Disruptor   作:てんぞー

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Anger and Hatred - 15

 とりあえず―――シドを止められた。

 

 それは良かった。この一族は本当に頑丈だ。それこそ一度殺したぐらいでは死なないのだから。シドが受けている干渉がなんなのかは知らないが、少なくともそれを解除するような手段は自分にはない。少なくともそれはクロゼルグの領分であり、エレミアは戦うのが領分だ。これが無敵バリアみたいな反則的な奴であれば、正面から消滅の魔拳で粉砕してやったのだが、目に見えない呪術的か、或いは特異な干渉に関しては無力だ。

 

 だから最後の手段を取った。

 

 つまりは()()()()()()()()()()()()

 

 干渉行動は基本的に生きている人間に対して行われるものだ。そして死体に対する干渉は意味がない―――自然と、解ける様にできている。何故なら死んでいるのだから、干渉のしようがない。だから一回殺して、なんらかの干渉を解除する。恐らくは精神系に由来するものだと思うのだが。死ねば精神は完全なブラックアウト状態になり、それで干渉も消える筈だ。流石にこんなことをするのは自分は初めてだが、過去のエレミアには似たような事を実行し、成功させている経験がある。だからこそ躊躇なくこの手を実行できた。

 

 シドに対する、彼なら絶対に生き返るという信頼があるからこそ。

 

 これでは死なないという確信があるからこそ。

 

 だからこそ……殺せた。絶対に生き返る事を祈って。

 

 ただ、心は痛んだ。必要だったとは言え、好きな人をこうやって自分の手で一回は殺したのだから。吐き気が胸を駆け巡る。だがそれを抑え込んで、視線はしっかりとシドを抱きとめたまま正面へと向けられていた。そこにいるのは良く知る、ヴィクター……ヴィクトーリア・ダールグリュンの姿である。痛ましいものを見る様にシドへと視線を向け、ジークを見て、今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 

「シド……ジーク……」

 

 片手を胸に抱く様に、しかし近づこうと一歩を踏み出して。

 

()()()()()()()()()

 

 警告した。

 

 その言葉にヴィクターは驚いたように表情を変え、足を止めた。

 

「ジーク? 何を……」

 

「それより接近するなら敵対行為とみて迎撃するで―――」

 

 ふぅ、と息を吐いて()()()()()()姿()()()()()()()に備える。

 

「―――なんなんかは知らんけど、良くもまぁ、そこまでヴィクターそっくりに化けたもんや」

 

 息を吐きながらヴィクターの姿をした存在を警戒した。一瞬、本物のヴィクターかと思ってしまった。だが、違う。ヴィクターは今病院で治療を受けている最中だ。だがそれ以上に呼吸のリズム、体幹の揺れ、そして何よりも血の匂いが違う。体から匂ってくる、魅力的とも呼べる積み重ねられた歴史の匂い、古い貴族特有の積み重ねられた業の匂いがしない。まっさら、新鮮、新生児の様な匂いしかしない。だからヴィクターではないと看破できた。逆に言えばそれ以外はほぼ完ぺきと呼べるクオリティであった。それこそ自分が一瞬、騙されるほどに。

 

「おかげでシドを止められたんは感謝する。だけどこの状況で得体の知れんもんを近づけるほど甘くはないで」

 

 こいつがシドの干渉元かもしれない―――いや、そう言えば少し前にシドの姿をした存在が選抜にシドを申し込んでいた筈だ。或いはこれが犯人なのかもしれない。一切の警戒心を怠らないまま、視線をヴィクターへと向けて固定する。いつでも逃げられるように、動けるように待機している。近いうちに教会の騎士が来てくれる筈だ。いや、もう到着する頃だろう。少なくともそれだけ派手にやったのだから来ない筈がない。

 

 ―――早く、早く来てくれへんか? うちも割と限界が近いわ……。

 

 短期間での回復薬の複数投与は命に関わるから使用できない。今は残された効能で体を何とか回復させつつ、目の前のヴィクターモドキをどうにかしなくてはならない。突破するか、無力化するか。だがスペックがヴィクター相当であれば相手をするのはまずい。今の状況だと普通に押し負ける可能性がある。

 

 素早くどうするべきか、その判断を行おうとして、

 

「ジ―――」

 

 何か、喋ろうとしたヴィクターの口が停止し、まるで人形の様な虚ろな表情を見せて動きを止めた。そうやって動きを停止してしまえば先ほどまでは人間だった者が、かなり精巧な人形のように見えてくる。完全に動きを停止した姿に警戒を続けるも、呼吸さえしない人形からは続きとなるアクションがない。

 

「……終わった? 結局なんだったんや……?」

 

 息を吐いて、経過を解くわけではないが動かなくなったヴィクターの存在に少しだけ安心する。アレが敵だった場合、今の状況だと潰す必要が出てくる。流石に日に二度も身内の姿をした存在を殺すのは死にたくなる程辛い。

