Disruptor   作:てんぞー

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Dreaming - 1

 それから女子に抱き着かれたり身を寄せられたり意味深な視線を向けられたり普通の話をする事で解散した。夕暮れ時になるとカラオケから出て別の場所へと移動する事になった……と言われても、今は身寄りのない俺は必然的にダールグリュン邸に行くしかない。そしてハイディは家がある為、ここで分かれる事になった。愛人と妾ならいつでも用意できてますし本妻でも問題ないですよ、とか爆弾発言を乱射してくるあの娘はどうしてあんな風に育ったのか。解らないけど好意100%のマシンガンは精神的に突き刺さる。

 

 自分の事を好きでいてくれる人が嫌いなわけないだろう。ただ、まあ、そういう露骨なアプローチは割と心臓に悪いので別れ際に投げキッスとかしないで欲しい。現にダールグリュンへと戻るまで、ずっとヴィクターが手を繋いで放してくれない。アクションが別に強い訳じゃないのだが、ヴィクターがこう……自分から甘えてくるような姿を見せるのは自分が現代にいた頃には全くない姿だ。それだけに割と甘えてくるヴィクターと普段の世話を焼いてくるヴィクターとのギャップは、中々胸に来る。

 

 そうしたのが俺なのだろうが。そのまま手を繋いで高級住宅街まで戻ってきた所でふと、思い出す。

 

「そういえば今朝は使用人も両親も見かけなかったけど……?」

 

「あぁ、使用人はちょっとした休暇を、父と母は小旅行に出ています。だからここ数日は私とジーク以外は誰もいませんよ」

 

「まあ、ウチは家事壊滅的やけどヴィクターがそこら辺の能力高いしな。ウチが護衛として残ればそれでオッケーって感じには信じられてるで」

 

「あぁ、だから朝飯もヴィクターが一人で」

 

「ウチだとシリアル出すので限界やからな!!」

 

「そこは反省しましょう」

 

 ヴィルフリッドはちゃんと手伝いが出来ていたのに不思議だなぁ、と思っているとジークが寄ってくる。そのままぼそりと耳元で、

 

「せやから、夜は開いてるで」

 

「やーめーろーよー」

 

「ほんとシドはこの手の話が無理なんやなあ」

 

 けらけらと笑いながらジークが離れる。その姿を眺めて溜息を吐きつつヴィクターにぎゅっと手を握られる。

 

「その……もう、ここに居られるのは今夜だけなんですのよね? シドは」

 

「まあ……爺の気が変わらない限りはそうだなぁ」

 

「解りました……ならせめて、今夜は腕を振るいますから期待しててください」

 

「おう……なんか食事の用意任せる形になってごめん」

 

「適材適所ですわ……まあ、私が好きだという事もありますので」

 

 頭を掻きつつダールグリュン邸へと戻った。

 

 

 

 

 それから洗濯して乾いた装備を回収して、それをゲストルームへと運んでおく。今日一日装備なしで歩き回るのは非常に心細いものがあった。常在戦場の心得が完全に体に染みついてしまっていた。バゼラードを装着した時の安心感はやはり、自分の居場所が戦場にあるという事を確信させるものだった。これはもう、日常生活に戻れないかもしれないなあ……なんて本日の、安心するけどどことなく暇にも感じられた日常を過ごして思った。

 

 ヴィクターは夕飯の仕込み、ジークはその手伝いに厨房へと向かってしまった。ポニーテールにエプロン姿のヴィクターは堂に入っていた。中々可愛らしくも貫禄のある姿にあの年で立派に料理できるのは凄いなあ……と尊敬させられる。手伝おうものなら間違いなく厨房から追い出されるのを理解し、邪魔をしない事にする。

 

「……ま、鍛錬でもするか」

 

 今日の分はそう言えばまだだった。今朝から怒涛の勢いでイベントがやってくるもんだからすっかり忘れていたが、毎日鍛錬をなるべく続けたほうが良いに決まっている。1日やらなかったから体が崩れるなんて事はないが、それでもこういうのは継続する意識を持つ事が何よりも大事だ。裏を借りてそこで軽く筋トレを流すか。そう判断して最低限の武器を装備してゲストルームを出ようとして、

 

「シド、今ちょっとええか?」

 

「いいよー」

 

