的には2000文字以内で収めていきたいと思います。遅れて申し訳ありませんでした。

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