Disruptor   作:てんぞー

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Traveling - 4

 定刻通り、桟橋に集まった。

 

 そこにいる面々は誰もが知っている連中だ―――というのも、この数年間一緒に旅をしているから知っていて当然なのだが。桟橋には全員載せられる程度の大きさを持つ足の速い小型船があり、それが恐らく現場まで運んでくれる高速艇なのだろう。船長らしき老人がサングラスを装着し、パイプを咥えている。

 

 改めて、今回参加している人々を見る。

 

 まずはジャバウォック、この隊のリーダーだ。通称は隊長かジャバさん。良すぎる目を眼帯で何時も隠しており、その目で魔法式そのものを見切って魔法の起点をサーチ、放たれた魔法の術式を破壊する事で魔法を無効化するというとんでもない事をやるおっさんだ。それこそシューターとかバインドだけではなく、バスターなどの砲撃魔法でさえ殴って粉砕する事の出来るこの男は邪竜の名を名乗るのにふさわしいだけの暴力的能力を見せつける。普段の言動見てるとちょっと粗暴だが、リーダーとしての責任感と判断能力は高い。

 

 マリーア師匠、説明不要。白い傷跡というネームブランドが全てを説明する。加えて言うなら無機物であろうと有機物であろうと塩化にレジスト出来ない存在は全て即死する運命にある。無差別即死攻撃持ちと言うだけでもかなり恐ろしいが、自分の身体スペックが魔法を使える者よりも劣っているという事実を客観的に理解しており、それ故に自分がサポートへ回る事や目立たないように動く事に一切躊躇がない。曰く、殺し方を選ぶ方が強く、気配を殺して暗殺したり笑顔で懐に入り込んで仲良くなってから殺すスタイルの方が強いらしい。相手よりも劣っているのに正面切って戦う奴が一番愚かとは師匠の談。

 

 次、タイラント。褐色を超えて肌が完全に黒く、髪も黒い。だけど目の色だけは琥珀色だ。アルビノの正反対の様な体の色をしている。その為、夜になって目を瞑っていると2メートルを超える巨漢でありながらそこに存在しているというのが視認できなくなる。エレミアの純粋暴力パワー特化型担当であり、バトルアックスをぶんぶん振り回しながら小山程度なら粉砕する身体能力を発揮する。その巨漢から怖いイメージが湧いてくるが、趣味がお菓子作りという可愛い一面を持っていて、寡黙。だけど良く俺達に手作りのお菓子を持ってきてくれるので好き。

 

 オズ。淫魔。歩くセックスシンボル。リアルサキュバス。外様のやべー奴。こんな奴を野放しにするな。1人で夜中歩いてると襲われるぞ。近づくなって師匠に注意されてる。魔女でありながらシュトゥラという最大大手出身ではない放浪のウィッチ。恰好もどことなく扇情的な露出の多いウィッチドレスをモデルにして作った赤いレザージャケット、胸なんて上から垂れ下がってるパーツで隠してるだけじゃんという痴女。端がぎざぎざにぼろぼろの魔女帽を被っている事も含めてかなり異端な銀髪の魔女。ただしキャラバンに参加していることがその実力の全てを物語っている。趣味は童貞狩りとショタの踊り食いらしい。ちなみに童貞狩りという言葉の意味を誰も教えてくれなかった。ハッターだけが16歳になったら大人の遊びをおしえてやるよ! って言ってシバかれてた。

 

 そしてオリオン。弓使いの男、特徴的な特徴がないのが特徴の様な男。ただし、ゆったりとした服装の下に隠している筋肉は凄い。どこぞの神話の弓使いをなぞらえた名前を使っているだけあって恐ろしいく精度の高い狙撃を行える。それだけじゃなく弓で戦艦を沈めた事があるとか豪語するだけの爆撃の様な弓を放つ事が出来る。これが単発なら話はまだ分かるが、矢束をセットしてから放つ連射は粉砕爆砕させるような超威力の矢をノンストップで放ち続ける物なので、この男に砲撃魔法とかいう概念はいらない。しかもチャージとかなんもなく放つので本当に対処法がない。海上戦という事もあってまたあのマシンガン砲撃矢が見れるのかなあ、と思うとかなり頼りになる。

 

 最後にユーリ・エーベルヴァイン。金髪ウェーブのゆるふわイリスストーカー。最近イリスの逃げ方がガチになってきたから追いかけるユーリも動きがだいぶガチになってきた。夜天の書と呼ばれる魔法を記録する専用のデバイスを持ち、エグザミアという無限に魔力を供給する機関を保有する。その為、ユーリから魔力の供給を受けるだけで無限に魔法が撃てるというちょっと意味の解らない事態に突入する。ユーリ自身は魔法戦がそこまで得意じゃなく、魔力の質量に任せてぶっぱするのが得意なのだが、それとは別に生命に関連する操作能力を持っている。その為ウィルスに対する耐性を生やしたり、欠損した肉体を再生したりとか出来たりする。オズのメインリソースでもある。