 俺達の間で遠慮というものは必要がない。返答するとジークが部屋に入ってきた。こいつはある程度リッドと同じ感覚で付き合えば良いというのがあるから、実は現代の連中の中で一番接しやすい所がある。それを見据えてからか、ジークが髪の毛を後ろで、リッドの髪型を真似るように纏めている。それを見て苦笑が漏れてしまう。

 

「そこまでしなくて良いのに」

 

「ええよええよ……シドの気持ちは解らんでもないからなぁ」

 

 そう言いながらジークが俺が座っているベッド、その横に座りふぅ、と息を吐いた。

 

「正直リッドの事を羨ましく思わなくもないで? シドと毎日をあんな楽しそうに過ごしているし。やけども、シドが普通に笑えるようになってくれた事が一番うれしい話やな、ウチにとっては」

 

「ジークには本当に迷惑をかけちまったな。改めて謝らせて欲しい。本当にすまない。あの時本気で怒って、案じて、止めてくれようとしたのに全部振り払ってしまって―――」

 

「ええんや、本当に。もう、終わってしまった出来事やし、無くなってしまった出来事や。間違いは誰もが起こす事で……それは本当に、どうしようもない事や。歴史上、シドよりも暴れて悪いことした奴は結構おるんや。まあ、比べた所でどう、という話でもあるんやけど」

 

「そうだな……でもお前にそういって貰えると少し救われた気分になるよ」

 

 未だに罪悪感はなく、ただ殺したという事実だけが残る。それでもその十字架は、俺が意識してずっと背負い続けなければならないものだから。だから事件が消えても、俺は忘れてはならないんだ。無関係な人々を殺して回った事を。それが罪を背負う事だと思っている。常に自分に戒めとして、刻まないとならない。

 

「シド、真面目な話ええか」

 

「その為にヴィクターが忙しいこの時を選んだんだろ? というか手伝わなくていいのか」

 

「厨房追い出されたわ」

 

 えぇ……リッドは割とできてた方なのに。エレミア一族って経験継承で良くなる一方じゃなかったの? なんて思ったりもするが、これが個性というものなのだろう。ジークらしさに思わず笑い声が零れてしまうが、ジークはそれを横から優しい表情で眺めていた。ジークのこの目は―――ああ、師匠だ。師匠の目に似ていたんだ。ジークにはリッド以外の多くのエレミアの経験が流れているのだろう。その感覚を、俺は理解する事が出来ない。

 

「シド」

 

「うん?」

 

「……ごめんな」

 

「ジーク?」

 

 横に座っているジークに首を傾けてみる。俯きながらジークは頭を横に振った。

 

「ウチには解る……あの時代のベルカは魔境や。()()()はまだ良い。そういう風に生まれ、そう言いう風に育ち、それを覚悟して生きて来た。だけど君は違う。君はそういう人じゃない。君の心は平穏を願っている。……ウチにはそれが解る、根本的に平和を愛して、平和の中で生きるべき人なんや、シドは」

 

 ジークは溜息を吐く。

 

「ウチに解るのは16歳までの記憶だけや。そこからは記録と経験だけになる。それでも大量に死んだ経験と、大量に殺した経験が血肉となってこの体を巡ってるんや。人が塵の様に死んで処理される、そんな時代が直ぐそこまで来ている。……そしてシドはそこに戻る事になるんや。もう、ウチにできる様な事はない」

 

 やからな、と言葉を区切る。

 

「ごめん。止められなくて、助けられなくて」

 

「馬鹿、お前は俺の保護者かよ。あぁ……でもそうやって想ってくれるの。正直嬉しいよ」

 

 なんだかんだでさ、と笑う。他の皆の前では絶対に言えないけど、

 

「もう、俺にとっちゃエレミアって家族だからさ、ちょっとゲロっちゃうけどさ」

 

「うん」

 

「父さんと母さん―――他人になっちゃった。やっぱ泣きそうだわ」

 

 あはは、と声を零すがちょっと震えてる。あの時はクラウスがいて、ハイディがいて、ヴィクターもいて、ヴィヴィオがいた。だから我慢できた。クラウスが場を茶化してくれるし。ハイディとヴィヴィオの衝撃もあったし……いや、ヴィヴィオはあれ、直感的に理解してたのかもしれない。そういうの、言葉にせずとも、相手が自覚してなくても理解するのがヴィヴィオだから。だからあの時の衝撃は流せたけど、

