Disruptor   作:てんぞー

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Beginning - 3

「―――工房を紹介する?」

 

「そうだ、イリス少女は我が孫―――孫! の武器の作成や調整を担当する腹積もりなのであろう? なら私が懇意にしている工房を紹介しようと思ってな。強さを求めるのであれば必ず武器の性能を追求する必要が出てくる。ならばプロフェッショナルの意見も欲しかろう? 私の紹介であれば無下にされる事もないだろう。フォーミュラという技術自体気になるし」

 

「陛下ー、お仕事は」

 

「当然終わらせてから出てきた」

 

 終わらせたから出てきた……いや、仕事が終わっているならそれは問題ないんだろうけど、それはそれで良いのか……? 腕を組みながら首を傾げる。今着ている服も、生活費も全部聖王陛下からの支給で生きているようなもんだから当然ながら文句なんて出しようもないんだが。それでもそのスタンスで良いのかベルカ? とは思ってします。まあ、国的に何も問題が起きてない所を見ると出てきても問題はなさそうなんだが。

 

「いや、こいつ最近外に愛人出来たとか言われてるぞ。隠し子がいるとか」

 

「陛下。陛下」

 

「はっはっはっはっは」

 

「わ、笑って強引に誤魔化そうとしてる……!」

 

 パワーの塊である聖王様は今日も独自路線で生きていた。診療所にこうやって聖王がやってくるのにもこの2か月で随分と慣れてしまった。しかも毎回土産にお菓子か何かを持ってくるものなんで地味に楽しみになっているのは否めない。いや、フォゥの料理は美味しいのだ。でも料理のバランスとかを考えて作っている事があり、油物祭りみたいな衝動的なフェスを開かないのだ。その中で時折ジャンクフードを持ち込んで来たり、高級菓子を持ってくる聖王様は最高だった。的確に欲しい物を持ってくるから地味に俺の好感度を稼いでいた。悔しいけど嬉しい。

 

「で、どうだ。興味があるのであれば紹介しよう」

 

「勿論お願いするわ。知識の更新とか製造技術の収集とか必要だったのよ」

 

 あれからイリスは更にショットガンを作成したが、シールドで防げる程度の火力しかなかった。それでも人体に当たれば即死間違いないレベルの破壊力だが、この程度の火力でベルカの戦場に通用するか? と言われると無理だろうという答えがフォゥから来た。つまりイリスはより強い銃の製造をこの古代ベルカで目指していて、保有知識の問題から限界に達していた。

 

 ただその努力も俺の為なんだろうなぁ……と思うと、ちょっと言葉に困った。

 

「良し、なら外出の準備をすると良い。シドもだ。工房に顔つなぎするのはこの先を考えると非常に重要な事だからな」

 

 聖王にそう言われて頷く。髪の色を隠す為に壁のフックにかけてある帽子を手に取り、被る。古代ベルカへとやって来た当初は真冬であり、コートの一つもないと外を歩けない程の冷気で溢れていた。だが2か月も経過すれば徐々に寒さも抜け始める。まだ完全に冷気が引っ込んだわけではないが、それでも雪も降らなくなり、凍り付く事もない。長袖と薄手のコートであれば十分過ごせる程度にまで気温は上がってきていた。それでもまだ微妙な肌寒さが残る……やっぱり、ベルカの冬は冷え込む。

 

 イリスもコートを羽織って出かける支度を整える。視線をフォゥへと向けるが、フォゥは診療所の方に向かっていた。

 

「今日は定期検診がある。お前らだけで楽しんで来い」

 

「はーい」

 

「お土産用意しておくわね」

 

「いらねーよ。楽しんで来い」

 

 軽く手を振ってフォゥに見送られ、聖王に連れられて診療所を出た。改めて聖王を引率にする俺達の立場が意味不明すぎる。ただそんな考えも一瞬だけなもんで、もはやこうやって聖王が一緒に居る状況にも慣れてきてしまった自分がちょっとだけ、憎い。現代ベルカの聖王教会が発狂しそうなシチュエーションだ。

 

「さて、工房だな」

 

 まだ寒いベルカの街並み、診療所から大通りへと向かって歩く。前を歩く聖王の横を俺とイリスで挟む様に歩く。横に出してくる聖王の手を握って良いものかどうかを悩んでしまうが、そこは遠慮する必要がないのかもしれない。手が伸ばされているので、素直に握る事にする。そういう訳で俺はご先祖様の手を握りながら通りを歩いている。

 

