大変おまたせしました。
……なんだ、これ。
白銀だった神機の刀身が黄金に輝いている。
外部居住区で暮らしてた頃、アラガミに襲われた時に防衛班のシュンさんがなっていた状態に近い。しかし、その時は微かに光が出ているようなものだった。
こんなにも綺麗に輝く様を見るのは初めてだ。
「それが榊博士が言ってたやつか」
俺の神機を見て、リンドウさんが煙草の紫煙を吹かして言う。
「なんですか、これ……」
「知らねぇのか? あ、そうか。実戦の直前に調整が終わったんだっけか。なら知らねぇよな」
リンドウさんは自分一人で得心がいったようにうんうんと頷く。
「知っていると思うが、俺たち神機使いは捕食した時にバースト状態になる」
バースト状態。訓練時にリッカさんに教えてもらったあれか。
捕食した際に体内のオラクルが活性化し、身体能力が向上するといったものだ。
「それを応用したものがお前さんの神機だ」
言葉を切って、彼は得意げな顔をする。
その先の言葉を待っても煙草を加えた口からはなにも紡がれなかった。
「え、それだけっすか」
「細かいことは俺にはわからん! リッカやサカキ博士にでも教えてもらってくれ」
「えー! もっと聞きたかったのに!」
話を聞いていたユウがリンドウさんに詰め寄った。そんな彼女にリンドウさんは飄々とした態度でかわす。
「ま、わかりやすいことを言うとだ。訓練中の威力って言ったら、わかるか?」
ふーっと煙を吐いて、彼は俺の眼を見た。
要はバースト時にリミッターが解除されるというわけだ。
訓練場の壁に穴を空けるほどの威力を誇るチャージクラッシュがバースト時限定で撃てる。その他に、先ほど使ったライジングエッジも、バースト時なら尻尾だけではなく胴体を真っ二つにできるだろう。
「え、なんのこと? リンドウさん! なんのことですかー!」
「お前さんはこの任務終わったら、銃身をショットガンにするんだろ? そのことだけ考えてなさい」
「教えてくださいよー!」
駄々をこねる子供をあやすように、リンドウさんはユウの頭をわしわしと撫で回す。
あはは、と俺は撫で回されるユウを見て笑った。
そうか。ショットガンの運用試験は彼女がするんだ。
遠目で見ていた感じ、ユウは近接戦を得意としている。ショットガンという近距離で扱う銃身とよく合うのかもしれない。
そうしているうちに、バースト状態が切れたのか刀身の光が消え失せた。
『リンドウさん! 付近にオラクル反応が出現しました。反応から見て、中型種です』
ザザッ、という無線特有のノイズが走りながら、ヒバリさんからの通信が届いた。
「わかった。新人たちに戦わせるが、いいよな?」
『構いません。中型種一体なので、油断さえなければ大丈夫だとツバキさんからも許可が降りてます』
「姉上からのお墨付きかぁ。これはいいねぇ」
そう言ってリンドウさんは、煙草の灰を落とす。
無線を聞きながら彼は俺とユウを見て頷いた。
「よーし、シドウの神機の試し斬りにいっちょ中型種をしばきに行くかぁ!」
「そんな軽くでいいんすか……」
「いいんだよ。危ないようだったら俺がいる。それに、カバーにユウをつけるしな」
リンドウさんの言葉にユウは、金髪を揺らしてムンとガッツポーズを決める。
「まっかせて! シドウのことは、あたしが守るよ」
「無駄に声を低くするな」
任せたいのに任せたくなくなるようなことを言うな。
『オラクル反応は旧市街地の中央区にあります。お気をつけて!』
ヒバリさんがそう言って通信を切った。
俺たち三人は頷き合い、即座に行動に移した。リンドウさんを先頭に陣形を組み、三角形になりながらオラクル反応がある方向へ走る。
ゴッドイーターになってから、こうして走るのは何度もある。訓練の時は体力の限界まで走り込んだが、ゴッドイーターになってからは常人の時と比べて体力が有り余るほどになった。
オラクル細胞によって筋肉を活性化させて、より速くなり目的地への到達時間が縮まったのも大きい。
しばらく走り、中央区へ辿り着いた。
俺たちが走っていた時間はそう長くはなかったが、中型種の近くに小型種も数体現れたようだ。
「俺は小型を叩く。シドウは中型種。ユウはシドウのカバーをしてやれ」
建物の影に隠れて、俺たちは中型種と小型種を観察する。
中型種の種別は、コンゴウ。背中に硬いパイプに似た器官を背負った霊長類に似たアラガミだ。
リンドウさんの指示に俺とユウはこくりと頷く。
「行くぞ」
煙草を地面に落とし、リンドウさんが先陣を切った。
続けて俺、ユウが神機を担いでコンゴウへ疾駆する。
ガアァァ!
