Disruptor   作:てんぞー

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Beginning - 4

「良し―――良く来た。とりあえずまあ、飲め」

 

「子供に酒を出すな。全く、お前はいつまでたっても変わらんなドヴェルグ」

 

「変わったら変わったでそりゃあ怖いだろうよ」

 

 そう言って小人の穴倉工房、その一角にテーブルを引っ張り出して椅子に座った。というのもこのテーブルも椅子も、元々あったものではない。適当にあった鉄を握るとその場で金槌で叩いて一瞬で整形し、十数秒の間に目の前でテーブルと椅子を人数分用意したのだ。イリスの様にフォーミュラを使ったナノマシン加工ではない。金槌一本だけで整形したのだ。異様すぎる鍛冶スキルにはもはや疑う必要もなかった。この全裸にはマイスターと呼ばれるだけの技術があった。

 

 ただし、椅子に座っても全裸だったが。ただ椅子に座った事で下半身はテーブルの下に隠れたから、見えないならもういいかな……って心境ではある。

 

「で、ガキなんか連れて来てどうしたルートヴィッヒ。隠し子か?」

 

「ある意味でそうだ、ある意味では違う。だが私の血の流れている子だ。将来性抜群だ―――ひいき目に見てもな!」

 

「お、おぉう……奥さんに殺されないようにな。1人一発貰うだけでもお前5発ぐらい飛んでくるだろ」

 

「その時はその時だ。気合で耐えるしかあるまい」

 

「胸を張る様な事じゃないと思うし」

 

 何よりも隠し子ではなく子孫なんだよなぁ、とは言いたいが。それを口に出して理解されるとは思えない。だったら隠し子という説の方が解りやすいか、とは思う。ただドヴェルグは先ほどの会話で興味をそそられたのか、ほほうと呟くと腕を組みながら視線を此方へと向けてくる―――値踏みする様な、そんな視線だ。現代ベルカで見たような隠れながら値踏みする様なものではなく、一切合切何も隠さない遠慮のない視線だ。ここまで無遠慮な視線になると逆に清々しささえ感じ居られる。

 

 まあ、嫌味が視線に混じらないのが不快感を感じない一番の理由なのかもしれないが。

 

「良し、坊主ちょっと手を見せろ……ふーんふーん?」

 

 言われた通り手を出して見せると頷いてくる。そのまま瞳を覗き込む様に首を傾げ、そして手首から二の腕までを強めに掴む様に触診してくる。

 

「ん-? なんだこいつ。なんというか……なんにでも成れる巨大な金属のインゴットを見てる感じだな。柔軟で、性質も定まってなくて、職人の求めるがままに形を変えられる理想の金属って感じだぞこりゃ」

 

「面白いだろう? 恐らくは元々そこに座っていた強大な素質や才能があったに違いない。だが()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。その結果綺麗に空っぽになった器が残された。もはや達人技としか言いようがないだろう。恐ろしいぐらい繊細に形が戻る様に切って、それをフォゥが治療した結果だ」

 

「ははーん、成程。中身がなくなっても形が崩れてないから変質せず壊れず形だけが残されたパターンか。こりゃあ面白いな……」

 

 これはつまりあの剣魔の爺がやったことの話だと思う。元々俺には説明のつかない強靭な力が行使できた。それが魔法を使えない、リンカーコアに先天的な問題を抱えている対価だと思っていた。そしてそれ以外にも才能があったらしい。少なくとも時間に関する何かがあった。それらをあの化け物爺は全部切り捨てたという話で、フォゥはこの数か月その見えない傷跡を治療する事を目的としていた。

 

 そして最近、その治療は復調という形で実を結んでいる。

 

 筋力も体力も車を持ち上げたり投げたり、片手で人の頭を潰せる程度の異様な力があった。だが今はそれもない。今では普通の子供と同じぐらいの筋力も体力しかない。それが普通なのだろうけど、正直昔出来た事が今は出来なくて、少し不便だ。いや、あのスーパーパワーのせいで生活でかなり楽をしていた分筋力がそこまで発達している訳じゃないので寧ろ平均よりちょっと落ちるぐらいらしいのだが。

 

 復調してからは基本的な体力と筋力をつける為に無理のないトレーニングが中心になっている。裏庭マラソンは市内のマラソンに変わって、簡単な筋力トレーニングもメニューに追加されている。

 

「わざと解りづらい言葉を使って言葉遊びしてないで、ストレートに話して。で、どういう事が言いたいの?」

 

「つまりこの坊主はなりたい者に、育てたい方向へと育てられる素質があるって事だ。元々持っていた物が全てなくなったからその分を自由に決められる。誰に預けるか、誰が育てるかで大きく将来の形が変わってくるだろうな―――お、育成ゲーかな?? っしゃあ! 俺の工房に来ようぜ!! お前なら俺を殺せる武器が打てるって」

 

