「本当に、本当に申し訳ありませんでした」
『本当に申し訳ない……此方の監督しきれてない事でこんな事件を起こしてしまい……』
「いえ、その……はい……あまり、話を繰り返すのもね? ちょっとこう、メンタルのダメージが……」
『あぁ、うん! そうだね! うん! 良し、この話は終わりにしよう―――それはそれとして君、何か欲しい物とかない?』
「ゼーゲブレヒト姓とか欲しくねー?」
「お静かに」
逆レイプ! 襲われた青年! と言う見出しを回避する為にも気づいたら手厚い看護を聖王教会で受けていた。いや、まあ、少々オーバーリアクションしすぎてしまったかなあ、とは思ったのだが。実際はイリスとしたのがあったし。
『はあ!? あれがキス!? そんなわけないでしょ! ただの口移しよ! 口移し! その……あんなのキスでもないからカウントなんてしなくて良いわよ……』
まあ、本人がこういってるし多分違うだろ。
それでもなぁー、ファーストキスは出来たらヴィヴィとが良かったなぁ……と思う部分もあったので。そんな事を考えると意外とダメージが大きくて立ち直れそうになかった。これだから直感とフィーリングで行動する奴は駄目だな―――いや、知り合いに多いなそのパターン……?
聖王教会までやってきて名前を聞かれて、それでもノーリアクション―――なぜかホロウィンドウの向こう側では元敵対派閥だったとも言える教皇猊下が物凄い焦燥した様子で謝っていた。何故かその姿を眺めているとヴィヴィオ無双と言う言葉が脳内に浮かんでくる。
「いえ、しかし猊下が態々謝らずとも」
「保護者はウチの両親だけどよ、外での活動の責任者は爺なんだわ。まあ、俺様の安全とか広報とかそういうのな、全部責任持ってるんだわ。だから俺が奇行に走るとダメージ10割爺に刺さるんだわ」
『それが解るなら何故もうちょっと! 後少しで良いから! ほら! あそこ! ダールグリュンのお嬢様見て! 物凄いおしとやかで大人しく模範的な淑女! レディに育ってきてるでしょ! あれぐらいとは言わないから、少しは参考にしないか!?』
「は? 嫌だが? 他人とのキャラ被りとかツマンネー人生送りたくないだろ」
そう言ってバインドで簀巻きにされているヴィヴィオはけらけらと笑う。やっぱりこの女、俺が消えた事でもっとフリーダムとなってしまった彼女を抑えられる存在はもはやいない。この時空へと変化した事によって最も謎のパワーアップを受けてしまった女だろう。将来が色んな意味で恐ろしいものを感じる。
「それになんだか解らねーが昔から爺の事を好かねーから迷惑かけてやりたかったんだよなあ……将来対抗派閥作って無駄にバリバリやり合おうかなあ、って」
『死にたくなるから止めて』
そんな聖王教会のやり取りを見て苦笑を零す。昔の聖王教会に思う事はあった。だけどそれも俺が主張せず、現実を見ずにいた事が原因でもあった。今となってはもっと簡単に済んだんだろうなあ……なんて言葉が残る。とはいえ、長居する場所でもない。もう大丈夫ですから、と言葉を残して立ち去る事にした。
ヴィヴィオに滅茶苦茶見つめられながら。
「しかし、なんだ。平和だなミッドは」
「昔のように戦争していてたまるものか。現代ベルカは平和だ。何もなく、普通のままだ」
聖王教会を出た後は近くのコンビニへと向かった。ポケットマネーを古代ベルカ硬貨で立て替えようと思ったが、ヴィクターが遠慮なく頼って欲しいと言うもので頼る事にした。そういう訳でベルカの古い血筋のチームを集めてコンビニで屯っている、という非常に珍しい光景が繰り広げられる事になった。手にするのは久しぶりに飲むコーラだ。余り好きな飲み物という訳ではない。だけど現代でしか食べられないジャンクフードで何が良い? と言われたらこれとポテチのコンビを思い出してしまった。
