Disruptor   作:てんぞー

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幕間 - 1

 世界0

 

 一番最初にそれを思いついたのは何時だろうか? もはや思い出せはしない。だが復讐を終え、全てを殺し、勝利し、運命から解放されて立ち止まり、考えたのだ。愛してくれる人がいて、子供がいて、そして帰るべき場所もある。全てを忘れて平穏な日々に染まるのも決して悪くはないのだろう……だが忘れている者がないか、と。本当は助けられたんじゃないか? 今の力があれば可能なのではないか?

 

 そんな事を考えてしまった。だがそれは現在の否定だ。今と言う結末をなかった事にして全てをリセットする事でもある。ここで得た愛、友情、悲しみ、その全てが消え去って残されるのは俺1人だけになる。その孤独に打ち勝てるか? その絶望感に抗えるか? 全てを捨ててまで俺は理想を追いかける事が出来るのだろうか?

 

「リセット」

 

 

世界1

 

 失敗した。

 

 何を失敗したのかを理解している。1周目では最後の最後でアルハザードのカス共に邪魔を入られた。あの瞬間を変えれば良いだろうと判断して、誰も来ないのを確認して勝利を確信していた。だがその後でオリヴィエはアルハザードのカス共に攫われ、ゆりかごのコアとして接続されてしまった。それによって死亡してしまい、規定通りのルートに進んでしまった。

 

 アレは俺が完全に悪い。最後の最後で油断してしまった。もはや運命の加護がないという事は何もかも予想外があり得るという事だ。つまり相手の行動も変わってくる可能性があるという事だろう。それを頭に入れてなかったからオリヴィエ・ゼーゲブレヒトは死亡してしまった。これは俺の完全なるミスで、そして選択肢を間違えたという事だ。それを忘れないように頭に叩き込みつつ、時間を斬り捨てた。

 

「リセットだ」

 

 

世界13

 

 失敗した。

 

 今度のアプローチは悪くないと思った。オリヴィエの死は彼女を止めるべき人物がその場にいないのが原因だったと思った。主な原因がヴィルフリッド・エレミアが現場にいない事だろう。だから彼女をこっそりと解放し、オリヴィエの所まで誘導した……というのに、あの女はオリヴィエの味方をした! 信じられない! ヴィルフリッドなら確実に止めてくれると思った……が、オリヴィエに彼の事を頼まれてしまえば、仕方がないという話だろう。試行した時全てで同じ結果が出た。このルートは捨てだ。発想を変える必要がある。

 

「リセットだ」

 

 

世界57

 

 失敗した。

 

 彼が負けた。先に禁忌兵器を極力排除するのがダメだったらしい。アレはアレで成長点として貢献していた……という事なのだろう。まさか素直に負けるルートがあるとは思いもしなかった。だがこれで禁忌兵器は経験値として必要な事が理解出来た。これはこれで一つの収穫だろう。問題はどの禁忌兵器を食わせるか、という事だろう。なるべく対人経験を増やさせてやりたいが、彼には明確な覚醒トリガーがある。どれか相性の良い禁忌兵器にぶつける事で覚醒段階を進め、覚える技をコントロールできる。或いはぶつける相手を選定して誘導すれば狙った方向に誘導できるかもしれない。これは試せるな。

 

「リセットだ」

 

 

世界150

 

 失敗した。力加減を間違えた。

 

世界297

 

 失敗した。俺が手を出すとろくな事にならない。

 

世界869

 

 失敗した。

 

 今回は惜しい所まで行った。アルハザードの亡霊どもを皆殺しにしてから禁忌兵器でギリギリ勝てるものを選定、それを彼にぶつけて成長を促す。その裏で彼の味方になりそうな人間を会えるように調整し……最後はクラウスと一緒にオリヴィエと相対するように仕向ける。これで最後は彼が勝利し、ゆりかごの稼働を阻止できた。これによってハッピーエンディングを漸く迎える事が出来ると思った。

 

 翌日にベルカが滅びるまでは。結局ゆりかごの稼働は必要不可欠なのだ。禁忌兵器の討伐にも限度がある。成層圏を超えて浮かぶ砲台や、宇宙戦艦の類は流石に俺でも対処は不可能だ。それを聖王が理解しているからこそのゆりかご稼働なのだろうが……苦渋の決断だというのは解るが、それでもオリヴィエを救いたいのだ。どうにかして救う手立てはないのだろうか?

