Disruptor   作:てんぞー

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Age 16
Future - 1


「成人・お誕生日、おめでとう―――!」

 

「いえ―――!!」

 

 ぱぁん、と銃声とクラッカーの音が響く。クラッカーがないからと勝手に銃を撃つのは正直どうかと思うが、店1つを貸し切りにして成人と誕生日を同時に祝ってくれるのは正直嬉しかったので、何も言えなかった。貸し切られた酒場は広く、そしてスタッフたちはこの大きなキャラバン全員の食事と酒を賄う為に必死に働いていた。そんな事を一切気にする必要もないくらいに金を出した大人たちは、酒や料理を片手に今日という日を祝っていた。

 

 師匠であるマリーアも嬉しそうに横に座っては、にへら、と笑みを零しながら酒を片手にすり寄ってくる。

 

「いやあ、本当にめでたいわね。我が子が育つところを見る……というのはまさしくこんな気分なのかしら。まさかこうやってシドとちゃんと飲める歳を迎えられるなんて少し前までは考えてもいなかったわ……あ、ほら。お酒飲むのは初めてでしょ? 私が美味しいお酒の飲み方を教えてあげるわ」

 

 そう言って師匠が片手に持っているのはワインボトルだ。ラベルを見る限り中々高そうなものだが、それをワイングラスに注ごうとするとおおっと、とハッターが正面、テーブルの反対側から割り込んできた。

 

「ちょーっと待ったー! そう、確かにワインは上品で飲みやすくて初心者向けでもある。だけどなあ、ワインってのは酔いが回りやすいから長く飲むには適さないんだよ。やっぱココは男らしくガンガン冷やしたエールを一気に飲むのが王道って奴だよ! さあシド、俺のお勧めのエールを―――」

 

「あ、思ってたよりも飲みやすい」

 

「でしょでしょ? 高いお酒ってやっぱり飲みやすいのよ。その代わり飲みやすいからってガンガン飲んじゃうと直ぐに潰れちゃうから気を付けた方が良いわよー。そうそう、一口飲んだらそれを下において、直ぐに飲まずに他の物を楽しむのよ。ほら、ここにピザとかあるし食べてみるのもいいんじゃないかしら? チーズとかワインと相性良いのよねー」

 

「クッソー、ずるいぞマリー! 俺が酒を教えたかったのにー!!」

 

「馬鹿ねえ……ここは師匠としての私の特権よ! ここは絶対に譲らないわ!」

 

 わはー、と腕を首に回して笑う師匠はもう既に結構酒が入っている様子だった。だけど本当に幸せそうで、嬉しそうな姿を見ていると俺も微笑んでしまう。この古代ベルカへとやって来たから既に6年が経過している……してしまった。10歳の誕生日にこの古代ベルカへとやって来た事を考えると、既に現代で過ごした半分以上の時間を此方でも過ごしている事になる。もしこのまま俺が現代へと戻る事がなければ、そのまま過ごした時間もこっちの時代でのほうが多くなるだろう。

 

 そうすればきっと、こっちの時代の方が俺のホームとなるのだろう。実際、既にここの人たちとは家族とも呼べるような関係になっている……お互いに、遠慮する事も何もない。

 

「よう、シド成人おめでとう」

 

「おめでとうシド、最初は小さかったお前も随分と大きくなったなぁ」

 

「ははは……俺もここで過ごす毎日が楽しくて何時の間にか大きくなってきちゃったよ」

 

 頭を撫でながら祝われる。背はすっかり高くなってきた170半ばが見えて来たころなのに、それでも俺よりも背の高い人が多く、何時も頭を撫でられている気がする。彼らからすると俺は何時までも子供の様に見えるのかもしれない……だけどその普通の子供の様に扱われる場所が、心地よかった。

 

「全く……少し前までは未熟な小僧だったのに何時の間にか半人前の所まで来たか」

 

 ジャバウォックがエールを片手にちびちびと飲みながら此方を見ていた。その姿に頭を下げよとうとして、止められる。

 

「あー、止めろ止めろ。別に責めてる訳じゃねぇんだし今日はお前の祝いの席だしな。辛気臭い事は言うんじゃねぇぞ? 俺も単純に祝っているだけだからな。良くもマリーの相手をして今日まで生きて来れたな、ってな」

 

「なによー。私はうちの子には凄く優しいわよ。ほら、ぎゅーって」

 

 横から抱き着いてくる師匠が中々に暑苦しい。ただ感じる感触にちょっとコメントを零せず、成すがままに師匠に抱き着かれている。それを見たジャバウォックが笑う。

 