 

 こうやって落ち着いてくると、泣きそうだ。

 

「あぁ……駄目だ、考えたくないけどさあ……」

 

 両手を顔に持ってゆく。零れそうな涙を我慢する。目を瞑って、悲しみに耐える。ジークが小さく笑う。

 

「泣いてもええんよ?」

 

「お前の前じゃ泣きたくない」

 

「じゃあ、ヴィヴィ様の前では泣くんか?」

 

「絶対に、泣かない。あの人には……ずっと、笑っていて欲しいから」

 

「じゃあ……マリーアの前では泣ける?」

 

 それは……どうだろう? あぁ、でも確かに師匠の前でなら、

 

「泣ける、かな」

 

「うん、なら心配する必要はなさそうやな」

 

 ジークは言う。

 

「ずっと心配やった。ずっと、不安やった。幼馴染が……どことなく抜けていて、見ていて不安でウチがいないとしょうがない様な大事な幼馴染が遠くへ行ってしもうた。そしてそれと同時に自分の中で浮かび上がってくるまだ完結しない時空の物語。それを見てシドが毎日を必死に生きている姿が良く解った。毎日を頑張って、出来る事を全力で。少しずつ惹かれて行くヴィルフリッドの心が自分の物の様に……」

 

 どうなんだろうなあ、と呟く。

 

「ウチが先に惚れたんか。それともリッドが惚れていたのをウチが感じたのか。もうウチには解らへんわ。それでもシド、ウチらの想い、ちゃんと解ってるんやろ?」

 

「……そりゃあ、なあ」

 

「別に答えを求めてる訳でもないんや。ただ……そういう事、忘れずにおいてな? それだけ」

 

 それだけ。そういってジークは足早に部屋を出て行った。その姿が完全に扉の向こう側へと消えたのを見送ってから、ベッドに音もなく倒れ込む。どっとした疲労感が体にのしかかってくる。

 

「……解ってるよ、そんな事は」

 

 俺が愛されて、好かれている事ぐらい……鈍感じゃないんだから解っているに決まっている。そして古代に戻るという事はここにいる皆を否定する事でもある。だが同時に古代にいる、自分へと好意を向けるリッドを無視する形でもある。ジークの言葉には2人分の想いが乗っていただけに、ちょっとした衝撃を受けている。そうだ、俺はヴィヴィが好きなんだ。彼女が好きで、愛していて……だけど好意を他から向けられている。

 

 だから俺の意見を変えるべき? 冗談じゃない。だったら俺の想いはどこに行ったんだ。誰かの為に自分を犠牲にして幸せになれる訳がない。だけど、同時に俺が自分の道を選ぶ事で不幸になる人がいるのは事実だ。

 

 その理想と現実のはざまで苦しむ。

 

 解っていた事だ、何時かはこんな状況に直面するって。何で俺がこんなにもモテるのかは……正直、良く解らない。人の助けがないと駄目な奴で、間違えてばかりで、そしてまだ何も成しえていない。そんな俺が、誰かに好意を向けられる程の人物だろうか?

 

 だけどそんな俺を好きだと言ってくれる人たちがいるんだ。

 

 だったらその人たちの為にも俺なんか、なんて言葉は使えない。そういう人たちの為にも俺は胸を張って生きて行かなきゃならないのだ。だけどやっぱり、心苦しい。その想いを切り捨てなきゃいけない事が。

 

「あー……大人になるのってめんどくさいなあ」

 

 子供の頃は夢を見るだけで良かった。

 

 だけど大きくなってくると友人関係、恋愛、社会、生活……色んな事を考えるようになった。その色んなが増えて行き、大人になる。大人になるとはそういう事なんだろうなあ、と漠然に考える。

 

「でも自分で蒔いた種か……」

 

 刈り取るのは俺の責任……ならやらなきゃ駄目だろう。ちゃんと、ジークやヴィクター、ハイディに対してどう答えるか、何て言うべきなのか……それをしっかりと考えなきゃならない。

 

 今でも昔でも、

 

 俺が異性として愛しているのは―――ヴィヴィ、ただ一人なのだから。




 自覚はあるけどナンバーワンが決まってるから絶対に応えられない男。ハーレムという流れは無理だと思っているし、誠実さに欠けると考えているのできっぱりノーが言える男。

 それが出来ても捕食されるかどうかはまた別問題。
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