Disruptor   作:てんぞー

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Dreaming - 5

 目を覚ますとあの庭園ではなくベッドの中にいた。お茶会は終了した―――というかあれもう後半お茶会じゃなくて酒盛りじゃん。しかも1人で一方的に飲み続けていた酒盛りじゃん。まあ、あれは酒盛りだった。だからお茶会という言葉で誤魔化すのは止めよう。そして朝起きてまず最初に見えてくるのはヴィクターの姿だ。昨晩はヴィクターと一緒に眠ったのだから、当然目の前にヴィクターがいる。

 

 ただし指を絡めるように掴み、両足と両腕を此方に回して抱き着く様に、完全に密着する様な形で眠っていた。完全にホールドされている自分の姿に軽く苦笑を零しつつ、眠っている状態のヴィクターの髪に開いている手で触れて梳く。

 

「ごめんな、残れなくて」

 

「んっ……」

 

 軽く髪を梳くとヴィクターが声を漏らす。ここまで追い詰めていた……というのは良く考えれば解る事でもある。今までは俺は自分の事しか考えてなかった。だが思い返せば、自分の行動で影響されるのは自分だけではないのだ。自分がそう動いた結果、どういう事になるのかちゃんと考えるべきなのかもしれない。考えているつもり、まだ考えが足りなかったのかもしれない。そんな事を考えていると、

 

「んっ……ん……シド……」

 

「呼んだ?」

 

「……ん、えっ……?」

 

 直ぐ横で眠っていたヴィクターが目を覚ました。眠そうに、しかし意識を覚醒させながら顔を上げて此方を見つけると、耳まで一気に顔を赤くしながら俯いた。取り乱す様な姿を見せないように必死に取り繕っている感じがするのが中々に可愛い感じがする。

 

「お、おはようございますシド。昨晩はその、迷惑をかけてしまって申し訳ありません」

 

「おはよう、ヴィクター。良いよ、元々俺が撒いた種だし。俺で叶えられる範囲なら叶えてあげるべき事なんだろうし……まあ、これぐらいなら別にね?」

 

 男女一緒に雑魚寝する事にはぶっちゃけ慣れているし。そりゃあヴィクターの体は凄い柔らかくてドギマギする部分もあるのは事実だけど。だけど戦場に出たら男とか女とかを意識しない為に、なんでもない所で性差を意識しないための訓練というのはあるのだ。それをしつつ男女をちゃんと意識しろ! というオーダーは中々難しいので完全に克服する事も出来ないのだが。まあ、それはともあれ、

 

「……もうちょっとこうしてる?」

 

「……お願いします」

 

 俺だって人の心を勉強してきてる―――9割ハッター兄貴のおかげなんだが。それでもやるべきサービスがなにで、何時かというのは解っている。流石にこの状況で選択肢を間違える程馬鹿ではないのだから。

 

 

 

 

「一日ぶりだな馬鹿、ヴィクターと過ごした夜は楽しかったか?」

 

「おはよう馬鹿、朝からご挨拶だな。残念だが添い寝だけだった」

 

「え!?」

 

「なんでハイディが一番驚いてるんですか……」

 

「寧ろなんでこのタイミングで襲わなかったんですか!?」

 

「ウチも絶対に襲うと思って昨晩は行かんかったのに!」

 

「2人とも!!!」

 

 朝からイングヴァルト兄妹がやってきた。女子は三人で集まるとすぐにうるさくなった。それを横目に眺めてからクラウスに近づき、軽く拳をぶつけ合った。それだけで俺達の挨拶は十分だった。そう言えば過去も現代も含めて、一番仲が良いのはクラウスなのだがこれはどれだけ時間が経とうとも変わる事はなさそうだなあ、なんて思う。

 

 それからクラウスが此方にメモリーを投げ渡してきた。受け取りつつ軽く窓から差し込む光にかざして眺める。

 

「これは?」

 

「覇王イングヴァルトの手記や記憶、そして過去の歴史を紐解いて俺が徹夜で纏めた古代ベルカ史だ。メジャーな事件、マイナーだけど大局に影響しそうな出来事、或いは要注意人物を一晩で可能な限りピックアップした。お前なら上手く使えるだろう?」

 

 クラウスが用意したものに驚きの表情を浮かべたが、クラウスは何でもないかのように言う。

 

「何を驚いているんだ? お前がこれから帰る場所は俺達が何百年も前に通過してきた過去の世界だぞ? 調べれば資料が腐る程あるんだ。だったら活用できるものを活用しない馬鹿がどこにいるというんだ。チートできる環境にあるのなら存分に使え。使わない奴が馬鹿なだけだ」