 

 そして俺。雑魚。以上。

 

 俺を除けば全員が全員、世界的な実力者ばかりだ。一部変なの混じってるような気もするが、それはそれとして実力はあるのでなんも文句は言えない。こいつらだけで小規模な国に電撃戦を仕掛けて落とせそうな感じもしなくはない。それが集まって正義の味方をしているという状況は、中々面白いものがある。ともあれ、この桟橋には全員が集まっていた。そしてジャバウォックが全員を確認し、問題ないな、と口にする。

 

「終わらせるまでは戻るつもりはねぇからな」

 

「大丈夫よ……今回はシドきゅんもいるしね」

 

「こいつ海に捨てて帰れないかしら」

 

「おい、俺達の海を勝手に汚すのは止めろ。塵はちゃんと持って帰れ」

 

「酷くない?」

 

「当然の扱いだろ」

 

 ぶーぶー、と痴女が頬を膨らませながら文句を言うが、それを全員が無視している。扱いが酷いけど辛くないかなあ、と思っちゃうけど此方へと視線を一瞬だけ向けたオズはウィンクを送ってくるのでどうやら状況を楽しめているらしい。濃いキャラしているだけあって心の方も強いらしい。それに比べると俺は今、ちょっと緊張していた。一応最低限の武器を持っておいた方が良いと言われたのでショットガンを持ってきている。窒素弾が装填されたショットガンはギリギリまで反動を削られた結果威力には乏しいが、窒素弾の効果により命中さえすれば体が氷結する為護身用に最低限の役割を果たせる武器となっている。

 

 親方から貰った小槌とソードブレイカー、”夜明け砕き”は未だに体が育ってないのでまともに運用する事が出来ないので、こういう場に持ち込みが出来ない。とはいえ、今回参加しているメンツは誰もが一騎当千の猛者だ。自分が武器を握って応戦する様な事態にはならないだろう。それでもやっぱり、これから禁忌兵器かもしれないと思うものに接近するとなると嫌でも不安になる。

 

「シド、ちょっと緊張してますけど大丈夫ですか?」

 

 そんな俺の様子を見かねてか、ユーリが心配してきた。

 

「ちょっとだけ不安。いや、本当にみんなが強いのは解るんだけど。心配する必要もないんだけど、どうしても最悪ばかりを考えちゃって」

 

「あー……気持ちはわからなくもないです。私も根本的には戦闘が得意なわけじゃなくて無限のリソースで圧殺しているだけですから、本格的な部分は全部他人任せなんですよね」

 

 うーん、と此方の不安を知ったユーリが首を傾げる。

 

「でもその不安を本質的に解消する手段ってないんですよね……心を強く持って、としか言えないんですよねこういうの」

 

「うん、知ってる。だから単純に俺の心が弱いだけなんだなあ、って」

 

 臆病になったなあ、と思う。不安を良く抱えるようになったなあ、と思う。それを躊躇なく口にする様になったなあ……とも思った。口に出しても意味はないと思っていた。だけど口にして共有する事で少しはこの不安が和らぐ事を知った。我慢する事は悪い事ではない。だけど我慢しすぎるのは悪い事だ。そう考えてからは自分が感じる事を素直に口にする様になった。今みたいに、意味はないんだろうけど……それでも少しでも自分を知ってもらいたいという気持ちがあるのかもしれない。

 

「まあ、でもユーリみたいに強い人が周りにいるのは凄い心強いよ。ユーリ、見た目は俺よりも幼いのに強さだけなら比べ物にならない程だもん。すっごい頼りになる」

 

「そんな、私なんてそうでもないですよ……結局自分の力かどうか怪しい所ですし」

 

「それでも、ユーリはそれを誰かの為に使えるでしょ。だったらそれで良いじゃん。自分の力を自分の想う様に使う、使える。そしてそれが誰かの為になっている。それだけでも凄いし、偉いと思うよ。こうやって自分がやる必要のない事をするユーリの事、俺はかっこいいと思う」

 

 そう言うとユーリがちょっと頬を赤らめた。

 

「もう、直ぐにそういう事を言うんですから……もっと言ってみません?」

 

 おちゃらけるユーリの姿に背後からチョップが入る。あいたっ、とユーリが声を零しながら振り返れば、その背後からイリスがやって来た。

 

「あ、イリス―――来てくれたんですね! 私の見送りに!」

 

「は? 違うけど? なんで心配する必要のない奴を心配しなきゃいけないの? 私が用があるのはこっち、こっち」

 

 ユーリを当然のように押しのけると、イリスが此方の前に立ってくる。ユーリが必死にこっちを見ろとイリスの背後で猛アピールしてくるが、それをイリスはガン無視してくる。もう、ここまでくると完全にユーリとイリスの意地って感じが出てきている。実はこの二人そこまで相性が悪くないのだろうが、イリスとユーリの追いかけっこが段々とエスカレートした結果今見たいな感じで意地になってる感じがある。

