Disruptor   作:てんぞー

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Future - 4

 意外とファッショングラスも悪くないかも?

 

 そんな事を考えながらダールグリュン邸を出た。お供にはヴィクターとジークと両手に花の状態……というのは同世代ではなくても他の男子から嫉妬を貰いそうなシチュエーションだ。今更だがジークもヴィクターも女子としてはかなり性格も見た目も良い事を自覚している為、俺もそれとなく気分が良い事実は認める。俺もなるべく恰好を良くする為にダールグリュンから服を借りたし、それとなく釣り合った姿をしていると良いなあ……とは思う。まあ、キャラバンの皆から言わせれば間違いなく聖王ルートヴィッヒ系の血が流れているからイケメンタイプだとは言われている。自分の周りにいる連中も顔が良いからどの程度自分の顔が良いのか、と言うのはあまり良く解らないのが問題なのだが。

 

 それはそれとして、現代ベルカの街並みを歩く。

 

 コンバットブーツではなくスニーカーで、武器の持ち歩きはライセンス持ち以外は禁止なので指弾で使える硬貨を少々、軽く顔の印象を変える為にファッショングラス。古代ベルカでは信じられないような格好と軽装だ。師匠に見られたらなんと言われるのかちょっと気になる姿をしている。その中でダールグリュン邸があった住宅街から、現代ベルカ自治区、その中心街へと向けて歩き始めた。

 

 まず最初に向かう場所は駅だ。この時代ではモノレールを経由する事でミッドチルダという次元世界の大体どこへでも移動する事が可能だ。

 

「馬車で移動しなくて良いのは便利だなぁ」

 

「もう、何時の時代の話をしているんですか……と、そう言えばシドは話によると古代ベルカにいるんでしたっけ」

 

「あぁ……いや、証明できるって訳じゃないんだけどな? ただ俺からすればそうとしか言えなくてなあ」

 

「それは大丈夫です。ジークが貴方の現在を……いえ、正確には過去と言うべきなのでしょうが、それを証明してくださってますから。この状況自体が一種の異様で異常な状況ですから信じる事にしています」

 

「こんなことをすまし顔で言うてるけどな? 実の所事件直後は滅茶苦茶情緒不安定でなあ……」

 

「ジークっ!!」

 

 顔を赤くしながらヴィクターがジークの言動を遮る。だが悪びれる事もなくジークが話を続ける。

 

「いや、ほんと一時期は皆落ち込みようが酷かったんやで? うちはそこらへん昔の出来事覚えてるからええけど……他の皆はそうじゃないしなぁ。だから皆を落ち着かせたり説得するのに結構時間必要やったんやで。特にヴィクターとハルにゃんの焦りようは酷かったんよ」

 

 溜息を吐きつつ苦笑するジーク。

 

「昨日までは確かにそこにいたのに……起きた筈のものが全部丸ごと消えてるんや。そりゃあ焦るし怖いし、何を言っても錯乱したのかって思われる。問題は何も起こってない扱いになってるんから当然やろ? だけどウチたちだけは全部覚えてるんや」

 

「……ほんとごめん」

 

「良いですわ……別に。こうやってちゃんと戻ってきましたし」

 

 ヴィクターのその言動を直視出来なかった。俺はこの後古代へと帰る―――ちらっとジークへと視線を向ければサインを使ってフォローはする、と素早く此方へとアピールしてきていた。それを見て軽く頭の裏を掻き、迷惑をかけると改めて謝罪を心の中でした。少なくとも今すぐにこれを口に出す程無神経ではなかった。

 

 しかし、とヴィクターが声を出した。

 

「シドが此方に戻ってくるとなると住む場所に将来的に働く場所等にこまりますわね……。確認したところ出生届けそのものが存在してないので、存在しない人間となっていますわ。うちで囲うという方法もありますけど父や母になんて説明しましょうか……」

 

「いや、囲う事前提で話すのは止めない? 俺流石に働くからな? 別にそういう登録がなくても仕事なんて探そうと思えば腐る程あるだろう」

 

「そうそう、エレミアに来ればそれで万事解決やで」

 

 そういや今の時代でもこの人たち戦争と傭兵してるんだったな、と思い出す。古代ベルカでエレミアの傭兵業に対する解像度が上がった事が原因で今、エレミアの本隊が何をしているのかというのが良く解ってしまう。古代ベルカと比べると規模は大きく縮小してしまったらしい……というのも時空管理局が次元を超えた紛争や戦争を監視してるのが理由だ。昔と比べれば仕事が減ってんだろうなあ、とは思うがエレミアの人たちの事だし今も元気にヒャッハーしているに違いない。

 

「……」

 

 ここら辺は6年たっても変わらないなあ、と感想を口にせずに歩く。

 

 あぁ、いや、4年か。

 