 

「はは、言ってくれるじゃん……ありがとうよ」

 

「気にするな。俺の家の過去を面白いものにしてくれればいいさ」

 

「古代シュトゥラに行くような事があればなんかやってみるさ」

 

「期待してる」

 

 具体的に期待されてもキャラバンのスケジュール次第では一切寄らないから全く近づかない可能性だって存在するのだが……まあ、それを語るだけ不毛という奴だろう。とりあえず古代クラウスに出会えたら一発芸か何かを披露しておくべきか。古代のクラウスがこっち程面白い奴じゃなければ良いんだけどなあ。でも古代のクラウスって現代クラウス評だと糞へたれ貧弱カス王子とかいう評価らしいし。それはそれでちょっとエンカウントし辛い。

 

 ま、そんなこれからの話はともかく幼馴染がヴィヴィオを除いて揃ったのだ。と、幼馴染集結で思い出した。

 

「クロゼルグの奴はまた森にいるのか?」

 

「あぁ、めっきり森から出て来ないな。ここ数年はまともに姿を見ないな。それでも定期的に連絡は来るから生きてるのは解るが。とはいえ、アイツもアイツで中々複雑な能力を持っているからな……それに縛られている場合もある。昔からそういうタイプだったしな」

 

「まあ、それもそうか……クロゼルグとも逢えれば良かったんだけどなあ。まあ、流石に突発的だったししょうがないか」

 

 これでも良く揃った方だし。まあ、文句は言えない。

 

 

 

 

 それから最後はどうせなら日当たりの良い場所が良いだろうし、と庭園に出る事になった。元々ティータイムを過ごせるようにテーブルや椅子、ベンチも用意されている。適当に心地の良い場所を探るように座ると、空気は緩む。一番張り詰めた空気を持っていたのはヴィクターだ。だがそのヴィクターも一晩が経過すればだいぶ落ち着いた様子を見せている。恐らく……いや、ほぼ確実に一晩かけて吐き出せた事に意味があるのだろうとは思う。

 

 だから空気は緩い。

 

「しかし古代生活か……禁忌戦争前後の時期は良く小説やドラマになるレベルで有名だからな。歴史家連中が話を聞けば間違いなく羨ましがるだろうな。良く小説でも禁忌戦争に転移して英雄になるという妄想話はされるしな」

 

「良くあるネット小説の流れですね。戦乱だから成り上がりしやすいからという理由で騎士を夢見る人達が良くIF話を楽しんでいますね」

 

「実情知っている側からすると……なあ?」

 

「やれるもんならやってみーやって言葉に尽きるで」

 

 ジークと一緒にうんうんと頷く。あの混沌の極みみたいな環境で無双するだけの能力が欲しいならまあ、うちのキャラバン連中全員ぶっ倒すだけの能力持って来いという話になるんだが。まあ、人類の強さ的にそれは難しいかなあ……とは思わなくもない。

 

「砲撃魔法が撃てるとか、ちょっとエース級だからってだけで絶対に無理だから。今思い出す話だけどさ、首都防衛隊ぐらいのエースでも即死圏内なんだよなあ、あれ」

 

「すっげぇぶっちゃけるけど今のミッドぐらいなら普通に即死祭りやで。ウチのオトンとかはそこら辺を常に想定してるから鍛えるのを止めてないわけで。せめてエレミアに勝てるぐらいのスペックなきゃあの時代では生きて行けないで」

 

「聞いたかシド―――お前死ぬってなぁ!」

 

「嬉しそうに言うのは違くない??」

 

「解りました……子孫をここで残していきましょう!」

 

「お静かに」

 

「何? ハイディじゃ勃たない? ヴィクター並のムチムチじゃないと駄目らしいぞ愚妹」

 

「私を引き出さないでください! 後私そ、そんなに肉付き良くありませんわ!!」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「も、申し訳ありません……」

 

 ジークとハイディに睨まれて一気にヴィクターが表情をしょもぉ、としょぼくれる。まあ、ジークもハイディも別に肉付きが悪いって訳じゃないが、ヴィクターが別格だからそこはしゃーないって感じだ。これを男子の口から言うと間違いなくセクハラで処刑案件になるので、俺とクラウスはその瞬間だけは何も聞こえなかったフリをした。

 

 話を戻すとしよう。

 

「まあ、でも実際誰だって一度は英雄譚に憧れるものだしな。俺はそこら辺、現実見ちゃって無理っぴ……ってなっちゃったけど」

 

