織斑一夏護衛任務一日目。まずは顔合わせだ。というか、織斑千冬の目が怖い。
これは慎重になる必要がある。
「今日から君の護衛をすることになったキャノンだ。よろしく頼む」
「は、はぁ」
この顔は分かっていないな……というか、こんなに馬鹿っぽい顔をするとは思わなかった。なんか、頭の中で描いていたイメージと違うな…………
今の織斑の顔だが具体的には、黒の覆面を見てくだらないシャレを考えている感じだ。
「シャキッとしろ」
「アポ!?」
「叩きすぎじゃないですか?」
「むしろこのくらいが丁度いい」
「……一体、いくつの脳細胞がご臨終することやら」
すこし、肩をすくめる。まだ襲撃は無いが、のんきに構えている場合ではないというのに。
少なくとも、ただ一人の男性IS操縦者ってことを覚えていて欲しい。まあ、周りも最近はその重要性を忘れ始めている、というか慣れ始めている。このクラスメイトなんて特に。
学校全体を見ても、物珍しいとは思っているがとくに騒ぐ様子もない。
女尊男卑自体、優秀なIS操縦者を自発的に志願する状況を作りたい側面が強いからな……IS学園ともなれば、性格面でのチェックも厳しいだろうし、一部の代表候補生を除けば性格は温厚だろうな。
それに政府上層部や、過激な人権団体、その他もろもろがおいしい汁をすすりたいってのもあるか。まあ、長続きはしないな。
と、そんなくだらないことは置いておいて、まずは彼との話を進めよう。
「先日のIS襲撃事件、ドイツのVTシステムなど君を狙っている可能性が高い事件が立て続けに起こったからね、国連やIS委員会の方から護衛をつけることになったんだ」
「そうなんですか」
「……事態の深刻性を理解していないね」
「そんなことは無いですよ」
なら、なんで棒読みなんだよ……ツッコミを入れたいが、我慢だ。我慢。
ここで暴走したらコスモやガイアがしてくれた準備が無駄になる。あと、コインがちゃんと留守番できているか心配だ。
「護衛など必要ない。なぜなら嫁を守るのが夫の仕事だからだ」
「ッ…………君の素行調査は終えているから、引き離すとか退学とかは無いけどもね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。さっき俺が言ったことを思い出して欲しいんだが……」
「ど、どういうことだ!?」
この人、こんな性格だったか? というか軍人……だよね?
ここまでくるとあきれるよ。噂には聞いていたけどラウラさんの一般常識を嘆けばいいのか、織斑一夏のフラグ建築能力を嘆けばいいのか。
あ、どっちにしたって嘆くのか。
「お前はいいから席に着け。授業の邪魔だ」
「で、ですが教官!」
その瞬間、出席簿が一閃。織斑一夏以上に速度が出てラウラさんの頭に超エキサイティング! 失礼、少し取り乱した。
「VTシステムの件は少なからずお前にも責任はあるんだ。自重しろ……あと、織斑先生だ」
「はい、織斑先生」
◇◇◇
今日の予定は、不審者と思われないように全クラスへの顔出し。とりあえず手の早い大和撫子? と英国淑女――セシリアさんは俺のことを不振がっていたが……まあ、いきなりこんな覆面男がきたらそりゃ、不振がるよな。
だけども、なんであんなに警戒されていたのやら……ああ、織斑一夏が「どっかで会ったことないか?」とか言い出したからか。
そういえばデュノアがいないけど……どういうタイムテーブルだったか…………あ、女子だとばらしたから書類手続きで少しの間いないのか。
もうすぐ臨海学校もあることだし、コスモの調整をしておかないと……
「…………」
「あらぁ? お兄さんIS学園で何しているの?」
「生徒会長、更識楯無か。自分はキャノン。織斑一夏の護衛として派遣されてきた者だよ」
「ふーんあなたが……」