 

「まぁ、ええわ……それよりも早く身を隠さなあかんわ」

 

 シドを背負い、運びやすいように位置を調整する。

 

 今のうちにシドを隠さなくてはならない。もし、他の連中が正気をわずかにでも取り戻せば、次は怒りによる狂気がやってくる。それは排斥と暴力へとつながり、絶対に今の弱っているシドを殺す為の行動をとってくるだろう。もし、シドが干渉から回復しているのなら……もう、さっきみたいに暴れる事も出来ずに一方的に罪悪感から殴られようとするだろう。

 

 そうなる前に、騎士達と合流出来て、ここの人間に見つからない場所へと逃げなくてはならない。

 

 そう判断してシドを背負ったまま歩きだそうとして、

 

 不意に、背中が軽いという事に気づく。振り返れば背負っていたはずのシドの姿はなく、

 

「―――ここまでやって覚醒しないのか? あー、おっかしいなぁ……」

 

 素早く視線を正面へと戻せばそこには新たな姿があった。全身をフードの付いたマントで隠す男だった。その片手はいつの間にかシドを首で掴んでおり、持ち上げている。開いている片手は顎に当てており、首を傾げている。

 

「なあ、エレミア少女。ここまで整えてやったのに―――」

 

 続きの言葉を聞く前に最速のアクションを叩き込むために動き出した。地を蹴り、鉄腕を持って脅威を排除する為に全力の魔力撃を叩き込もうとする。一瞬で加速した肉体は最大の速度で拳をフードの姿へと叩き込もうとして、

 

 ―――気が付けば瓦礫の上に座らされていた。

 

 今の一瞬まで速度を全力で出していたはずなのに、慣性すら消滅して、鉄腕の展開を解除されて、瓦礫の上に座らされていた。すぐ横にはシドの姿があり、場所も地面の上から崩壊している学園の屋上へと移らされていた。

 

 正面、屋上の反対側では瓦礫の上で酒瓶を片手に足を組んで此方を眺めているフードの男の姿があり、にやにやと笑みをそのフードの下で浮かべているのが簡単に想像できた。いきなり視界が切り替わって状況が変わった。だがそれを考える前にシドを抱き、一気に屋上から飛び降りる。

 

 無論、逃亡する為だ。

 

 心の中にあるのは()()()()()()()()()()()という悪寒だった。

 

 殺される。

 

 何もできずに殺される。それを直感した。生物としての次元が違う。実力が測れないレベルで段違いだ。何をされたのか理解が出来ない。絶対に戦ってはならない。生き残るために全力で逃げ出す以外の選択肢がない。エレミアの経験は勝算無しを結論として出す。《神髄》は手段なしと判断する。戦うという考えそのものが間違いという存在。蓄積された経験があるからこそそれを即座に判断し、生きる為にシドを抱いて逃げ出そうとする。

 

「ほほぉ、それでも連れて逃げようとするか。偉いなぁ」

 

 そんな声が背後から投げかけられる。

 

 屋上から飛び降りて大地に着地するのと同時に声が上からする。

 

「まぁ、無駄なんだが」

 

 そして座っていた。

 

 崩壊している教室で。

 

 まるで片付けられているように子供も大人も部屋の端に死体がブロック状に切断された状態で纏められ、捨てられている。明らかに斬撃によって解体された死体の姿は、解りやすく自分やシドが戦った影響で死んだものではないのを証明し、同時に再び謎の現象によって逃げられなかったのを感じ取った。教卓の上に座っているフードの男は横の椅子に座らされているシドを眺めて、興味深げな視線を向けていた。

 

「さぁて、こいつをどうしたもんかな。間違いなく必要以上に追い詰めてるんだがなぁ。ここまでやって覚醒してないって事は何かを間違えているって事か話なんだが……」

 

 男は懐から懐中時計を取り出すと、それを軽く指で叩いて調子を確かめる様に首を傾げた。

 

「いや、こいつが稼働してるってことは既に覚醒済みって事なんだよなぁ。って事は目覚めてるけど働いてないって事か? 悩ましいなあ」

 

「……」

 

 男が何かを言うのを、黙って聞いている。逃げ出せるようにシドに身を寄せて距離を測っているものの、逃げ出せるとは思えなかった。得体が知れない。これで余裕があれば何か一つ、軽口でも零してヒントを求めたりもするだろう。だがそんな余裕さえも存在しなかった。シドとの戦闘直後でダメージが蓄積しているのも事実だが、それ以上に目の前の男が恐ろしすぎた。行動も、目的も、動作も、そしてこの教室の端に捨てられた肉塊の処理も、何も見えなかった。

 

 何らかのトリックは存在するのは間違いがない。だがそのとっかかりさえも理解できないのは異常すぎた。シドに何らかの執着を見せている感じ、即座にシドを害するようには―――いや、それは希望的観測だ。この手の怪物は理解しようとする事そのものが間違いだ。そういう原理であると覚えるのが一番だ。そしてそれが見えていない以上、何かが解る訳じゃない。

