「朝食食いながらで良いからハッターとアストロジアンの話を聞くぞー」
「うーい」
朝、ホテルの朝食はビュッフェ式で貸し切り状態になっていた。そこにはキャラバンの戦闘員たちが集結しており、徹夜で情報収集を行っていたハッターとアストロジアンの話に朝食を食べつつ耳を傾ける用意をしていた。かくいう俺も作戦に連れていかれる為、ブリーフィングに参加させられていた。師匠の直ぐ横で肉を盛られたプレートの前で、朝食をもっしゃもっしゃと食べて行く。その間も話は続く。音頭を取るのはリーダーであり隊長のジャバウォックで、その横でっもっしゃもっしゃとベーコンとポテトをハッターが口の中へと運んでいた。
「んじゃあ野郎ども良くきけよー。件の幽霊船だけどモデルというかベースは海賊船らしい。規模と種別は戦艦、大砲とラムを持っている上に目撃情報によると船体が人骨で形成されているって話だわな。それまで沈めた船を取り込んで船団の一部として統合、率いて海を彷徨ってる」
「ありありと感じるメンドクササと悪意」
「うわあ、禁忌兵器っぽ」
何を指して禁忌兵器というのか? と言われると、その兵器から感じる悪意の指数というものだ。どれだけ効率的に、或いは非効率的に人を殺し、凌辱する事に特化しているか。それが禁忌兵器としての特性とでもいうべきだろうか。根本的に禁忌とされるにはそれだけの理由がある。そしてそれは主に忌避感から来る。人は理解できないもの、邪悪なものに対しては特別な忌避感を感じるのだ。そして禁忌兵器とはその忌避感を集めた兵器だと言っても良い。歴史上、存在した者が有名なのは冥王イクスヴェリアのマリアージュだろう。増殖、死体利用、自爆と最悪のデスコンビ3拍子の禁忌兵器だ。勝手に増えて殺して増えて更に殺すというループは人権もクソもないだろう。
禁忌兵器と言うのは根本の部分に悪意がある。
苦しんで死んで、死んでからも殺せ。そういう悪意が透けて見える。
「乗船客は?」
「死後パーツになったそうだぜ」
「現在の乗員は?」
「ぜーんぶ骨! 一当てした連中の話を聞いてきたけど、潰しても潰しても船体から無限に骨の海賊が湧き出てくる上に海の上を歩いてくるってよ。いやあ、負けたら強制ダイエットとは恐れいるぜ」
「無理なダイエットは命に関わるって事ねー」
げらげらと笑い声が響いてくる。ハッターは両手を広げてお手上げのポーズを取りつつ、話を進める。
「現状、客船3隻、払い下げ品だが警備隊の船が4隻やられてる。特性に間違いがなければ本体に加えて7隻の船団が形成されている。しかも本体の戦闘機能を共有しているみたいで大砲とかも他の船に形成されてるって話だ。出没地域は……あー、まあ、アストロジアンの話を聞いた方が早いか」
「では、私がお話しましょう」
夜空の星々が刻印されたローブをフードを被り、顔を隠す男の声がする。男の声がしたと思えば女の声もするし、アストロジアンは男か女か解らない不思議な占星術師だ。クロゼルグの様な不思議な星見の力を持つアストロジアンは彼とも彼女ともいえない存在ではあるがその占星術で道を探したり、相手を特定する事等に特化している。今日はどうやら男の気分らしい。地図を広げたアストロジアンが地図に描かれた海、その一点を指し示す。
「ここにいます。余り離れる様子もなく、徘徊しながら獲物が近づいた時に反応し、引き込んでいるようです」
「そこまで被害が広がらない理由、か……どうしてだと思う?」
「場所に縛られているタイプはそこそこある。餌待ちなのか……或いは、そもそも起動予定のなかったタイプなのかもしれない」
アストロジアンとハッターが出した情報に対して横から即座に誰かが意見を出し、それで認識を共有しつつ相手の存在を分析している。流石この手のエネミーをぶん殴っている経験が豊富なだけあり、色んなパターンの想定が出来ている。普段は全くそんな様子を見せないが、彼・彼女らはこの道のプロフェッショナルであり、既に似たような禁忌兵器を何体も始末してきた者達なのだ。まあ、当然ながらその手のノウハウは豊富だ。だから即座に何が必要かも解っている。