コンゴウがその太い腕を地面に叩きつけ、視界に入った俺たちに向けて威嚇する。
既に周辺にいた小型種、オウガテイルと視界が広い浮遊アラガミ、ザイゴードはリンドウさんが始末してくれているのでこのままコンゴウへ直進するだけだ。
「行くよ、シドウ!」
「あぁ!」
並走する俺とユウは、コンゴウの両腕に神機の刀身を叩きつけた。
瞬間、
「うっ……!」
「づぅ!?」
コンゴウの両腕に叩きつけた刀身が弾かれた。両腕には傷ひとつついていない。
それを見た直後、アラガミがその両腕をいきなり広げ、俺とユウを殴る。
反射的に俺たちは神機を盾にし、直撃を免れた。
「お前ら! ただ斬ればいいってだけじゃ通用しないぞ! しっかり狙いを定めろ」
コンゴウの後ろでオウガテイルを切りつけるリンドウさんがそう叫ぶ。
はっきり言えば、舐めてた。
オウガテイルはどこ切っても切り裂けるし、コンゴウも同じだと心のどこかで思っていた。
それはユウも同じだったのだろう。先程までの余裕そうな表情は消え、今では気を引き締めたように覇気のある顔をしている。
「……どこなら斬れそう?」
コンゴウから少し離れたところで、ユウがそう聞いてくる。
「たぶん、脚の関節と腹だと思う」
腹の部位は伸縮性のあるところだ。そこなら腕よりは斬りやすいだろう。
「じゃあ、そこに一発ずつキメようか」
あぁ、と俺は返事をし、神機をガンフォームに切り替えてコンゴウの顔面にオラクル弾を撃ち込んだ。
急に顔面に攻撃が来て驚いたであろうアラガミは、その両眼を閉じた。その隙を狙い、俺たちはコンゴウの両サイドに回り込み、神機を振るう。
今度はしっかりと狙いを定め、狙いやすい腹に向けて神機の刀身を叩きつける。
ユウの狙いは脚の関節だ。
ガアァ!?
脚の関節が切り裂かれコンゴウが崩れ落ち、その直後に腹に斬撃を浴びせる。
一撃を決めた俺たちは距離をとってコンゴウの様子を伺う。
苛立ったようにアラガミは右腕で地面を何度も叩いている。
「どうやら、わかったみたいだな」
「「はい」」
唸る神機を携えながら、リンドウさんが俺たちに背を向けてそう言う。彼の目の前にはオウガテイルが数体、今か今かとこちらの隙を見ている。
リンドウさんが相手してるオウガテイル、ちょっと貸してもらえないかな。バーストしてチャージクラッシュしてみたい。
「……リンドウさん」
「ん? ……あー、いいぞ」
「ありがとうございます」
そのやりとりが終わってすぐにザッ、と俺とリンドウさんは方向転換し目の前のアラガミに向かって走り出した。
カシャン、と刀身が縮まる。
オウガテイルの目前まで躍り出た俺は慣性に逆らわずに神機を横に薙ぎ、オウガテイルが絶命した。ステップし、次は隣のオウガテイルを狙う。他の数体はユウの銃弾が貫き、地に伏している。
「シドウ! 跳べ!」
オウガテイルに向かって斬り掛かろうとすると、リンドウさんから鋭い指示が出された。
脚を前へ出し、俺は急ブレーキをかけて上空へジャンプする。すると、先程までいた場所に空気の塊が地面を抉っていた。
視線を動かせば、リンドウさんと相手していたコンゴウが俺に向かって攻撃してきたようだ。
「アイツ……絶対殺る」
底意地の悪いヤツだ。
とにかく、今は──
「シドウ!」
ユウが叫ぶ。
視線をコンゴウからオウガテイルに戻すと、地面にいたはずのオウガテイルが俺と同じく上空にいた。
ガアァァ!!
