そんなことは、分かっているんだ。   作:uparu

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第6話

小町が病室を出てしばらく。小町が持ってきてくれた本をぺらぺらと捲っていると、不意に枕元にあるスマホが着信を知らせてきた。

 

 

……きたか。さて、何を言われるやら……

 

 

骨折を免れた右手でスマホを手に取り、通話ボタンを押す。

 

 

『あーもしもし八幡?母さんだけど。今いい?』

 

「おう、大丈夫」

 

 

 

いつもより少し焦りを感じる口調だ。職場から電話しているからだろうか…聞こえてくるザワザワとした環境音も相まって、一層余裕の無さを感じさせる。母さん、メチャクチャ忙しいだろうに…それでもやっぱり、すぐ電話してきてくれるんだよな。別に急がなくていいのに…。

 

 

『…ん?あー…。ゴメン八幡、ちょっとだけ待って』

 

 

俺がその言葉に返事をする間もなく、電話の向こうの母さんの気配が遠くなる。…てか母さん、ホントに電話してて大丈夫なのかこれ?なんか、怒号が飛び交ってるように聞こえるんですけど?

…あ、いま母さんが指示出してるっぽいな。こんな様子じゃ、長電話するなって小町に怒られるのも無理ないわ…申し訳ねえ…。

 

 

 

『…ふぅ。ゴメンねこっちから電話したのに。もう本人から聞いたと思うけど小町、食事会やるって。だから後は任せなさい』

 

 

戻ってきたと思ったらまた俺の言葉を待たずに、いきなり本題。そして至ってシンプルな報告。さらに「後は任せなさい」ときた。俺に余計なことは言わせない…そんな意思を感じる。仕事が忙しいから手短に…というわけではなさそうだ。これ以上は譲歩できない、おとなしくしてろ…きっと、そういうことなんだろな。

 

 

「………分かってるって。サンキュ、母さん」

 

『…返事にだいぶ間があった。アンタ、ホントに分かってんの?』

 

「分かってるって」

 

 

…まあ仕方ないか。それだけの心配を掛けてしまった自覚はもちろんある。それにしても…さっきは仕事が忙しくて焦ってるのかと思ったけど、何か違う気がする…もしかして母さん、テンション高い?…イヤな予感がするんですけど。

 

 

『んー…でもアンタ、ズルいからねぇ。お父さんの若い頃そっくりで』

 

「いやズルいって言われても…俺動けないし、何もしてないと思うんだけど。準備はずっと母さんとオヤジに任せっきりだったし。あとオヤジそっくりとかやめてくれ。将来社畜になりそう」

 

『何も、してない…?アンタ本気で言ってんの?小町のためにあんな食事会企画しといて。入院初日だったってのにそれを寝ずに考えて。翌日にひっどい顔しながら、心配してる親に向かって色々頼みごとしといて。それからも手術も控えてたってのにロクに寝ずに食事会を成功させることばっかり考えてたでしょ。今から社畜の素養十分過ぎるのも心配だわ。お父さんもそう言ってたわよ』

 

「………。」

 

 

……ぼく…夢は専業主夫なんですけど…現実はボッチだ何だ言いながら進学して就職して、結局ボッチのまま社畜道に堕ちるんだろなと思ってます。エリート社畜の両親に、こんなに早くお墨付きを頂けて光栄です。フヒ。

 

不用意な発言のせいで長々と捲し立てられた結果、ぼくはスタンと混乱の状態異常にかかってしまいました。それを察してか、母さんは更なる追撃を仕掛けてくるようです。予測可能回避不可能。通常攻撃が状態異常攻撃で連続攻撃のお母さんは好きですか?(白目)

 

 

『…ねえ八幡。結局、なんで小町のためにそこまでする必要があったの?いくら小町のことが心配でも…いくら小町が頑固で分からず屋でも…こんなやり方、普通じゃないでしょ?母さんたちじゃダメだったの?』

 

