Disruptor   作:てんぞー

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Growth - 5

「えー、それじゃあ割と真面目にシドに正しい性知識を与える為の勉強会を始めます」

 

「いえー!! いえいえー!!」

 

「えぇ……テンション高い……」

 

「なお特別協力員としてタイラントには淫魔を除外して貰いましたぁ―――! いえ―――!!」

 

「保健体育は得意なの―――! 任せて―――! 私で精通しろ―――!」

 

「ひっでぇ断末魔」

 

 性教育と言う単語だけを聞いて魔法痴女がやってくるが、タイラントの力によって除外されている。そのままその人はこっちに連れてこないで欲しい。まあ、それはともあれ今日はハッターが物凄く真面目に授業するという事なので、此方はハッターの前に座って話を聞く準備を整えていた。珍しくトッドも先生側に座っており、真面目な話をしている。ここまで2人が真面目だと何やら重大な話をされるようで緊張してしまう。

 

 うっし、とハッターが声を零した。

 

「いきなり核心から切り込むのは衝撃が強いからちょっとソフトな所から話を始めるぜ。つまり俺達が凄くなじみのある概念で、解りやすい部分だ」

 

 ハッターは装着した伊達眼鏡を軽く調整しつつ、取り出したホロウィンドウにばばん、と書き込む。イリスが未来から持ち込んできた魔法は、現在のエレミアでは親しまれる便利な魔法へと変貌しているのだ。

 

「つまり血統と血脈! 俺達エレミアが長年脈々と受け継ぎ、そして次世代へと向けて受け継ぐべきもんだ。シドっちが言う事が本当なら俺達の苦労は報われて未来でもちゃんと黒の一族は存続してその役割と使命を果たし続ける。ま、この細かい話はスルーだ。考え出したら未来が変わっちまうかもしれないしな」

 

 だから血統と血脈の話をしよう、とハッターが言う。

 

「そもそも血統や血脈を保つのは意味があるのか? って話をするとあるんだわ。血ってのはブランドであってそれ自体に価値があるもんで、純粋であればある程良いもんである……って価値観が割とあるんだな。だが一番重要なのは強い血である事、或いは貴い血である事だ。これらの血は純粋である程美しく、そして継承された時に強い」

 

 たとえばエレミア。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その為、エレミアの血はすっげえ価値がある。ご先祖様が人体改造して取り入れた特徴だ。これのおかげでエレミアは親から子へと経験を受け継がせ、より強い子を作るロジックを構築した訳だ。つまりベースはエレミアの血を用意する」

 

 そこに、別の血を加える。

 

「これもなるべく純粋に強い血が良いな。余り細かく混じりすぎている血を取り込むと変な反応が起きたり変異して求めてたのとは違う結果にたどり着く場合もある。どの血が優秀だったのか、それを把握する為にもなるべく綺麗な血でいて欲しいんだわな」

 

「ちなみに俺もリッドもエレミアの開祖まで血筋、ちゃんと記録取ってあるぜ」

 

「ほえー……ウチもあったなあ。俺は欠片も覚えてないけど」

 

「ま、普通は興味ないだろうしな。覚えなくても良い範囲だとは思うぜ。んで、俺達はこの血の交配を何度も何度も繰り返す事でより優秀な遺伝子を残して、それを未来へと繋げて行くって作業を無限に繰り返している訳だ。これが血統交配とかって言われているもんだな。俺も、そしてシドっちもそうやって今の血と体があるって事を覚えておいた方が良いぜ」

 

 頷く。うちの家系は聖王家の血を保存する為の家だ。その為になんとか聖王家の血を濃くしながらも本家に届かぬように薄めていた。そこに優秀な血を入れる事で預かっている聖王家の血を本家とは別ルートで強化していたのだろう。今思うとウチも結構業の深い事をやっていたんだなあ、と思う。カルマギア。

 

 まさしく業を回す為の歯車。そうであれ、と望まれた家だったのだろうか? まあ、それにしては父さんも母さんも、止める気があるなら今にでも辺境の次元世界に行ってベルカとは関係のない生活を送る覚悟ってもんがあったみたいだしなあ……。今思うと、もっと話しておけば良かったと思う。きっと色々と相談に乗ってくれただろう。俺の両親は、間違いなく良い人たちだった。

 

「ちなみにシドっちって未来で婚約者とかいたのか?」

 

「いたよ。先祖帰りで完全に聖王家の血を取り戻した子がいて、血の補填の為に婿入り予定だったよ、俺」

 

「はあ、未来でもやってんだなぁ……」

 

「その子はどうだったんだ兄弟?」

 

 うーん、と唸る。

 

「ヴィヴィオは……悪い子じゃなかったよ。聖王教会からも仲良くしてほしいって言われてたし、くっつく事は期待されてたけど、なるべく仲良くしていて欲しいのも事実だったんだろうなあ。あの頃は世話係にハイディがいて、自由はないけどヴィヴィオの奴もかなりノリノリだったなあ。……うん、まあ、もう俺のいないところの話だから……」

