「うーし、本物のシド・カルマギアだな。通っていいぞ」
最後のチェックを近衛が行う。近衛騎士。最後の防壁。このベルカにおけるトップにして最高クラスの騎士。それがたった一人を守る為に、門番のまねごとをしている。疲れたり飽きたりしないのかなぁ、と思いつつ長い灰髪、ロングコート風の甲冑姿の騎士に向けて頭を下げる。
「お疲れ様です、騎士カイン」
「あぁ、良い。気にするな。寧ろお前の方が大変だろうよ。さっき、従士に絡まれてたろ?」
「察知してたのなら助けてくださいよ……」
近衛騎士カインはそう言うと笑い声を零しながら近くの柱に寄り掛かり、足を組んで腕を組む。そんな必要ないだろう、と視線を真っすぐ向けてくる。
「実際軽々と対処したじゃん」
「それは……」
こっち、奥の居住区へと到達するには騎士達やシスターが働いている区画を抜けないといけない。ここは聖王教会本部、その中央に位置する場所だ。どこから侵入しようと、到達するには絶対に他の区画を抜けなくてはいけない構造は、その人物を守る為の防壁でもある。そして最終的に通じる扉は一つ。それ以外は基本的に魔法による透明な障壁で隔離されており、通れないようになっている。その唯一通れる扉を守っている人物がこの騎士カインであり、騎士団や聖騎士団とはまた別の、独立した指揮系統で動いている騎士である。
ベルカにおける騎士のシステムはかなり複雑であり、管理局が陸・海・空で別れているように、騎士一つとってもいろんな種類やシステムが存在している。その中でトップクラスなのが聖騎士、そして近衛だろう。特に近衛は家柄も出自も関係なく、純粋な実力と忠誠心のみでピックされている。
……それは無論、魔法が使える前提なのだが。
「いやぁ、見てて面白かったぜ。
「アレはアレで邪魔だから助けて欲しかったんですけど」
「俺は見てて面白いから良いんだよ」
「えー」
何があったかと、言えば邪魔が入っただけだ。
無能者の男の子、それも年下で従士でもないものがここまで入れる事。会える事。その事実が気に入らない連中がいる、というだけの話だ。だから邪魔をする。暴力は一瞬でバレるから道をふさいで通れないようにするだけ。それだけの事だ。とおせんぼうして困らせようという魂胆だ。
だけど、まぁ―――ぬるい。
無視して前に進めばいいし、掴んで止めてきたのなら
少なくとも、人間三人、騎士甲冑込みでも従士なら100kgもないだろう。それが三人で140kg~300kg。これぐらいなら余裕だ。しがみつかれても普通に歩けるので、そのまま連中にとって進入禁止のこの区画付近まで来た。
それだけでああいう雑魚は追い払える。
「お前ももうちょい拳で解決する事を覚えておけ。あの手の連中は自分が上だから、特別だから、という意識で見下してるんだ。本当は自分の方が弱者だってことを脳に刻んでやれば二度と近寄りもしないよ」
カインのその言葉に頭を横に振る。
いや、だって、と言葉を置く。
「―――脆すぎるじゃないですか」
撫でれば壊れる様な連中相手に、暴力は振るえない。だから自分が出来るのは無抵抗のまま、である事だ。もし自分から手を出してしまえば、あっさりと壊してしまう。それが理解できている。だからこそ口にした言葉にカインが成程な、と頷く。
「ま、別に1回ぐらい別に問題はないと思うがね。その程度揉み消せるだろうし」
「そういう問題じゃないと思います」
「そうだな。だけどそれが解ってるなら良いんだよ。ガキらしくはねぇけどな」
そこまで喋ったところでおっと、とカインが言葉を置いた。
「そろそろお前を通さないと俺がどやされるな。ほら、姫がお待ちだから行ってやりな」
「お疲れ様です」
もう一度頭を下げてから、中央・居住区に通じる扉を抜けた。抜けた先は室内ではなく、中庭に通じており、空が見えて開放的になっている。だがここは既に障壁の内部となっている。ここに入れるのは本当に限られた人たちだけであり、
相当特別な何かか、或いは世話役ではない限りは居る事が許されない。
ここに住んでいる彼女はここを鳥籠、と表現していた。
と、中庭を抜ければ中央に建造物が見えてくる。複数人の気配がする。数階建ての建築はあまり豪華にしすぎず、しかし特別感を出す為のぎりぎりの妥協が見られる―――ここに住んでいる奴が、ここを屋敷みたいにするのを嫌がった結果の教会との妥協点だった。