実際口にしてみた感想は―――まあ、味が濃いなあ、って所だ。美味しいとか不味いとかじゃなくて、味が濃い。良く考えてみると古代では現代程調味料が使われていない。その為結構薄味だったり素材の味ベースだったりするのだが、そんな事が現代では一切ない。これでもか! というレベルで味が付けられていて、ちょっと気後れする。既に舌はこっちの味よりも薄味の方に馴染んでいた様だ。だからポテチは回し食べして、コーラもジークと分け合う。その後に食べるのは物凄くシンプルなソルトアイスキャンディー。塩味のアイスキャンディーはとても古いつくりをしていて、特別な味付けも施されていない。シンプルで今の自分には好ましい味付けだった。
それをコンビニ前の駐車場で壁によりかかったりしながら食べていた。
「マジで事件とか何もないの?」
「ないで。数年前までさかのぼれば闇の書の闇事件とか、PT事件とかもあったりするんやけど……あれも結局は別次元での事件やしなあ……他の次元世界での事件や戦争のケースはちょくちょくあるんけど、ミッドに届く規模はないで」
「そっか、平和なんだな、こっちは」
「時空監理局がブラックなのは周知の事実なんだがね。あれはあれで有能という訳だ。全肯定する訳ではないがな……それでも管理局の存在が次元世界における治安維持を担っている事実は認めなくてはならない」
時空監理局、俺とは縁遠い場所だ。
魔導士が魔法を使う事によって次元世界の治安を維持し、ロストロギアと呼ばれる様なオーパーツを管理、平穏を保っている。次元の海の広大さと組織の大きさから常に人材不足に悩まされながらも新しい次元世界を見つけ、局員を派遣している。その結果10歳以下の子供でさえ能力があれば就職できるという歪なシステムが構築されている。
そしてそれが今の次元世界のスタンダードだ。歪んでる、と思えるのは実際に古代ベルカで経験を増やしたからだろうか。レンガブロックの上に腰かけながらアイスを舐める。直ぐ横には何時の間にかハイディがいる。ジークとヴィクターは対面側に座っていて、クラウスは近くの木箱の上に座っていた。これで大体何時ものメンバーがそろっている状態だ。また、こうやって全員で集まれるとは思いもしなかった。
「正直さ」
「ん?」
「こうやってまた会えるとは思えなかった。皆、無事なようで良かったよ」
アイスを舐めながらそういうと、呆れたような声がクラウスからやってくる。
「全く愚かだなあ、貴様は。寧ろ大変なのは俺ではなく貴様の方だろうに。こっちは正直紛争や戦争の火種が見えない状態だ。管理局も健在だしな。それに比べて貴様は後数年もすれば大戦期だろう? ヴィルフリッド・エレミアの記憶を確認する限りは後4,5年ぐらいだろう。残されているイベントもオリヴィエ王女との邂逅、シュトゥラへの留学、そして開戦ぐらいだ。そうすれば本格的に戦乱になってお前の周りが一番危険だろう」
「待ってください、なんですその話は?」
「あっ、クラウス馬鹿」
ジークが直ぐにクラウスに注意するが、クラウスは頭を横に振る。
「こういうのは隠したり後に回すから拗れるのだ愚か者共め。言うべき事は先に言え。言いたい事は早く言え。俺が例の事件で覚えた事はそれだ。言わないから拗れる。言わないから爆弾になる。圧縮されて連鎖爆破する前にちゃんと言え」
「まさしくその通りでございます」
クラウスの言葉に平服し、頭を下げる。ふふん、と得意げな表情のクラウスを見てからヴィクターが頭を横に振る。
「説明を、説明をお願いします」
その言葉にハイディが頭を横に振る。
「簡単な話ですよ、ヴィクター。シドはここに残る気はないという事です」
「どうして……?」
ヴィクターが呆然とした表情を向けてくる。