「ま、まだ半人前だ。だが一人前になるだけの道筋はもう見ているだろう? お前が自分の目的を、夢をかなえようとするならしっかりと前を見据えて道を間違えるんじゃねぇぞ……それだけだ。そんじゃ今日は好きなだけ食って遊びな」

 

「うっす! ごちになりまーす!!」

 

 ジャバウォックに手を振って感謝を伝えてると、後ろからどん、という衝撃と共に新しく柔らかい感触を感じられた。手元のワイングラスから液体が零れないように気を使っていると、左肩の上にヴィルフリッドの頭が乗せられた。

 

「いえーい、シド飲んでるー? 僕はねー! 3本目―――!」

 

「嘘だろお前」

 

「んー、嘘じゃないよー。おめでとうおめでとう」

 

 そのまま頬擦りするヴィルフリッドから視線を外して助けを求めるが、トッドは視線だけ送ると軽く笑って逃げたし、イリスは溜息を吐いて無視した。ユーリに至ってはサムズアップで仲良いですね! とか言ってるから一番頭の中お花畑説がある。もしかしてユーリの精神年齢ってあの姿のまま成長してないのでは?

 

 ここで、親指でファックサインを出しているオズの事は無視するとする。あいつは本当に駄目だ。そして頬擦りしてくるヴィルフリッドを相手に、師匠はほほう、と声を出して一歩身を引いた。

 

「成程……解ったわリッド、シドがそんなに好きなのね……」

 

「うん!! 好き!!」

 

 唐突に始まる師匠とヴィルフリッドの寸劇。それを遠巻きに眺めている連中が後方保護者面で腕を組みながら聞いている。

 

「アイツ大丈夫か? 今酔った勢いで致命傷負ってるぞ」

 

「そもそも最初から致命傷だろ」

 

「それもそうだな……」

 

 最初から最後までやけど負ってるならもう何も怖くない理論、あると思う。それはそれとして師匠が真顔で何やら恐ろしい事を言いだす。

 

「そう……なら母親代わりとしてリッド、私があなたを審査するわ!」

 

「む! むむ!」

 

「マリーも欲望を隠さなくなったなあ……」

 

「可愛い唯一の弟子だろうしなぁ」

 

 ヴィルフリッドもばばば、っと離れると神妙な表情で師匠を見て頷き始めたので、逃げるチャンスだと思ってワインボトルとグラスだけを拝借し、抜け出した。師匠とヴィルフリッドが異次元な会話を始めるのを横目に、もうちょっと静かなコーナーを求めて彷徨い、”仕立屋”のお婆ちゃんが座っているテーブルを見つける。

 

「おやおや、シドちゃん。あっちに行かなくて良いのかな」

 

「騒がしいのはちょっと離れた場所から眺めてる方が好きなので……おばあちゃんも体、大丈夫ですか?」

 

「今夜は調子良いからねぇ。皆にも良くして貰っているし。とはいえ、私も歳かねえ。最近手元が見づらくなってきたもので中々仕事が辛いものだ」

 

「それは……」

 

 おばあちゃんが苦笑する。

 

「ま、長く生きていれば当然老いるのよ。なるべく可愛く、綺麗に老いたいものだと思って生きて来たけど、振り返ってみてどうなんでしょうねえ……ってあらやだ、こういう日にする話でもないわねえ」

 

「いえ……おばあちゃんには何時も服を仕立てて貰っていたり、世話になってますし話したい事があるのなら」

 

「ふふふ、気を使わなくても良いのよ。老人の言葉なんて退屈でしょ?」

 

 上品に口元を隠すように”仕立屋”は笑った。

 

「嫌ね、歳をとると何時も悪い事ばかりを考えてしまうわ。だけど同じぐらい昔の楽しかった事も思い出すの。シドちゃんはまだこれからの人生よ? これから更にながーいながーい時間を生きて行くの。今多少悪い事があったとしてもきっとこの先、素敵な事でいっぱい溢れているわ。だから決して悪い事ばかり思い出しちゃ駄目よ?」

 

「はい、肝に命じます」

 

「もう、そんな堅苦しくなくて良いのに」

 

 苦笑してくるおばあちゃんに頭を下げて笑いを零し、ちょっとだけ時間を一緒に過ごしたらまた酒場内をうろつく。

 

 普段からお祭り騒ぎが好きな人たちなのだ。だからこういうイベントがあれば絶対に乗っかってくる。だからベルカ貴族における成人の年齢で、こういう形でパーティーを開く事になった。とはいえ、実際は皆が騒いで飲みたいという気持ちが強いのだろうが。だからこそ、この場にいる人たちは皆、笑顔になって楽しんでいた。この先、同じ日常が来るかどうか解らない職業をしているのに。いや、だからこそ今と言う時間を大事にしているのだろう。俺も、ここと同じ日常を非常に大事にしたい……そう思ている。