 

 

世界1、296

 

 失敗した。何かがおかしい。

 

世界1、811

 

 失敗した。原因が解った。俺の対抗戦力が増えている。

 

世界3、699

 

 失敗した。糞が。アルハザードの残党共が増えてやがる。連中の数が増えてやがる。どうしてだ? 何が原因だ? 原因は更に過去にあるのか? だがアルハザードの時代までの遡行は危険だ。次元の海を更に超えた先、時の川は深淵と呼べる領域にあるものだ。過去から未来へと常に流れ続けるもの……それは人が決して触れて良いものではない。”時の廃棄所”を経由する事で過去へと向かう事は可能だが、アルハザード程の運命が固定化された時空への遡行は難しい。というより積み重なった歴史の重みに物理的に殺される。となると連中を捕まえて吐かせる必要があるか。面倒だがこれが一番安定するかもしれない。

 

 

世界8、591

 

 因果だ。因果が積層している。そうだ、()()()()()。俺と言う存在が時間軸に穴をあけている影響で、時の反動が発生しているんだ。その影響で対抗手段として連中の生存率が上がっている。つまり俺がリセットを重ねれば重ねる程連中が強くなるというシステムだ。これは余りにもクソでは? オリヴィエ1人生かすのに用意する様な試練じゃないだろう。逆に考えるとオリヴィエの死は何故頑なに変えられないものなのだ? 一体何が原因でオリヴィエの死の運命は変わらないのだ? 繰り返しても繰り返しても答えは出て来ない。ただ解る事はどんな手段を講じてもオリヴィエを俺の手で救う事は出来ないという事実だ。

 

 

世界12、467

 

 ははーん、解ったぞ? 俺じゃダメなんだな? 恐らくシドという存在が救う行動そのものがアウト判定なのかもしれない。運命というものを破壊しておきながら目に見えぬ何かに縛られている。だがその法則も大体解き明かせてきた。だが同時に自分の限界というものも感じる。剣を振るう事で理に至った。剣を振るう修羅に至った。地と天に到達して、己の能力が使える限界の範囲まで鍛え上げた。だが人類には上限がある。アニメや漫画の様に超越して無限に強くなる事なんてのはまずありえない。俺の強さと言うのはどうやらここで頭打ちの様らしい。

 

 だがここまでくると自分の可能性の模索という意味では非常に有意義だった。だがお蔭で解った、この力と才能ではここが限界だ。そもそもの方向性が間違っている。この身と才能と、そして無印、まっさらな状態の俺をどこまでも利用して可能性を全て追求してきた。だが結論は同じだ、変わりはしない。全く変わる事無く死んでいる。ならもっと広い範囲で可能性を模索する必要が出て来た。

 

 たとえば―――才能そのものを変えるとか。後はそう、もっと多くのイベントの発生が必要だ。可能性は既に収束されきっている。このタイムラインでは起こりうる可能性に上限がある。つまりその上限を外してもっとたくさんの出来事を発生出来るようにしなくてはならない。まず最初にやるべき事は可能性の拡大だ。その為にはこの時間の川を遡り、分岐する川の流れを一つにまとめ上げて行けば良いだろう……。複数に分岐する筈だった世界の物語を一つにまとめ上げる。そうすれば異なる可能性を全て一つに圧縮できる筈だ……。

 

 

世界16、320

 

 俺の血筋にメスを入れる。完全に未知の領域だ。誰と誰をかけ合わせればどういう俺が生まれてくるのか、それを検証しながら無限に繰り返す。それで俺とは異なる俺を生み出す……俺にはない可能性、俺にはない才能を持つ俺を生み出す必要がある。もはや狂気だけで動いている事に自覚はある。

 

 だが既に、個人の幸福は捨て去った後なのだ。恋人も、家族も、友人も、未来も。その全てを捨て去ってこの試行錯誤を繰り返したのだ。もはや止まれない。捨て去った全ての為にももはや止まれはしない……。

 

 

世界24、878

 

 ―――勝手に俺の記憶を覗いたな?

 

 代償は支払って貰おうか。

 

 

 

 

「俺を食おうとしたのが運の尽きだな寄生虫」

 

 目を開く。

 

 手の中には剣が握られている。何時抜き、何時振るったかは記憶にない。だが鍛え上げられた経験と技術は、悪夢の世界にとらわれた状態であっても体に反射的な反応を叩き込んでくれた。刃へと視線を向ければ悪夢の残滓が今もまだこびり付いている。それを一回振るう事で完全に両断し、完全に禁忌兵器の抹殺を完了させる。面倒な相手だったが俺との相性は最悪だ。単純に俺を巻き込んでしまった事実に不幸を嘆くしかないだろう。

 

 視線を周りへと向ければ酒場内の全ての人間がテーブルか床に突っ伏している。誰もが数瞬前までは悪夢に囚われていたが、元凶が即死した事によって解放され、今では穏やかな眠りへと戻っている。それを確認して剣を鞘の中へと戻した。ふぅ、と息を吐き、肺の中の空気を入れ替えた。

 

 目標となる禁忌兵器の殺害に成功した。

 

 その性質は悪夢、そして心を喰らう事。故に寄生虫と呼んでいる。人の恐怖、苦痛、憎悪と言う感情を好む趣味の悪い奴だ。

 

 こいつはそういう夢と心に巣食って感染、寄生する悍ましい禁忌兵器だ。この寄生虫は人の夢を通して精神に侵入し、街単位で人間の心を飲み込んで悪夢を見せ、弱って行く精神を削り取って喰らって行く事で力を蓄え、更に広い範囲を飲み込んで行く。その上で現実における実体を保有しないので概念的な干渉手段を保有しないタイプでは対処する方法がないと言うのが最も厄介な所だ。