 

「どうせ不安を覚えているって思って見に来たけど……アタリだったみたいね」

 

「本当にごめん」

 

「謝らなくて良いわよ。どうせ心の問題だし、そういうもの程どうしようもないしね。だから今回だけ、私のフォーミュラ貸してあげるわよ。まあ、正確に言うとナノマシンの方だけど」

 

「フォーミュラを?」

 

 フォーミュラ、それはイリスが活用する特殊なエネルギー干渉技術だ。彼女が保有するナノマシンと一緒に運用する事で物質を改変する事が可能となり、またエネルギーを操作変換する事によって完全なるエネルギーのコントロールを得られるという効果がある。このオーパーツ的技術を大量保有する古代ベルカ時代から見ても相当異質な技術であり、現状再現不可能とさえ言われている技術だ。イリスが保有して運用するのはそれがイリスのみにしかまともに運用出来ないという点があり、彼女が保有するナノマシンがこの時代にあるナノマシンの全てだからだ。

 

 ……まあ、それもあのアロハ達がこの時代にいなければという話になるのだが。

 

 ただ、まあ、なんというか。

 

 旅を始めて禁忌兵器の噂を辿っていると偶に聞こえるのだ。

 

 アロハを着た男たちが楽しそうに禁忌兵器と戦っている、という噂話が。神出鬼没で正体も定かではない者達が片っ端から極悪な兵器や異質な環境に突撃してはそれを薙ぎ払った……と思えば無関係の人間を殺す。場合によってはどこぞの国の城に出現しては王族殺害なんて事もしているらしい。そんな噂がどこからともなく届くのだ。

 

 ああ、アイツら好き勝手やってるなあ……というのが俺とイリスの純粋な気持ちだった。

 

 なんというか、出来るだけ関わりたくない手合いだった。

 

 まあ、それはともかく、

 

「借りて……大丈夫なのか? ナノマシン」

 

「ちょっとずつ数を増やしてるから大丈夫よ。ナノマシン、年に5%ぐらいしか数を増やせないけどそれでも少しずつ数を増やせてるから少しだけ余った分を回すだけよ。別に心配される程じゃないわ」

 

「イリスちょっと早口になってませんか?」

 

「そこ、煩い」

 

「煩くありませーん!! イリスは早口になっていると思いまーす!!」

 

 イリスが軽くキレそうになっているのを見て本当に仲が良いなあ、と思う。ただそんなユーリを振り払い、イリスが近づいて来た。

 

「ほら、さっさと分けてあげるからこっち来て」

 

「う、うん」

 

 イリスに促されて近づくと、

 

 ―――いきなり唇を重ねられた。

 

「!?」

 

 たっぷり数秒間唇を重ねて、何かが口の中に入ってきたなあ、と思うと後ろでユーリが顔を滅茶苦茶赤くしてた。はわわわ、という声を聴きながら何かを口を通して喉に押し込まれるとイリスが口を離した。

 

「ふぅ……これで譲れた筈だけどどう?」

 

「え、この手のデバイス使った事がないから全く解らない……」

 

「あー、そう言えばそうだったわね。だったら下手に運用するよりも……」

 

 イリスが口で話すのを止め、

 

『通信機能を使うのに留めた置いた方が良さそうね』

 

「おおー」

 

 頭の中に響く様にイリスの声が聞こえる。魔法で言う念話みたいな奴だ。俺は魔法が使えないのでそういう事が一切できないが、イリスがフォーミュラ・ナノマシンを分けてくれたおかげで問題なく声が届く様になっている。

 

『私とこれで回線を繋げておくから不安になったらあたしに言えば良いわ。そうすれば多少はマシでしょ? フォーミュラ通してソッチの監視しておくから何かあったら言うわ』

 

「おぉ……すご」

 

「気にしなくて良いわよ。あたしとあんたの仲でしょ? 不安に思う様な事があったら言えば良いわ。他人には言えないような事あるでしょ?」

 

「本当に心強いよ、ありがとう」

 

「だから感謝される程じゃ……あ」

 

 手を握って感謝していると、周りの視線がイリスに集中しているのが見える。周りの視線が集中しているのが見えると一気に顔を赤くし、一気に背を向けると足早に去り始める。

 

「じゃ、じゃあそれだけ!」

 

 にやにやとした視線が溢れかえる中、オズの声が響く。

 

「しょ、ショタのファーストキスなんて希少価値のあるモノを―――泥棒猫……! あ、でもここでイリスちゃんの唇を奪えば間接的に奪えるって事かしら? 仕事終わりに風呂場でおーそおうっと! 偶にはロリっ子も良いわよね!」

 

「そろそろ本当にしょっ引くぞお前」




 その後、部屋に直行したイリスは枕に顔をうずめて悶えていたとさ。
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