思いつきをつらつら書いただけなので設定に無理や穴があるとは思いますが、暇つぶし程度にお付き合いいただけたら幸いです。
今日も今日とて辛い整備業。下っ端には発言権なんてなく、お偉いさんから言われたことを淡々とこなしていくだけの
「おう、おはようさん。今日も一段としけた顔してんなぁ」
「おはようございます。しけた顔、を否定する気はありませんが出会い頭にそれは人としてどうなんですか」
職人、と全身でアピールしているような容姿の上司といつものやり取りを交わし自分の机に向かう。
相変わらず汚い机だ。工具が散乱しているのはともかく、オイルや削りカス、焦げ跡やアイディアを書き留めるためのメモなどが散らばっている。
最初こそ片付けていたが、いつからかその時間すら作業にまわさなければ定時で帰るどころか家に帰れなくなったので、必要最低限デバイスを乗せるスペースのみ確保してあとは放置している。
「俺は立派に人間だが、お前は人間だと思っちゃいねぇからな」
「いや、さすがに人間ですよ。れっきとした」
「どこの世界に一人で日に100以上のデバイスの整備を終わらせるような人間がいるんだ?」
「………」
上司の戯言を黙殺し、今日の仕事を確認する。……決して言い返せなかったわけではない。断じて。
今日の仕事は……ストレージデバイスが80、アームドデバイスが62、インテリジェントデバイスが3か……。
確かにできる。俺にならこの量を一人で今日中に終わらせることは可能だ。だが、別にそれによる利点があるのだろうか?
いや、上司からすれば俺が限界いっぱいの量を一人で引き受ければ、その分他の人間に新しい仕事を回せるから、請けられる仕事の量が増えるためありがたいだろう。だがそれはここの整備課の話であり、仕事を依頼する側の理屈ではないはずだ。
ここ以外にも整備を引き受けているところはあるし、俺が整備したデバイスが使いやすくなるとか性能が上がるとかいったこともない。だというのに、これら大量の――今日は145個――のデバイスの整備依頼は
「なんでこうなったのか……」
慣れたこととはいえ、疲れないわけでも、面倒さを感じないわけでもない。俺自身の体は紛れもない人間のそれであり、決してチート性能を持っているわけではないのだから。
「ま、今日もよろしく頼むぜ。早めに終わったらいきつけの飲み屋、連れてってやるからよ」
「……おごりなら」
「足下見やがって……。まぁ常識の範囲内ならおごってやるよ。お前のおかげでだいぶ昇給したしな」
「なら今日もがんばりますよ。やさしい上司の給料のために」
「…お前はやっぱりひねてんな」
さっそく、俺と同じ下っ端が使うストレージデバイスを手に取る。修理箇所は………。
無駄に存在する
―――――こんなはずじゃなかった世界が、始まった日。
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俺は、平凡な家庭に生まれた子供だった。父はサラリーマン、母は専業主婦。兄弟姉妹はいなくて、家は裕福ではないけど貧乏でもない、要するに普通。友達はそこそこいたし、恋人が居たことだってある。
俺自身に何か特殊な、もしくは秀でた才能はなかったけど、人並みの努力をして、人並みの大学に入り、人並みの企業に無事就職もした。どこにでも居る平凡な人間、それが俺だ。
俺は、とにかく小さい頃から本が大好きだった。本であれば大体なんでも読んだ。最初は絵本、そこから海外のファンタジー小説。純文学も読んだしミステリー小説、評論文なんかも読んだ。漫画も好きだし、ライトノベルも買い漁った。
そこから、徐々にアニメやゲームに手を出し始め、高校を卒業する頃には世間一般で言う「オタク」が出来上がっていた。
そうなると、当然のごとくネットにはまり、今度はネット小説にのめりこんだ。
特に、ファンフィクション、二次創作と呼ばれるものに強く惹かれていた。人々の願望、そして発想の逆転。それらをそこに見た。
自分もこんな風になれたら。この
僕ならこうしていた。私ならもっとうまくやれる。
そんな誰もが抱くであろう作品への思い、それをせめて形にしたい。ならばいっそ自分が
そうしてできた世界は、読み手だからこそ織り成せる理想と憧れに満ちたものだった。
時には笑顔で。またある時には涙で。生で、死で。さまざまな物語が始まり、終わる。そこには都合のいい世界があって、都合のいい終わりが待っている。
そんな二次創作は、何事も平凡であった俺の夢にいつしか変わっていた。