「全裸で過ごす人と同じ空間は嫌かな、って」

 

「はぁぁぁぁ???」

 

 唐突に立ち上がってぶらぶらさせるの止めろ。イリスの眼が死んでるじゃん。アレに弾丸を叩き込んでやりたい所だが、ギロチンの件を見ていると多分無傷なんだろうなぁ、というのは解ってしまう。どうなってんだこいつの体。

 

「諦めろドヴェルグ。こいつは”白い傷跡”に預ける」

 

「あ、ズルッ! そりゃズルだろ! アイツが相手なら何も言えねーじゃねぇかよ! ……まあ、アイツに預けるって事は戦闘技能方面で伸ばすって事なんだろう? エレミア以上に教育者として優秀な連中もないし白だったら文句なしだわな」

 

「これ、ジュースです」

 

「あ、どうもありがとうございます」

 

 弟子の方がやってくると目の前に置かれた酒を新しく持ってきたジュースと入れ替えてくれる。あの全裸の弟子だから多少頭は狂っているのだろうけど、流石に子供に酒を飲ませる程非常識ではなかった。酒を下げる為に振り返った弟子の背中姿、その後頭部には円形のハゲがあった。

 

 見つけてしまって思わず泣きそうになった。

 

「所で度々聴くこの白、って人物はなに? エレミア一族なら解るけど」

 

 イリスの質問に聖王が応える。

 

「”白い傷跡”はエレミア一族の女だ。プロフェッショナルの傭兵というのは身バレをある程度防ぐ為に偽名や二つ名で名乗る事が多くてな、彼女も身内以外には本名を公開していない。黒が特徴的なエレミアとしては珍しく白い髪と肌で生まれ、そして特異な希少技能を持って生まれた。故に白い傷跡、という名を得たのだが……」

 

「どういう技能なの?」

 

 イリスの疑問にドヴェルグが答えた。

 

「塩だよ」

 

「……塩?」

 

「正確に言えば塩化だ。アイツは与えたダメージを塩化という形で変換できるんだわ。斬撃、打撃、射撃の三種の武器をそれぞれ装備して相手の耐性を抜いて、ダメージが確実に通る武器で叩く。そして発生したダメージを塩化に変換して()()()()()()()()()()()んだな。それで浸食が全身に回れば塩の固まりになって朽ちる」

 

「喰らえば塩の傷跡が生まれる」

 

「それで死ねば塩が大地にぶちまけられて塩害が大地に残る。ほら、二重に白い傷跡だろ?」

 

「うっわぁ……」

 

 それが事実なら防御という手段が一切通じない戦闘手段を持っている人物という事になる。ダメージがそのまま致死性の攻撃に変換されるなら全ての攻撃を回避する事前提で動かないとならないだろう。だが聖王がそこまで信頼するという事は、それを成し遂げるだけの実力を持っているという事であり、今まで勝ち続けてきた人物でもあるのだろう。

 

「聞けば後継者を探している様だしな。相性も悪くはないだろうと見積もってる」

 

「何が相性は悪くない、だ。こんな奴どこに行っても成功するだろう―――意思さえありゃあな」

 

「……」

 

 ドヴェルグに指摘された通り、自分の問題は自分の意思になるだろう。果たして俺がそこまで必死になれるのか、必死になれているのかどうかという話。強い意思がなければ何も成す事は出来ないだろうが、今の自分は……状況に流されて動いているという部分には否定が出来ないものがあった。

 

 ただそれを全裸の変態に指摘されるのはクッソ嫌だった。

 

「で、成程。あの女に売り飛ばすってなら俺と懇意にしたいってのは解るな!」

 

「言い方ァ!」

 

「言い繕ったって事実に変わりはねーんだよ坊主! だけどいいぜ! 客として登録しても。方向性を推測するのに何を作っても使いこなせるだろうしな。欲しいもんがあったら俺ん所に来い! 請求書は城の方に届ければいいんだよな?」

 

「あぁ、それで良い。シドとイリスの事に関しては私が全額負担する」

 

 聖王が一切躊躇する事もなくそう言った。全幅の信頼……というよりは、未来の何かを見据えて話している様にさえ感じられる。俺とイリスはこれから、このベルカがどういう事に巻き込まれるのか、未来がどうなるかを知っている。だというのにそれを超えて、何かを見据えている様にこの人の事は思えた。俺達が考え付かないような事を見つめて、眺め続けている様に、そんな風に感じられた。だけどどうして、そこまで信頼できるのか。そこまで全部つぎ込めるか……というのが、解らなかった。

 

 それは俺が未熟で、まだ子供だからなのだろうか……?

