銃―――近代質量兵器の最も芸術的で完成度の高い形。
誰でも携帯し、誰でも人を殺せる。たったそれだけのシンプルな機能美は生み出されるのと同時に数えきれない人を歴史の中に葬ってきた。その恐ろしさは殺傷力、そして誰もが使えるという点に集約されている。剣を振るうよりもトリガーを引く方が早い。剣を届かせるよりも弾丸の方が早い。極々当然の話でもあり、シンプル極まりない理屈だ。だから銃は普及したのだ、兵器として。それこそ一部では信仰心を集めるレベルで。非殺傷設定を設定できない銃を時空監理局は嫌って質量兵器認定し、それを封じてきた。だがそんなルールは時限犯罪者には通じず、毎年多くの管理局の局員がその凶弾に倒れている。
それこそが銃の生み出した悲劇であり、強みでもあった。
その銃弾が今、イリスの握るハンドガン、その銃口か真っすぐ―――聖王へと向けて放たれ、
「ふんがっ」
歯で受け止められた。
「……」
一瞬でイリスの顔はスンッ……と表情を消し去って真顔になった。それもそうだろう。身体強化も何もない、素の状態で弾丸に反応して歯で噛むようなキチガイがいたら誰だってそんな表情をするだろう。そこからノータイムで3点バーストを聖王へと向けるが、1発目を指で掴み、2発目を1発目で掴んだ銃弾で弾き、更にビリヤードの様に3発目の弾丸を弾き飛ばし、全て庭の土に叩き込んだ。
イリスの顔から、完全に感情という概念が消え去った。
「このベルカで銃が栄えない、運用されない、出て来ない理由だ」
聖王は口の中にあった弾丸をぺっ、と吐き出しながら説明する。
「そうだな、最下級の兵士レベルとなると弾いたり対応するのは難しいだろうな。だが10人長クラスともなれば最低限の反応は可能となるだろう。騎士ともなれば弾丸程度切り払えなければ話にならんな。一部の飛行戦艦や陸上戦艦には虐殺を目的とした機銃が装着されている場合もあるが……まあ、弾丸は矢とかと違って構造が小さい問題で魔力を詰め込み辛い問題がある。そうなるともう魔法で弾を作った方が早くないか? という結論になる」
「ベルカ人に銃は不要って結論が出たんですね……」
「そうなってしまうなあ。いやあ、私の民が強すぎてすまない。はっはっはっは」
「笑いごとじゃねぇが?」
「せ、戦闘民族ベルカぁ……いえ、まあ、数百年先の未来でもちゃんとその血筋は受け継がれてますが。聖王教会を中心にかなりしぶとく」
「我が民の子孫だから当然だなぁ……!」
「嘘でしょ……歯で止める普通? これでもちょっと火力上げてるつもりがあったのよ? シールドで止められる程度とはいえ生身で止められるレベルじゃない筈なんだけど……!?」
正気に戻ったイリスは戦慄した様子で改めて聖王ルートヴィッヒ・本日はオフモードを見ていた。完全にオフ状態の聖王陛下はいつも通りラフな平民と同じ格好をして、変装用に髪の色を魔法で変えて、眼鏡を装着して目の色を隠している。それでも体から滲み出るカリスマや覇者の風格は消えず、ご近所さんは割と普通に”あ、陛下! こんちわっす!”とか挨拶している姿が見られる。その変装意味あるの?