 

「なあ、そこのエレミアちゃんはどう思う?」

 

「……」

 

「何も言わないのはつまんねぇなぁ」

 

 男はそう言うと頭を頬を軽く掻き、姿を消失させたと思ったらシドの横に出現した。その動きには魔力の変動もなく、おそらくは何らかの希少か固有の技能を使用している事が読める。どうすれば、どうすれば良い。それを自問しながらシドを守る為に、最低限自分が出来る事をしようとして道を阻もうとして、

 

「邪魔だ」

 

 立ち上がると同時に横に向かって体が倒れた。気づけば男の片手には何時の間にか蒼い結晶の様な刀身を持つ抜き身の剣が握られており、それがわずかに血の色に染められていた。それが己の血であると自覚するのは床に倒れる瞬間であり、左肩口から右腰まで、斜めにざっくりと切り裂かれていた。

 

「あっ、ぐっ……シ、ド……ウチは……!」

 

「さぁ、起きろ少年。お前の願いは叶わなければ、希望がある訳でもない。お前が頑張れば何かが変わる訳でもなければそれに意味がある訳でもない」

 

 だが、

 

「お前には起きて直視する義務がある―――起きろ」

 

 男がシドの首元を再び掴んで持ち上げる。それに反応し、

 

 シドの目がゆっくり、ゆっくりと、光を恐れる様に開き、

 

「あっ―――」

 

 開ききって、その目が現実をとらえた。

 

 崩壊した学園。

 

 死体の山。

 

 傷ついた自分の姿。

 

 犯してしまった事実の数々。

 

 その瞳はそれまでの狂気のすべてをそぎ落としたかのように正気を取り戻していた。自分がやってしまった事を全て自覚してしまった。その目は見開かれ、恐怖の色に染まった。

 

「シドっ、ダメっ……」

 

 なんとか、なんとかしなくてはならない。今、この場にいるのは自分だけで、何かを告げる事が出来るのは自分のみ。だから何かを言わなくてはならない。だけど流した血が多すぎて意識が朦朧として来ている。言葉を一つ紡ぐだけでも激痛を感じ、体は物理的に動けないように傷を刻み込まれていた。故に完全な言葉が出る事はなく、呻き声で終わってしまい、

 

 男と、シドの話し合いを止める事が出来ない。

 

「よう、少年。調子はどうだ? いっぱい殺して楽しかったか?」

 

「あっ、あぁ、あっ……あっ……」

 

「目をそらすなよ。お前も楽しかったって思ってるだろう? 鍛えた暴力を好き勝手振るうのはさぁ。楽しいし気持ちが良いだろう? 隠すなって。すげぇ良い笑顔で気持ちよさそうにあんなにぶっ殺して回ってたんだからさ」

 

 男はシドをクラスの隅の方へと視線を向けさせてから、再び自分の方へと引っ張って言葉を告げる。

 

「おめでとう、人殺し。これでお前も立派な人でなしの仲間入りだ」

 

 男の言葉にシドの喉から絶叫と嗚咽が漏れる。それを満足げに見た男はシドを此方から引きはがすように瓦礫の中へと投げ捨てるとさて、と声を零して教室の外―――グラウンド、正門の方へと視線を向ける。

 

「一応周りとの空間を隔離してたんだけどなぁ」

 

 釣られるように視線をグラウンドの方へと向ければ、そこに複数の姿が立っているのが見える。

 

 純白の騎士鎧、規律を示す隊服、栄誉ある者の盾を、力ある者を示す印章を。その姿には、見覚えがある。ジュード・カルマギア、シドの父親だ。恐らくは凶行があった時点で連絡があってきたのだろう。それと共にあるのはヴィヴィオの護衛である近衛騎士が2人、そして先日選抜での解説を行っていた若い聖騎士の姿だった。その並びはおそらく、今現在このミッドチルダのベルカ地区で考えられる最強の並びだった。

 

 その戦力に相対するように男は降り立った。

 

 数を一切考慮することなく、挑発するようにおそらくは不的な笑みをそのフードの下で浮かべているだろう。

 

 そして放たれる言葉は、

 

「―――悪いが今日のステージはメンバーシップオンリーだ。求められていないゲストにはおかえり願おうか」

 

 挑発の言葉と共に、両陣営が構えた。

 

 惨劇の第三幕が始まる。




 次回、???vs騎士チーム。

 シドパッパは防御、防衛、護衛に関する最高クラスの実力者。あのスペックで防御に能力振ってりゃあそりゃあ鉄壁だよなって。近衛や聖騎士もそもそもスペックとしては最上級で実力で言えば次元世界全体から見てトップ層をスカウトしてるんで雑魚とかカマセとかそういうのは一切いないのである。

 二次とかに良くある、偉い立場の雑魚という奴は一人もいない。
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