「いや、ダメって言うか…俺は別に小町のためというより、自分の合格祝いのために用意してもらった一級品の食材がキャンセルされてしまうくらいなら、それらを使って小町らに料理してもらって食べてもらったほうが、小町の料理レベルが上がって今後俺もさらに美味いメシが食えるし、あわよくば、その食事会で作った料理のおこぼれにも与れるかもと思っただけでだな…」

 

 

…この質問は想定内。よかった即答出来る質問で。我ながら長いだけのゴミすぎる回答で惚れ惚れする。小町命名「ごみいちゃん」を、甘く見ないでいただきたい。

 

 

『…ふーん。へぇー。やっぱり何にも教えてくれないのね。ズルいわー。母さん傷付くわー』

 

「…や、教えるもなにも……あ、そういや仕事、そろそろ戻ったほうがいいんじゃね?」

 

『んー?そうだねぇ…まだ大丈夫。八幡?もしかしてぇ…逃げたかったの?まだまだ逃がさないよー?』

 

「なっ……」

 

 

…なんだそれかわいいなオバチャン。まあ、うちの母さん年のわりに童顔で、割と冗談抜きでかわいいとは思いますけどね?小町も母さんそっくりだし、将来あんなふうに…ってダメだ!小町はあんな酔っ払いにはさせない!今のだって、家で酒飲んで俺にウザ絡みしてくるときのセリフだからね?ってか母さん、なんでそんなにテンション高いの?ふしぎなタンバリンでも使ってんの?そのテンションは想定外なんですけど?俺、どうすりゃいいのん?

 

母さんの謎のハイテンションに気圧され、まごまごしてしまっているのを自覚する。想定外過ぎて言葉が出てこない。まごまごする…まごまごが加速する!さまようたましいになっちゃう!

 

 

『ねえ八幡。この際聞いとくけど…小町の誕生会でアンタ、何やらかしたの?』

 

 

思わずビクッとしてしまい、一昨日手術したばかりの右脛に鋭い痛みが走る。まごまごしてたらやっぱり3撃目が来ちゃったじゃねえか!

 

 

「…いや、やらかしたって…何にもしてないと思うけど。そもそも俺、出てないし」

 

『それがダメだったんじゃないの?小町、今年の誕生会は八幡の高校合格祝いも一緒にやるんだって張り切ってたけど、結局アンタ出席しなかったでしょ。アンタが事故に遭った後はともかく、その前から小町の様子が少しおかしかった原因、そのへんにあると母さんは思ってるんだけど。小町に訊いてもはぐらかされて、教えてくれないのよね…』

 

「…………。」

 

『あ、勘違いしないでね。言い方はアレだったけど、八幡が悪いって言ってるわけじゃないの。八幡にだって、どうしてもイヤなことはあるでしょ?母さんにだって、お父さんにだって、もちろん小町にだって…どうしてもイヤなのとはあると思うもの。ただ、小町が落ち込んでる原因が分からないとね…』

 

「……そうだな」

 

 

…ほんとに、母さんはズルい。いつでも平等に…俺や小町、オヤジのことも見てくれる。当たり前なのかもしれないけど、俺にとっては、本当に…涙が出るほどに嬉しいことだ。

 

俺の所為にするのは簡単なはずなのに。誰がどう考えたって、俺が小町の誕生会に出席して、一緒に「祝い」をしなかったことに原因はあるのに。その後の小町の態度からも、それは明らかなのに…。

 

今ほど露骨じゃなかったけど、小町の様子がいつもと違うことには、周囲の人のほとんどが気付いていただろう。それが小町の誕生会が終わったあたりからだということも。元凶である俺なんか、1週間以上小町に無視されてたし。あれは本当に地獄だった…。一応、両親が居る前でだけは俺に反応してくれてたんだが…事務的過ぎて、無視されるより辛かった。あんな小町見たら、小町が何も言わずとも、何でもないと言い張ろうとも、事情を知ってる人間ならすぐに理由を察することができてしまう。

 

でも、母さんはそこは問題ではないと言う。嫌がる俺に出席を強要した小町にも非はあるのだと。きっと、小町にも同じような話をしたんだろな…。

 

 

 

……けれど…やっぱり全部俺が悪いんだよ、母さん。

 