それはともあれ。イリスは銃弾を平然と止める聖王陛下の超人っぷりに困惑している。まあ、これでも人類最上位に入る存在だからやれると言えばやれるのだろうが、目の前で魔法もなしでやる所を見るとこの世界バグってない? とは言いたくなる。自分もどちらかと言うとそのバグ側だったのだが、今では貧弱な体だ。
「ベルカ人の戦闘力の高さは昔からなんだよなー」
「伊達に国民全員戦えるとか言われてねぇからな、この国。次元世界ベルカの中でもトップにヤバイ国。他の次元世界からもここにだけは絶対に喧嘩を売らねぇようにするって言ってるから……」
「まあ、我が国は実質的に周辺諸国だけではなく周辺世界へ武力で抑えを利かせているからな。ベルカの力が衰えるとそれだけ回りが騒がしくなってくる。近頃ではそんな事も関係なく騒がしくなっている様子だが。やれやれ、やんちゃ盛りには困ったものだ」
一番やんちゃなのは陛下じゃないっすかね……という言葉はなんとか飲み込んだ。ギリギリの所で。いやあ、やっぱり言いたくなる。この前聞いたけど書置きだけ残して城から脱走するから大臣の人滅茶苦茶胃を痛めてるらしいじゃん。その内倒れるぞその人。
「えー……じゃあ携帯性を優先したハンドガンは論外になるわね。多少は取り回しづらくなってもショットガンやライフルじゃないと話にならない? もっと単発の威力を上げるには材料もフォーミュラの性能も足りないし、今からソフト面のアップデート込みで考えるとかかる時間は―――」
ぶつぶつと呟きながら頭を抱えるイリスを3人で見て、そっとしておくことにした。何やら高度な事を計画し始めているのだが、どうにも合いの手を入れる事が出来ない領域の話だ。たぶんアレは俺の為にやってくれているんだろうが、正直どう反応すれば良いのか解らない部分があるので、ノータッチで済ませておく。
「ま、それはそれとしてどうやら今日も息災でいるようだな、子孫的なサムシングな孫よ」
「そりゃあ元気ですよ、陛下。というか3日ぐらい前に城抜け出してきたばかりですからね、貴方」
「もっとフランクに接するが良い! ほら、ジッジだぞ、ジッジ! もっと私に甘えてもいいんだぞ」
「ウザ……」
腕を広げてわはははと笑う男を前に、フォゥの方へと逃げる。それを見てルートヴィッヒが腕を組みながら頷き、フォゥを見た。
「私の前に立ちはだかるか友よ……!」
「来る前に酒でも飲んできたのかお前? というか前は父親自称してただろお前……」
「アレから良く考えてみたんだが私の血が流れているとは言え薄まっていて、それも子孫というのならこれは実質的に私の孫では? 孫だろう? 私の凝った血がまだ子供を作らないしこれは孫だな……」
「頭大丈夫か? 一発治療しとくか?」
「頼む」
「良し」
庭を陥没させる震脚から拳を聖王の頭に叩き込まれるが、虹色の障壁がピンポイントで拳をガードする。動きを停止させたフォゥはにこり、と笑みを浮かべ、聖王はにこり、と笑みを返した。そのまま大人たちは数秒間互いを睨み合うと、唐突に武器を取り出した。フォゥは音もなく双剣を引き抜き、聖王は空間を割って槍を引き抜いた。いや、フォゥはまだ良いだろう。聖王は完全に空間に格納していたとかじゃなくて空間を破壊して引き抜いていた。アレは一体なんなんだ。
「今日こそ白黒決めようぜ聖王……!」
「また私の1勝が増えてしまって困るなあ」
「どっちでもいいですけどココでやるとこっちに被害が飛ぶから他所でやってくださいね」
そして音もなく大人たちが消えた。その無駄に高いスペックを日々、無駄に活用している気がする。或いはそれこそがこの国が今平和である事の証なのだろうが。聖王と一緒に消えてしまったフォゥの姿を求めて軽く周囲に視線を向けるが、音も気配もしない。どこかへと完全に消え去ってしまったようだ。
というか困った。イリスとまた二人きりにさせられてしまった―――!
……微妙に話の内容に困るんだよなぁ、イリスとは。
1か月半もあればそりゃあ仲はある程度良くなる。関係だって割と気安くなるだろう。だって同じ場所で暮らしているんだから。だからと言ってそれで相手が理解できるという訳じゃない。未だにイリスの行動原理が自分にはちょっと理解できないし、なんて言葉を掛ければ良いのかもわからない。そりゃあ助かるのは事実なのだが。それとこれとはまた別の話なんじゃないだろうか?
だからハンドガンを片手にぶつぶつと呟いているイリスを横に、俺は黙ってリハビリを続ける他なかった。というかそれしかできる事がなかった。心の中で早く聖王かフォゥに返ってきて欲しいなあ、と思いながら。イリスと比べるとあの2人の方がまだ話しやすく感じる。
「……シド」
「う、うん、はい!?」
「ショットガンとライフル、どっちが良い?」
「ごめん、どう答えれば良いか解らないわそれ……」
イリスが此方へと視線を向けながらそんな事を聞いてくる。いきなりどんな銃が良いかって効かれても困るに決まっているだろう。大体、
「俺、銃なんて使った事もないんだよね。握った事はあるけど握りつぶしちゃうし。ごりごりのパワータイプ時代だったから何か武器を持たせるよりはそこら辺の地形を武器にしたほうが早かったし強かったんだよね」
「地形を武器にするって中々言えるワードじゃないわね……」
銃を使うよりもトラック投げたり家を投げたりする方が早かったし強かった。シールドじゃ車の重量と質量に耐えきれないし。ただ、それももう昔の話だ。今では無理な事なので、銃という武器は必要になってくる。
……必要に。
「……そう言えばさ」
「ん?」
「ヴィヴィを救おうって言質取られて勢いのままこうやってリハビリとかさせられてるけどさ」
「そうね」
「何をすればいいんだろう」
「あー」
この数か月間、リハビリと環境に適応する事で忙しくてあまり深く考えなかったが、オリヴィエを救うという事の意味をあまり考えてなかった。
彼女を救うには……何をすれば良いのだろうか?