 現代ベルカとはつまり自治区だ。次元世界ベルカそのものは過去の戦争によって滅んだ。その為、今ではベルカ自治区と呼ばれるベルカの領土を各次元世界に保有する程度の規模になってしまっている―――それでも聖王教会は次元世界に広がり、ベルカ自治区も複数存在する辺り、ベルカ人は民族として恐ろしく優秀だというのが解る。この自治区の高級住宅街は自治区の中でも古い血が良く集まっている。

 

 聖王教会の本拠はまた別の次元世界にあるが、ミッドチルダというのは次元世界における最も栄えている世界の一つだ。

 

 その為、自治区の規模もそれに合わせて大きく、人も多い。ここが経済や文化の中央でもある。

 

 そんな高級住宅街の様子に全く変化はない……俺が起こした変化はなかった事になっているから、平和な日常がただ続いているだけなのだろう。

 

 まあ、それが一番か。

 

 歩く人々は平和そうに毎日を過ごしている。時折通り過ぎる人たちはヴィクターへと向けて軽く手を振るか頭を下げる。ダールグリュンと言えばこのベルカ内でもかなり古い血であり、貴い血だ。今でも貴族主義が残されているベルカであれば当然尊ぶべき存在だろう。昔は鬱陶しくも感じたそれだが、半人前の大人となりつつある今では……社会というルールは、人を律する為にあるんだと解る。

 

 人は枠組みを与えられる中で漸く生きる事が出来るんだ。

 

「それでもやっぱり良くジークの話を信じられたな」

 

「信じられた、というよりは……信じたかったという方が正しかったでしょうか」

 

 私は、とヴィクターは拳を作った。

 

「貴方と過ごした日々が嘘だったなんて、そう思いたくなかったんです」

 

「……そっか」

 

 やっぱり俺には味方がいたし、もっと早く腹を割って話すべきだったと思う。

 

「そこはハッターに感謝やな」

 

「……だな」

 

 こっそりと横で囁いてくるジークの言葉を肯定した。

 

 14歳の頃から性教育とかを施してくれたハッターは、師匠では話しづらい内容とかの相談相手にトッド共々なってくれた。俺のメンタル面や倫理面、そして考え方の矯正やカウンセリングに関しては主にハッターの功績だ。女相手ではできない話とかを真正面から言葉巧みに引き出す会話の手腕は何時の間にか話したくはなかった内容を聞き出す程で、それでどんどん自分の胸の内にあるものをぶちまけさせられるものだった。

 

 まあ、そうやってハッターが話術や心理の教師役になって2年間だ。

 

 2年もあれば色々とぶちまけて考え方も変わってくる。

 

 俺もだいぶ、あのころと比べて胸の内が軽くなった気がする。

 

 それで、別に罪が消えたわけじゃないが。

 

 それでもちゃんとヴィクターとこうやって話せるのは間違いなくハッター兄貴の功績だった。ただやっぱ、頭の中のハッター兄貴とオズは黙っていて欲しい。偶に出てくる脳内の師匠はなぜかきゃーきゃー騒いでるだけ。あの人そういう所あるよな。

 

「っと、何時の間にか駅に到着しちゃったな……あー、切符必要だっけ」

 

「それぐらい私が出しますわ」

 

「悪いヴィクター。その代わりと言っちゃなんだがこれでも受け取ってくれ」

 

 古代ベルカで使っている硬貨を取り出し、ヴィクターの手の上に乗せる。それを受け取るヴィクターの頬がひきつっている。

 

「じゅ、純金……!」

 

 一目見て純金だと理解するヴィクターは流石目の肥え方だ。

 

「シド、それ現代だと博物館で飾られるレベルのもんやで」

 

「俺が仕事手伝った時にお小遣いとして貰ってるもんなんだけどなー」

 

 そっか、あの時代だと普通に金の硬貨として出回っているものだ。現代ベルカとは違い、古代ベルカでは電子クレジットが存在しない。その為、硬貨を使った取引がまだ行われているのだ。まあ、持ち歩きに困るよな……ってのが電子クレジットと比べた場合の感想だ。

 

「まあ、受け取りますけど……これ、両替できますか……?」

 

「換金所で査定から下取りかなー。博物館にそのまま寄進でもええと思うで」

 

「これ、そんな価値あるのかあ……」

 

 普段何気なく使っている硬貨の価値に首を傾げた。

 

 

 

 

 久しぶりに乗るモノレールは滅茶苦茶快適だった。揺れないし、音は出ないし、椅子は柔らかいし。馬車旅とはまるで違う感触に戸惑ったり悩んだり首を傾げたり……この快適さは何時か人をダメにするなあ、なんて事を考える辺り現代での生活に対する適性を失ってしまったかもしれない。まあ、古代で生きて行くつもりはあるのでそれもそれだろう。

 

 駅から降りてまずやって来たのは―――学校の一番近くの駅だった。

 

 本日は休日故に部活動している所しか人はいないだろうが、それでも一度は見るべきだと判断した。ヴィクターもジークもあまり乗り気ではなかったがこうやって現代に一度戻ってきてしまった以上、俺にはその真実を確認する義務があった様に感じた。

