人でなく獣でなく   作:ヴェアヴォルフ

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プロローグ

 “人”とは人を表し、“狼”とは狼を表す。

 二つを組み合わせ呼ばれるは、“人狼”。

 四方世界において、彼らは“祈らぬ者”とされており人間をはるかに超える強靭な肉体と、俊敏性、野生の獣としての特性を併せ持った厄介な相手。

 

 はてさて、ここは四方世界。《幻想》と《真実》の神々が日夜ゲームに勤しむ【盤】であり、サイコロの出目によって【駒】達のすべては決まってしまうと言っても過言ではない。

 さて、場面は拮抗。《幻想》がサイコロを振ろうとしたところで覚知神が一つくしゃみをしました。

 突然の大きな音に驚いてしまった《幻想》はサイコロを思わず上へと投げてしまいます。

 クルクルと回るサイコロは、回転しながら自身のお気に入りを眺めていた地母神の頭にコツリと当たって、盤面へと転がります。

 覚知神がバツの悪そうに頭を掻き、地母神が頭を押さえましたが、出目は出目。

 今までにないダイスの動きに《幻想》は何が来るのか、わくわくと盤面へと目を落とします。《真実》もまた同じくです。

 果たして、現れるのは不思議な駒。

 獣のようで、人であり。人のようで、獣である。そんな姿をしています。

 神々は【駒】を等しく愛しています。それこそ、この【駒】が見た目こそ“祈らぬ者”であったとしても。

 

 とにもかくにもサイコロを振ろう。そう考えた《幻想》はサイコロへと手を伸ばし

 

――――――――あっ

 

 と、揃って声を上げます。

 新たな【駒】が自分でサイコロを退かしてしまったからでした。これは、少し前に現れた変なのと同じ行動だったのです。

 ただ違うのは、退かし方位。サイコロを動かされてしまった神様たちがその事に気づくのは、ほんの少し先の事。

 

 

 

 

 

 

 生まれた頃より、彼は浮いていた。

 父譲りの黒い毛並みと、母譲りの黄金の瞳。

 人狼特有の獣の後ろ足で二足立ち。上半身は、筋骨隆々としており下半身が貧弱に見えるようなそんな独特な前傾姿勢。

 鋭い鉤爪。巨岩を砕く腕力。猛牛の骨すらも一噛みで粉砕する咬筋力と強靭な牙。

 彼は、人狼族。その中でも取り分け、戦士としての血を受け継いだ存在であり生まれながらの戦闘強者であった。

 だが、不幸にも彼は怪物として重大な欠陥を持っていた。

 

――――――――…………ちちうえ。どうしてころさねばならないのですか

 

 それは、どうしようもない優しさ。

 怪物は魔神王に与して人を、他種族を襲う。

 殺す、食らうだけではない。孕み袋として攫って凌辱の限りを尽くす事も少なくない。むしろ、それがデフォルトであった。

 だが、彼は違った。

 自身の食べる以上の狩りは決して行わない。どうしても手に掛けねばならなかった時には、泣きながらその首を一息に潰して苦しませずに殺し、遺体は丁重に弔っていた。

 特に嫌ったのが、ゴブリン。

 単体ではあまりにも無力であるのに、数は無限に近く狡猾で恥知らず。自身の悦楽の為に人々を殺し、それが女性ならば強姦し、残忍に殺す事も。

 彼は、それらを嫌った。そして、ゴブリンの横行を止めず、剰え一緒になって暴虐の限りを尽くすような一族が嫌いだった。

 

 狼の寿命は、野生ならば十年持たないとされている。

 だが、人狼は魔物だ。その寿命は、基本的に長ければ百年単位でも余裕で生きている事も珍しくない。しかし、その実成長速度は一定の段階までは直ぐであり、凡そ数年で成人と言える段階に至る。

 

 そして――――――――彼は逃げ出した。

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