Disruptor   作:てんぞー

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Traveling - 7

 戦闘は終わった。

 

 結局のところ、まだ成長、或いは完成前の禁忌兵器とはそこまで酷いもんじゃない。あるいはこれが一般的な警備隊や軍隊レベルで相手をするなら相当キツイ部分もあっただろう。だがこの部隊は実力者だけを集めて禁忌を殲滅する為の部隊だ。その為、誰もが単独で禁忌級に相対出来る英雄級の人材ばかり揃えられている。そんなのが木っ端の兵器に当たってみれば、殲滅されるのは当然の理だ。故に幽霊船団は抹消された。それはもう綺麗に、跡形もなく。最初は禁忌兵器の見学と言われて不安を覚える事もあった。だが部隊の大まかな実力も理解していたし、どんな手段を講じても絶対に倒せない人々だって理解しているから信頼もあった。

 

 だがあの滅茶苦茶すぎる戦場を見れば何も言える事はない。

 

 ただ、こんな人達が禁忌兵器とぶつかる戦争があったのなら、そりゃあ次元世界の一つも崩壊するとは思った。

 

 戦闘が終わった帰り道、流石に夜が遅くなってきた。うとうとしてきたシドは眠りにつき、師匠であるマリーアがシドに膝を貸して眠らせていた。それをフォーミュラ越しに眺め、もう何も心配する必要はないと解り、静かに回線を切断した。

 

「はあ、フォーミュラの回収どうしよ……」

 

 そんな事を呟き頭を悩ませながら枕に顔を埋めた。

 

 

 

 

 そうやってイリスがどう回収するか悶えている頃、高速艇の上には静かな夜が戻っていた。シドがマリーアの膝を借りて眠っている事もあり、オズも珍しく静かにしていた。本来の海の静寂さを取り戻した景色は空の星々が夜の海に刻まれ、星空を水面の上に披露していた。戦いを通して興奮していたシドが最後にこの景色を見れなかったのは少し可哀そうだな、なんて事をマリーアは考えながら眠っている子の頭を撫でた。

 

「マリー、入れ込んでるな」

 

「まあ、ね」

 

 眠っているシドの表情を覗き込みながらマリーアが目を閉じる。そうね、と声を零す。

 

「私が子供を作れたらもう、これぐらいの歳だったかしら」

 

「今年で幾つだっけ?」

 

「30になるわね」

 

 逆算すると18のころには子供を産めていた、という事になるがそこまで珍しい物ではない。とくにマリーアの様に珍しく、そして強い血はなるべく子供を残す事で次の代へと継承したいのがエレミアだ。20にもならずに子供を作って育てて継承するというのはそう珍しい事ではない。姉が母親である、なんて所さえも存在するのだから。

 

 それが、マリーアのケースだった。それゆえの先天的白さ―――ではない。彼女が先天的に取得していたのは塩化の異能だけだった。魔力に恵まれず、女の身であるがゆえに体にも恵まれない。それでもマリーアはエレミアとして成り上がった。最強の一角に。それこそ暗殺、対人という領域においてはほぼ最強とも呼べる部類に近い。塩化の異能はそれだけ問答無用で敵を処理する事が出来る。魔力無しでは対処不能な巨大生物の類もこれがあれば対処できる。

 

 ただし、その代償として胎を失った。塩化という漂白の奇跡は決して万能の力ではない。何かをするにはそれ相応の代償が求められる。そしてマリーアの漂白は自身の身を削るものだった。ユーリがいる今、失った分の血肉を補填する事はそう難しくはなくなった。それでもマリーアがユーリと出会う前に消耗した臓器の類は全て塩になって使い物にならなくなっている。それ故にエレミアとして最も大事な継承が行えない。

 

 マリーアは次代の可能性と引き換えに力を手にしていた。

 

 だからこそシドと引き合わせたルートヴィッヒに感謝していた。戦い方のノウハウを残す事は出来る。だがそれは魔力を使える人間からすれば下位互換でしかない。魔力で出来る事があるのだから他にやれる事がある。マリーアの技術は魔力のない人間が極限まで身を絞って魔力のある人間を殺す手段だ。それを魔法の使える人間が使う事に意味はなく、ノウハウにも価値はない。つまりエレミアの主流から外れる技術になり、将来的には淘汰される運命にある。

 

 子も残せなければ技も残せない。

 