少し、考え事をしていたらいつの間にか背後に誰かが立っていた。まあ、すぐに分かったが。
見るからに胡散臭いんだが、この会長……データによると、一部教師を除いた最強の人物。まあ、一部っていっても世界最強とかの規格外を除いた場合だが。
すでにロシアの国家代表か。さてさて、また厄介なのがでてきたけど……
「スイマセンが、今日は全クラスへ顔を出さないといけないのでコレで」
まあ、そういえば諦めてくれるだろ。仕事を邪魔するほど非常識じゃ――
「あら? 何処へ行くのかしら?」
――非常識だったよオイ。というか、ISの武装を突きつけるとか……
「言ったでしょう? 職業柄、この覆面は外せないのでこの格好でも分かってもらえるように全クラスへ顔を出すんですよ。ですので、あまり時間が無いんです」
「へぇそうなの。でもね……仕事が理由というよりは、個人的に顔を見られたくないって感じなんだけどなぁ……お姉さん困っちゃう」
「――勝手に困ってろ」
流石に、我慢できない。コイツは危険だ。学園最強ってのも間違いじゃないだろうけど、だからこそ今後の脅威に対して先陣を切る可能性がある。
下手に情報を渡すわけにはいかないのに、護衛対象に含まれてしまうとかそれ嫌過ぎる。
よって、とる手段はただ一つ。
「負け犬上等ォォォ!!」
「なッ!?」
窓から飛び出して、腰につけていたロープで別の窓へ移動。そして、ダッシュ。
負け犬と言われようと何だろうと、戦略的撤退も時には必要です。
◇◇◇
一周まわってきて、最後に1年1組へ戻るつもりだったので、1年2組を最後にした。色々まわったが、男性教師も少ないし俺という男性へ興味津々だったようだが、正直動物園のパンダの気持ちが分かった。あれは、ただ単に物珍しいという視線だ。慣れてくれば平気だが、最初のうちは胃に悪い。
「さてと……ついにきたか」
2組。凰鈴音が在籍しているクラス。すでに護衛対象に含まれていることだし、出来ればおなじクラスにまとまっているのが望ましいんだが……贅沢は言えない。
覚悟を決めて、教室へ入る。すると、視線の雨が俺を貫く。正直帰りたい。
「えっと、どちら様?」
「今日より、織斑一夏君の護衛として配属されたキャノンです。職業柄、本名と素顔を明かせないのでこのように全クラスへ顔出しをしている次第です。では、失れ――」
「一夏の護衛ぃ?」
「――ッ」
「なに? どうしたのよ」
話しかけてきたのは……凰鈴音。
流石に、対面するのは少しなぁ……そこまで考えて、小さく深呼吸する。
そう、関係ない。気にするな。目的を果たす。それだけ、それだけ……
「いえ、彼の周りの代表候補生も狙われる可能性があるので顔を拝見しただけです。もちろん、他の生徒の警護も自分の仕事ですので。では、これにて失礼します」
「んーどっかで会ったような」
その言葉を言い切られる前に、俺は教室を出た。
すこし、足取りは重かった。
その後は1組の教室へ戻り護衛任務を続けた。
……何か忘れているような気がしたが、気のせいだろう。うん。
◇◇◇
「また会ったわね」
「そうだよ、コイツのこと忘れてたよ」
「あら、素の口調ね。打ち解けてお姉さん嬉しいゾ」
「思ってもないことを言うなよ……で、なにが目的だ?」
「あらぁ? 私としては、外部から干渉されないIS学園があなたのような護衛というエージェントを入れていることに疑問を覚えたんだけど?」
「役職上は清掃員だ。護衛が本業だけどな……アンタも似たようなもんだろ? 更識家の楯無さん」
「……そこを突かれちゃうと痛いわね」
コスモから送られてきた追加の資料に、更識家のことが書いてあって助かった。
さっき送られてきたばかりなのにネタがタイムリーでビックリしたけど。
あいつ、こっちをモニターしながら一番面白いタイミングとかはかっていないよな?