鬼のような牙を剥いて俺に襲いかかる。
咄嗟に神機を左へスイングし、オウガテイルの口を裂く。勢いをそのままにした俺は神機の柄を引っ張った。
神機の肉質部分が蠢き、
こういった捕食形態のことを太刀牙というらしい。
「う、おぉ!」
横薙に振るった捕食形態の神機がオウガテイルを喰らう。
その瞬間、身体が軽く感じる。神機の刀身が黄金に輝いた。
「シドウ、そのままぶっ放せ!」
「はい!」
カシャン、カシャン、と刀身が伸びる。バスターモードに移行した神機を両手で握り、振りかぶった状態でトンっと着地する。
脚を広げ、神機にオラクルを溜める。
バチ、バチ、とオラクルが電気のように音を立て始めた。
「うおぉぉぉ!」
ジリジリジリ、とオラクルが弾け、俺はバスターブレードとなった神機を振り下ろす。
──!?
コンゴウがビクリと震えた。
迫るチャージクラッシュが脅威と認識したのか、回避しようとするが既に大剣はその巨躯を捉えている。
通常のチャージクラッシュと違う、黄金のオラクルの大剣がアラガミを切り裂き、余波で地面が割れた。
流石、騎士王の名を冠する刀身だ。
「おー……とんでもねぇなこれ」
「うっわぁ……」
腰から下が吹き飛んでいるコンゴウの死体を見て、リンドウさんとユウが顔を引きつらせて言う。
俺だってとんでもないと思う。
幸い、コアの損傷は少ないので回収できる。捕食形態にして神機にコアを喰わせ、見事初の実戦は終了した。
✕ ✕ ✕
あれからサクヤさんとも一緒に任務を受け、俺とユウ以外の神機使い──旧型神機使いとの連携の仕方を教わった。
サクヤさんは遠距離型なので、近距離型のカバーを行う。彼女がカバーできる範囲内で戦闘を行うことを意識するように言われ、前回のリンドウさんとの任務の時のように自分勝手な動きはしないように気をつけた。
「お、来たね」
「……」
今日の任務は鉄塔の森と呼ばれている場所で行う。
集合場所に向かうと、同行する先輩神機使いはどうやら二人いるようだ。
フードを被った黒い神機を持った男の人と赤い髪をオールバックにしたちょっと露出の多い男の人だ。
「今日はよろしくお願いします!」
「うん、よろしく。君が噂の新人クンだね?」
「噂?」
赤い髪を掻き上げて、サングラスを煌めかせる。
「そうさ。新型神機使いの片割れ、そしてコンゴウを消し炭にした新人」
「……え?」
消し炭?? した覚えないけど。
「……リンドウの奴が言ってたな」
フードを被った男の人がぼそっとそう言った。
そうか、リンドウさんが言ったことが尾ビレがついたんだな。許さんぞリンドウさん。
「まぁ、今日はよろしく頼むよ。華麗に任務を終わらそうじゃないか」
「はい!」
「僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ」
「高神シドウです」
ぐっ、と俺と握手を交わしたエリックさんはフードを被った男の人を見やった。
「彼はソーマ。あまり人と話したがらないんだ。けど、良いやつだから勘違いしないでくれよ?」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
「……ふん」
ソーマさんに挨拶をすると鼻を鳴らして背を向けてしまう。それを見たエリックさんはあはは、と笑う。
すると、
ゴアァァァ!!