 

 物理的に殺す事が出来ないから究極的に面倒だし、数あるエレミア連中の全滅パターンの一つだ。連中は物理的に殺す事が出来る相手には滅法強いが、こういう超特殊タイプにはあまり対処できない。寧ろそっちは呪術や魔術方面が専門だろう。いや、今周のパターンだとそこらへんを補強する人員もいたか? なら対処は可能だったかもしれない。周回によってあの野良英雄の集まりは数や人が変わるから全く読めないのが辛い所だ。

 

「ま、ランダムエンカで良い乱数引けたのは良かったな」

 

 背中を伸ばしながら両足をテーブルの上に乗せる。これで面倒な禁忌兵器をまた落とす事が出来た。面倒な禁忌兵器で確実に落としておきたいのは”吸血鬼”、”墓場”と”演奏家”か? 全滅フラグだけはこっちで処理しておかないと超めんどくさい運ゲーが開催される。それだけはなるべく回避したい。安定したチャートを構築しておかないとどこでガバって崩壊するか解ったもんじゃない……。

 

 横のテーブルから高そうなワインボトルを取って自分のグラスに注ぐ。

 

「今回は結構良い乱数引けてるから流石にリセットは控えたいしな……」

 

 カルマギアの成長は予想よりも遥かに良い感じになっている。特別な才能は事前に全部切り捨てておいた。お蔭で変に無茶は出来ない体になっている。だがそれで良い……無理無茶を通すとそれだけオリヴィエから離れる事になる。アイツにはなるべくオリヴィエの傍にいてもらうようにならなければならない。

 

 そうだ、全ては一人の少女を救う為に。

 

 ―――本当か?

 

 本当にそれだけか?

 

 本当にその為に何もかも引き起こしているのか?

 

 彼女を免罪符に使うな。

 

 罪悪感など遥かな過去に捨てた。自分の幸福を捨て去って選んだ道だ、今更後戻りをするつもりがある筈もない。あるのはひたすら義務的に繰り返すこの無限のループだけだ。果たして俺を殺すものが生まれてくるのかが先か、それともオリヴィエの死の運命が覆されるのが先か、そのどちらかというのは見えてこない。

 

 だがいずれ、終わりは来るだろう。

 

 時が始まり、終わりへと向かって無限に流れゆく様に。

 

 俺もまたその流れの一つでしかないのだから。

 

「戯言か……」

 

 今更悩む事でもないし、今更考える事でもない。結局のところ自分がやるべき事をやるだけと言う事だ。目下の悩みは行動パターンが固定されないランダムエンカウント勢をどうやって見つけ出すか、という事だが。フィルの量産型イリスで人海戦術を駆使すれば比較的に見つけやすくなるが、その場合端末が野良英雄連中とエンカウントしてしまう場合がある。

 

 アイツら、1%でも勝率あれば全滅してでも勝利するからほんと嫌い。

 

「ん……あー、久しぶりに嫌な夢を見たけど成程、これは”寄生虫”かぁ」

 

「中々面白い経験だったね。まさか延々と悪夢を見せ続けられるとは」

 

「その割には堪えていない様に見えるが?」

 

 目を覚ましたフィルとジェイルはその言葉に笑った。

 

「おいおい、私達が悪夢を見せられて嫌がると思うかい?」

 

「寧ろ新鮮な気分だよ。夢の中で延々と悪意を持って責め続けられるなんて中々ない経験だ。成程、罪悪感を覚える人間というのはああいう夢を見るもんなんだね? 良いサンプルになったよ」

 

「良い根性してるぜお前ら」

 

 げらげら笑いながら2人のワイングラスにワインを注いだ。

 

 アルハザード側がセットしている禁忌兵器でも最も面倒な奴はなるべく排除している。お蔭で開戦までは後6,7年の猶予はあるだろう。それだけの時間があれば彼と彼女も仲を深めるだけの時間を得られるだろうし、時間稼ぎとしては上々だろう。

 

 問題があるとすれば”歴史家”がまだ動いてない事か。”追跡者”が動き出すとこっちはそっちの対処で手一杯になるからなるべく所在や行動を把握しておきたいのだが、奴に関しては他の雑魚とは比べ物にならない別格だ。このベルカ崩壊シナリオにおける真のラスボスでもある。

 

 排除が不可能である以上、あっちの手を潰す事を考えなくてはならない。

 

 とはいえ、もう数えるのが面倒になる程繰り返して来た事でもある。

 

 手段は腐る程ある。

 

 お互いに、良く知る相手だ。

 

 今周もまた、延々と無意味で無価値な争いを続けるとしよう。

 

 お互いの、時の終わりまで。




 全ての元凶にして諸悪の根源、オールド。

 たった一つ、彼女の生存を諦められないという理由から全てが始まった。
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