「でも、ならなおさらその覆面を外したいわね」
「セクハラで訴えるぞ」
「このご時勢なら私の方が勝つわよ?」
「……さて、どうかな? 結局は政治家の都合だろ」
言い争いは平行線。お互いに相手の尻尾を掴むために化かしあう。
はぁ、俺ってこんなん苦手なんだけどなぁ……コスモを連れてくるべきだったか。
と、そんなことを考えている時だった。
「な、なに!?」
「地震、いや……襲撃か!」
IS学園がゆれた。ただのゆれじゃない。同時に何かが壊れるような音が聞こえてきたのだ
これは、まさか……初日でいきなり来るとかサービス精神旺盛だなオイ!
「更識! 俺は任務に戻らないといけない……流石にこの状況で言い争うつもりは無いよな」
「もちろんよ、いくらなんでもこの状況でそんなことするおバカじゃないわ」
(正直、お前のデータを見るとおバカ要素満載なんだが……言わないでおこう)
妹のこととか妹のこととか。あと妹のこととか。
もちろん、そんなこと小声でも出さないで俺は1組の方へ向かう。
会長さんは音のしたほうへ。いくらISでも俺の予想通りの相手なら勝ち目はない。
織斑の安全を確認次第急いで助けに行く必要があるな……
だけど、神様は俺のことが心底嫌いらしい。
「あ、キャノンさん! 織斑君が音のしたアリーナの方へいってしまって」
「あのバカはなにしてやがりますか!?」
正直、この護衛任務、ほかの誰かに任せたほうがよかったかもしれない。
◇◇◇
「な、なんだよ……あの怪物」
織斑一夏の目の前には、一体の怪物がいた。いや、怪人と言ったほうが正しいのかも知れない。
形は人型。だが、その表面は鱗のようなものに覆われ、顔はまるで魚のようだ。
「ウゴァアアアアアアアアアア!!」
褐色の体に嫌悪感を抱く姿、アリーナのバリアを突き破ったことといい、そいつがクレーターの中央にいることといい、嫌な予感しかしない。
「でも、やるしかないか……」
「いや……そうはいかないんだ」
「なっ!? キャノンさん、ここは俺に任せてさが、て……」
一夏は言葉を言い切ることなく、寝息を立て始める。
キャノンは一夏を受け止めると、ピットの中へ放り込む。
その右手には、鼻ちょうちんを膨らませた狼のようなデザインを施された指輪がついていた。
「さてと、ここから先は企業秘密。なんとか会長も眠らせられてよかったよかった。じゃあ、コスモ……情報改竄よろしくな」
『相変わらず、扱いが荒いです。まあ、やりますけどね……一人で大丈夫ですか? ガイアなら間に合うと思いますが』
「いーや、平気だ。みたところ下級のホムンクルスだ。俺一人でも十分だよ」
そういうと、キャノンはベルトに右手を当てる。織斑千冬と最初に会話した時とは違う指輪をつけて。
《ドライバーON!》
「さあ、いくぞ……錬金開始だ」
よこの摘みを動かし、いつの間にか、手のマークが書かれていたベルトが大きくなったもの――アルケミードライバーを作動させる。
《シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!!》
「変身!!」
摘みにより、右手対応だったドライバーが左手対応になっていた。
そこへ、左手の中指に付けられていた指輪を当てる。
色は薄い水色。トルコ石のような丸い石がはめ込まれている。
《フロスト! ヒョウヒョウヒョウ! ヒョウヒョウヒョウ! ヒョウヒョウヒョウヒョウヒョウヒョウヒョウ!!》
三三七拍子のような不思議な音楽が流れ、辺りには冷気が立ち込めてきた。
そして、キャノンの目の前に魔法陣が現れる。それが、自分の身体を包み込み姿を変えていく。
白に近い薄い水色と黒のカラーリング、顔の部分は指輪と同じデザインで、金属パーツで目のようなバイザーのような部分を作りだしていた。
鎧とは違う。ローブのようだが、そのデザインは学者が着るものに近い。
「カ、メン、ライダー?」
「ああそうだ……俺は仮面ライダーアルケミスト。錬金術師だ!」