「俺は元々ここに1日だけの制限付きで送り込まれてるからなあ……24時間過ぎたらまた古代に戻されるよ。俺を過去へと放り込んだ張本人は俺がヴィヴィ……オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの死を覆す事を期待しているらしい。だから俺は現代には残れないんだとよ」
「まあ、だろうと思った。念入りに情報抹消されているのにまともな手段で戻ってこれる訳がないからな……」
「愚兄、愚兄。流石に容赦なさすぎではありませんか?」
「愚妹よ、聞くが良い。基本的に全肯定わんこ系であるお前には関係ないかもしれないが、そこの電撃ですわ娘と糞ボケ野郎は叩き込むレベルで口にしないと理解しないレベルで白痴なのだ。好意というものは逃げられない場で言い切るのが大事だぞ」
「成程、既成事実は強引さが大事、と」
「そこの糞ボケ兄妹は流石やなぁ……容赦のなさが」
げらげらと笑う外道共。ただし俺とヴィクターは笑えない状況だった。正面に座っていたはずのヴィクターは迫ってくると近づいて、服の裾を掴んだ。
「また、私の前から居なくなってしまうんですの……?」
「そ、それは卑怯だろう」
真正面までやってくると、服の裾を掴みながら顔を下から覗き込んできた。
「ねえ、シド。お願い。どうして? どうしてなの……?」
「さあ、盛り上がって参りました」
「1番ヴィクター、得意の距離から攻めるぞ」
「顔の良さを利用して至近距離で涙目を見せるくぅ……憎いなぁ! 憎いでヴィクター!」
外道三連星! 少し黙っててくれないか! こっちはそういう余裕ないんだが!? いや、心の中だけでもこういうノリが出来るだけだいぶマシになったんだが。それでも目の前のヴィクターに対して、嘘偽りは良くないなあ……とは思う。茶化すのも良くはないし、ヴィクターの顔を覗き返しながらそうだなあ、と声を零す。
「初めから……俺が知っている事全部話そうと思うんだ。少し時間がかかるからどっかで腰を落ち着けたいんだけどいいか?」
この際、自分の全ての始まりから話したほうが早いだろう。それこそ俺とヴィヴィの始まり、その繋がりも。そこから今に至るまで、何故俺が暴走して苦しんだのか、俺の何が愚かで何を失敗したのかも。その全てを話すだけの責務がある。少なくともヴィクターやここにいる皆には。だからヴィクターを確認し、全員を確認する。
「解りました、なら私の家に」
「戻るまで時間がかかるだろう。繁華街のカラオケボックス借りたほうが早いな。この辺りなら俺が店を知っている」
「まさか、ヒトカラ……?」
「単純にクラスメイトとの付き合いだ愚か者め。俺の美声を披露してやらんと解らんのか? ん?」
「自分の才能に対して自信のある奴って面倒ですね」
「ほう、兄に対してそんなにストレートに言うとは成長したなハイディ……」
「ウチ、この兄妹が時おり解らんくなるわ」
独特のリズムと空気で会話を成立させている感じはするなあ、というのはある。4年が経過してそこら辺の空気感はもっと面白くなった感じがする。
……でも腐らずに育ってくれた事は結構嬉しい。
「カラオケかあ……まあ、カラオケでいっか……」
「なんか文句でもあるん?」
「いや……行った事がないだけって話で」
「まあ……せやろな」
子供の時に行くような場所じゃないしねー、と笑いながらカラオケを目指して歩き出す。俺も、素直に自分の心の内を言えるようになるぐらいには大人になったかな? 何て事を考えながら。
覚えてないし知らないし記憶にもないけど直感で答えへと飛ぶことのできる女なので、初見で好感度を取り戻すし、初見で大体事情を把握するし、一目見て味方でいるかーって思う女。それが世紀末聖王伝説ヴィヴィ王。