Disruptor   作:てんぞー

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Future - 7

 繁華街へと来る経験はあってもカラオケなんてものはない。当然ながらあの頃の俺は小等部で、カラオケなんて利用する事もなかった。14歳、思春期中等部となったクラウスはそこそこクラスメイト達と利用するようになっているらしい。それを聞いてこいつ、やっぱりコミュニケーション能力は高いよなあ、なんて事を想ったりする。

 

「ここだ、ここ。前々から利用させて貰っている。俺みたいなのが利用できる防音性の高い部屋があってな、そこでストレス発散に度々使わせて貰っている」

 

 カラオケ店の中に入りながらカウンター前に行くと、店員が背筋をぴーん、と伸ばした。どうやらちゃんとクラウスが何者であるのかを理解している人らしい。だからこそ利用できるのだろう。クラウスがカウンターまで向かって部屋を借りている間に、軽く店内を見回す。他に誰かが利用しているようには見えないが……まあ、皆部屋の中にいるのだろうからロビーで姿が見えないのは当然か。

 

「何をきょろきょろ……って初めて利用するんやったな」

 

「俺、基本こういう所寄らなかったしな。今の場所にある訳でもないし」

 

「そう言えばシドって普段はどんな事をしていますの?」

 

「俺? 基本勉強か鍛錬だよ。一日の内鍛錬の時間を完全にスケジュールして、休む時間もスケジューリングする。集中力が続く時間は決まっているからその間に勉強して、空いた時間は同期と一緒に話したり遊んだりしてるよ。工房での作業眺めてるだけでも割と楽しかったり、乗馬するのも楽しいから馬に乗ったりしてるし……まあ、そんな感じ?」

 

「うーん、古代の生活。物凄い健康的やなあ……」

 

「あの時代は娯楽がそれぐらいしかないという話でしたわね」

 

 まあ、今みたいにゲームとかテレビとかある訳じゃないし、小説だって良く見るもんじゃない。そもそも紙自体が結構レアというか高級品だ。物語を聞きたいのなら酒場の吟遊詩人に一曲弾いてもらうのが割とコスト的に良かったりする。プロフェッショナルはそりゃあ演奏も語りも滅茶苦茶上手だし。ただ、まあ、旅のほとんどは移動だ。そういう娯楽を得られる時間は短いのだ。だからこそ何らかの遊びの手段としてどこでも出来る事を見出しているのだが。

 

「大抵の場合ハッター兄貴……あぁ、俺の先生の一人ね? が結構色々と面白い話を教訓混じりにしてくれるからそれを聞いてるかなー。女性関係の失敗談とか結構多くて聞いてるだけで時間が過ぎて行く。街中でナンパした美女を宿まで連れてったのに実は女装だった件とか」

 

「中々気になる話ですわね……」

 

 失敗も多い人なのはあの人らしいなあ、と思ったりもしている。

 

 と、そこでクラウスが部屋を取り終わったので早速移動する。エレベーターに乗って移動なんて何年ぶりだろうなあ、と思いつつ移動し、完全に防音されたカラオケの一室に入り込む。そこまで広くはないが、それでも防音されている部屋だ。

 

「ここでなら内緒話も出来るだろう。外でやると誰に聞かれてるものか解らないからな」

 

「盗聴器にさえ気を遣えば気軽に使える防音設備と言うのは便利やな」

 

 えっしょ、と慣れた様子で盗聴器を探るジークは、やはりそこらへんエレミアだよなあ……と思えてしまう。ちなみに俺は盗聴魔法に対する対策は聞かされているものの、盗聴器が存在しない時代なので対処法は知らない。ジークを見ていると俺の時代以降も時代に適応するように色々とノウハウを吸収していったんだなあ……というのが良く解る。

 

「えーと、ではワンドリンク制なので先に飲み物頼んでしまいますね。ウォッカ5本でいいですか?」

 

「露骨に酔い潰すのを狙うな愚妹。流石に叩き出される」

 