ともあれ、見知った場所ではある。
さっさと足を進めれば、入口の奥の方から音が電子音が聞こえる―――どうやら、ゲームで遊んでいるらしい。扉を二回ノックして、
「シド・カルマギアです。遊びに来ましたよー」
『お、来た来た』
『あ、はーい! 今開けに行きます!』
二人の少女の声がする。待たせてしまっただろうか? なんてことを想っていると、扉が内側に開き、その向こう側から緑髪の少女の姿が見えた。クラウスと同じ色の髪に、その瞳は左右で違う所もまた、あの男と一緒。それはこの少女とクラウスが血縁にある事を証明している。つまり、彼女はクラウスの妹だ。
「シドさん、いらっしゃいませ。ヴィヴィオさんも尻尾を振って待ってましたよ」
「誰が尻尾振ってるってんだ! ちびクロじゃあるまいし!」
「ソレ、聞かれたらファビアさんにキレられますよ……」
「はぁ? なんだよアインハルトちゃん! この俺様があんなちびに呪われるとでも思ってるんか? あぁ? 俺様バリアあるから呪われたところで通じねぇしぃ??」
クラウス以上に頭の悪い言葉を口走っている少女の声がする。苦笑しながらクラウスの妹―――ハイディに手を引かれる形で靴を履いたままそのまま家の中へと上がり、奥へと進めばソファに胡坐を掻きつつコントローラー片手にこっちに手を振っている少女、
彼女と同じ、緑と赤の瞳の、
自分と良く似ている、色褪せない金色の髪をしている少女、
―――現代に唯一残された純血の聖王、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトの姿があった。
なお、その恰好はしたがパンツ一枚に上が”せいおー”と書かれたプリントシャツであった。現代に残された純血の聖王の、あまりにも無惨すぎるファッションであった。というかまず女の子なのにパンツ一枚なのがありえないのだが―――まぁ、部屋着でこの格好なのはヴィヴィオという少女においては、デフォルトだった。
「ういーっす、兄貴。一緒に大滅亡スマッシュベルカ遊ぼうぜ」
ソファの上に胡坐をかくヴィヴィオが横をぱんぱん、と叩きながら呼び寄せてくる。
「不謹慎の極みみたいなネーミングのゲーム来たな」
「同人ゲーなんだけどさ、コレちょっと面白そうなゲーム漁ってるときに見つけたんだよ。過去のベルカの偉人とか、有名人をいろんなステージで戦う事の出来る対戦ゲー。クオリティクッソ高いうえに追加キャラでヘンテコなのもいてメッチャ面白いわ。ご先祖様も実装されてるからやろうぜ! アインハルトちゃんもやってっしな!」
視線をハイディへと向ければ、ハイディがこくりと頷いた。
「―――私はご先祖様のクラウス様を全力で戦って良い所まで行ったところでそこで逆転負けして無様な姿をさらす事にハマってます」
「それに僕はどういう表情をすればいいの……」
「笑えばいいぜ!」
そういう事らしい。ヴィヴィオの横へと移動し、渡されたコントローラーを握る。普段、暇な時間は鍛錬か勉強か、或いは鍛錬でこの手のゲームにはヴィヴィオの所へと来た時以外で触れはしないので、かなり新鮮な気分だ。ヴィヴィオの横に座るとコントローラを手渡される。これは使ったことのあるコントローラーだから使い方は解るぞ。
「えーと、これがAボタンで、これがBボタンで……」
「はぁ? お爺ちゃん大丈夫ぅ~? 握り方解るぅ~?」
「ヴィヴィオさん、初心者への煽りはマナー違反ですよ」
「そういえばそうだったわ。えーと、とりあえず練習モードで軽く遊ぶか」
「簡単なステージから始めましょう」
慣れた様子でヴィヴィオとハイディが自分を挟むようにソファに並び、肩を並べてコントローラーを手に、ワイドスクリーンテレビへと向かう。その気になればホロウィンドウ型テレビなんてものも導入できるのだが、ヴィヴィオは妙にレトロなものを好む。最新の機器よりはちょっと型落ち品とかを好んで使っている。或いはそれは、彼女が元々いた場所に由来するのかもしれないが、
今は関係なかった。
ポテトチップスの袋を開いて、暖房がガンガン効いた室内でゲーム大会が始まる。
「えーと……使用キャラを選べばいいんだよね?」
「そそ。兄貴にはこのラインハルトとか、闘争聖王とかお勧めだよ。初心者向けの使いやすいキャラ。逆にブッダはマジやめておいた方がいい」