だって俺は、小町のお兄ちゃん、なのだから。

 

 

どんなに理詰めで俺の正当性を主張してくれても、どんなに正論で擁護されても……やっぱり俺は、小町の「お兄ちゃん」でありたいんだよ。妹を甘やかせるのは…妹の理不尽な我が儘に付き合えるのは…お兄ちゃんの「特権」なんだぜ?放棄してたまるかよ。

 

…小町は小町で…母さんに何も話していないようだ。本当に…何も。だったら、母さんには悪いけど…俺も話すわけにはいかない。と、言うか…俺はそこに踏み込むことを許されていない。小町の…大切な妹の、どこまでもまっすぐな願いを踏み躙ってしまった俺なんかが、踏み込んで良いわけがない…。

 

それに、厄介なことに…いま小町があんな状態になってしまっている理由は、小町の誕生会を巡る一件だけが原因、というわけでもない。

 

 

 

むしろもう一つの件のほうが間違いなく、小町にとって……

 

 

 

『……ちまん…ちょっと八幡!聞いてるの?どこか痛むの?』

 

 

………。母さんに時間割いてもらってるのに、俺がぼーっと考え事して心配させてどうすんだ。

 

 

「…ごめん、大丈夫だ。聞いてる」

 

『ならいいけど…気分が悪くなったらすぐ言うのよ?』

 

「や、だから大丈夫だって」

 

 

…さっさと話戻さないとな。

 

 

「あー、いくら俺の合格を祝ってくれるからって、女子が集う小町の誕生会に俺が出るとか絶対ムリなのは、母さんも分かるだろ?小町だって当然分かってくれてるし、俺が出席しないのは想定の範囲内だろ。毎年そうだったんだから。そこまでショック受けることか?」

 

 

…こんなの、大ウソだ。今年に限っては。…でも、ああ言っとけば大丈夫なはず。

 

 

『…問題は、何故今回に限って、ってとこで…八幡の合格祝いは、小町にとってそれほどまでに重要なイベントだったのか、ってとこなんでしょうけど…ま、いいわ。小町が教えてくれないことを、八幡から聞けないしね。八幡も言わないだろうし。なんたってズルいからねえ八幡は』

 

「あーそうですね、どうせ俺はズルいですよ」

 

 

……恐ろしいまでに鋭い…けど、チャンスだ。このまま流れでごまかし……

 

 

『やっと認めたわね。八幡は色んなズルさを使い分けるところもズルいのよねー。今のもズルかったし』

 

「……は?…や、そんなこと……」

 

 

……あーそういえばさっき、小町も俺のことズルいって呟いてましたねー。これ女子の間で俺の悪口で盛り上がったやつだわー。「はちまんくんって、ズルいよねー」「そうだよねー」ってやつー。悪意は微塵も無いけど。母さんは女子じゃないけど。…それと、小町は俺に聞かれてないと思ってるだろうけど。俺もああいう時は聞こえない難聴系主人公になりたかったのになー。なんで俺、物音に敏感なゾンビになっちゃったのん?

 

 

『ふふっ…。八幡、あとは皆に任せるんだよね?…今からは、自分の怪我を治すことだけ考えなさい。…いいわね?』

 

 

散々遊ばれ見透かされ、軽く凹んで現実逃避していた俺の耳に、一転して幼子に言い聞かせるような優しい声が届く。電話口の向こうから聞こえていた職場の喧騒が、そのときだけは聞こえなくなったような気がした。

 

 

「……うす」

 

『…あのね、八幡。色々と言ったけど…母さんね、久しぶりに八幡が頼ってくれて嬉しいの。あと今回、アンタが自分以外の誰かに「任せる」って決めたことも…ほんとに、嬉しいのよ』

 

「………。」

 

 

テンション高かったの、それでかよ…。やっぱズルいわ、母さんは。

 

 

『…ただ!もうこんなムチャなことはやらないこと!いいわね!今度やったら…(むし)るから』

 

「む、毟る!?何を?ねえなに毟られんの?」

 

『うふふ…さぁ?何だろねぇ?』

 

