Disruptor   作:てんぞー

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Beginning - 7

「よーし、じゃあ意思確認したのなら改めて私の仕事内容とかを説明しなきゃならないわね。これから何年間も私と一緒に行動して、生活するんだから何をするのか、どういう風に育てられるのかって気になる所でしょ?」

 

 意思確認を終えた所でマリーアがそう言ってくるので素直に頷く事にする。じゃあ座ってゆっくり話そうか、という事になりテーブルまで移動する事になる。その間にフォゥは長話に合わせて茶の用意をし、聖王はどこからともなくホワイトボードを取り出した。……そう言えば現代ではかなり利用されているホロウィンドウの類がこの時代ではないんだよなあ、と思い出す。そこはちょっと不便なのかもしれない。そう思っていたらイリスがホロウィンドウを生み出して浮かべた。

 

「態々ホワイトボード使うよりこっちのが楽でしょ。思考制御出来るから直感操作でどうにかなるわよ」

 

「あら、便利。ありがとうイリスちゃん―――そういう訳で貴方用なしよルートヴィッヒ」

 

「しょぼん」

 

 聖王がしょんぼりとした表情を浮かべてホワイトボードをしまって行く。あぁ、ウチのジッジがちょっとかわいそう……。しっしっと聖王を雑に追い払ったマリーアはホロウィンドウを握ると引っ張って広げたり、そこに指で文字を描いたりと機能を試し始める。数秒程それを弄り回して確認し満足するとうん、と声を零して頷いた。

 

「じゃあ話を戻すけど私、マリーア・エレミアはエレミア一族でもちょっと面倒な部類を担当していてね? 馬車四台から構築される隊に所属しているわ。隊のリーダーは私じゃないわ、ソッチにはもっと適任がいるし。どっちかという私、難しい事を考えるのはそこまで好きじゃないし。あ、だからって別に苦手って訳じゃないのよ? 本当よ?」

 

「単純に必要以上の思考を面倒がるタイプの女だ」

 

「私のしんえんちぼーはもっと楽しい事に使われるべきなのよね―――って話が逸れたわね。まあ、そんな訳で私の隊での仕事はシンプルなもので、聖王家からの依頼処理を担当しているわ」

 

「聖王家からの依頼処理?」

 

 オウム返しの様に言葉を繰り返すと、聖王が頷いた。

 

「あぁ……ベルカは大国だ。必然的に目の届かない範囲が出てくる。淀んだ場所では何が起きるのかは解らない。故にそういう隅や闇へと視線を向けられる者達が常に必要だ。無論、私も私で諜報部隊や隠密の類は抱えている。だが世界全土の監視やトラブルの処理となると常に人手が足りていないのは隠せない事実だ。故にエレミア一族に一部の汚れ仕事(ウェットワーク)を担当して貰っている」

 

「だからウチでは暗殺や調査、場合によっては傭兵行為で戦争に介入してこっそりとバランス整えたり、禁忌兵器の調査と破壊なんかを活動内容としているわね。聖王家から回されてくる仕事は長期スパンのものが多いから常に忙しいって訳じゃないけど、基本的に難易度が高い物が優先して回されてくるわ。そして仕事がないときは傭兵として活動する……って感じかしら」

 

 成程なあ、とホロウィンドウに入力された内容を確認する。つまり聖王家の汚れ仕事担当が白い傷跡のチームの役割という事なのだろう。それだけ考えるとかなり大変そうだが、

 

「それ、辛くならないの? 嫌な役回りばかり押し付けられて」

 

 イリスが核心的な部分に躊躇なく踏み込んだ。その言い回しはどうかと思うが、同じ事は思った。だが質問を受けた所でマリーアはうーん、と首を捻った。

 

「特に汚れ仕事を苦に思ったって事はないわね。まあ、元々ウチの隊って一族の中でも上澄みの方を集めてきたチームだから優秀なのが揃ってるし、経験値の蓄積って意味だとやっぱり激戦区や汚れ仕事のが経験できる事多いのよね。単純に傭兵仕事してるよりは聖王家からの依頼を処理する方が、色々と経験出来てお得なのよ」

 

 エレミア一族は親から子へ、一族から一族へと経験を継承する。中には記憶すら継承できる事もあるが、それは相性の良さに起因するらしい。だがそうやってエレミアは世代を経るごとに蓄積された経験を増やしてゆく事で、あらゆる事態、状況、環境に対処する能力を特定個人に付与して行くのだ。