俺だって、こんな世界で、こんな力があれば。世界を救うヒーローにだってなれるのに。泣いてる誰かを救うことだってできるのに。
そして、それが叶う瞬間が訪れた。否、降りかかった、というべきか。
「生まれ変わってもらおう」
「……………は?」
目の前の男は言った。口元にわずかな笑みを浮かべて。
――暇だから楽しませろ。そのために必要なものはくれてやる。
正直、何がどうなったのか、なんてどうでもよかった。
夢が、現実になる。手を伸ばせば掴める距離にあるのだ。
当然、俺はそれに一も二もなく飛びついた。
そうして俺は、現代日本での知識を持ったまま、アニメ『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生した。
反則的な力を持った、ミッドチルダの魔道師の子供として。
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必要なものはくれてやる、その言葉に従い、俺は転生するのにいくつもの要求をした。
一つ、主人公たちと同じ年にミッドチルダに生まれること。
二つ、4つのことを並列思考できるようにすること。
三つ、デバイスに関する知識を誰よりも多くもつこと。
四つ、魔力の量はBランク程度で、コントロールを精密にできるようにすること。
五つ、身体能力を鍛えれば鍛えただけあがるようにすること。
六つ、射撃や砲撃、補助、防御、どれもそこそこ使えるようにすること。
正直、これだけあれば何とかなる。これは俺がずっと二次小説を読みながら考えていたことだ。
並列思考は4つもあれば大体のことは一人でこなせるだろうし、デバイスの知識があれば自分にぴったりのものを自作することができる。
コントロールさえ精密にできれば、魔力量は極端に多くなくても色々な魔法が使えるし、努力がそのまま反映される身体ならば鍛えることも楽しいだろう。
そしてこんな力があれば、適正は平均的でかまわない。一芸に秀でるのでなく、器用貧乏でもいいからオールラウンダーになれればそれでいい。
主人公たちと同じ年なのにミッド生まれにしたのは、そのほうが不自然さがないからだ。魔道師を親に持てば、小さい頃から魔法に触れ、鍛錬していてもおかしくないし、デバイスの知識を身につけているのも矛盾がない。また、地球で生まれるよりはるかに楽に管理局員になれるだろう。
俺はもともとP.T事件や闇の書事件に絡むつもりはなかった。おかしなところもあった、悲しい出来事もあった。けれど結局、それがあったからこそJ.S事件のあの展開があったのだし、その前提から覆してしまえば未来がどうなるか分からない。
だから俺は、J.S事件が起きるまではミッドで腕を磨くつもりだった。
思惑通り幼い頃から魔法に触れ練習することができ、また身体も鍛えただけ強くなった。デバイスの知識も、興味を示して独学で勉強する振りをし、あらかじめ知識を持っているとバレないようにした。
やがて順調に陸士訓練校に入り、陸戦魔道師になった。
そして俺は―――現実を知った。
俺自身の魔道師としての力は、当初予定していたものとほぼ同じものになった。
それどころか、調子に乗って鍛えた身体能力がかなりすごいことになっており、ミッド式の魔法を使うにもかかわらず身体強化の魔法を使えば素手でベルカの騎士とも渡り合えるようになっていた。
だからだろう。俺は忘れていた。天狗になっていた。
俺は「俺」のままなのに、あの頃物語にあこがれた俺そのものなのに。戦闘力という意味で強くなった俺は、「俺」という人間が強くなったと勘違いしていた。
魔道師として働く初めての事件。
それは、クラナガンの街中で突如殺傷設定の魔法をばら撒いた麻薬中毒者を取り押さえるというものだった。
とはいえ犯人の魔導師ランクはC、錯乱して暴れてはいるものの危険度は低く、陸士の一小隊がいれば十分という程度。緊張はあったが極端なものでなく、俺はむしろこれをいい経験だと考えていた。
ここがまぎれもない、人々が生きる一つの現実と知っていたはずなのに。
現場に辿り着いた俺が、一番最初に見たものは。
誰かの右手を握り、呆然としている小さな少年の姿。
少年が離すまいと固く固く握ったその手は、肘から先しか、残っていなかった。
第二の生を受けてから十数年。俺は多分、この世界に現実感を持っていなかったのだと思う。
目にするものは画面の向こうにすでに見た。耳にする人の噂も真相を知っている。
自身が大きな事件にあったこともなく、平凡に生きてきた。自分を客観的にしか見ていなくても、十分すぎるほどに順調に生きてくることができた。