「仕方がありませんね……皆の好みを頼みますね」

 

 極々自然と全員の好みを把握しているハイディ。流石長年ヴィヴィオの相手をしてずっと世話をしてきただけはある。注文の取り方の迷いのなさに面白みを覚えつつ部屋のソファに座り込むと、ヴィクターが迷う事無く横に座ってくる。そのまま服の裾を掴むと、視線を此方へと向ける。

 

「それで、シド……宜しいでしょうか?」

 

「あぁ、うん。じゃあ軽く俺の話を整理してから話し始めようか」

 

 さてどうしたもんかなあ、と呟く。最初から全部話すべきだなあ、とは思っている。ヴィクターを見ればずっと待っていてくれたと解っている。俺が彼女の脳内の架空の人物じゃなくて実在する幼馴染だとずっと信じていてくれたんだと解っている。だから彼女の誠意に対して、俺も応えなきゃならない。じゃないとヴィクターがあまりにも報われないからだ。ジークは過去の記憶を引き継いでいるから勝手に状況を把握しているが……この兄妹は何で俺が実在するって理解しているのかが解らない。

 

「なんでお前ら俺の存在確信してるの??」

 

「は? 俺はお前の親友だぞ? この程度当然だろう」

 

「……とは言いますが、私も愚兄も基本的には記憶の継承者です。愚兄ではないほうのクラウス・イングヴァルトの記憶を継承している為、”我”と言うものを強く持つ事を昔から教えられ、鍛えられてますから。そうしないと記憶の感情や考えに飲まれて暴走してしまいますから」

 

「昔の話になるが、何代か前に記憶を思い出した人は継承した記憶のまま暴れて回ったらしいな……覇王が最強である事を証明しなければならないと。まあ、故人クラウスもありがた迷惑だろうな、勝手に名前を使われて暴れられるのは」

 

「今も愚兄に名前を使われている事そのものが迷惑だと賢妹は思いますが?」

 

「はっはっはっは」

 

 クラウスがハイディを睨む瞬間には既にエスケープしている。素早く逃亡するハイディは此方に来ると、股の間に潜り込む様に座り込み、所在なさげにしていた腕を掴んで自分を抱きしめるように回した。

 

「バーリア」

 

「どさくさに紛れてずるい事しよったであやつ」

 

「ハイディ! ハイディ! それはちょっと卑怯ではありませんの!?」

 

「私はシドさんと昔は一緒にお風呂に入ってたのでこれぐらいの距離は問題ありません。ね?」

 

「あ、うん……うん……」

 

 そんな事言われると裸だった時の事を意識してしまうから止めて欲しい。思わず顔を赤くして俯いてしまう。それを見てクラウスが頷いた。

 

「10イングヴァルポインツッッ!! 100点でお持ち帰りして良いぞ!!」

 

「後90点ですね」

 

「売るな売るな。人を勝手に売るな」

 

 こんこん、と部屋の扉にノックの音がして、開けられた。店員がドリンクを持ってきてくれた。それで一旦会話を止めてから全員にドリンクが行き渡る―――ハイディが一切動く姿を見せない事が凄い気になるし、横からヴィクターの視線が送られてくるのも凄い気になる。だけど一番気になるのはジークの生暖かい視線と勝利を確信しているクラウスの視線だろうか。アイツら何を思って俺を見てるんだろう? まあ、それはともあれ、

 

「ドリンクも来たしそろそろ最初から話をするか……」

 

 話し始める場所はどこからだろうか? 俺の全ての始まりと言えばずっと前に、ずっとずっと前の話だ。それこそ何時、なんて時期に覚えはない。ただ唯一解るのは俺が彼女と出会えてしまった時がそもそもの始まりであり、全ての元凶だったのだろうと思う。だけどこれは誰かが悪いという事は何一つとしてなかった。原因があるとすれば俺もヴィヴィも、どっちも若すぎたんだと思う。

 