 

「それとはまた別件で、彼女の面倒を見て貰いたい」

 

「ん-? こっちの嬢ちゃんか? 悪い事を言うがそっちの坊主程可能性を感じるもんはないぜ。いや、坊主は正確に言うと可能性だけって感じだが」

 

「良いからこれを見て」

 

 全裸の評価を切り捨てながらイリスがこの数か月で作成した二挺の銃を取り出し、テーブルの上に置いた。

 

「銃か? ふーん……」

 

 イリスの作ったものを手に取るとドヴェルグが手に取り、それを持ち上げながら軽く確認するように取り回し、テーブルの上に置いた。

 

「駄作だな。ただ作っただけって奴で何のコンセプトも美学も感じない。何らかの特殊技術が使用された形跡もない。異様に精度が良い事を抜けば特に特徴もないな」

 

「これ、もっと良い物を作りたいの。何かない?」

 

「はーん? ほーん、ふーん?」

 

 イリスが主張したのを見て全裸が銃を見て、イリスを見て、そして再び銃へと視線を落とした。

 

「お前、これをどうやって作った」

 

「フォーミュラ―――ナノマシンで鉄をナノ単位で整形して加工したけど」

 

「ナノマシン? ほぉ、俺の知らない技術があるって事か。作品としてこの銃はクソだが使われてる技術は面白いな……良し、お前ここに残れ。そして全部吐け。その上で使えるかどうか判断してやる」

 

「あたしは円形脱毛症になるのは嫌よ」

 

「話はまとまったみたいだな。私とシドはここで一旦帰らせて貰うが……良いな?」

 

「良いわよ、帰り道は解るし」

 

「そうか……迎えが必要だったら呼ぶんだぞ?」

 

「王城に……?」

 

 それは思った。だけど無言でサムズアップを向けてくる聖王の姿に俺達は何も言えなかった。この勢いならマジで王城の方から飛んでくるかもしれない可能性を感じたからだった。その代わりにイリスは何を言う訳でもなく、銃の話し合いを全裸とする事に集中した―――なるべく、手元だけに視線を集中させて。それ以外の所は視界に入れない様に気を付けている辺り、やっぱりイリスも女の子なんだなあ、と意識してしまう。

 

 それはさておき、聖王と二人きりになってしまう。ちょっと普通ではありえないシチュエーションに不思議な感覚を覚えつつ、手を引かれて工房を出る。そのまま、診療所へと向かった来た道を戻って行く。ベルカ城下の治安が非常によく、騎士達だけではなく一般の兵たちも警邏に良く歩いて回っているのが見れる。その為、子供が1人で歩いていた所で危ない事はないし、街中を聖王が歩いていたとしても手を振って挨拶をしてくる。

 

 大臣とか宰相は胃薬を常用しているという噂、本当なんだろうなー。

 

「シド」

 

「ジッジ?」

 

「私が何故、ここまで親切なのか気になるのかな?」

 

 歩きながら手をつないだ先、聖王からそんな言葉が来る。そんな言葉にやや俯きながらうん、と答える。その返答に聖王はそうだなあ、と声を零す。

 

「完全に私が君たちを信じている訳ではないのは解るかな?」

 

 頷く。

 

「だけど君とイリスに特別な事情があるのも解る。何か恐ろしい事を体験したのも良く解る。だがそれは決して共有できる経験でもなければ、理解できる事でもないのだろう……と、私は思う」

 

「それは……うん」

 

 私はね、と聖王が言う。

 

「君に私の血が流れているのを感じる。ならきっと君は私の縁者なのだろう―――たとえ、身に覚えがなくても。それでも縁者であるのなら、君は私にとっては家族であり、ベルカ人である以上は庇護するべき誰かでもあるのだ。君も当然、私が守らなくてはならない民の1人でしかないのだ」

 

 ただまあ、と聖王は苦笑する。

 

「聖王家の人間は誰もが子供のころから優秀だった。誰もが手のかからない子供で、私がアレコレ手を出そうとする前に全員勝手に育ってしまう。それが父親としてはどうも寂しくてな。君の様に手間のかかる子供は私からすると大層可愛いものなのだ」

 

 それは聖王が見せる聖王ではなく父親としての側面であり、どことない寂しさを見せていた。

 

「そう言う訳でどうしても構ってしまう。それだけの話だ」

 

「それだけ?」

 

「うーん……君にならヴィヴィを救える様な運命を感じているのも事実だが、まあ、きっとそれだけなのだろう」

 

「それだけなんだ……」

 

 なんというか、王は人に非ずという言葉がある。

 

 王という統治者は、国の全能者であるべきだ。

 

 それは人ではない。全能の王とはつまり、神だ。

 

 王とは国の神でなければならないのだ。

 

 だが結局のところ―――そうである王様は、寂しいままなのかもしれない。

 

 ほんの少しだけこの聖王という存在の華々しさの裏にある寂しさに触れて……少しだけ、可哀そうに思ってしまった。きっとこの人がその重荷を全て降ろせるのは王を止めた時だけなのだろう、と思って。




 シドの意思が10上がった!
 アトリエ・イリスのフラグの1段階目が進んだ!

 全裸の徘徊率が上がった!
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