 

 例えば能力が100の戦士が2人いたとする。全く同じスタイル、全く同じ能力での戦闘。

 

 この時、勝利するのは対処方法が解っている方という事になる。気力や根性なんて精神論は戦いの場では無意味だ。純粋な経験差、対処能力が上の方の者が勝てる。

 

 だからこの場合、同じスタイルとの戦いを経験したことのあるものが勝てる。

 

 エレミア一族の経験継承とはその積み重ねだ。膨大な経験のライブラリを蓄積する事で、どんな相手であろうと常に有利な手を取る事が出来る人間を生み出させる。即ち、誰が相手でも勝つ事の出来る最強の戦士の育成に繋がる。エレミアが武芸として習熟する《エレミアン・クラッツ》というスタイルは近中遠、全距離に対して対応する事の出来る戦闘スタイルだ。鉄腕と呼ばれる特殊な武器を装着する事で拳1つであらゆる事態、存在に対処できるというスタイルだ。

 

 現代で見たジークリンデの完成されたスタイルを見れば、その強みが解る。

 

 まあ、その上にはジークリンデのお父さんとかがいるのだが。

 

 あっちはマジで人間じゃないレベルの実力者だ。現代であっても戦争や紛争は次元の海を超えれば普通に存在するので、エレミア一族はそこで突っ込んでは経験値を稼いできてるらしいから……まあ、この時代でも変わらないんだろう。

 

 あぁ、この一族マジで昔から変わらないな……。

 

「だから辛いって思った事はないわね。それに辛い仕事回されるからって結構優遇して貰えているしね。里の方から技師とか付けられてるから、移動中でもメンテナンスや装備の開発が出来るようになっているし。あと将来有望な子とかも育てられるのを任せられるわね。今は丁度2人程預かってる所よ。シド君とイリスちゃんが来たら、これで若い子も4人になるわねー。いやあ、ウチも大分賑やかになるわー。あ、でもイリスちゃんは余り強くなる事に興味がないんだっけ? ならウチの技師連中の所に行けば。”エレミアン・ウェポナリー”では鉄腕を始めとする仕事で使う武器や道具の製造、メンテナンス、改造やカスタムしているしイリスちゃんそっち方面志望でしょ?」

 

「そうさせて貰うわ。全裸の変態から色々教わったし」

 

「アイツまだ裸なんだ……」

 

「アレは年中裸だぞ。この前下半身をなんとか凍死させられないか、雪の塊にアレを突き刺してコマのように回転してた」

 

「うっわ、キチガイ」

 

 聞けば聞くほど正気を失って行く全裸の親方話。アレはなー、なんだろうなー、同じ人類だと思いたくないなー、という気持ちが強い。だって純粋に気持ち悪いでしょアレ。何が酷いって話を聞いただけで9割想像出来る所が酷い。

 

 と、そこでフォゥが茶を淹れてきた。頭を下げてありがたく茶を受け取りながら口を付ける……ちょっと苦いけど、慣れた苦みだ。それが少し美味しく感じるのだ。落ち着く味だとも言える。この時代に来て平和な日常を感じさせる、そういう味なのだ。

 

 飲むと心が落ち着いて、ほっとする。

 

「ま、私達の活動に関してはこんなところかしら? 私と一緒に来るって事は、必然的にそういう仕事を手伝う事になるわ。人を殺したり脅したり、恨まれたりもする……大丈夫?」

 

「それは……まあ、たぶん大丈夫です」

 

 今更、人を殺す事に忌避感なんて物はない。たぶん、今でも驚くほどするっと簡単に人を殺せるだろうとは思っている。だから汚れ仕事をやることに拒否はない。問題はイリスの方だが、イリスの方も平気そうな顔をしている。

 

「ほーんとーにー? こういうストレスって表面上は見えなくても割と抱え込むものよー? まあ、でも安心しなさい。基本的に14、15になるまでは仕事をさせようとは思わないから。早い段階で仕事を手伝わせた方が良いって連中もいるけど、早すぎると逆に心のバランス崩れて最終的な伸びが悪くなるのよねー。後は悪癖を抱えがち。まあ、そこらへん含めて私がどういう教育を施すかって話はしましょうか。学校で言うカリキュラムの話ね」