 そこに来たのがシドだった。完全なる器。未完成の大器。晩成の形。魔力のない少年。それはマリーアが求めていた完璧な継承者の姿だった。それをジャバウォックは理解しており、欄干によりかかりながらマリーアが弟子を得た事を内心、喜んでいた。何も残せず死んでゆく同胞の虚しさと惨さに関しては良く理解しているからだ。ただそれとは別に、マリーアのシドに対する献身に対して少しだけ不安を覚える事もあった。

 

 ジャバウォックは粗暴の様に見えて、しっかりと隊の仲間を見ていた。ヴィルフリッドが少しずつ情をシドに向けている事から本能的に相性の良さを感じ取っているのを理解していたり、イリスのユーリに対する視線にどこか恐れが見えているのも理解していた。言葉に出すと何が台無しにするかも人生経験から把握している。その為、無駄な事を口にする事はせずに留めていた。だが今の様子を見てここでなら、と判断した。

 

「自分の子の様に思っているか」

 

「解る? まあ、解りやすいわよね」

 

 ジャバウォックの言葉をマリーアは肯定した。

 

「子供を育てて自分の跡を継がせる……ちょっと残酷な道だけど、皆を見てて結構羨ましかったのよね。やっぱり子供を持てないというのは結構寂しいものだったわ。だからシドが来てくれた時は嬉しかったわ。それでもここまで入れ込むつもりはなかったんだけどねー」

 

 まあ、自然と、ね。そうマリーアは自覚しながら苦笑を零した。寝ているシドの頬を軽く突き、

 

「絶対この子将来は何人もの女を泣かせるわよ。私が断言するわ」

 

「英雄の資質だ」

 

 腕を組みながら船首に立っていたタイラントが頷きながら肯定した。それを受けてオリオンも笑い声を零した。

 

「戦場での顔を見たか? あの地獄で俺らを見て目をキラキラさせながら楽しそうに眺めてたぜ? ありゃあ才能あるぜ。これを見て心が折れないならこの先も間違いなくやっていけると思うぜ、俺は」

 

「そして童貞卒業は私で」

 

「誰かアイツを海に蹴り落とせ」

 

 一切ブレないオズの様子に溜息と笑い声が漏れる。珈琲を用意してきたユーリが魄翼に珈琲を乗せて運びながら、適当な段差の上に座り込んだ。

 

「いけないんですか? 大事にしちゃ」

 

「その言い方は卑怯だろ」

 

 ジャバウォックが笑う。

 

「だけど入れ込むとそれだけ視野が狭まるし、行動が極端になる。場合によってはコミュニティを乱す方向に進んだり……な。まあ、昔から良くある破滅の仕方だ。とはいえ、そこらへんマリーアはちゃんと自制出来てるとは思うし問題はなさそうだが」

 

「まあ、ね。私もこれまで積み上げてきたものがあるから。それを全て崩す様な事はしないわ。もし、私の命を使う事があってもその時は貴方の許可を取るわよ」

 

「そうしろ。それが一番安心できる」

 

 良かった、と口に出す事無くジャバウォックは呟いた。この手のメンタルケアや相談は結局のところリーダーである彼から切り込まないとならないものだ。専門家としては寧ろハッターのが上だ。諜報、隠密担当のハッターは情報収集のプロフェッショナルだ。誰が相手でも友好的に接する事が可能で、女であれば一瞬でベッドに持ち込む事も出来る。そうやって他人の懐に潜り込んで、言葉を滑らせる。そうやってハッターは誰かの友人という顔を直ぐに被る事が出来る。

 

 それはつまりコミュニケーションのプロフェッショナルと言う事でもある。距離感や関係の構築、それを表情から仕草、言動の細かい所まで完全にコントロールできている。普段、子供たちの前では良くはっちゃける兄ちゃんとして振舞っているのも子供のころからそういうイメージを植え付ければ、後々一緒に仕事をする時緊張させずに済む様になるからだ。

 

 ツッコミとボケの関係で言えばボケ。

 

 だがボケが傍にいて緊張する様な奴は中々いない。不思議と和むし、安心する。その安心感と安定感を作れるのがハッターと言う男だ。だからメンタルケアの相談の際に話を持ってゆくのはこの男だった。それがこの場にいない分、ジャバウォックは一族の中でも複雑な事情を背負うマリーアの扱いに、少しだけ困っていた。

 

 だがシドという弟子、継承者を得たマリーアは前よりも強い母性を見せるようになった。

 

 そして戦士としても前よりも磨かれたように見える。

 