「ベルカは非常に武力に優れている国だ。武芸、魔導、そして技術。それらを文化と言う形で昇華する事によって強さを維持する方向性を見出している。ある意味歪であり、そして正しくはない形だ。いずれ、私の子孫がこの国をもっと平和な形にしてくれる事を祈っているが……さて、その時にベルカは残っているかどうか。話が逸れたな」

 

「工房でしょ?」

 

「そう、工房だ。技術の研鑽や開発には国からある程度の資金を出している。無論、どこにでもという訳ではないが。他にも定期的に技術を競い合うコンペティションを開いたりしてな、特に優秀な技術者にはマイスターの称号を与えている。これから私が紹介しようとしている所はデバイス技師と鍛冶の二分野においてマイスター称号を得た所だ」

 

 マイスター、つまり特定分野におけるエキスパートを証明する名誉称号だ。こういうマイスター系の技術者というのは割と現代にもいるらしいもんだが、そういう事にあまり興味を持ったことはないので、残念ながらそれ以上の事は知らない。ただ二分野で、とルートヴィッヒが言う以上は複数分野でマイスター称号を取るのは異常なのかもしれない。

 

「デバイスと鍛冶?」

 

「そうだ、彼―――小人の穴倉工房の主、ドヴェルグという男は武器を作る事に異様なこだわりを見せる男だ。まず、量産品を作ろうとしない。その上で外注するべきである細かいパーツを全部自分の手でやりたがる。奴がデバイスを作成する時は回路に使うパーツの一つ一つを全部自分の手で作成し、組み上げている……まあ、プログラミングは専門外だから外注してる様だがな」

 

「……控えめに言って化け物じゃないそれ?」

 

「あぁ、怪物的だ。私が知る中では最も武器を作るのに長けた男だ。彼以上に信頼して武器を任せられる存在はいないだろうな。まあ、性格が愉快であるという点だけが難点かもしれないが」

 

「嫌な予感してきたぜ」

 

「奇遇ね、こっちもよ」

 

 だよなあ。この聖王様が愉快って言ってる時点でなんかもう頭のおかしい奴って確定しているじゃんって感じだった。もう普通にかっこいい親方とか、ナイスミドルのおっさんみたいなイメージは完全に捨て去った。捨て去るしかなかった。ここから先にこのイメージはついてこれないだろう。そして多分二度と活用される事もない。

 

「ドヴェルグであればイリス少女の要望を満たす事も出来るだろう。まあ、話が通じるかどうかは半々という所だろうが」

 

 そう言って聖王は大丈夫かなあ、とか呟く。聖王様がそう言うレベルってもう相当な奴なのではないのだろうか?

 

 はは、怖くなってきた。

 

「ほうら、逃げちゃだめだぞー。はっはっはっは」

 

「あ、クソ! このご先祖様手を強く握ってやがる!!」

 

「あ……あたしの手も逃げられない様に握ってる……!」

 

 こ、こいつ! と思いながら逃げ出そうとしたときには遅く、半ば引きずられるように俺達は小人の穴倉工房へと連行された。後半、もはや逃げる事も出来ないと悟ってからは早く、イリスと共に引きずられる形で工房へと連れていかれた。

 

 ただ、工房の外観自体はそう変な物はなかった。建造物としてはそこまで大きくはない。だがその代わりに立派なつくりをしており、金はあるんだな、と思わせるものがあった。ただそれをゆっくりと確認する暇もなく工房の中へと連れこまれ、正面から突入した。

 

「ドヴェルグ、私だ―――」

 

 聖王が工房の主を呼び出そうとして口を開き―――そのまま動きを停止した。

 

 そして俺達は見た。

 

 絶対に見たくなかったものを。

 

 背の低い成人男性が全裸になって自分からギロチンに拘束されに行くという異常すぎる光景を。

 

「うおー!! 今回は自信作だ! 見てろよ見てろよ! うおー! 見てろよー! 逝くぞ! 逝くぞ! 逝くぞ!! 一発であの世に逝くからな!! 見てろよ!!」

 

「見てますよ親方! この世で最も薄汚い光景を見てますよ親方! 早く死んでください親方ッッ!!」

 

「うお―――!!」

 

 ギロチンの刃が音速を超えて落ちる。そう、音速だ。ソニックブームを巻き起こしいながら落下したギロチンは生物を殺すどころではない、ミンチにするだけの破壊力を秘めていた。それが一瞬のカタパルト加速から拘束されたキチガイに向かった射出され、巻き起こされた衝撃波によって親方を罵倒していた弟子を壁に叩きつける様に吹き飛ばした。そして限界まで研ぎ澄まされたギロチンの刃は、