「なんというか……陛下もフォゥもまるで力をつける事前提というか、戦う事が大前提に入るみたいな感じがあるんだよな。こっちに来てからまず第一前提として戦う力を求められているというか。自分の力で何とかしろって物理的に、って意味なのかな……」
「でもベルカの戦乱期なんでしょ? だったら前提として生き延びるのに力は必要じゃない」
それは……そうだ。
禁忌戦争はベルカという次元世界そのものを滅ぼした戦争なのだから。禁忌兵器と呼ばれる兵器の数々はそのあまりの極悪さから使用が制限、封印された物を意味する。それが大量投入、一切の制限なく運用されたのなら、そりゃあ国どころか世界の一つも滅ぶ。現代にも色々とデータは残されており、こんなの本当に存在したのか? って言いたくなる禁忌兵器は色々と存在する。たとえば腐食弾頭。放つ事で一帯を腐食させ、死の大地へと変貌させる環境破壊兵器だ。当然生物も腐って死ぬ。打ち込まれたら最後、その土地では2度と生きていけなくなるだろう。
或いは巨大なドラゴン型の生態兵器。天候を操作する能力があって空を常に暗雲で覆い、作物を枯らして恵みを奪う事で人々の生活を徐々に荒ませて苦しめた禁忌兵器だったらしい。後は……人間を核に製造された兵器とかそこそこの割合で多かったとか。
そういう人道という概念を無視した兵器が大量投入されていたのが、この時代の戦争だ。
そりゃあ生きるのにも力がいる。とはいえ、聖王の期待を見ている限りなんというか……それよりも重い物を見ている気がする。でも実際、オリヴィエの生存に関わる事で一番大きな問題は何か? と言われると禁忌戦争勃発による禁忌兵器乱舞で、それを止める為にゆりかごを稼働しなければならなくなった事だ。
つまり、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト最大の死亡フラグとは禁忌戦争そのもので、それがゆりかごの稼働へと繋がるのだ。
つまりゆりかごか、禁忌戦争か、それともオリヴィエをゆりかごの中枢に据えるという事態をどうにかしない限り、オリヴィエの未来はどうにもならないのだ。
「―――あれ、俺の仮想敵強すぎ……?」
「今気づいた訳?」
イリスのやや呆れた声がする。勢い任せで始めてしまった部分は否めない。だけど冷静になって考えると、これから挑もうとする事はちょっと、というよりはかなり大きな事なんだろう。このベルカという世界の歴史、根幹に挑む事だ。
「だから力が必要なのよ、シドは。何をするにしても力がないと成し遂げられないし、生き延びる事も出来ない。全てはその上で、でしょ」
「それは……そうだな」
「だから私は武器の方を調達したり作成したりするわ。ここのスーパーベルカ人どもを見ていると、最終的に戦闘力方面でついていけそうにない感じがするしね」
2人で聖王と医者が消えたっぽい方向へと視線を向ける。なんか今空の方で残像がバチって弾けたような気がした。たぶん気のせいだと思いたい。でもアレが個人戦闘力のインフレ上限付近だと思うと人類って凄いなあ、と思えてしまう。あの2人、特に聖王様はスペックだけ見るなら弱体化前の俺よりも上だと思うし。
頭を掻いて、リハビリの手を止めて、イリスへと視線を移す。
「……頼んで、いいのかな」
「良いわよ。気にしないで……私がやる必要があると思っているだけだから」
「……」
ごめん、とは違うし。
ありがとう、もちょっとおかしい。
こういう時イリスにはなんて言えば良いのだろうか。彼女も俺も罪悪感から行動しているから感謝も謝罪も違う……複雑な繋がりがそこにはあった。
ただ、イリスが一緒にこの時代にいてくれる事は、言葉には出来ないがとても心強かった。
シドの体力が5上がった! 意思が5上がった! 少し前向きになった!
結婚すればパッパ、それまではジッジ! その正体は城内オフ日はパンイチ子煩悩人類最強聖王! 属性盛りすぎじゃないですか君?
久しぶりの更新再開に伴い日刊40位まで上がってた。ありがたし、ありがたし。