 

…ヤバい。ヤツは本気だ。なんかゾクゾクしてきた。…変態か俺は。

 

 

『…ああ、それと申し訳無いけど、これからまたちょっと忙しくなると思うから八幡のお見舞い行く時間減っちゃうかもしれないけど…着替えとか必要なものは小町に持ってってもらうように頼んどいたから。ちゃんとお礼言いなさいよ』

 

「……おう」

 

 

小町に、お礼……か。まったく…母さんのほうが俺の万倍ズルいじゃねえかよ。

 

 

『…さて!そろそろ仕事戻らないと。小町にも怒られたし…じゃ、またね。今日からは、ちゃんと寝なさいよ』

 

「…はいよ。電話、忙しいのにごめんな」

 

 

 

通話を切って、窓の外の夕景を眺める。小町はもう家に着いただろうか…しかし入院してから、こうやって黄昏ることが多くなったなあ…黄昏ると言っても俺の場合、端から見たら物思いに耽っているというより、目の前にある終わりに刻々と近付いているように見えるらしい。…そっちの黄昏じゃないからね?看護師さん、黄昏てる俺見て「ひっ」とか言わないでね?…確かに、目は黄昏済みですけど。

 

 

「はぁ…」

 

 

…やっぱり、母さんには敵わなかったか。これだけコテンパンにやられたのは何年振りだろな…。だから母さんに情報を与えるのは怖いんだよ。頼りたくなかったんだよ…。ヘタすりゃ、俺の…絶対に知られちゃいけないことまで知られてしまって…傷つけてしまうかもしれないから。でもまあ…今の俺には他に方法も、時間も無かったしな。こんなのは今回だけだ。今回だけ……

 

 

 

「今回だけ…今回だけは、一緒に……か。」

 

 

 

(『この前のだってそう……』)

 

 

さっきこの病室で小町が少しだけ口にした言葉と、その時の翳った表情が頭を過り、俺は思わず独りごちた。小町は、『この前』の…誕生会のことを、そのときに一緒に出来なかった俺の祝いのことをずっと気にして、今も引きずっている。当然だが、母さんにもずいぶん前からバレバレだった。

 

けれど小町は皆にバレているのを承知の上で、それでも今も取り繕うことを選んでいる。誕生会のことを出来る限り話題にしないようにまでして。小町のためにたくさんの友人が集まってくれて、心から祝福してもらったはずなのに…去年までは毎年、その時の様子を楽しそうに話してくれていたのに…。

 

なぜ小町がそんなふうになってしまっているのか…理由は簡単だ。今いちばん大変な目に遭っていて、誰よりもケアしなければならないのは俺だと、小町の中で優先順位が確定してしまっているからだ。

 

誕生会の件も、そして…あの雪の日の公園でのこと、俺が入院した日のことも…まだ引きずってるけど、そのことを考えてしまうと気分が落ち込み表情にも出てしまう。周囲にそんな自分の姿を見せてしまうことで、皆に心配を掛けるわけにはいかない。とにかく今は、自分がしっかりしなければ…そんなふうに小町は思っているのだろう。それで、一応何事も無いかのように隠してるつもりなんだろうけど、小町、分かりやすすぎるんだよな…。その姿がかえって痛々しくて、周囲は何とかしてあげたいと思うんだけど…それでもこういう時は、自分のことは後回し。それを頑として譲らない…それが小町だ。

 

だから今回、俺が企画した食事会に小町を出席させるのにも、伝え方やタイミング…その他諸々、細心の注意を払う必要があったんだよな…考えるの、苦労したわ…。

 

 

『お兄ちゃんが入院して大変な時なのに何言ってんの?小町だけ友達と楽しく食事会とかムリ』

 

 

……とか、普通に言いそうだし。てか、何の策も無く小町に食事会のことを伝えたら、間違いなくこうなってただろな。…ほんと、厄介な妹だ。

 