 

 親方と呼ばれた全裸のキチガイの首に衝突し、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クソがぁ!!! また死ねなかった! クソが!!! 失敗じゃねぇか!!!」

 

 ギロチンの刃が粉砕されたのを確認すると全裸は荒ぶりながら拘束具を気合で粉砕、解放すると何が、と言わないが全力で荒ぶるように回転させ始めた。なお、飛んできたギロチンの破片や衝撃波諸々は全て聖王キックや聖王パンチによって迎撃されており、俺とイリスに対するダメージは欠片もなかった。物理的には。

 

 精神的には現在進行形で受けていた。

 

「夢に出る奴だよこれ……」

 

「今夜、一緒に眠っても良い? コレ見た後で1人で寝るのは嫌なんだけど」

 

 純度1000%の悪夢の現役がそこで全裸ダンスをしていた。弟子の方も頭から血を流しながら砕けた眼鏡を装着しなおし、ふらふらとした足取りでカウンター前に集まっている俺達を見つけて、笑顔を浮かべた。

 

「ようこそ小人のあなななななぐらぐら工房へ!」

 

「もうこれはダメかもしれない」

 

 両手で顔を覆いながらそう呟くが、聖王の方は回復魔法を片手で使いながらカウンターにやってきた半分バグっている弟子の治療を行い、視線を奥の全裸ダンサーへと向けていた。

 

「ドヴェルグ、今日も自殺か」

 

「あぁ!? あぁ! なんだルートヴィッヒじゃねえか! 来るなら来るって言えよ! ……言ってないよな?」

 

「言ってない」

 

「ならあ、良し! 俺は予約とかそういうのが嫌いなんだわ! なんだよアポ……アポ……まあ、なんかそんな感じのアレだよアレ。ああ、服という拘束具から解放されたこの感じが心地よいぜ! ちょっとご近所散歩してくるわ」

 

「それで先週牢獄に世話になっただろう? 今月入って何回目だ」

 

「5回目からは数えるの止めたぜ! ハッハー!! フゥ―――!!」

 

 また大回転し始めた。工房の奥の方へ視線を向ければ、カラになった度数の高そうな酒のボトルが10本ぐらい空になっているのが見える。もしかしてこの全裸親方、酒に酔っているのだろうか……?

 

「いや、10本程度では酔わない。アレは生来の気質だ」

 

「な、ナチュラルボーンキチガイ」

 

「関わりたくないよぉ」

 

「これでも国最高のマイスターなんだがな」

 

 聖王の苦笑が真面目に恐ろしかった。あのとんでもない聖王でさえ苦笑するしかないのだ。つまりそう言う領域にあるキチガイなのだ。本当に何もないのであれば一生関わらないで過ごしたいレベルの頭のおかしさなのだが、正気やまともなままだと一定レベルを突き抜ける事は出来ないって昔からよく言われている事だし、ある意味これで正しいのかもしれない? いや、これは肯定しちゃ駄目だろ。

 

 それはさておき、聖王陛下がこの名状し難き存在を説明してくれる。

 

「では改めて紹介しよう―――彼が小人の穴倉工房の主、ドヴェルグだ。常に酩酊しているように見えるが全部素面でやっている生粋の狂人だ。ただ私が認める国最高の職人でもある。だが同時に極度の死にたがり、自分の手で作り上げた武器で自分を殺したいというとてもユニークな夢を持っている」

 

「俺様はよぉ! 体が頑丈すぎて何をしても傷つかねぇんだわ! お陰でかさぶた剥がすのでさえ一苦労なんだよなあ! がーっはっはっはっは!」

 

「ジッジ、あのキチガイ何時まで名状し難きブツを回転させてるの?」

 

「飽きるまでかな」

 

「そっかー」

 

 イリスは既に見たくないから目を両手で閉ざしていた。そうだよね、そうするよね。俺も見たくないし目を閉じようかな……。

 

「ドヴェルグ、話があるんだが良いだろうか?」

 

「お、仕事の話か? 待ってろ。今着替えてくる。仕立屋の奴がよぉ! 反物質を布にするチャレンジしてんだわ! 俺もアレには負けられねぇと思ってるんだよなぁ……えーと……何をしようとしたんだっけ……あ、酒あるじゃねぇかよ! いよっしゃ―――! 納期投げ捨てろぉ―――!」

 

 アレはもうダメだな。そう確信した。




 シドのやる気が下がった。
 イリスのやる気が下がった。
 ルートヴィッヒのやる気が下がった。

 時折全裸の男が徘徊する様になった!
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