「規模的に何人必要だと思う?」
「まあ、6人もいりゃあ大丈夫な規模じゃないかなぁ。まだ成長途中って事は本来の想定された機能を獲得してないって事だし。ただやっぱ面倒なんで薙ぎ払える奴を連れてった方がいいわ」
「アストロジアン?」
「私からは特に。ただ星が翳る様子は見えません。順当にいけば問題なく処理出来るでしょう」
アストロジアンからの返答に満足したジャバウォックは頷きを見せた。
「お前のお墨付きなら俺の判断で間違いはなさそうだな―――それでは今回の編成行くぞ。俺とマリー、オズ、タイラント、オリオン……後ユーリ、今回は手伝って貰っても良いか?」
ユーリはサムズアップを向けて返答する。
「えぇ、お任せください。ウィルスとか浸食系に関しては私が必要でしょうし。それ込みで一緒にいますから全然かまいませんよ」
「良し! なら呼ばれた奴らは午後に桟橋の方で集合、それまでは各自準備しておけよ。今回はシドが見学に来るからしっかり気合入れておけー」
「もごっ?」
注目が此方へと向けられ、なんか生暖かい視線をウケている気がする。首をかしげると師匠に頭をわしわしと撫でられた―――そう言えば現代ベルカにいた頃はあんまり、頭とか撫でられたことなかったなあ、と思い出す。父や母は割と頭を撫でてくれたんだけど。年上の人間は大体敬ってくるか恐縮するかで、同年代の良家しか周りにはいなかったからこんな風に撫でられなかった。
こっちはなんか背景とかガン無視の大人が多くて、楽しい。
「目を離した隙に死にそうだなこいつ……」
「そりゃあまだ普通の子供だからそうだろうよ」
「いや、でもジゴロの才能はあるだろう。リッドのなつき具合見たかアレ? 将来的に絶対狙われるだろこいつ。いや、血筋的には是非とも一族に欲しいけどさ。血の中身見るだけだとかなりのサラブレッドだろこいつ」
「相当煮詰まってるレベルのな。何百年繰り返してきたレベルのサラブレッドだぞ、たぶん」
「シドきゅんそこらへんどこが混ざってるとか解る?」
「うーん……」
口にスプーンを入れて思い出してみる。
ちなみに、自分が未来から来ているという話は既にしてある。理由は凄くシンプルなもんで、特に隠す理由もないからだ。未来がどうなっているかとか、未来の一族は残っているかどうかとか、そういう所の細かい話だけはするなって言い含まれているがそれ以外は割とどうでもいいから自由にしていいぞと言われている。それでもなお扱いとか認識は聖王ルートヴィッヒの隠し子だが。未来人説も良いけどルートヴィッヒの隠し子として扱った方が100倍解りやすいのが理由だとか。
まあ、言いたい事は解る。
ただ、えーと、なんだっけなあ。血筋ちょっとしか覚えてないんだよなあ。
「えーと、聖王家分家主流筋を統一して、エレミアの血入れて身体方面を上げて、ヴァイスベルグ家の血を入れて魔法方面の才能磨いて……グラシア家も入れたっけ? ごめん、細かすぎる所覚えてないや。でも確かウチが唯一の未来まで続いてた分家筋だった筈。先祖返りでヴィヴィオが出てきたからアイツが主流になったし、うちが分家。うん、そんな感じ。まあ、こっちにいるからそこら辺は全く関係ないけど」
「ヴィンテージものじゃん」
そう言われてもしゃーない。めんどくさいけど、俺みたいな人間を生み出すのに何百年というダビスタが繰り返されてきたんだ。エレミアとか聖王家とか、そのサラブレッド作成の極みだ。その血筋を横から偶に補充して先細らないように繋いでたのがウチ。まあ、最終的に生まれたのが俺みたいな駄作だったのが運の尽きだったのだろう。
「だけど今はもううちの子よ。他所は他所、過去は過去! 気にする必要もないわ」