 

「あぁ、悪い。思い出させたかったわけじゃないんだわ。ただ、まあ、俺達の様な一族主義に取っちゃこういいう血筋の確保と保全、そして継承ってのはすっげぇ大事な事だって覚えておいてくれよな。これを保存、記憶、記録を取る事でこいつの血の何が優秀か、ってのが把握できる訳だ。後はその良い所を掛け合わせて……優秀な子を作る。そうすることで更に強い次世代を用意する。これが血のブランド化と強化だ」

 

 さて、とハッターは声出す。

 

「これがまあ、肝だ……うっわ、いざ真面目に説明するとなるとすっげぇ恥ずかしいなこれ」

 

 ハッターは天井を見上げてから良し、と呟く。何時の間にかトッドは俺の横に座り込んでいて、百面相を浮かべるハッターを見て楽しんでいた。

 

「いいか―――男と女の体は違う」

 

「兄貴兄貴、それ基本情報ですぜ」

 

「うるせぇ馬鹿」

 

 首を傾げる。いや、まあ、男と女で体の違いがあるのは知っているけど、人って基本的にそう言うもんでしょ? と思っていると、ハッターが両手で顔を覆った。

 

「よーし、お兄さんネタを捨てて真面目にやるかあー」

 

 はあ、と溜息を吐いて顔を上げたハッターの表情は今度こそ真面目で、男と女の体の違い、その役割、そしてどうやって子供が出来るのかという話に入る。何故男と女だけなのか、何故子供が出来るのか。具体的な行動―――つまりセックスに関する説明に入り、漸く自分が聖王教会から何を期待されていたのかというのを理解した。そして理解した瞬間顔が赤くなるのを自覚した。

 

「え、え、え、つまりオズってヤバイ痴女じゃん!!」

 

「そうだぞ」

 

「お気づきになりましたか」

 

 流石に丁寧に説明されたら解る。これ、滅茶苦茶センシティブな事だ。人前でする様な内容じゃないし、想像してみると滅茶苦茶恥ずかしい奴だ。今まで何を期待されていたのか、何をさせようとされていたのかを自覚して、両手で顔を覆って横に転がる。無理だ、一度考えだしてみたら意識しないとか無理でしょこれ。

 

「も、もうまともに女の子の事を直視できない……」

 

「聞きましたかこの言動。あまりにも可愛くないかこいつ? ピュアにもほどがあるだろ……」

 

「そんだけ温室育ちだったって話だよ。いやー、良い事をしたわ」

 

「うぴゃあ……ぁぁ……」

 

 げらげらと笑っている男共の声、遠くからセックスと叫んでいる痴女の声が聞こえる。今更ながらオズが何を叫んでいたりするのか理解したのであの女相当頭おかしいな? と言うのが気づけてしまった。正気度がガリっと削れてしまう。

 

「お、オズってそんなに子供好きだったの……?」

 

「いや、単純にセックスが気持ちいいから好きなんだろ。避妊って言って子供を作らずに楽しむ事も出来るからな……つーかこっちが基本よ」

 

「へ、変態じゃないかそれって……?」

 

「いやあ、割と皆好きだぞ。大人であれば大体誰でも経験してる。というか俺達が生まれて来たって事はそういう事なんで」

 

 顔を両手で覆って再び横になって倒れる。なんかもう、自分の中にある世界を見る目が変わってしまった感じがある。えぇ、でも子供を残す為には必要で……? 皆普通にしててそういう目で女の人を見てた……? 駄目だ、常識が崩壊して行く感じがする。

 

「じゃあ兄弟……改めて性癖の話をしようぜ……で、リッドとイリス、どっちがタイプなんだ? んン? ちょっと俺にゲロって見なよ……」

 

 目の前にスライドしてきたトッドがゲス顔を浮かべながら目線を合わせて囁いてくる。ヴィルフリッドとイリス、どっちがタイプなのか。そう言われてしまうとどうしても2人の事を意識してしまう。だって裸であーだこーだするなんて全く考えた事なかったんだぞ!? いきなりそんな事を言われても困る。

 

 なのに思い出すのはイリスに抱きしめられた時の感触とか、ヴィルフリッドと川に水浴びに行った時の事だ。

 

 思い出した瞬間顔が真っ赤になる。

 

「あー! あー! 最高だ! その顔が見たかった! その顔が見たかったんだよ兄弟……!」

 

「これは永久保存ものだぜ!! フゥー!」

 

「あー! あ゛ー!」

 

 今までの自分の行動がどれだけ無計画で無神経で無頓着だったのかを気づかされる。だって俺、普通に一緒に水浴びとかしてたしイリスも誘ってたんだぞ? そりゃあイリスも必死に拒否してくるわけに決まってるじゃん。昔からヴィヴィオやハイディと一緒に風呂を使ってたから何も疑問を覚えなかったけど、明らかにやってはいけない事じゃんこれ。

 

 だけど好きな人と最終的にゴールインするって事は、そういうアレコレとかする訳なんでしょ?