「まあ、あれは見てるとどうしようもないって解っちゃうやろな」

 

 俺とジークは現場で禁忌兵器とかのやばさを理解している。その上で絶対にあれを相手に無双するのは無理だと思っている。いや、歴史家やオールドクラスであれば……まあ、何とかなるんじゃないか? とは思わなくもない。あれは強さ的に人類最上位を超えている感じがするし。まあ、考慮するだけ無駄だ。

 

「しかし夢、か……どうだ、シド? かつては騎士を夢見ていたが今は」

 

「いきなりな話だな……まあ、皆が妄想話や夢で英雄になる事を見る気持ちは解るよ」

 

 誰だって騎士になる事を夢見るだろう。そして騎士になったらお姫様を守って結ばれたい、なんて思う事もまあ珍しくはないだろう。現実を知らない奴らだなあ、と言ってしまうのは簡単な話だろうとは思う。現実を突きつける事だって簡単だろう。だけどそれに意味はあるのか? って言ってしまうとそうだ、意味はないだろうと思う。

 

「誰だって夢を見る必要はあるし、誰だって一度は夢を見る。夢ってそういうもんだろう?」

 

「ならもう夢はないのか?」

 

「どうだろうな……夢を見るよりも現実を見る方が楽しいのかもしれないな、今は」

 

 キャラバンの皆がいて、俺に期待してくれる人がいて、ちゃんと手を引いて教えてくれて、俺が自分の脚で立つのを待ってくれている人たちがいるんだ。

 

「自分でやりたい事を見つけて、その為に必要な事が見えてきて……それに向かって進んで、自分の両足で立つ事を覚えるといつまでも見てはいられないなあ、っては思うよ。それよりはやらなきゃならない事がいっぱいで……何時の間にかそれが忙しくて楽しいんだ。そうなってくると夢じゃなくてやるべき事になるかな」

 

 その言葉にクラウスはふむ、と腕を組みながら首を傾げ、

 

「俺が知らないうちに育っていると何か、少し寂しく思うな」

 

「俺はお前の息子じゃないんだが」

 

「まあ、でもシドはようやっとると思うで。前まであった甘えみたいなもんが無くなってるし」

 

「甘え、か。まあ、甘えてたかな……」

 

 俺だってまだ16歳だ。人生の全てを知っている訳じゃないし、もっと深く世の中に絶望している人間だっているだろう。だから強く何かを言う事は出来ない。だけど自分の中で自分の心と自分の環境に対して結論というべきものは出来上がってきている。

 

「夢、見るのは止めちゃったかな」

 

 騎士の夢を見るのは止めた。

 

 俺は夢を見ている暇なんてないから。

 

 それに、

 

「師匠が言ってたんだ」

 

 騎士とは何か、と。

 

「貴族としての称号とか、役職としての騎士はあるけど―――本当に騎士と呼ばれる人たちは誇り高く、名声等に頓着せず、守るべき人を己の身で守り通すからこそ騎士と呼ばれるんだって。だったら、まあ、本当に騎士って呼ばれるのは別に良いかなって」

 

 そう言い切るとはあ、とハイディが溜息を吐いて笑みを浮かべた。

 

「本当に、変わりましたね」

 

「変わりたいと思った。変わろうと思った。なら自分から踏み出すしかないんだ。変わろうと思って助けてくれる人たちがいるんだ。だったら俺自身が踏み出さないでどうするんだ」

 

「本当に、格好良くなりました。えぇ、これでお別れだと思うのが本当に残念です……」

 

「……あぁ」

 

 そうだな、これでお別れだと思うと本当に残念だが、

 

「―――時間切れだ、坊主」

 

 庭園を舞っていた花弁が時と共に停止した。優しく肌を撫でていた風の感触も止まる。全てが静止し、止まった時の中を1人の老人が歩いてやって来た。その姿を見上げながら溜息を吐いた。

 

「もうちょっとさあ」

 

「こっちにも事情があるんだよ。ほら、帰る前に行く場所があるから行くぞ」

 

 そう言うとオールドは軽くこっちに来い、と手招きして屋敷の外を目指す。此方を待つ事もなく歩きだしたオールドの姿を数秒程眺めてから立ち上がり、前に踏み出す。数歩進んだ所で足を止め、振り返る。

 

「……じゃあな。いや、行ってくる。またな」

 

 ばいばい。

 

 口に出す事無くそう言葉を零し、オールドを走って追いかける。

 

 もう、この懐かしい時間も終わりだ。




 守るからナイトではなく守ってしまったからナイトなんだなー。かっこいいたるー。
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