 

「先に全体の話をしてくれるんですね」

 

 訓練の意味の内容とか、そういう話を。そう言うとくすり、とマリーアが笑った。

 

「当然じゃない。鍛錬する意味や内容を理解しないと成長が実感できないでしょ? 延々と繰り返す基礎練習なんて実感が薄くて反発されがちよ。だから事前にカリキュラムの話をして納得と理解させる所から始めないと変にストレスとか溜まっちゃうでしょ? それが原因で反発する子もいるのよね」

 

 

 

 

「は―――はっくしゅん!」

 

「アレ、ティア風邪?」

 

「ちょっと鼻がむずむずしただけよ」

 

 

 

 

「まあ、プロの教育者がまさかそういう説明過程を吹っ飛ばして訓練を施すとは思わないけどね。それでも受け持つ子にはちゃんとその意味を教えないとただの押し付けになっちゃうから。最終的に私みたいになれるから頑張れ! って叩き込んで実演する訳にもいかないしねー」

 

「はっはっは、そんな事をする奴なんて流石にいないだろう」

 

「生徒に叩き込んで実演する様な奴は、なあ……?」

 

 

 

 

「は―――はっくしゅんっ」

 

「アレ、なのは風邪でも引いた?」

 

「うーん……誰かに噂でもされたかなあ……」

 

 

 

 

 今特定方向にミサイルが叩き込まれたような気がしなくもないが、マリーアの言葉を聞いて成程、と頷く。そういう事で自分がどういう風に育てられるのか、何を学ばされるのかというのを教えてもらえるのは実に重用だと思う。強くなっている、という実感はかなり難しいものだ。強さは比べられる対象が傍にいて初めて成立するものだからだ。だから小さな積み重ねを通した成長というのは……たぶん、焦らせる。

 

 本当に、目指すところに近づけているかどうかという事に。

 

「だから事前に言うけど、体が出来上がるまでは基本的に基礎練習がメインになるわよ。無限に反復して動きを身につけるのと体力をつける事! 体が一定レベルにまで固まってきたらもっと激しい訓練に耐えれるって事だから、そこからはペースアップ。体をもっと頑強に仕上げながら余計な肉を削いで、完成された形を目指して構築する! ついでに仕事も手伝ってもらおうかしらね、その方が自分の成長も実感しやすいでしょうし」

 

「はい」

 

 文句を特に思いつかないし、言える立場でもないので素直に頷く。

 

「最初の数年間はひたすら地味よ。ロングスパンでの成長を目指すからね、下地作りが非常に重要なのよ。だけど逆に言えば貴方はね、そういう下地を作ってからの成長は凄い飛躍出来ると思うのよ。少なくとも私には貴方の完成予想図っていうのが、現時点で8割がた見えてきているのよねー……まあ、これは私のスタイルを継承した場合って注釈が付くけど」

 

「えーと、先生のスタイルってどんな感じなんですか? 軽くだけは話を聞いたけど」

 

「うーん、そうねー。言ってしまえばそこの2人よりは遥かに地味で華はないわね」

 

「華がない」

 

 男2人がマリーアの言葉にポーズを決めていたのを無視する。

 

「そう、例えばこの馬鹿王」

 

「法廷で会おうマリー」

 

「この大馬鹿王、槍一本で戦場で無双するわ。無敵の鎧があるから戦艦の砲撃を正面から弾いて突進するし、魔力の密度を極限まで圧縮して纏うから肉体そのものが超硬化されたシールドみたいなもんだし。それでフィジカルが極限まで極められたタイプだから、突進するだけでミンチ出来るわね。魔法なんて牽制程度にしか使わないけど、それで完結してるタイプよ」

 

 ジッジやべーな、と思っていると次はフォゥの説明が入った。

 

「こっちはこっちで傷口を致命傷に変えるから見てる分には恐ろしいわよー? 傷口を発生させると大量出血を強制させるから、どんなかすり傷もイコール致命傷って形になるのよ? だから通り名は”赤い海”だったのよ。ワンパン入ればそれでほぼ勝利確定、内出血か否かって差だけで、一発入れば辺りが血の海になってたわね」

 

「ま、俺はもう引退したけどな。人を殺す事よりも人を生かす方が100倍難しくて楽しい事に気づいちまったから」

 