…一応、こんなことになってしまう前…俺が事故で入院する少し前、小町に立ち直りの兆しはあった。少しずつだけど、小町にいつものような自然な笑顔が見られるようになってきていた。きっと、両親と…小町の友人たちのお蔭だったのだろう。誕生会のことも、少しずつ両親に話すようになっていたようだ。俺には全く、何も話してくれなかったけど…。うう…。

 

……俺が事故に遭った…いや…事故を起こしてしまったのは、そんな時のことだった。俺は大怪我を負い、一時は意識すら失い、入院し…そして家族が、小町が居る自宅には3カ月も帰ることが出来なくなった。小町が今のような状態になったのは全部、俺の所為だ。誕生会の一件で小町を傷付け…それでもやっと立ち直ろうかという時に、俺が酷く傷を負った姿を小町に見せてしまって…またあの日のことを…あの公園でのことを、小町に思い出させてしまった…。

 

 

 

 

(『ねえ!どうして!……どうして…おにいちゃん……』)

 

 

 

(『どうして!どうしていつも…お兄ちゃんは……』)

 

 

 

 

……なにが「傷つけたくない」だ。

 

そのための俺の行動はいつも、大切な人を…家族を、逆に傷付けてしまってばかりじゃねえか。

 

 

でも…俺が本当のことを言えば、全てを曝け出してしまえば…小町や両親…大切な人たちが、もっと傷ついてしまう。それこそ、取り返しのつかないほどに。

 

俺はどうすれば良かったんだ?小町の誕生会のときも、今回の食事会のことも、事故のときも、入院した日のことも、そして…あの日…小町が家出した日のことも。誰も傷つけないで済む方法が…もっと上手いやり方があったのか?

 

 

 

……誰か…誰か、教えてくれよ…。

 

 

 

……ダメだ。最近気が付くと、この思考に陥っている。ボッチが人に頼ろうとするな。今回、両親に頼ったのは、それしか方法が無かったから。今回だけ…今回だけなんだ。

 

思考を振り払うように、5階の病室の窓から見える夕景に意識を向けた。真っ先に目に飛び込んできたのは、夕陽に染まる桜並木の道。そこに幼い兄妹、だろうか…手を繋いで歩いているのが見える。

 

……あの妹ちゃん、落ちてくる桜の花びらが気になるらしいな…綺麗だもんな。兄が手を引いて、時々立ち止まって頭を撫でて言い聞かせながらでないと、ちゃんと歩いてくれないようだ……暗くなる前に、妹を家に連れて帰るんだぞ?千葉のお兄ちゃんならできるはずだ。

 

 

 

――あの子たちなら、答えを知っているのかもしれない。

 

 

 

ふと、そんな考えが頭を過った。何故なのかは分からない。振り払ったはずの思考が戻ってくる。ずっと前に、どこかに置いてきてしまった何かを見つけられそうな気がして、見知らぬ幼い兄妹に目を凝らす……

 

 

「痛っ!」

 

 

不意に右足に激痛が走った。無意識に少しでも窓に近いところで見ようとして、ベッドの上で無理な体勢になってしまったようだ。いってぇ……

 

 

………。ふぅ。なんとか痛みは引いてきたな。まったく、何やってんだか。

 

気を取り直して、再びあの兄妹を見ようと窓のほうに目を向けた。

 

 

…しかし今度は、窓に映った腐った目の男に視線を奪われ、思わず固まってしまった。まるで鏡に映った自分の目を見て石化するメドゥーサみたいだ。こんなこと小町に言ったら「お兄ちゃんはフランケンでもメドゥーサでもなくてゾンビでしょ」とか言われるんだろな…いや、石化といえばアナコン○ィだぞ小町。ぷいきゅあ、がんばえー。…そもそも両方、男じゃないけど。

 

 

「はぁ……」

 

 

自分のアホな妄想に今日何度目かも分からない溜息を吐きながら、窓に映った腐った目の男から目を逸らす。そして今度こそあの兄妹を見ようと、窓の外の桜並木の道に目を向けた。

 

 

 

変わらず穏やかな夕陽が射すなか、散りゆく桜の木々だけがゆっくりと風に揺れている。

 

 

 

 

兄妹の姿はもう、見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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