 

 だから駅を出て真っすぐ、学校までの道を進んだ。久方ぶりに歩く通学路をしっかりと覚えている事に苦笑を零し、だけど歩きなれた道が今日は違うものの様に感じる事にちょっと、寂しさを感じたりもした。

 

 もう、現代は俺にとっては異邦の地なのかもしれない……。

 

 あの古代で生きると決めて頑張っていた以上、それは仕方のない事なのかもしれない。それで俺がやっていた事、やって来た事、俺と言う存在そのものが消え去る事は多くの人々への迷惑が消えて寧ろ結果としては良かったのだろう。

 

 そう思いながら駅からしばし歩き―――学校の前まで到着した。

 

「おー、本当に無事でありやがる」

 

 まるで最初からそうであったかのように学校は無事だった。アレ程ぶっ壊して殺しまくったのに。だというのに何事もなかったかのような姿を見せている。マジで俺がやった事がなくなってるんだなあ……なんて事を感じてみていた。

 

「シド……」

 

「いや、ヴィクターそんなセンチな状態やあらへんよこいつ」

 

「酷ぇ事言うなこいつ。いや、まあ、実際にそうなんだが。こっちからすりゃあ人生の汚点だし、悪い事したし、申し訳なさの塊だから何事も綺麗さっぱり無くなるならそれに越したことはないんだよ。こうなって良かったと思うよ、マジで」

 

「えぇ……いえ、貴方がそれで良いのなら良いんですけども」

 

 そういう事にしておけ。俺も思ってた以上に安心しているし。

 

 ただやはり、人を殺した罪悪感は―――ない。そこだけ申し訳なさが残る。

 

「……あれ? ダールグリュンさん? 今日は休みの日なのにどうして?」

 

 と、校門の前で立ち尽くしている校内から学生が数人出て来た。ヴィクターの知り合いらしく、ヴィクターに話しかけてくるが……あぁ、見覚えがある。俺が殺したクラスメイトの連中じゃん。と、意外と殺した相手の事を覚えている事実に驚く。ヴィクターの視線が此方へと向けられて一瞬困ったような表情を浮かべるが、片手をあげて笑みを浮かべる。

 

「失礼、ヴィクターとは古い付き合いで観光に付き合って貰っていたんだ。友人を借りているようで悪いね」

 

「あ、そうだったんですか? ダールグリュンさんにそんな友達がいたなんて知らなかったなあー。えーと、貴方は……?」

 

「シドです。宜しくお願いします」

 

「はい、此方こそ宜しくお願いします」

 

 笑みを浮かべて握手する姿を、ジークが異形の者を見る様な目で見てくる。おい、何だよその視線は。習ったとおりの対応じゃん。微笑を浮かべ、話す時はちゃんと目を見て、喋る時はちゃんと頭の中で文章を全部完成させてから口にする。それでちゃんと対応すれば悪印象を与える事はない。顔が良ければそれだけで良い印象を残せるから基本だけは押さえておけ、と。

 

 握手を交わしてから視線が此方へと向けられ、軽く首を傾げながら微笑むと、相手が素早く此方から離れ、ヴィクターの方へと向かった。軽くヴィクターを引っ張るように距離を開けると何かひそひそと話始める。

 

「本当に悪いお手本から学んでるなぁ……」

 

「文句は兄貴に頼む。俺は学んだとおりに実践してるだけだから」

 

「素材自覚しててそれだからルートヴィッヒと同ジャンルって言われるやで」

 

 それはちょっと言いすぎじゃない……? 本当に同ジャンルか? あれと?

 

 腕を組んで首を傾げている間に話し終えたヴィクターと女生徒が手を振り、頭を下げて別れを告げると校舎の中へと走って戻って行く。ヴィクターの方へと視線を向けると顔が少し赤いように見える。

 

「ヴィクター、顔が赤いけど……どうした?」

 

「な、なんでもありません! そ、それよりも校舎内を見て回ります?」

 

 ヴィクターの反応にによによしているジークの姿を見つつうーん、と声を零す。

 

「いや、良いや。本当に無事だって事が解ったし。本当に他の人との関係は自分次第ってのも解ったし」

 

 あの頃の俺は本当にコミュニケーション能力に難があったんだなあ、と自覚出来たし。これからもちょいちょいハッター大先生にコミュ能力の伸ばし方を教えてもらおうと思う。まあ、それはそれとして。

 

「行きたい場所があるんだ」

 

 絶対に顔を出さなきゃならない場所があるんだ……後悔を残さない為にも、この1日で行ける所には行こう。




 人との関わりと対応は9割印象から始まるから、第一印象をしっかりとキメれば相手が誰であろうとも良好な関係は構築できるというハッター理論。顔の良い奴はそれを武器に押し出せとシドに教えた本人。

 これが6年前に実践できてればクラスの人気者だったのになー、という話。
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