 ただ、それだけだったんだ。

 

 俺達は何時かは解らない、だけど夢の中で出会えた。解り合えた。そして唯一の理解者だったのだろう。だけど、それは結局のところ錯覚だったんだ。口に出して話せば理解は得られる話だったんだ。だけど俺達は逃げていたんだ、現実から。こうなる筈じゃなかった、こうじゃないんだってそうやって勝手にふさぎ込んだんだ。助けを求めれば助けてくれる人なんていっぱいいたはずなのに。自分が特別だけど特別ではないなんて勝手に思い込んでいたんだ。心持ち1つで俺の世界はこんなにも変わっているのに。なのにそれを理解しようとせずに目と耳を塞いで、期待する事を勝手に諦めて口も塞いだんだ。

 

 だからこれは俺が愚かだった話で。

 

 ヴィヴィも同じぐらい愚かだったんだ。

 

 他でもない、特別過ぎる存在に出会えてしまったからお互いに惹かれ合って依存してしまったんだ。それがすべての失敗だったんだろう。きっと、俺達は出会ってはいけない存在だった。お互いに知ってはならない存在だったのだろう。だけど出会ってしまったから全てが狂ってしまった。

 

 だけどもう、子供のままではいられない。ずっと同じままではいられないのだ。俺もヴィヴィも、同じ存在のまま苦しんでいる訳にはいかない。俺達は成長と共に変わって行く必要がある。そして俺は、少しずつ成長しつつあると思っている。自分がやったことを直視し、そして理解している。だから夢を見るのはもう終わりだ。

 

 騎士という夢からは醒めた。

 

 俺にはきっと、永劫に不可能な事なのだろう。

 

 だからどんな形であれ、誰かを殺すという形であれ、彼女の未来を守れるなら俺はそれで良い。

 

 俺はもう騎士ではない―――傭兵(エレミア)だ。

 

 

 

 

 たっぷり時間をかけて、これまでの事を語った。ヴィヴィと心の庭園での出会い。俺が何を思ってきて、何故騎士になりたかったのか。失敗、何故暴走したのか、何を諦めていたのか。そして古代に落とされた経緯、いきさつ。そこからの生活と見つめ直したこと。そしてこれまでの古代での生活。何を教えれられ、何を目指しているのか、何故そう考えるようになったのか。

 

 全部だ、全部口にしている。これまでの俺の問題はそれを全部隠してきたから、悪いのだ。だからもう抑える様な事は止めた。自分が言わなきゃいけない事は全部言う事にしている。時折喉を潤す為にアイスティーを飲みつつ、横から強く握ってくるヴィクターに感触を返しつつ、背中を預けてくるハイディを少しだけ強く抱きしめて、応えた。俺には負い目がある。ここにいる人たち全員に対する負い目だ。だからそうやって求められると、強く返す事が出来ない。

 

「それがお前の悪い所だぞ、シド」

 

 全てを語り終えた所で、クラウスが溜息を吐きながら続けた。

 

「お前は我が強いようで他者を尊重しすぎる。もっと己を押し通すべきだ。邪魔ならハイディに邪魔と言え。ヴィクターの束縛が鬱陶しいなら鬱陶しいと言え、ジークにお前の言動めんどくさいんだよとしっかりと言ってやれ」

 

「今さりげなく喧嘩を売らんかった? はー、これだから所詮は似非覇王の似非Jrは」

 

「貴様言ってはならん事を言ったな? あ? 弁護士を用意して法廷で会おう!!」

 

「古代聖王と同じネタを使うな」

 

 話を終えた所でジークとクラウスに関しては本当に何時も通りの様子だった。変わらない姿と対応に驚きさえもある。後ハイディは寧ろもっと密着する感じだった。正直体の柔らかさを感じるから止めて欲しいなあ、とは思わなくもないけど攻勢強くなってない? なってないかなあ……?