 フォゥもフォゥで恐ろしいレベルの使い手だったのはなんとなく解っていたが、それだけやれるという事はちょっと知らなかった。しかしどっちも間違いなく世界的にみて最上位の使い手だろう。良くもまあ、自分もこういう人たちに見つけられたというか、縁があったなと思える。

 

「で、この2人に比べれば私は地味よ、地味。何せ、私には奥義とか絶技とかそういうの一切ないからね。なんとかかんとか流奥義全部ぶっころーす! とか何一つないわよ」

 

「えぇ……」

 

 流派特有の技とか奥義が存在しない、とマリーアは言う。確か彼女はエレミアだから、エレミアン・クラッツがあったのではないのだろうか?

 

「あぁ、私個人用にエレミアン・クラッツ改変してるからね。魔力がないし、魔力運用前提の型や流派だから最適化させてるのよ。それはシド君も同じだから、私が最適化した奴を更に最適化していくわよ? まあ、これは最初の数年の訓練内容でもあるわ。型や動きを叩き込むのは早いうちの方が覚えが良いし」

 

 そこで一端話を区切り、俺が話に終いてこれているのを確認してからマリーアが話を続ける。

 

「で、私は基本的にはマルチウェポンスタイルなのよね」

 

「マルチウェポン」

 

「そうそう。まあ、一撃必殺の切り札は勿論持っているわよ? でもそういうのってメインにして頼ると、最終的に対策されてカウンター喰らわされるから使わないのがベストなのよ。だから私は基本的に武器術と体術がメインで、複数の武器を状況と環境に合わせて切り替えながら戦うわ。戦闘思想はとてもシンプルに、”有利な距離と武器で有利を取り続ける”ってスタイルね」

 

 ホロウィンドウに色んな武器が表示される。

 

「武器別で使う流派の技とかって、使い分けで戦っていると使いどころなくて結構困るのよねー。だったら基本的な能力を上げながら全ての武器で発揮できる汎用的な技術を限界まで詰めて、相手が一番されたくない戦い方を有利取れる武器で上から延々と殴り殺すのが楽なのよね」

 

 ほら、と言う。

 

「相手がナイフを使うなら中距離から牽制しつつ速度に対応できる武器を使えば良いし。剣を使う騎士が相手なら槍を使ってリーチ外から刺し殺せばいいし。魔導士が相手ならこっちも特殊ボルトを装填したクロスボウを使って牽制しつつ、懐に飛び込んで双剣で一気に攻め込む。どんなスタイルにだって苦手な距離や対応し辛い武器ってのはあるわ。それを選択して、常に有利な身で押し潰すのが私のスタイルよ」

 

 マリーアはそう言うと笑った。

 

「正直、地味だと思ったでしょ」

 

「あ、いや、それは……」

 

 正直、少し思った。だけどマリーアは笑ったまま手を振った。

 

「良いの良いの、地味だって解ってるから。そりゃ他の所みたいな派手さは欠片もないわよ? だけど私は強いわよ。それは今、私が”白”の名を名乗っていることが何よりもの証明だと思っているわ」

 

 戦い、勝つ事に派手さなんて必要ない。

 

 マリーアはそう言う。

 

「魔力がなくても強くなれる、勝つ方法はある。圧倒的な魔力で戦ってくる相手も、1つの武器を極めた達人が相手でも、徹底して距離を詰めず遠距離からの攻撃だけに集中してくる相手であろうとも―――私は勝てる。勝ってきた。殺してきた。だから私は今、この時代で最強の一角を名乗っているのよ」

 

 だから、と言葉が置かれる。

 

「心配しないで。私を信じて付いて来て―――シド君、君を私を超える後継者として育て上げてみせるわ」

 

 柔らかな笑みには、魅了する様な輝きがあった。伸ばされた力への誘いに、俺は言葉を失いながら頭を上下に頷かせる事しかできなかった。




 せいおー:フィジカル王者。体当たりでミンチになる
 ふぉぅ:強制出血攻撃。自然治癒以外を受け付けない攻撃をする
 まりー:有利な武器を選んで相手を上から殺し続ける
 全裸:TNKを雪に突き刺してベイブレードする

 先にインフレ上限を出す事で必要以上にインフレさせない現象をワートリで学んだのだ!
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