それが、どこかRPGでもプレイしている気分にさせたのだろう。
充満する鉄錆のにおい、響き渡る断末魔。
懇願の叫びに、立ち込める黒煙。
バラバラになった大事な人の亡骸に縋り付く人。
呆然と涙を流し放心している人。
目に映った現実は、平和に甘えていた俺を地獄に突き落とすには十分な威力を持っていた。
そのあとのことは、あまり覚えていない。
同僚から聞く限り、青い顔をしていたが仕事はこなしていたらしい。
気絶したりして周りに迷惑をかけなかったのが救いか。
なんにせよ、この一件だけで俺は管理局の魔導師を辞めた。原作に介入したいから、なんて甘ったれた考えで現実を生きる人たちを守ろうなんておこがましいにもほどがある。それ以上に、現実という凶器の鋭さを知ってしまった。わかっている気になっていただけで、
平和な日本で一般人として生きていた俺に、こんな世界は重すぎた。
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たった一回の出動で仕事を辞めた俺は、その現実で生きる人にせめてもの手助けをしようと管理局にデバイス技師として就職した。
もたらされた知識は、俺の心の強さを変えることはできない。けれど他の誰かの助けにはなれる。
前線で戦う元同僚たちのデバイスを最高の状態で渡してやれば、少なくともデバイスが原因のケガや殉職は格段に減る。そして俺にはそれをするだけの力がある。
そんな思いから、いろんな人に臆病者と後ろ指を指されながらも管理局に戻った。
ありとあらゆるデバイス知識に加え、微細な身体強化魔法によって可能になった高速修理や組み立て。また、並列思考による作業の効率化。
結果として俺は就職から1ヶ月で誰からも認めてもらえる技師になることができた。まぁ、既存の物の知識があるだけなので修理、整備一辺倒で開発はからっきしだが。
技師になり数年して記憶にある通りJ.S事件も起こったが、もう何かをしようという気は起きなかった。
ただ、自分用にチューニングしていたデバイスを使い、本当にごく一部の周りにいた人たちを守っただけ。すごく感謝されたが、それでいいと思った。自分にできるのはこんなわずかな範囲をできる限り救おうとあがくことだけで、世界を救うことなんかできやしない。
そんなのは、空で戦う
J.S事件からさらに数年。
それからも特に何もせず、仕事の異様に早いデバイス技師として未だ管理局で働いている。
収入も結構あるから親孝行はできていると思うし、あとは結婚かな……。
「おい、ちょっといいか?」
突然かけられた上司の言葉に我に返る。
「なんですか?」
「いや、それがな……」
嫌な予感。こんな風にこの上司の歯切れが悪くなるときは決まって追加の依頼が入ったときだ。
「ちょっと、とんでもねぇところから仕事がな」
「はぁ……。やっぱり俺宛の仕事の追加ですか。いいですよ、それでどこからなんです?」
こういうことはちょくちょくある。
何かの任務で大量のデバイスが破損したとか、緊急で支給デバイスが必要になったとか、そんなときに仕事が早い俺のところへ依頼がいきなりやってくる。
それにしてもとんでもないとこ?どこだ?
「そうか、やってくれるか!お前ならそういってくれると信じてたぜ。ここに置いとくからな」
詳しいことを告げず、早く手放したくてしょうがないようなそぶりで荷物を置いて去って行った。
そんなに恐れ多いとこからだったのか?
破天荒を絵に描いたようなあの上司があんなに冷や汗を流しているのは珍しい、と後姿を眺めつつ依頼文のファイルを開く。
中身は簡潔な整備依頼のテンプレート文。仰々しいとか何かの紋章入りとかそんなことはない……って、
「依頼者、航空武装隊戦技教導官、高町なのは、および本局執務官、フェイト・T・ハラオウン………?」
しばしディスプレイを眺めたまま呆然とする。
さすがにこんなところからまで直接俺に依頼が来るとは。おおかた何処かの元部隊長さんがあるデバイス技師の噂を聞いて二人に教えたってところだろうが。
たっぷり60秒は固まり、それから徐々に笑いが込み上げてきた。
こらえようとするが、くすくすと笑いが止まらない。
ここは確かに俺の知るアニメの世界。
そんなことすっかり忘れていたけど、俺もこの世界の
だからこうして思わぬところで思わぬものと噛み合ったりするんだ。
今までも、これからだって。
――この場所で、俺は、一人の「俺」として、確かに生きていくんだ。
3話まではにじファン投稿分を見直しつつ上げます。