 

 俺が……ヴィヴィと、そういう関係に……?

 

 駄目だ、まるで想像も付かない。考えれば考える程頭がパンクしそうな感じがしてきた。目の前がぐるぐるしてなんか考えられなくなってきて―――。

 

 

 

 

「あ、落ちた」

 

「衝撃的すぎたかー」

 

「まあ、初めての性教育を詰め込めばこんなもんか……」

 

 とはいえ、性教育というのは特に特権階級や貴族階級には重要なものだとハッターは理解している。特にシドに至っては遅すぎるぐらいだろう。彼がキャラバンにやって来た時期を見るにまあ、相応の知識量だったのは仕方がないが。このままこの環境に置いておくと本人に対する悪影響も出かねないのでとりあえずという形でハッターは済ませておいた。これでしばらくは女性陣を変に意識してしまう所があるだろうが、食われてしまうよりはマシだろう。

 

 寧ろこれまでの警戒心のなさの方が問題だったのだが、性教育が施されていなかったのであれば当然かと納得があった。

 

「しっかし兄貴……実際の所、兄弟の先の事はどうなんだ?」

 

「んー? まあ、どうだろうなあ……割と悩ましい所はある。リッドもいるしな……」

 

 ハッターは頭を悩ませる。性経験の有無というのは割と傭兵業をしていて重要な事だったりする。ハニートラップを受ける事のある立場の人間の警護や暗殺、自分からハニートラップする事もある。ハッターに至っては高級娼婦から情報を聞き出す為に性技を身に着けている部分もある。情報担当からすればそれなりに経験豊富で技術があるのは大事であるのが理解できている。

 

 何よりも人間はストレスを受ける生き物だ。戦闘行為というのはどうしようもなくストレスと生存本能を刺激されるものだ。どれだけ戦闘に慣れていても死を通じたストレスというのは軽減できないものであり、人がそれを緩和する為に一番良く利用しているのがセックスと酒だ。つまり息抜きとして最高の娯楽になるのだ、セックスは。

 

 そういう意味ではシドもそこら辺の技術を学ぶ必要がある。実際、マリーアに既にハッターは16歳になったころ、それとなく娼館へと連れてって性経験を積ませてやって欲しいと頼まれていた。16歳はベルカにおける成人の年齢もである。マリーアの都合ではそこからシドを仕事に関わらせて殺しなどをさせる予定である為、同時期に女性経験を積ませてやりたいという気持ちがあった。

 

 無論、ハッターもそれを了承していた。若手たちをそれとなく連れ出すのは口が回り、顔が通じるハッターの仕事だった。だからシドもトッドも、16になったら娼館に連れてって高級娼婦を相手に技術を身に着けさせる予定だった。

 

 ただここまで性知識の欠落があったとは思いもしなかった。それも今とりあえずの速さで詰め込んだが、改めて丁寧に説明して重要性等をネタ抜きで説く必要があると感じていた。

 

 その上で問題はヴィルフリッドとイリスの存在だろうな、と思っていた。

 

 ヴィルフリッドは相当シドを気に入っている。ハッターはそれを本能的な部分で血がシドとの相性の良さを認めて、求めているのだと判断していた。実際、エレミアにはそういう部分がある。そしてマリーアの技術を継承できる子が一族の人間と結ばれて子供を作れるのはこれ以上ない幸運な事だ。マリーアが一族に貢献出来ないという事実がシドのおかげで覆せるのだから。

 

 だがイリスもアレは口と表情にはなるべく出そうとしないが、シドにどことなく惹かれている部分があるだろうとハッターは感じていた。否定はあるだろう、だがイリスの行動は根本的にシドを中心としたものであり、本人もそれを認めていた。それが明確な恋慕になるには後数年あれば十分だろう。その頃になればもう確固たるものだ。

 

「うーん、ルートヴィッヒになんて言うかなあ……」

 

 トッドに聞こえないようにハッターが呟く。

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトとシド・カルマギアの関係は、ルートヴィッヒ本人とソロモンから聞き出していた。故にシドの心の向きも解っていた。ヴィルフリッドもイリスの事も決して嫌いじゃないだろうが、根本の部分でこの少年はオリヴィエに惹かれているのだ。一番になるのはまず間違いなく彼女だろう。

 

 だけどそうだからと言ってヴィルフリッドが諦める訳がないだろう。となるとシド本人に女性のあしらい方などを教える必要がある。

 

「め、めんどくせえ……!」

 

 身内の事だから良かったけど、他人の事だったら絶対にやりたくないな……そう思いながらハッターはこれから先の少年に降りかかる女難を考え、

 

 静かに黙祷した。




 色んな意味で成長したシド君でしたとさ。
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