 

「その……シドはオリヴィエ様の事が今でも好きなんですのね?」

 

「うん、好きだよ。たぶん、愛してる。彼女とはずっと逢えていないから本当の所の気持ちは解らない。だけど彼女の笑顔を、作り笑いではない笑顔を取り戻したいという気持ちに嘘も偽りもないよ」

 

 だから、その、と言葉ちょっと濁す。

 

「ごめん」

 

「……何故謝られるかはよくわかりませんわ」

 

 そう言うが、ヴィクターの表情はすぐれない。本人も自覚しているだろうし、俺もここまで明確に好意を寄せられていてそれを勘違いする程鈍感ではない。こういう場だし、明確に言動にはしないがお互いに理解しての言葉だ。ヴィクターは前よりも強く服の裾を掴んだまま、俯いたが、

 

 ハイディは完全に体を預けている形だ。

 

「お前は何???」

 

「え、私は別に愛人でも妾でもばっちこいのスタンスなので……逢えなくても想いが変わる事はありませんし。寧ろ略奪する方が燃えると言いますか。時間軸を移動する手段があるならこっちからアプローチする手段もありそうですし……そうしたら古代聖王からシドさんをNTR形ですね。興奮します」

 

「クラウス、お前の妹やばいぞ」

 

「ああ、俺もヤバイと思っているが誰かに影響された訳でもない天然ものだぞ? やったな! やってないが?」

 

 ハイディが横に顔を傾けてくる。

 

「ヤりますか?」

 

「やらんが? というかジーク! ジーク! お前はどうなの! ねえ、ジーク!!」

 

 逃げるように会話をジークへと振ると、ジークがえ、と声を零した。

 

「ここにいる敗北者共と違ってウチはヴィルフリッドっちゅー実質的にうちの過去に類する存在があるからなあ……ココの皆が触れられない、話せない所リッドが勝手にシド攻略するやろうしなあ……?」

 

「ヴィクターさん、見ましたか? あれが最大のライバルですよ」

 

「え、えぇ……そうですわね? そうなのかしら? うーん……?」

 

「まあ、敗北者たちは全員この時代で指をくわえてみてればええねん。ウチはそのうちシドの血が流れる事になるやろうから」

 

「止めないか!!! そういう話は!! はしたないぞ!!」

 

「はぁー! カマトトぶりおってこのモテモテ男子はー。このこのー」

 

 距離を詰めてくるジークはヴィクターの反対側に座り込むと、片腕を掴んで抱いてくる。体を寄せて全身で奪った腕を抱きしめるように両腕と胸と足で挟み、逃がさないようにホールドする。それを見てハイディも半身を振り返らせるようにしつつ両腕で首に腕を回し、ヴィクターが対抗するように腕を抱いてきた。

 

 解らない。なんで俺こんなにモテてるの? 解らないんだけど!?

 

「クラウス! ライフライン! ライフラインを使うぞ! クラウス! 助けてくれベストフレンド!!」

 

「そこにないならないな……じゃ、俺はやることを思いついたから一旦帰る。お前らは仲良くしていけ」

 

 立ち上がって笑顔で去ろうとするクラウスに手を伸ばそうとするがどっちも奪われたままだった。

 

「待ってくれ! クラウス! マイ・フレンド! ベストフレンド! 待ってくれ! クラウス! クラウス!! クラウス―――!! 覚えてろよ―――!! 過去の覇王にあったら絶対にいやがらせしてやるからな! お前! 覚悟してろよ!」

 

 言葉もなく振り返る事もなく手を振ってクラウスが去って行く。その姿を見て絶対に復讐してやると心の中で誓いつつ、今はこの猛獣の檻に残された俺は、どうすれば良いのだろうかと真剣に頭を悩ませる事になった。




 モテる主人公。ハイディとヴィクターはダメンズ好きな所あるからな……。ジークはエレミア系なので根本的な相性もあるけどリッド同様一緒に過ごした時間で……ってタイプ。

 これは全年齢SSなのでえっちな事はありませんね!!!!!
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