「「!」」
「来るぞ」
ソーマさんが声を低くして忠告する。
『周囲にオラクル反応多数出現。皆さん、気をつけて対処してください』
俺はオペレーターからの通信を聴きながら、オラクル弾を地面から生えてきたアラガミに撃ち込む。
サナギのような形をし、拷問器具に似たアラガミ──コクーンメイデンに直撃して沈黙した。
「さぁ、華麗に決めるよ」
近くでエリックさんが遠距離型の神機でオウガテイルやコクーンメイデンを弾丸で黙らせていく。
銃身はブラストのようで、着弾した瞬間に爆発が起き、アラガミが吹き飛んでいる。
そこからは三人で互いをカバーする動きをし、ソーマさんは遠距離型であるエリックさんからあまり遠くへ行かないようにし、エリックさんが対処しきれないアラガミを叩き伏せていた。
俺はと言うと、新型らしく遠距離攻撃でオウガテイルを屠り、その後は近距離攻撃でコクーンメイデンを斬り伏せる。
「ふぅ……」
「これで全部かい? 呆気ないものだね」
「ふん」
神機を担ぎ、俺は周囲を見渡す。
オウガテイルにコクーンメイデン、それと終盤に発生してきた卵形の体に人をくっつけたようなアラガミ──ザイゴードの死体が転がっている。
『周辺のオラクル反応を調べます。少々お待ちください』
オペレーターがそう言って通信を切った。
「それにしても、シドウくんの射撃センスは高いね。近距離も華麗だったよ」
「そうでした?」
あはは、と俺は頭を搔く。
そう褒められるとちょっと照れくさい。
「これは僕もうかうかしていられないな。ね、ソーマ?」
「勝手に言ってろ」
「釣れないなぁ」
俺は知らん、とソーマさんはより一層フードを被ってしまう。
──そんな時だった。
『皆さん! 退避してください!』
オペレーターの通信と同時に、オウガテイルが空から降ってきた。
「エリック、上だ!」
「え?」
降ってきた場所はエリックさんの真上。
鋭い爪で彼の顔に深々と傷をつけた。
「が、あ゛あ゛ぁぁ!」
エリックさんの悲鳴が鉄塔の森に響き渡る。
気づけば体が動いていた。
彼の顔を傷つけたオウガテイルをカシャン、とバスターモードに移行した神機で吹き飛ばし、その体を喰らう。バースト状態になり、俺は次々に降ってくるオウガテイルに向かって近距離形態のまま銃口を突きつける。
「い……っけ!」
引き金を引いた瞬間、黄金に輝くオラクルの弾丸がばら撒かれ、オウガテイルたちの頭、胴体に撃ち込まれ、貫いた。
ロングブレードの特殊攻撃、インパルスエッジ。
しかし、今回はバスターモードでの使用。ショートなら爆発、ロングなら放射、バスターなら弾丸とこちらもどのアラガミに対応できるようになっている。
バスターモードでの使用は広範囲への攻撃だ。特に対空射撃は得意な部類だ。
「新人、エリックを連れて引け」
「……ソーマさんは?」
「こいつらを殺る」
「わかりました」
ソーマさんは地面から出てくるコクーンメイデンを睨む。
俺は顔を抑えて喘ぐエリックさんを担ぎ、地面を蹴った。
✕ ✕ ✕
迎えのヘリの中でエリックさんの傷を応急処置し、回復錠を彼に打ち込んだ。
今は体に毛布をかけ、顔には清潔なタオルを押し付けるようにして寝ている。
「……」
気が緩んでいたかもしれない。
強力なチャージクラッシュを使えるからって油断をしていた。
「……戦場じゃこんなこと日常茶飯事だ」
「ソーマさん……」
ちっ、と彼は薄い金色の髪を揺らす。
「死ななかっただけマシだ」
「確かに。そうかも……しれないですね」
座学でも習った。
日々、ゴッドイーター達は戦場で死んでいる。それは大型種に会って死ぬのももちろん、小型種に囲まれて、または今回のように油断をしていた、というのもある。
「……」
開けられているキャビンドアの前で神機を抱えるソーマさんは、俺の目を見つめる。
「俺のことはソーマでいい」
「は、はい」
「敬語もいらん」
「わ、わかった」
凄い違和感あるけど、慣れるかな。
そう思っていると、ソーマが新人、と声をかけてきた。
「……繰り返すが、こんなことは日常茶飯事だ」
「あぁ」
「死にたくなかったらアナグラに引っ込んでろ」
「……それは」
嫌だ。
俺は、両親を殺したアラガミを殺すんだ。この手でアイツを叩き斬ってやる。
「俺は、死ぬつもりもないし、アナグラに引っ込みもしない」
ソーマの目を見て、俺はそう言う。
すると、彼はふん、と鼻を鳴らして口の端を少し吊り上げた。
「ようこそ、クソッタレな戦場へ」
最近全く執筆できてない……。
仕事も忙しいし、やりたいこと多すぎてどうしようとなってる倉崎です。
今回は神機もそうですが、物語もやりたいことやりました。
満足してます。
感想、評価おまちしております。