 だが急激な成長と進化というものは常に理由がある。そしてそれが早ければ早い程、何かを消費しているのだ。ジャバウォックはその見えない”何か”が恐ろしかった。もしかして見えないところで解らないナニカを消耗しているのかもしれない……そのリスクを常に脳の片隅に置いておかないとならないのだ。それが面倒ではあるが、リーダーとしての責務だ。

 

 だから改めて、ジャバウォックは再確認して安心した。マリーアに変化はない。

 

 ()1()0()()()()()()()()()()

 

 彼女の体が限界を迎えるタイムリミットいっぱいまでは傭兵として働けるだろう。或いはそのラスト数年の間に完全にシドに全てを託すか……なんにせよ、彼女のエレミアとしての責務はなんとか最後まで見れそうだと判断した。

 

「ただねー、この子の心の傷をどうしたものんかしら、とは思うものよね」

 

「心の傷ですか……こればかりは私の力でもどうしようもないですからね」

 

 ユーリがずずず、と珈琲を飲んだ。

 

「いずれは乗り越えるべきものだが……傷の形は解るのか?」

 

「心の痛みに鈍感」

 

「うーん、それはまたなあ……」

 

 心の痛みを感じづらい。それはつまり()()()()()()()()()()()と言う事だ。人を殺せる事は才能だと言うものもいる。だがマリーアはそう考えない。痛みは危険信号であり、同時にヘルプサインだ。痛みを感じるという事は正常ではない行動が行われているという事だ。それを感じられないのは才能ではなく、危険なだけだ。シドの痛みに関する鈍感さはマリーアが最初、初の見学と称して人を殺す姿を見せた時に確認した。

 

 シドを連れて仕事を見せたのは単純に戦い方を見せる為だけではない。その反応から性格やメンタル面のチェックを行う為である。そしてその中でシドは一切人の死に頓着する事無く高揚する姿さえ見せた。つまり人の死に対して何かを感じる事がない、という事だ。

 

 だが見学の後のシドの様子は少なからず損耗していた。それは戦闘によるものではなく、精神的な負荷として死を直面した事にある。つまり人の死を見て苦しまない癖に、戦闘を見たことによるストレスが発生したのを見ていたのだ、マリーアは。

 

 戦いとは人の本質からかけ離れた事―――即ちストレスを感じる行為である。そして死とは生の否定であり、その対極。死を見る事は人間が感じるストレスの中で最も重い部類に入る。だがそれに対するシドの反応は淡泊であり、尚且つストレスを得ていた。

 

 つまり死を痛みに感じず、無意識的にストレスを蓄積していた事になる。そこからマリーアはシドの心の問題を見抜いていた。

 

「この子に必要なのはなんでもない、子供らしくいられる時間と環境なのよ。我慢して、抑圧して、見ないふりをしていたから自分の心の痛みに気づけなくなっちゃったのよ。それも何とかしなくちゃね、って思ってしまうのはやっぱりやりすぎなのかしら」

 

「さて、な。俺も子育ては別段上手いって訳じゃないし、任せっきりだ。出来る事は背中を見せる事だけだ」

 

「だけど、まあ、子供ってのは親の背中を見て育つもんだしなあ?」

 

 オリオンの言葉にうむ、とタイラントが頷いた。

 

「お前の背中を見て育つのだ……悪く育つ事はないだろう」

 

「つまり私が近くで乱交してれば淫乱に育つ!?」

 

「お静かに」

 

「淫乱!!」

 

「お静かに」

 

 いえー、と戦闘での雰囲気が抜けきったオズがじたばたしていた。

 

「あー、10人ぐらい集めて派手にやりたい」

 

「寝てるとはいえ子供の前なんだから止めろ止めろ!!

 

 先ほどまでの静かでどことなくものがなしい雰囲気が一瞬でオズによって霧散する。夜の海に少しだけ騒がしさが戻って行く中、

 

 もはや死者は二度と起き上がることなく、本来の静けさを取り戻しながら禁忌は永劫に眠りに付いた。

 

 そしてシドの、古代ベルカでの夜がまた更けてゆく。




 師匠・ジャバ・タイ使用金額、武器メンテ代だけなので十数万。
 オリオン、矢の大量消費と武器のメンテ+カートリッジ補充で使用金額数百万。

 魔法痴女、デバイス粉砕・銀十字オーバーホール・回路炎上・慰謝料合計数千万。

 金さえ出せば成果を出す女。
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