 

 だからこそ後悔が思い浮かぶ。そしてそれを頭にした時、少しだけ、喧騒から離れたい気持ちになった。

 

 ワインボトルとグラスを置いたら静かに、誰かの邪魔にならないように酒場の外へと出た。空を見上げれば午後から降り出した雪は今も音もなく降り続けている。この様子だと明日の朝まで降り続けるだろうし、かなり深く積もるだろう。馬車旅をしている訳で、雪が深く積もると移動が困難になるのが非常に困りどころだ。

 

 とはいえ、魔法を使ってしまえばそこら辺の問題は解決出来てしまう。

 

「ふぅー……慣れたし馴染んだな」

 

 この世界に、そして旅に、自分の弱さに、立場に。

 

 酒場を出た所で扉の横へ、酒場の前に置いてあるベンチまで移動するとそこに座り込んだ。ふぅー、と白い息を吐き出しながら延々と世界を白く染め上げる雪を意味もなく眺め続ける。そしてそれを見て、俯いた。

 

「ヴィクター、ジーク、クラウス、ヴィヴィオ……父さん、母さん……俺、ついに成人したよ。16歳になったんだ」

 

 白い息が口から漏れる。懺悔の様な言葉が口から一緒に零れた。もう、誰にも会えない。ここにいるという事はそうだ。俺はあの時代から消え去って、この時代の人間として頑張っているのだから当然だ。たった6年、されど6年だ。現代ベルカで過ごした10年間はもう、超えられる時が見えてきているのだから。きっとこのままここで生きていると、彼らの事を忘れてしまうのだろうと思う。

 

 今はまだ声も顔も思い出せる。

 

 だけど段々と、一緒に何をしていたのか、何をやっていたのか。そういう記憶が毎日の忙しさの中で消えて行く……これがきっと、過去にする、という事なのだろう。そこにどうしようもない焦燥感と、悲しさと、そして申し訳なさを感じていた。あの時代にいる友人、家族の全てを裏切った果てに俺はここまでやって来た。そして新しいスタートを謝る事もなく始めた。そして勝手に立ち直りつつある。

 

 ……その事に対して、もう謝る事さえも出来ないのだ。

 

 それが寂しかった。

 

「だけどきっと、それが大人になっていくって事なんだろうなあ」

 

 忘れて、増えて、重くなって、それでも進んで行く。それが大人になるという事なのだろうか? 今は半人前でも、師匠は16になったから仕事をさせると言っていた。だから近いうちに俺も、ヴィルフリッドやトッドたちと一緒に誰かを殺す様な戦いをするようになるのだろう。

 

 6年前に大量の学生を殺して以来、一度も人を殺していない。果たして俺は当然のように人を殺せるのだろうか? 今度こそ罪悪感は湧くのだろうか? 今も申し訳なさは感じていても、一切痛みを感じないこの心に。

 

「……ああ、折角の誕生日だってのに辛気臭い事ばかり考えている。飲みなおすか」

 

 ワイン、思ってたよりも……苦い? と言うのだろうか? でもどことないフルーティーさを感じて美味しいのだあれ。割と嫌いじゃない感じがする。それにこの後、ハッターがこっそりと俺とトッドを娼館へと連れてってくれるって約束してくれているので恐怖半分、興味半分の気持ちがちょっと渦巻いている。

 

 ヴィルフリッドの抱き着いてきた後での事だからなあ、心がちょっとドギマギする。

 

「……いかんいかん、何を考えているんだ俺は」

 

 頭を振って思い浮かんできた景色を直ぐに振り払い、

 

「なんだ、普通のガキらしくなってきたじゃねぇか」

 

 正面の声に、視線を上げた。

 

 先ほどまで降り注いでいた雪は中空で動きを停止させ、

 

 音は永劫届く事無く、

 

 川は流れず、無限へと向かわず、

 

 時は堰き止められる。

 

 端的に言えば―――時が停止していた。それを成した男、剣の鬼。怪物的な老君。悪意の元凶。今でも絶対に勝てないと解る老人が、赤い帽子に白い付け髭を装着して現れていた。

 

「ホウホウホウ、ハッピークリスマスじゃぞ。お前に素敵なプレゼントを届けに来た」

 

「……」

 

 なんとか言葉を口にしようとした。だがひきつる表情はその意思を裏切り、何も言葉を出せずにいた。

 

 間違いなく、ロクな事にならない事を確信した。




 サンタオールド。アロハがコスプレするからオールドがコスプレするのも当然だよなあ?

 アロハは冬もアロハです。
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