「仏ビームとか意味不明な技ばかり搭載されてますからね」
「仏ビーム」
仏ビームとは、いったい。それはそれとして、当然の様に使用キャラにオリヴィエを発見する。それを使用キャラとして選択するヴィヴィオを目撃し、軽く横目をヴィヴィオへと向けてから操作キャラを適当に選ぶ。
「お、兄貴そいつ選んだか」
「ファウストは戦乱期に出没した正体不明の連続殺人鬼らしいですね。結局、最後まで正体が発覚することなく一晩で見つからずに数百人殺したと言われる」
「なんでそんな物騒なキャラまでいるの……?」
「乱闘ゲーだしなぁ……?」
「同人ゲームですし。……あ、私はヴィヴィオさんに付き合っているうちに自然と覚えさせられました」
「はぁ? 俺に責任転嫁しないでくれない? いや、めっちゃ布教したけど」
コーラを飲みながらチップスを食べる。これが現代に残された純血の聖王の血族だと思うと多くの人間が涙を流して憤慨するだろう。信心深いご老人方に至ってはそのまま心臓ショックで死んでしまうかもしれない。だがそこらへん、一切の妥協や遠慮みたいなものを見せないのがヴィヴィオだった。この家、室内の中では彼女はあらゆる着飾りを脱ぎ捨てている。
「じゃあとりあえず練習な、練習。終わったら本番ってことでバトルロイヤルすっか?」
「RPGモードのが優しいんじゃないっですか?」
「いや、それじゃ俺が兄貴を虐められないから」
「ヴィヴィオさん??」
「いや、ゲームでなら別に良いけどさ」
「リアルは?」
「拳」
「ひぇっ」
地さえも砕く我が剛拳をお見せしよう―――なんて言いながら、コントローラーをぽちぽちと押して操作を慣らす。選んだファウストというキャラはスピードタイプらしく、ヴィヴィオやハイディが選んだキャラと比べると移動速度が圧倒的に早く、瞬間移動みたいな技も搭載されていた。これを利用したヒット&アウェイ戦法を取るのがきっとこのキャラのスタイルなんだろうなぁ、とそれぞれのボタンに対応する行動を頭の中に叩き込み、一通りすべてのモーションを試し終わった。
「よし、練習完了。遊べるぞー」
「お、じゃあボコるか」
「倒す気満々ですねこれは……」
「だって俺様負けず嫌いだしぃ? スコア最下位だった奴から罰ゲームな!」
「ちょ、まっ」
「待たなぁーい!」
ヴィヴィオが強引にゲームの戦闘を開始させる。海の真ん中に浮かぶ巨大なフロートの様なステージの上にキャラたちが出現する。自分が操作するファウストに対して、ヴィヴィオはオリヴィエを、そしてハイディは初代クラウスを操作キャラとして選び、
NPCにブッダが出現した。
「ブッダ……!」
「やべぇ奴が出てきたぞ! 全員で仕留めろ!」
「操作の難しさはCPUには関係ありませんからね」
「あぁ、解―――」
そこで一瞬、思考を停止させる。戦闘開始直後にヴィヴィオとハイディがキャラをブッダの撃退へと向かわせている。だがここでブッダを撃破すれば、そのあとにこの手でオリヴィエと初代クラウスと戦う事になる。いや、クラウスなんて正直無様に敗北しても別に何も問題はない。だがそれはこの手でオリヴィエと戦う事になるという意味だ。
「ヴィヴィ……お前と戦うぐらいなら俺は死を受け入れるよ……」
「あ、兄貴ぃ―――!」
ステージ端から迷う事なくダイブした。ファウストの表情がなぜだ、と訴えているようにも思える。そしてそのまま落下したファウストはステージの中から消え去って消滅する。敗北してしまった。だがそこに後悔はない。
「僕の命で、ヴィヴィが守れたのなら―――」
「あ、兄貴、そんなに俺の事を……!」
倒れそうな此方の体をヴィヴィオが支えてくるが、手放そうとするコントローラーをハイディが回収して握りなおさせる。
「じゃ、2ラウンド目入りますよー」
「はーい」
「ういー。次は別キャラ使うかー。謎のアロハJとかどう?」
「アロハ」
このゲーム、本当にベルカの偉人を登録しているのかどうか、怪しくなってきたのだが―――ただ、まぁ、ヴィヴィオの笑っている姿はどことなく
悪い気分ではなかった。
登場人物がこれで揃ったな? と言う訳で漸く始まるよ現代のお話。
てんぞーが書くとヴィヴィオは大体俺口調で私生活が雑。ハイディちゃんはその世話をしている感。せいおーTシャツにパンイチとかいうルックスがあまりにも地獄。どこに出しても恥ずかしい現代聖王だぞ。