ぎゅー、っと師匠に抱きしめられて抱き寄せられる。流石に皆の前でそうやって抱きしめられると少し恥ずかしいかなあ、とは思うがそれで遊ばれる様な事はない。血欲しいよなー? なー、とかいう視点で話してるから根本的にこいつら、見てる世界が違う説がある。
「まあ、シド坊ももう既にウチの身内だしな。姓名乗ってないだろ? 名乗る名前に困ったらエレミア名乗れば良いぞ」
「将来的にマリーの後継いで仕事するなら仕事用の名前も作らなきゃいけないしな。そん時に名乗ればいいぜ」
「出身、生まれとか特に気にしないからな、俺ら」
「能力があるかどうか、やる気があるかどうかって所でしか見ないからな」
「お陰で人格破綻者ばかり集まってるけどな!!」
その言葉にどっと笑いが起きる。良く笑って、良くふざけて、だけどちゃんと仕事に本気で打ち込んでいる人たちだった。どれだけ絶望的で重い未来が待っていようとも、きっとこの人たちは笑いながら前に進むだろう。だからこそこのエレミアと言う強い人達の事が俺は好きだったのかもしれない。濃すぎる血の繋がりと、欠片も繋がりのない血が入り混じりながら地獄の中心を蹂躙しながら進んで行くのが彼らの道だった。その道には今、自分もいる。
果たして、俺に彼らの作った道を進むだけの力があるのだろうか?
いや、進めるようになりたい。やらなくてはやらない事があるのだ。
だから出来るかどうかではなくて、やる。それだけの話だ。だから何も疑わず、師匠を信じて毎日鍛錬を重ねている。明日の俺が昨日の俺よりも1歩だけ未来に進めている事を信じて。それはそれとして、
「本当に見学とか大丈夫……?」
「あぁ? 心配するなよ! 最悪腕の一本がなくなるだけだしよ」
「腕一本ぐらいなら私再生できますしね」
はっはっはっは、と笑っているユーリとジャバウォック。純粋に聞く相手間違えたな……としか思えない。いや、まあ、実力回りとか間違いなく心配する要素はないんだが。それでも初めての禁忌兵器との遭遇というイベントに関しては、たとえ相手が完全体ではなく成長途中の存在であろうと中々恐ろしいものがある。禁忌兵器の性能がピンキリとはいえ、弱い方でも村や町を1つ跡形もなく消し飛ばしたり地獄に叩き落とす程度の事は出来る。
今回の幽霊船だって、ただ一定区域から離れないだけでこの港町に接近していれば一瞬で飲み込んで肥大化していただろう。
「ま、私がちゃんと守るから心配しなくて良いわよ」
なでなでと頭を撫でられながら師匠に言われる。まあ、これまでの社会見学もずっと師匠に守られてきたし、今回もその延長線の事かと思えば……少しは気が楽かもしれない。
「それによお」
声が他のテーブルから飛んでくる。
「地獄は先に見学しておくもんだわ。これは基本的にエレミアの理屈なんだが
「そうそう。だからシドきゅんも色々と経験すると良いわよ。手始めにシドきゅんちょっと大人のお姉さんとか」
別のテーブルに座っている魔女風の魔導士がしなを作りながら何かアピールしてくるが、即座に師匠によってブロッキングされた。
「去れ、淫魔」
目を隠されて、何も見えない所に声が聞こえてくる。
「流石に見境なさすぎだろお前……」
「はあ? 12歳のショタとか丁度食べごろじゃない? こういう年頃に喜びを教えるのがおねショタの道理じゃないかしら? という訳でシドきゅんとトッドきゅんちょっと預けてみない? ここ数年が食べごろだと思うのよね」
「お、マリーが”傷跡”抜いたぞ」
「そら抜くわ」
「オズの奴も銀十字抜いてるぞ! おい、馬鹿ここでやり合うな! こいつらを叩き出せ!!」
朝の食堂に笑い声と怒声が響く。また馬鹿をやってるなあ、と思いながらも釣られて笑い声が零れてしまう。昔はこういう景色を遠巻きに眺めているだけだったが……今はその騒動に中心にいられる。
そんな生活が今は、好きだった。
善き人々で優しい人々。
その仕事は正義の味方。